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量子コンピュータ(3)社会的課題の解決に向けて

はじめに
東京工業大学の西森秀稔教授が登壇され、量子コンピュータの最新動向という講演を拝聴したのが2018年2月なのでもう3年も前のことになる。そのあとの技術革新の状況を少しキャッチアップしたいと思って調べてみた。量子コンピュータの世界の開発競争はホットだ。できるだけわかりすく解説したいと思う。
hiroshi-kizaki.hatenablog.com

量子コンピュータとは
息子に量子コンピュータって知っている?と聞くと言葉だけはという回答だった。新聞やニュースでもたまーにこの用語が報道されるが、ほとんどの人はよくわからないというイメージが率直なところだろう。現在使っているパソコンやスマホの原理も正しく理解しているかどうか怪しいのに、量子コンピュータと言われても分からない人が多いだろう。下の図は現在のコンピュータと将来のコンピュータを示したものだが、そもそもノイマン型と非ノイマン型を説明する必要があるだろう。ノイマン型とは、プログラムを作成し、データとプログラムに基づいて処理が行われるタイプだ。米数学者ジョン・フォン・ノイマンに由来している。非ノイマン型コンピュータとは、ノイマン型ではないコンピュータであり、脳神経回路の仕組みを活用したニューロコンピュータや、量子力学を活用した量子コンピュータなどだ。量子コンピュータは、従来型のコンピュータに比べて格段に複雑な処理が可能なためその将来性が期待されている。
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出典:https://www.r-staffing.co.jp/engineer/entry/20200410_1

量子コンピュータが作る未来社
現在のコンピュータでも性能の革新は目覚ましい。2012年には、総開発費1,120億円を投じてスーパーコンピュータ「京」が完成した。京の最大100倍の性能を持つ京の後継機である「富岳」を、同じく1,120億円を投じて2020年に完成した。コロナの飛沫の計算や、治療薬候補の検索などに活用されている様子はテレビでも放映されている。現在の方式での高性能化と同時に、新しい方式での高性能化の競争が世界的に繰り広げられている。
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出典:https://wisdom.nec.com/ja/technology/2017122601/index.html

量子コンピュータの推移
米物理学者リチャード・フィリップス・ファインマンは1981年に量子コンピュータの概念を提唱した。Rショアは、選択肢の数がN個あると全てのパターンは2のN乗個になり、これを古典的な解法だと処理が大変だけど量子的な計算をすれば一発で計算できるのではないかと「ショアのアルゴリズム」を考案し、第一次ブームに火がついた。IBMが2000年に量子ビットの試作に挑戦するが、その時は5量子ビットだった。カナダのD-Wave社が2011年に世界初の商用量子コンピュータの開発に成功して、第二次ブームが始まった。当時の筐体は3mx3mの重量約1トン、128量子ビットの実装で、16億円だった。
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出典:https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/knowledge/report/cc/mediaforum/2018/forum262_2.pdf?la=ja-JP&hash=DAF7F54B37EC7B09065593D26FD7D55C9EF16A2B

量子ビットの推移
日本語のWikiには掲載されていないが、英語のWikiにはD-Waveの比較表が掲載されていた。初期のD-Wave Oneは128量子ビットだが、2年後に発売されたD-Wave Twoは512量子ビット、さらに2年度の2015年に発売されたD-Wave 2Xは1152量子ビットだった。さらに2年後の2017年に発売したD-Wave 2000Qは2048量子ビットだった。このようにD-waveは頑張って2年おきに量子ビット数を倍々で向上させた。なお、最新の機種は2020年に発売されたAdvantageは5640量子ビットとさらに機能アップを図っている。
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出典:D-Wave Systems - Wikipedia

量子ビットの機能革新
インテルの創業者の一人であるゴードン・ムーアは、半導体の集積率は18ヶ月で2倍になると提唱した。半導体の微細化が進むほどに、処理速度が上がり、性能も向上した。しかし、28nm世代以降の半導体は微細化しても製造コストが逆に増加するなど限界と指摘されている。しかし、D-waveが発売する量子コンピュータ量子ビット数は2年で倍増している。下の図では量子ビット数が4年で2倍の予想ラインと4年で14倍の予想ラインを示している。超伝導量子ビットの可能性を考慮したものだ。しかも、量子ビット数が2倍になることは処理が2倍になることではない。D-waveはすでに5640量子ビットを実現しているが、100量子ビットを実現すればスパコンの9000兆倍と言われていた。もう桁違いの処理速度だ。
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出典:トポロジカル量子コンピュータとその周辺 - Qiita

