LuckyOceanのブログ

新米技術士の成長ブログ

フィンテック#5を受講して

はじめに
フィンテックの授業は、第一線で活躍されている専門家による講演も魅力だ。昨日は、みずほ銀行の大久保光伸さんとエメラダ株式会社の広報担当の野澤真季さんの講演だった。時間的には大久保さんが16:50から18:30までの100分だった。途中で質疑応答を交えての講演だったが、そのスライドはなんと108枚ほどの大作だった。どのスライドも力作で素晴らしいが、それ以上に優しく判り易く語り口が魅力だ。なお、ここで記載することは講演のレポートではない。講演を聞いて興味深いと感じたことを自分なりに調べた上でまとめたものだ。

シニアデジタルストラテジスト
大久保光伸さんの所属は、みずほ銀行デジタルイノベーション部データビジネスチームで、そのタイトルが「シニアデジタルストラテジスト」だ。システム開発会社やインターネット専業銀行を経て、2016年からみずほに入行された。講演後の懇親会では、実は銀行家の家系で三代目だと伺った。将来、大久保さんが「銀行業界の中興の祖」だったと言われるのではないかと思うほど素晴らしい講演だった(笑)。本人のミッションは関係者のマインドチェンジだ。頑張ってほしい。
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 出典:5枚の名刺で銀行の「縛り」解く|日経BizGate

7つの名刺
自分が勤務する会社もまだ副業には厳しい。日本技術士会認定グループの役員をすることを上司に相談したら、りん議が必要と言われた。副業申請書に必要事項を記載して、捺印して、りん議を切った(涙)。大久保さんが勤務するみずほも副業はまだ解禁されていない。銀行業界はどこもまだ慎重のようだ。しかし、フィンテック分野の専門家ということで、政府機関からの委員を拝命し、銀行も政府機関からの依頼であればということでOKをもらったらしい。大久保さんは、みずほ銀行と、BlueLabのCTOと金融革新同友会FINOVATORS、一般社団法人Fintech協会でのアドバイザーなどを兼任されている。名刺も現在は7枚だという。名刺入れには確かに複数の名刺がぎっしり入っていた。ネットで調べると高校時代には、アメフトで日本一になったという。しかも、ポジションは司令塔のクオーターバック。どんだけすごいのだ!下の写真は、フリーアナウンサー唐橋ユミさんがFINOLABを直撃して、大久保さんにインタビューされた時の写真だ。
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 出典:https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NBO/17/I_will/woman/vol1/

デジタルガバメント技術検討会議
インターネット専業銀行では、約17年間も政府が発行するガイドラインに準拠しながらもクラウドサービス(AWS)を導入し、その事例を国内外に公開して、クラウドエコシステムの構築の啓蒙活動に尽力されてこられた。詳細は聞けなかったけど、将来の銀行業務に危機感を持つ銀行から白羽の矢が立ったのだろうと想像する。今年の7月からはデジタルガバメント技術検討会のグランドデザインTFの諮問委員も務められている。ネットで見ると難解だけど、「グランドデザイン WT にて、行政サービスのグランドデザイン素案と実現に必要なデジタルインフラの特定やその他検討課題を洗い出す」のがミッションようだ。
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 出典:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/senmon_bunka/dejigaba/dai7/siryou2-1.pdf

GAFAの襲来
GAFAの説明は不要だろう。GAFAはインターネット時代の覇権を握る代表的な企業であるGoogle, Apple, FacebookそしてAmazonの頭文字だ。ここにMicrosoftが入っていないのが面白い。GAFAの事業分野は情報通信分野だけではない。下の図で特に注目すべきは金融分野への参入だ。この図にはないが、この4社の中で頭一つ抜け出したのがFBのLibraだろう。
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 出典:GAFA vs NATU : le choc des titans - MBA MCI

キャッシュレスのジレンマ
みずほフィナンシャルグループが発表したキャッシュレス社会の実現に向けた取り組み(2018年6月)によると、現金の取り扱いにかかるコストは現状年間8兆円。キャッシュレスが実現すればこの半分が削減できるという。これはキャッシュレス化を進める目的の一つだ。しかし、キャッシュとキャッシュレスが混在する過渡期では、両方の対応が求められるため逆にコスト増になりかねない。個人的には、キャッシュレスの方が楽だし、どんどん進めてほしい。
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 出典:https://www.bcnretail.com/market/detail/20190526_119765.html

ブロックチェーンではakamaiが最速
講演の中でブロックチェーンの話が少し出たので、質問の時間にこれはいわゆるオープン型やプライベート型ではなく、コンソーシアム型かと質問したらそうですという回答だった。そして、米akamaiが最強だという。アカマイ・テクノロジーズとは、米国の企業で、CDN(コンテンツデリバリネットワーク)事業や、クラウドセキュリティー事業を提供している。MITの応用数学の教授トム・レイトンが中心に1998年に設立した企業で、本社はMITの目の前にあるという。akamaiと聞くとちょっと不思議なニュアンスを感じるが、これはハワイの言葉で「知性」を意味するらしい。面白い。下の図は三菱UFJ銀行akamaiと開発したシステムの構成イメージだ。リップルakamaiの戦いはまだ始まったばかりだ。
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 出典:三菱UFJ銀行がリップルと競合?超高速ブロックチェーンをAKAMAIと開発。MUFGコイン構想はどうなる? | 暗号資産投資の研究まとめ

