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実語教は日本人の心のDNA

はじめに
これまで実語教については、このブログでも何度か書いている。子供向けのモラル教室の講師として年間200回ほど講演をしていた時期に訪問した学校の校長先生や講演先の教育委員会の先生に「実語教」をご存知ですか?と質問したことがあるが、知らない方が圧倒的に多かった。その事実に唖然とした。なぜ知らないのかといえば、知らされていないからだ。しかし、この実語教に書かれていることは、日本人として、人間として、理解し、努力するべきことが満載だ。日本人や日本が素晴らしかったとすれば、それは日本を作りあげた人たちの心に共通の信念があったのではないだろうか。日本が元気になるには、日本人が活き活きと生きるには、日本人の心を取り戻すことが大切なのではないかと思う。
hiroshi-kizaki.hatenablog.com

福沢諭吉学問のすすめ
実語教を知らなくても、福沢諭吉が著した「学問のすすめ」を知らない人は少ないだろう。『「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」と云り』という書き出しは有名だが、これが福沢諭吉の主張ではない。福沢諭吉は、人は平等と言われるけど、実際はそうではない。金持ちもいれば貧乏人もいる。頭の良い人もいればそうでない人もいる。運動が得意な人も、そうでない人も。容姿が良い人もそうでない人もいる。それが現実だ。しかし大切なことは、どのような状況にあるかではなく、そのような状況からどのように成長するかだ。冒頭の8行目で大事なことは学ぶことであり、「人学ばざれば智なし、智なき者は愚人なり」と実語教に書かれているだろうと引用している。「学問に勤めて物事をよく知るものは貴人となり、富人となり、無学なる者は貧人となり、下人となるなり。」と、だから学ぶことが大事と説いている。「学問のすすめ」は明治13年までに70万部は売れたベストセラーだけど、これを読んだ当時の人々は実語教を普通に知っていたはずだ。
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出典:アマゾン

実語教と寺子屋
平安時代から明治初期にかけて読まれた庶民の教科書だ。幕末には全国に16,560軒の寺子屋があったという。当時の人口は約3,000万人と言われている。ある地区では9割の子供が寺子屋に通っていた。国民の学びの場は寺子屋だった。セブンイレブンの店舗数が約2万店舗で、ローソンが約1.4万店舗なので、この中間ぐらいの規模ということだ。江戸時代の就学率は70-86%だった。これは当時の諸外国に比べても格段に高い。寺子屋では、文字を習う前の幼児はまず意味を理解せずに暗唱した。そして、文字を習い始めたらそれを写経した。意味を理解するのはその後だ。つまり、暗唱し、写経し、そして意味を理解した。寺子屋で習ったのは実語教だけではないが、素晴らしい教育システムと言えると思う。
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出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/寺子屋

河村美紀さんの英語訳
実語教に関する図書は、斉藤孝さんや酒井憲二さんが書かれている。実語教に書かれていることを英語に翻訳すると面白いかもと思って、その前に誰か翻訳しているかと調べたら河村美紀さんが著されていた。素晴らしい。Kindle版のみだけど、すぐに購入して拝読した。分かりやすく翻訳されていて、解説の部分の日本語まで英語で翻訳されている。これは日本語を勉強する海外の人にとっても良い図書だと思った。この英語を録音した音源があれば機会を見て繰り返し聴きたいと思った。
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出典:Amazon

日本人の心
実語教は漢字で書かれていて、韻を踏んでいるので朗読していると非常に気持ちよい。これなら就学前の幼児も暗唱できると思う。河村さんの英訳も素晴らしい。すこし紹介すると、人肥故不貴以有智為貴は、現代訳では、人は肥えたるがゆえに貴からず。智有るを以て貴しとす。河村さんの英訳だと「People are not respectable just because they are rich. They are respectable because they have wisdom.」となる。英語が一番分かりやすく感じるのは自分だけだろうか。ちょっと矛盾しているかもしれないけど、実語教の真髄を学ぶには漢語で理解するのも、現代訳で理解するのも良いけど、英語訳で理解すれば英語も一緒に学ぶことができる。一石二鳥ではないだろうか。

ユネスコ世界寺子屋運動
読み書きできない大人は、世界に約7.7億人いる。アジア地域の非識字人口は、世界の非識字人口の約7割を占める。このような状況で1989年から世界寺子屋運動が始まった。海外では、Community Learning Center(CLC)と呼ばれている。寺子屋は年齢、宗教、性別にかかわらずに全ての人が公平に学べる場を目指している。英語版の実語教はそのテキストとしても活用できるのではないだろうか。文字を習うときに、「This is a pen.」から学ぶのと、「People are not respectable just because they are rich. They are respectable because they have wisdom.」から学ぶのではどちらがその人の半生に影響を与えるのだろう。Japanese Spiritsとして世界に広めることは意義がある。ただ、その前に国内での啓蒙が先決かもしれない。
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出典:https://www.unesco.or.jp/contents/tera/report/pdf/npl201010assess.pdf

まとめ
日本人が一番日本人の心を忘れかけているのではないだろうか。寺の小僧ではないけど、意味もわからないうちに暗唱して覚えたことをその後じっくりと理解するという学習法はもっと見直されても良いのではないだろうか。

以上

最後まで読んでいただきありがとうございました。