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新米技術士の成長ブログ

情報工学部会の参加報告:AIロボットを考える。

1. はじめに
日本技術士会の情報工学部会が12月15日(土)の午後に機械振興会館で開催された。今回のテーマは、「ロボットへのAI適用について」だった。興味深いテーマなので参加した。本年4月に東京に戻ってはや9ヶ月。36名の技術士が参加したが、そのうち6名ほどは知人だった。前半のパートは山口教授の講演だが、後半はチュートリアルで、慶応大学で開発したソフトを用いて実際にロボットのアプリ開発にトライした。

2. 山口教授
慶應義塾大学の教授だが、1957年生まれで大阪大学出身。大阪の四條畷(しじょうなわて)育ちのようで、これこての関西弁だった(笑)。博士課程まで大阪大学だったので、多分、奥様も関西の人なのだろう。現在のAIはいわゆる第三世代であり、結論は出せても、その根拠を示すことができない。知識を問えば完璧に答えるし、ある事象と別の事象の相関関係も分析できる。しかし、因果関係を聞いても答えられない。なぜ?どうして?と言う質問は苦手で、まだまだ進化の途上だ。
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 出典:https://www.criprof.com/magazine/2017/06/22/post-4168/

3. 相関関係と因果関係
人間でも単なる相関関係を因果関係のように勘違いすることはある。山口教授が指摘したのは、例えば病院を減らすと病人が減ったというもの。これは夕張市の経済破綻に伴い、市民病院がなくなった。市民が健康に注意するように意識改革が進んだこともあるが、重篤な病人は夕張市から転出したので、病人が減少したというもの。何が原因で、何が結果かを突き止めるのは、現時点では人間の役目だ。しかし、AIが色々な相関関係を分析してくれるのは、本当の因果関係を調べる上で大きな支援になる。
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 出典:atarimae.biz

4. AIと人間の協働社会
山口教授の講演の結論は、人間とAIロボットが同じ目的のために協働するのが望ましい社会だと理解した。現在のAIでは、次のような要素は代行が困難だ。
 1) 創造性や創意工夫が必要な要素(Creativity)
 2) 手先の器用さを求められる要素(Dexterity)
 3) 社交性を求められる要素(Social Intelligence)
この3つのキーワードで検索すると、有名な論文「47%の仕事はAIロボットに代替される」と同じ主張だった。ROBOTENOMICSが発行するこのペーパーでは、AIロボットに代替されるリスクの高いのが47%、中ぐらいが19%、低いのが33%だという。例えば、事務員の仕事はRPAなどで自動化されやすいが、ファッションデザイナーの仕事は自動化しにくい。測量士や受付係りの仕事は自動化されやすいが、高度な判断を伴うような監督員の仕事は自動化しにくいだろう。
 出典:https://robotenomics.com/2016/04/18/1158/

5. サービス業におけるロボット利用
学生の時に、学園祭でコンピュータ占いのコーナーを作ったことがある。一見、コンピュータが処理しているようにダンボールで作ったが、中には人がいて、それらしいメッセージをボックスに落とすだけのアナログなものだが、結構人気になった(笑)。現在の変なホテルの受付ロボットは、単に挨拶をしているだけで、視覚認証もしていないし、言語認証もしていない。ある研究者が認知症気味の老人の相談ロボットを作ったという。色々な有益と思える情報を提供する機能を実現したが、老人の逆鱗に触れて殴られて壊れたという。今度は、相槌(あいづち)のみをするロボットを開発したら、えらく喜ばれたという。必ずしも高度な機能が必要ではない好例だ(苦笑)。

