LuckyOceanのブログ

新米技術士の成長ブログ

ザ・セカンド・マシン・エイジを読んで感じたこと

はじめに
題名がカタカナで何が言いたのかよく分からなかったけど、読んでみると名著だと思った。著者はマサチューセッツ工科大学(MIT)教授のエリック・ブリニョルフソン(Erik Brynjolfsson)だ。1962年にデンマークで生まれ、ハーバード大学を卒業した。現在はMITの准教授だ。スタンフォード大学の客員准教授や、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)の上級特別研究員も務めている。この図書を読んで感じたことを書いておきたい。決してこの図書のサマリーではない。
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 出典:https://www.dhbr.net/articles/-/6211

GDPは幸福の指標ではない
2018年度の国民総生産(GDP)はIMPの発表によると米国、中国についで世界3位だ。国民一人当たりのGDPも、1958年から2010年にかけて約8倍に増大した。しかし、国民が感じる生活満足度はほとんど変化がない。これは幸福のパラドクスと呼ばれ、一定以上に所得が増加すると、絶対的な収入ではなく、周りの人との相対的な所得差で幸せを感じるようだ。これが相対所得仮説や順応仮説と呼ばれている。
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 出典:https://www.eventglobe.net/delusion-gdp/

多次元貧困指数(MPI)
豊さの逆は貧困だ。貧困は所得額に強く影響を受けるが、それ以外にも教育、健康、生活水準などにも依存する。このため、これらを総合的に評価し、環境を改善しようと導入された指標が多次元貧困指数(Multidimensional Poverty Index: MPI)だ。持続可能な開発目標(SDGs)1の課題でもある。
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 出典:https://slofia.com/others/what-is-mpi-multidimensional-poverty-index.html

米国ではビリオネア
日本では億万長者といえば大金持ちのイメージだ。ビットコインの急増に伴って億り人と呼ばれるニューリッチが急増した。しかし、アメリカではミリオネではなく、ビリオネアが大金持ちだ。10億ドル以上の資産を保有するのは、世界に2153人いるようだ。桁が違う。フォーブスで2020年の長者番付が発表されたが、1位はアマゾンの創業者ジェフ・ベゾスで、1130億ドルだ。凄すぎ。
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 出典:https://dime.jp/genre/554717/

ヒューマロイドロボットの時給は4ドル
この書籍の意図するところは、第一のマシンは牛や馬を駆逐する動力源だった。そして、第二のマシンは人間の仕事を代替する知的マシンやロボットだ。人間と牛・馬は違う。人間は意思を持つし、投票権を持つし、判断もできる。だから牛や馬のようにはならないという希望的な観測がある一方で、ヒューマノイドロボットのコストがどんどん低下している。現在は四ドル程度というが、これが二ドルになり、一ドルになり、50セントになるのは時間の問題だ。コロナ禍の心配もある。ロボットにできることはロボットにさせるべきだという風潮になると、一気に人間の仕事はなくなるだろう。

売店が大規模店舗に太刀打ちする方法
大規模のスーパーが小売値を駆逐し、全国規模のチェーン店が小規模飲食店を駆逐する。そんな構造が続いているが、著者は「透明性が増すことによって、独立系の小さなレストランが大規模チェーン店に太刀打ちできるようになった。」という。つまり、目立たない裏通りにあるお店でも、味がよくて、サービスがよくて、値段も手頃で、居心地が良ければ繁盛する。大事なことは、共有経済だといいう。つまり、SNSでの口コミだ。
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 出典:https://www.travelvoice.jp/20190507-129801

計測されない無形資本財
著者は、シェアリングサービスや無料のサービスが大きな比率になると同時に、無形資産が重要になるととく。具体的には、知的財産、組織資本、ユーザ生成コンテンツ、人的資本の4つだ。下の図はすこし角度が異なるが、同じように無形資産の存在がより重要になるという点では同じだ。
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 出典:https://note.com/delpie6/n/n9b7755c1dc11

正規分布と指数分布
かつて男性の年収は正規分布だった。働き盛りで年収がピークになった。一方、女性の年収は指数分布だった。年収ゼロが最も多く、年収が高い人ほど少ない。実はスポーツや芸能などスキルベースの職業も指数分布だ。今後、セカンドマシンが普及すると、定形的な作業はどんどん自由化され、高収入を得るのは一部の高いスキルや資本家となるだろう。平均値よりも中央値が低い。大多数の低所得層と一部の高所得層に分かれるのではないだろうか。
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 出典:https://slidesplayer.net/slide/11526474/

