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キャンプシュワッブとジュゴンを考える。

1. はじめに
テレビや新聞で辺野古沿岸部への土砂投入が報道されている。普天間基地返還合意がなされた1996年から3年間沖縄に赴任し、在沖米軍と一緒に仕事をしてきた自分としては非常に複雑な思いを感じる。日本のマスコミは政府と沖縄の対立構造として報じている。しかし、そうなのだろうか。なぜ辺野古移設が必要なのか、代替策はないものか、課題はなんなのかを少し考えてみたい。
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 出典:【画像】「埋め立てやめろ」「あきらめない」辺野古で1千人抗議 - ライブドアニュース

2. キャンプシュワッブとは
日本の新聞等の写真を見ると、キャンプシュワッブは埋立地のエリアのように勘違いするが、在沖基地の中でも広大な土地を占有している基地の一つだ。在日米軍の施設の面積は全国で263km2あり、そのうち沖縄には184km2と全体の約70%を占めている。これは沖縄本島の面積の約25%を占めている。キャンプシュワッブは20km2だ。複雑なのは、キャンプシュワッブの土地の約25%は私有地であり、年間23億円を超える賃借料が日本国政府から地主に支払われている。この辺りに利権の問題が隠れているのかもしれない。
「The U.S. Military Presence in Okinawa and the Futenma Base Controversy」2012/8/3
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 出典:https://www.hsdl.org/?view&did=719916

3. ジュゴンは大丈夫なのか
沖縄に3年間滞在し、沖縄本島は隅々までドライブした。その中でも特に綺麗だったのは辺野古だ。高台の崖の上から見下ろす辺野古の海は本当に綺麗だった。海が綺麗だったので、そこに悠々と泳ぐ巨大なマンタがよく見えた。当時はジュゴンも生息していただろう。キャンプシュワッブで働く米兵は、勤務時間外にはタンクを背負って嬉しそうに綺麗な辺野古の海のダイビングを満喫していた。自分もダイビングのライセンスを持っているので、潜りたかったが、流石に米軍キャンプであるキャンプシュワッブの海を潜ることはできなかった。建設工事が始まった辺野古ジュゴンが生息しているとは思えない。
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 出典:Join the Fight to Save Okinawa Dugongs

4. 辺野古移設の対立軸はなんだろうか?
(1) 1996年当時の日米合意

 普天間基地の返還は、1995年の少女乱暴事件を受けて、日米特別行動委員会(SACO)が立ち上がったことがきっかけだった。自分が赴任した時にも事件が起きて、米兵は全員外出禁止令が出ることもあった。詳しくは知らなかったけど、今調べると、被害者は12歳の女子小学生だった。これはひどい。ひどすぎる。そして、その怒りが米軍基地の縮小に発展する契機になったが、実際には縮小ではなく、移転という解決だったのが問題の底辺にある。

(2) 在沖米軍
米軍は、陸・海・空の3軍に加えて海兵隊がある。USMC(United States Marine Corps)と略する。在日米陸軍のメインは座間だ。沖縄には鳥居基地がある。在日米空軍のメインは横田、三沢、そして嘉手納だ。在日米海軍のメインは横須賀、厚木、佐世保だ。沖縄にはホワイトビーチがある。ここがまた綺麗だ。問題の在日海兵隊のメインは、沖縄のキャンプバトラ、キャンプコートニー、普天間基地、北部のキャンプフォスター、キャンプハンセン、さらに岩国だ。沖縄の基地の南部から中部にかけては、陸・海・空の基地があり、海兵隊の司令塔の基地もある。自分が勤務していた北谷(ちゃたん)はキャンプフォスターのすぐ近くだったけど、どの基地も高台の見晴らしの良いところだったり、綺麗なビーチ沿いだったりする。
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 出典:https://blog.goo.ne.jp/sekiseikai_2007/e/913e6e94b51aecbf8aca0df384a23663

(3) ウチナンチュとヤマトンチュ
マスコミでは日本国政府沖縄県や県民感情という対立構造で報道することが多い。でも、そうなのだろうか。沖縄に赴任するときに、沖縄の人は、自分たちのことをウチナンチュと呼び、本土の人のことをヤマトンチュと呼ぶ。沖縄の人は、例えば、大きな国道で車で走っていて、横から車が飛び出しても、クラクションとか鳴らさない。運転しているおじいさんとか、おばあさんの顔を見て、しゃあないなあ。ちゃんと運転せいよという感じで国道への合流を促す。基本的に、争うことを嫌がる。「ナンクルナイサ」と言う言葉も良く聞く。まあ、くよくよしても仕方ない。何とかなるよと言う感じだ。そんなウチナンチュとヤマトンチュが戦う構図とは思いたくない。