6. 自動運転車
2020年の東京オリンピックパラリンピックの時には、首都高速を自動運転車が颯爽と走行することが計画されている。しかし、このミッションを受けた研究者は頭を抱えているという。なぜかといえば、自動運転車は事故を起こしてはいけない。それだけでプロジェクトがストップする。「下町ロケット」のように失敗しても次のチャンスがあるとは限らない。このため、安全係数をとる。どうしても慎重な設定となる。首都高速のインターには入れても、一般の車が走行している走行レーンに合流できない。つまり、スタートしない!という。このため、自動運転車が安心してスタートできるように、助走レーンを長くしてあげるとか、車が走っていないところでスタートさせる必要があるようだ。なかなか大変だ。個人的には、道路交通法の改正を検討すべきだと思う。一般に最高速度のプラス10km/hとか、20km/hまでなら、他の走行車両の速度に合わせて運転すべきだし、警察もある程度は許容しているという俗説もある。しかし、自動運転車は俗説や常識ではなく、法令に準拠して走行するので、交通渋滞やイライラした車による事故の増加要因となりかねない。

7. Google翻訳
2016年11月に「Neural Machine Translation(ニューラル機械翻訳)」という深層学習の機能が導入され、翻訳精度が大幅に向上した。英語からフランス語への翻訳では1万5千時間の学習で、プロの翻訳家レベルではないけど、その前段の翻訳としては十分に使えるレベルだという。実際、最近は、言語に関係なくGoogleで調べて、Googleで翻訳して理解することが多い。便利な世の中になったものだ。
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 出典:「Google翻訳」の精度が劇的に向上したワケ - 日経トレンディネット

8. IBMのワトソン
ワトソンは、すでに百科事典や辞書、ニュース、著作物など100万冊、2億ページの知識を獲得している。しかし、そこで使われているのは、最新技術というよりも従来技術だ。それでも従来技術を集大成することで、すでに年間1兆円規模の売り上げを達成しているようだ。IBMの売り上げは約10兆円なので1割を稼ぐとはすごい。
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 出典:IBMのAI「ワトソン」、年1兆円稼ぐ 初期市場で先行 - 気の向くままに

9.東ロボくん
2011年から2016年にかけて国立情報学研究所が中心になって、人工知能東京大学に合格できる能力まで高めることを目標にしたプロジェクトだ。5教科合計の偏差値は57.8まで高まったが、これが限界と研究は幕を閉じた。しかし、それでも、国公立大170大学の33大学、私立大580のうちの441大学に入学できるレベルには達した。世界史や数学は得意だが、国語や英語、物理で50を超えない。国語とか英語では、特に長文読解の能力が現在の深層学習では克服するのが難しいという。また、物理の試験では、問題文に記載されているイラストを正しく認識することができないらしい。興味深いのは、Wikiで学習して知識を増やしているので、日本史の問題が出ても、教科書と異なる答えを書いてしまって得点にならないこともあるようだ。これって、東ロボくんの問題ではなく、教科書側の問題ではないかと思う。教科書検定をやめて、Wikiをベースに試験するようになれば、もっと得点が上がるのかもしれない(笑)。東ロボくんの研究が中止になった裏の理由がこの辺りにあるかもと考えるのは邪推だろうか(^^)
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 出典:ASCII.jp:東大生がロボットに仕事を奪われる日は来るのか (1/2)

10. まとめ
これら以外にも興味深い話が本当に湯水のように湧き出てくる。慶應義塾大学が開発したPRINTEPSというロボット開発ツールを学習し、小グループに分かれて、簡単なプログラムを開発した。AIを活用して解決するような社会的な課題を決めて、どうやって解決するかといったディスカッションと発表を行った。その時に出てくる山口教授のコメントには、多くの示唆に富んだ事例の話があり、すごいと思った。特に、スキルだけでもダメ、知識だけでもだめ。実践を通じて習得した経験ノウハウというスキルと、体系的な知識を連携させることが大事だというのが印象的だった。また、世の中にIoTが普及して、大量のデータが発生(=ビッグデータ)することで終わってはいけない。この大量のデータを分析(AI)して、それを専門家が持つ知見で判断して、解決策を見出す。そして、それを実社会の課題解決に役立てる。そういう大きなサイクルを確立することが大切だと思った。

以上