量子コンピュータの種類
量子コンピュータは大別すると下の図のように3種類だ。実用化されているD-waveは量子アニーリング方式だ。量子ゲート方式は汎用型だ。IBMIBM Qを発表した。IBM以外にもGoogleMicrosoft、Alivabaなどが開発している。レーザネットワーク方式は特化型だ。常温で動作するのがメリットだ。NII-Stanford陣営が開発に挑戦している。日本でも内閣府が研究開発プロジェクト(ImPACT)として進めている。2017年よりImPACTが量子ニューラルネットワーク(QNN)をクラウドで体験できるシステムを開発している。
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出典:量子コンピュータの最新動向(2018年1月版) Masayuki Minato

D-Wave Advantage
カナダのD-Wave社は、2020年9月29日に5640量子ビットを扱える最新機種を発表した。同システムは、D-Wave社が提供する量子クラウドサービス「Leap」にて利用可能だ。単に量子ビット数を増やすだけではなく、他の量子ビットとの連携も15個まで拡張された。これにより、世界最高水準の連結性を実現した。また、ハイブリッド量子コンピューティングを可能となっている。進化は止まらない。
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出典:https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/1279873.html

量子コンピュータの概要・特徴
英語の資料で恐縮だが、量子コンピュータの覇権に向けて世界中に有力企業が開発競争を進めている。IBMGoogle超伝導量子ビット(Superconductiing loops)方式での開発を進めている。最大の緒いうしょは稼働の速さや技術的な成熟度の高さだが、安定性が低く、極低温が必要なことがネックだ。Microsoftはトポロジカル量子ビット方式(Toporogical qubits)で開発するが、まだまだ技術的な課題が多い。Intelはシリコン型量子ビット(Silicon quantum dots)方式だ。シリコンに電子を挿入し、人工的な電子を形成し、電磁波で電子の量子状況を制御する。安定性が高いのが長所だが、量子もつれの作りが難しく、極低温がやはり必要だ。
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出典:Quantum Computing — The Basics, The Bad, and the Solution | by Silen Naihin | Noteworthy - The Journal Blog

エトーレ・マヨラナ
エットーレ・マヨラナはエンリコ・フェルミからガリレオやNに並ぶ天才と評されたイタリアの理論物理学者だ。マヨラナは1937年にナポリ大学の教授となり、電子と陽電子の対称理論について解説した。また、マヨラナ粒子の存在を提唱した。マヨラナ粒子とは粒子と反粒子が同一の中性フェルミ粒子だ。このフェルミ粒子や反粒子などの概念を考えだしたマヨラナはやはり天才だ。質量矛盾を解く鍵とも言われている。どんだけ天才だ。
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出典:https://www.asahi.com/articles/DA3S13581507.html

カイラル超電導
調べれば調べるほど訳のわからない用語が出てくる。このあたりが量子コンピュータが難解と言われる所以だ。トポロジカル量子相転移の制御とは、「非平衡状態を含めた強相関系特有の物質制御性を生かすことでトポロジカル相の生成過程を明らかにし、トポロジカル量子相転移の多様性・普遍性に関する統一的 知見を得る。 」とあるが、もうここまで来るとさっぱり理解できない。
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出典:https://www.jst.go.jp/crds/pdf/2016/WR/CRDS-FY2016-WR-12.pdf

量子クラウドサービス「Leap」
これは先にも書いたが、D-wave社が提供する量子コンピュータクラウドサービスだ。量子コンピュータは極低音が必要などそのハードを所有・利用することは大変だけど、クラウド型であれば、必要な処理のみ量子コンピュータにやらせて、クラウド経由で結果を貰えば良い。。 Leapは現在、シンガポールを含む世界38か国で利用可能だという。250を超える初期のアプリケーションがD-Waveのシステムで構築されている。その多くはLeap経由で利用可能だ。タンパク質フォールディング、財務モデリング、スケジューリング、ロジスティクス、製造最適化、機械学習、ルート最適化などが含まれている。
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出典:https://www.dwavesys.com/press-releases/d-wave-introduces-leap-quantum-cloud-service-singapore

まとめ

量子コンピュータを平易に説明することは難しい。特に、最新技術を解説するには、カイラル超伝導マヨラナ粒子、トポロジカル半金属などの新しい概念を理解する必要がある。まあ、まずはすごい勢いで量子コンピュータの開発競争がグローバルに展開されているということだ。その中で日本は存在感を示すことができるのだろうか。

以上

最後まで読んでいただきありがとうございました。