完全自動運転銀行
現在は銀行に用事があったら最寄りの店舗に出かける。しかし、これからは銀行がお客様の方に来るものだとJDDのCEOはJDDの開所式でぶち上げた。JDDとは、ジャパン・デジタル・デザインの略で、三菱UFJフィナンシャルグループからスピンオフした企業名だ。今日の講演で、「完全自動運転銀行」というキーワードが聞こえた。聞き間違いかと思ったら「みずほ自動銀行」とか、「みずほ完全自動運転銀行」で登録商標されている。今後は、ATMの機能を持つ車両が自動運転で利用者の元に出かけるのだろうか。大手町には、お昼になると弁当屋の車両が並ぶが、給料日になるとATM機能を持つ車両が並ぶようなイメージだろうか。面白い。
 出典:もう「メガ」じゃない(3)「ヘンな銀行」作れるか :日本経済新聞

BlueLabの活用
インターネット業界の動きは早い。しかし、銀行は慎重な対応が必要なためスピード競争で立ち行かない。このため、みずほ銀行では、仲間を募って、IoTインキュベータカンパニーBlue Labを2017年6月に設立した。みずほの出資比率は15%未満に抑えているため子会社にも関連会社にもならない。このため、銀行で議論したら数ヶ月かかる案件でも、Blue Labの社長がOKといえば5分で意思決定できる。このスピード感の改善は大きい。このため、何か新しいアイデアがあれば、まずはBlue Labで検討し、実験する。この取り組みは素晴らしい。下の図にあるようにレンディング、資産管理、AIを活用した定型業務といった3つの分野がターゲットだ。そして、2016年11月に設立したJ.Scoreはこのレンディングの分野の成果だ。銀行業を始めるとか、銀行が何か新しい事業を始めることは大変だ。特に、銀行はオンプレミスに執着するので、設備投資をすると、最低でも減価償却が終了するまでは頑張れと言われてしまう。しかし、事業がうまくいかないと判断したら素早く対応すべきだ。AWSなどのクラウドを活用すれば、小さく始めて、成功すれば大きくできる。ヤバイと判断すれば撤退も簡単だ。Blue Labの存在意義はそんなところにもあるように感じた。
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 出典:https://manelite.jp/megabank-regionalbanks/

J-Coin Pay
ネーミングは大事だ。当初はJ-Coinとして事業展開する予定だった。しかし、流行語のPPAPを商標出願して有名になったベストライセンス社が2018年5月に「J・COIN」の商標を出願していた。その結果、多分色々な議論があったと思うけど、「J-Coin Pay」というサービス名で本年2月20日よりサービスを開始した。J-Coin Payは全国の地銀と連携している点が素晴らしい。地方には、地銀と信金がある。後者の信金の場合には、一般ユーザを対応するのは全国の信金だが、それぞれの信金の経営相談や資本増強を信金中央金庫が担っている。つまり本部としての信金中央金庫と現場の信金がうまくタイアップして事業を進めている。個人的には、信金よりも、地銀が心配だ。自分が心配してどうなるものでもないけど、それぞれの地銀とみずほがタイアップするような関係が作れれば、地銀も活路が開けるのではないだろうか。J-Coin Payはそんな構想の試金石のように感じるのは自分だけだろうか。
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 出典:スマホ決済で銀行連合=みずほ主導、地銀半数と3月開始:時事ドットコム

Xigniteデータ連携
金融機関に対してマーケットデータを提供するという事業があり、Xigniteはそのためのプラットフォームだ。米Xigniteは2003年に創業したFinteckスタートアップの草分け的存在だ。マーケットからのデータを分析して、組み合わせて、APIベースで使いやすく提供する。Fintechの世界でもAPIはキーワードだ。今回の講演でもOpen APIというキーワードがあり、質問の時間に本当にOpenなのかと聞いたら、FINOLABのAPIサンドボックスであれば、NDAへの署名など簡単な手続きさえすればOKだ。本番環境は流石に電子決済等代行業者の登録が必要だ。米XigniteはFintech企業1100社にデータ提供している。累計で36億ドルの資金調達を行い、年間1.5兆回のAPIリクエストに対応しているジャイアントだ。モバイル証券のRobinhoodやロボアドバイザーのWealthfrontにも提供している。マーケットデータを「REST+JSON」形式のAPIで使えるのがミソだ。国内では、金融情報サービスを提供しているQUICKと共同で「QUICK Xignite APIs」を提供している。
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 出典:QUICK Xignite APIs | TOP

まとめ
今回の講演は、興味深い内容の宝庫だった。ブロックチェーンありきで開発すると失敗しがちだ。将来のあるべき姿からビジネスモデルを逆算するべきだ。銀行はお金を取り扱う会社だったけど、今後は情報を取り扱う会社かもしれない。米倉先生に言わせれば、信用を創造する会社であるべきだ。世の中のマーケットに応じたダイナミックな価格設定を行うプライシングサイエンスも興味深かった。貴重な講演を拝聴できて本当に光栄でした。ありがとうございました。エメラダの野沢さんもありがとうございました。

以上

追伸)講演が終わった後に、生徒からもプレゼンを行った。恥ずかしいばかりだ。自分はベーシックインカム関連の話をした。最初に参加者に質問を2つさせてもらった。最初の質問のベーシックインカムを知っているのかどうかは、7割がたはご存知だった。そして、2つ目の質問の5年以内に実現するかは、全員がノーだった。まあ、そうだろう。自分もそう思う。しかし、現在および将来のマクロ的なトレンドを考えると、実現味を帯びる時期が来るかもしれないと予想する。その時に、勢いで実行するのではなく、実行した時に、どのような効果やハレーションがあるかを冷静に分析して置くべきだと思う。つまり、ベーシックインカムを導入したら、消費行動は喚起されるのか、仕事の意義や人生の価値観が変わるのか、少子化対策として有効か、そして、国民の幸福度は改善するのか。そんな相関関係を調べてみたいと考えている。うまくいくだろうか。

最後まで読んでいただきありがとうございました。