モラベックのパラドックス
職人はマイクロメータ単位の精度を触感で感じることができる。これは生命が長い時間をかけて生き残るために得たセンサー技術だ。人類も数百万年の年月をかけて進化し、何十億ものニューロンを身につけてきた。一方、論理的な演算や思考はせいぜいここ数千年の歴史しかない。コンピュータは、世界トップクラスのチェスプレーヤや将棋の棋士に打ち勝つことは可能かもしれないが、1歳児の知覚や運動を実現することは難しい。赤ちゃんをあやすなんてことは大の苦手だ。こんな矛盾を1980年代にハンス・モラベックは、「高度な推論よりも感覚運動スキルの方が多くの計算資源を要する」というパラドックスを発表した。まあ、その通りだろう。

学歴と寿命
米国でも全体の平均寿命は伸びているが、高校を出ていない白人女性の平均寿命を調査すると、1990ねんから2008年にかけて78.5歳から73.5歳に低下している。同様に高校を出ていない白人男性も3年ほど低下している。貧困層潜在的な問題が顕在化していると言える。下のグラフは10万人あたりの死亡者数だ。黒人やヒスパニック系の死亡率が下がっているのに、高卒以下の白人の死亡率が増えているのが特徴的だ。
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 出典:米白人成人の死亡率、幅広い年齢層で上昇=研究 - WSJ

ジェボンズパラドックス
会社にパソコンが整備され、ペーパレスの業務にシフトすれば、紙の消費量は減少すると思ったら、増えた。節水機能を持つシャワーノズルの付け替えたら、水道代が減るかと思ったら、安心して利用するようにになり、逆に水道代が増えた。こんな風に、技術の進歩で資源の利用効率が向上すると、資源の消費量が減るはずだけど、実際は増加するという傾向があり、これをジェボンズパラドックス(Jevons paradox)という。

弱い人間と強いプロセスの組み合わせは最強
最近のゲーム機の性能はすごい。将棋だけではなく、囲碁でもアマ4段ぐらいの実力にあるようだ。アメリカではチェスだ。さすがにチェスではAIには勝てないが、フリースタイルだと面白い結果だ。最強のコンピュータよりも、弱い人間と普通のマシンと強いプロセスの組み合わせが最強だったという。これはどういうことだろう。人間の直感や思いつきをマシンでチェックして、最強の一手を打つことができれば最強ということか。これは、AIやロボットが仕事を代替するのではなく、人間とのパートナーとしてAIやロボットが得意なところを担当し、不得意なところは人間が補完するような組み合わせが最強ということになる。面白い。

ベーシックインカム
著者はベーシックインカムに賛成していない。理由は労働の意義だ。有名なのはヴォルテールの名言から、「労働は人間を人生の三悪、すなわち退屈、悪徳、困窮から救ってくれる。」を引用する。人は報酬のためだけに働くものではない。ベーシックインカムが実現すると、人は働かなくなるという主張だ。でも、これは違うと思う。指摘されているように人は、報酬のためだけに働くのではない。したがって、ベーシックインカムが支給されたとしても三悪を避けるために働く。もっと言えば、報酬のためにやりたくもない仕事はしなくても良い。もっと、自分がやりたいと思っていた仕事、面白いと感じる仕事を選択することが可能だ。

やる気の3要素
ダニエルピンクは、モチベーション3.0において、「やる気を起こさせる3つの要素として、熟練、自主自立、目的をあげた。」と引用している。これは言い換えれば、やれること 、やりたいこと、やるべきことの3つが重なる仕事にはワクワク感を感じながら夢中ですることができるということかもしれない。
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 出典:アマゾン

テクノロジーが引き起こす予想外の重大な副作用
著者は、最後にテクノロジーのマイナスの側面として、次の3つを上げている。今回のコロナ禍は2)に該当するだろう。テクノロジーのメリットとデメリットを見極めて、マイナス面に対する対応を整備していくことが人類に求められていることだと思う。
1) 大規模災害
2) 人類の存続を脅かす物体
3) 自由の抑制

まとめ
今回の図書はなかなか読み応えもあったけど、得ることも多かったし、考えさせられる点も多かった。ダニエルピンクの図書も面白そう。ステーホームで小遣いは減らないけど、アマゾンに支払う金額はどんどん増えているような気がする。

以上