(4) 日本と米国
江戸時代の前半には沖縄はまだ琉球王国だった。地政学的に、沖縄は台湾にも、中国にも、韓国・北朝鮮にも、東京にも繋がる絶好のロケーションだ。日本人としては、沖縄から在日米軍に出ていってほしいと言う意見の人はいるだろう。でも、全員でもない。米国は、中国や北朝鮮、ロシアへの牽制の拠点として沖縄の拠点を外したくない。そんな構図だと言う人もいるかもしれない。しかし、米国だって、自然保護派で反対している人もいるし、推進派もいる。
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 出典:https://www.hsdl.org/?view&did=719916

(5) 国防推進派と自然保護派
地政学的に沖縄での戦力を下げるわけにはいかないと言う国防推進派は国内にも米国にもいる。一方で、沖縄の辺野古には絶滅の危機に瀕しているジュゴンの貴重な生息地だ。沖縄には約400種類のサンゴがここにあり、1,000種以上のサンゴ礁、海洋哺乳類、ウミガメをサポートしている。そんな貴重な数少ない自然が残っているのが、この辺野古の海だ。米国絶滅危惧種法の下で保護され、日本の哺乳動物学会によって重大な危機にさらされている沖縄ジュゴンのための最後の砦だ。2005年に国際連合は、ジュゴンの生息地を荒廃させる米国と日本の改正建設提案を拒否した。2008年には米国連邦裁判所が米国国防総省に対し、デュゴンに対する新しい航空基地の影響を考慮し、害を回避または緩和することを要求した。米軍も日本政府も、ジュゴンの生息に影響がないと言う判断をしているようだが、本当か。その点は厳しく追及すべきだろう。

(6) シラス統治とウシハク統治
日本では、国民は国の宝とされていた。これをシラス統治と言う。この考え方に基づけば、沖縄の県民の80%が反対すると言う辺野古への基地の建設を進めるべきではない。江戸時代の生類憐めに令を出すまでもなく、日本は生物との共存を志向してきた。琉球王国でもジュゴンとの共存を図ってきた。沖縄には、貴重な素晴らしい自然が残っている。これは在沖米軍が素晴らしい海岸を陣取っていて、民間の開発が進まなかった点も原因だ。これは結果論だが在沖米軍の大きな功績だと思っていた。しかし、その中でも特に貴重な辺野古の海岸を埋め立てると生態系への影響は壊滅的な影響を受けるだろう。国の判断に国民が従うべきと言うのはウシハク統治の考え方だ。もしかすると、この辺野古の問題はシラス統治とウシハク統治の対立軸の問題という側面があるように感じるのは自分だけだろうか。
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 出典:U.S., Japan agree to partial Marine transfer from Okinawa - media | Reuters

5. 代替案はないものか
(1) 嘉手納基地への統合

2012年8月に発行された「The U.S. Military Presence in Okinawa and the Futenma Base Controversy」では、代替案として、嘉手納基地に統合することが検討されていたことが明記されている。しかし、1996年にはSACO会談で否定された。2005年には、リチャード・ローレス国防副長官がカデナに統合する案を探求したが、実現には至っていない。この理由は2つある。それは嘉手納空軍基地の理解を得られていない点と、国防力の抑止に繋がる点のようだ。
 出典:https://www.hsdl.org/?view&did=719916

(2) グアムへの再編計画
米軍基地の再編の中でグアムに統合する案はあったのかもしれない。しかし、鳩山由紀夫が首相の時代に普天間基地の移設問題が迷走した。米議会も、8000人の海兵隊員とその扶養家族をグアムに移送する案に対しては、103億ドルの費用がかかると反対したとある。米国会計監査員(GAO)は、239億ドルの費用がかかると主張した。トランプも日本は米国の国防にただ乗りしていると非難するなら、自らの費用でグアムに国防戦線を引くべきかもしれないが、この可能性は低そうだ。
 出典:https://www.hsdl.org/?view&did=719916

(3) その他の案
岩国への統合する案や、もっと沖縄本島北部のキャンプハンセン等の奥地にヘリポートを作る案もあるのではないかと思うけど、どれも問題があるのだろう。現実問題として、辺野古への移設を認めるしかないのだろうか。でも、もっと自然と共存できるようなヘリポートを目指すことは出来なかったものだろうか。このまま土砂の投入を進めると、もう辺野古の綺麗な海は戻ってこないだろう。ジュゴンも絶滅し、ウミガメが卵を産む場所もなくなるかもしれない。

まとめ

辺野古の問題は本当に難しい。辺野古への基地の建設を認めて、未来志向として、普天間基地の返還後の再利用にフォーカスする方が賢明なのかもしれない。しかし、こちらも利権の匂いがする。ディズニーランドを誘致する案を出している人もいるが、どんな青写真を描くのかはこれからだ。普天間基地の返還は2022年度以降だが、これに先立って、キャンプ瑞慶覧の返還が予定されている。沖縄が今後、ますます輝くエリアになるのか、ウチナンチュが幸せな日々を暮らせるようになるのか、それともこんなはずではなかったと後悔するような世界にするのか、そのターニングポイントが今のような気がする。
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 出典:沖縄米軍基地返還計画 | nippon.com

以上