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副業について考える

はじめに
最近、「副業」に関する話題を耳にすることが多い。日本の労働環境においては、副業の禁止を就業規則で謳っていることが多く、それが普通と思っていた。しかし、海外では通常は雇用契約を締結するし、その中で排他的な雇用を謳えば副業禁止だが、そうでないことが多いのではないか。実際、Wikiで調べても副業禁止は日本の就業規則に基づくものであり、そもそもこの就業規則も戦後制定されたものだ。終身雇用と年功序列が守られてきた時代では副業禁止は意味があったかもしれない。しかし、終身雇用もなく、年功序列もなく、正規雇用よりも非正規雇用が主流になる時代において副業禁止は意味があるのだろうか。そんな疑問を感じながら少し調べてみたい。

1. 副業とは
1.1 働き方改革が目指すもの

 働き改革の中で副業の解禁が話題になっている。しかし、これも政府と、厚生労働省では少し温度感が違うようだ。そもそも現在のデファクトとなっている就業規則には副業禁止の条項が有り、新しいデファクトでは副業禁止を除外する方向で検討しているようだが、まだ議論百出の状況のようだ。政府が副業解禁を推進したい狙いは、成長戦略だ。優秀な人材が持つ能力を他社でも活用し、新事業の創出につなげる。社員にとっても、スキルアップやキャリアアップ、収入アップの効果が期待出来るという。本当だろうか。
(出典:President Online、参考1)

1.2 法律的な側面
そもそもなぜ副業がダメなのだろう。日本国憲法第22条1項で職業選択の自由が宣言されている。民法にも労働基準法にも副業や兼業の規制はない。問題は就業規則だ。しかし、その就業規則自体でも、デファクト版では副業や兼業の規制を無くすべきと、厚生労働省が平成30年1月にまとめた副業・兼業の促進に関するガイドラインで示している。
(出典:厚生労働省/参考2、キャリアコンパス/参考3)

1.3 副業のパターン
副業には、複数の会社と雇用契約を締結するケースと、会社員と自営業を兼業するケースがあるようだ。この2つの定義はあまり明確ではないが、仮に前者を副業、後者を兼業とする。

(1) 複数の企業と雇用契約する副業
メインの会社に勤務しながら、サブで別の会社にも勤務して報酬を得る。就業規則で禁じているのは主にこのケースだろう。これは雇用契約を締結するような労働者を想定している。ここで懸念されるのは、やはり過重労働や健康面、待遇面の問題だろう。以降は、このイメージでの副業について記載する。

(2) 会社員が自営業を兼務する兼業
メインの会社に勤務しながら大学の非常勤講師を請け負う。メインの会社に勤務しながら、株式運用やFX運用で稼ぐ。メインの会社に勤務しながら、資格を活かして個人事業主になる。メインの会社に勤務しながら、非常勤役員を兼務する。これらは、複数の会社と雇用契約を結ぶわけではないので、そもそも就業規則にも違反しないと言えるのだろうか。この辺りがよく分からない点だ。

1.3 副業のメリット
(1) 社員のメリット

独立行政法人労働政策研究・研修機構が行った2009年の調査では、下のグラフで示すように、副業の理由のトップは「収入を増やしたいから(52.7%)」、ついで、「自分が活躍できる場を広げたいから(26.8%)」、さらに「一つの仕事だけでは生活自体が営めないから(26.5%)」と続いた。収入を増やしたいという理由は正社員<非正規社員だが、活躍の場は、正社員>非正規社員だった。つまり、ともに収入増を目的としているが、正規社員はやりがいや、人脈の広がりを重視していて、非正規社員は生活のため収入増が必要という側面がうかがえる。
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(出典:中小企業庁経営支援部、参考4)

(2) 会社のメリット
兼業や副業を認めているのは、近年増加傾向にあるが、1割から3割とまだまだ少数派だ。現在も将来も禁止と宣言している企業が3割程度ある一方で、社員の資質向上やスキルの活用などのメリットを重視して、兼業を認める企業が増えている。ロート製薬が先行して話題になったが、その後もこれに続き企業が増えている。特殊なのはエンファクトリーで専業禁止を謳い、兼業や副業を義務化している例まであった。
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(出典:HUFFPOST、参考5)

2. 副業のニーズ
(1) 収入増

HUFFPOSTの記事では、本業以外で報酬や収入を伴う活動経験の有無を調査したところ、約3割が経験ありと回答している。さらに、その活動内容で見ると、トップが株式投資やFX投資であり、次いで他組織への出向やオークション、講演などだ。クラウドソーシングの業務受注なども挙げられているし、有償ボランティア活動なども挙げられている。これらは副業と言うよりは兼業と呼ぶべきものが多いように感じる。
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(出典:HUFFPOST、参考5)

(2) 能力開発
facebookで見ると、「NPO法人二枚目の名刺」があった。会社社員という顔だけではなく、ボランティア活動や個人事業主としての第二、第三の顔を持つというのは、自己実現の意味でも面白いと思う。でも、これは副業に当たるのだろうか。兼業なのか。
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(出典:二枚目の名刺、参考6)

(3) 自己実現
人材活用のエンジャパンの調査では、下の図の通り副業に興味があるのが88%と高い比率となった。収入を得るがトップが、それ以外の理由はスキルアップ、キャリアアップ、人脈アップなど自己実現につながる理由だった。
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(出典:エンジャパン、参考7)

3. 副業に関する企業の意向
(1) 副業は原則禁止が主流

ビジネスインサイドの調査によると企業が最も懸念しているのは本業がおろそかにならないかどうかだ。当然だろう。ついで、情報漏洩や利益相反長時間労働などが挙げられる。もっとも管理が難しいのが、この長時間労働や健康への影響ではないだろうか。特に非正規社員が生活に困って複数の企業に勤務し、いずれもブラックだったりするとこれは悲劇だ。
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(出典:Business Insider、参考7)

(2) 増加するシニア起業
中小企業白書では、50歳以上のシニア起業の増加が指摘されている。シニア起業では、仕事の経験や知識を役立てたい、社会に役立つ仕事がしたい、年齢に関係なく仕事をしたいといった声が多い。特に大企業では55歳で役職定年で役職は外され、60歳定年で再雇用しても収入は半減、かつての部下にこき使われるためインセンティブが下がるケースがある。シニア起業はあるべき方向性ではないのだろうか。これを仮に兼業として会社が認める方向を示すのは良いことだろう。
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(出典:中小企業白書、参考8)

(3) シニア層と中堅層
下の図を見ると、55歳以上のシニア層(青)と35-54歳の中堅層(赤)では起業の動機が大きく異なる。シニア層はやりがい重視だが、中堅層は収入増や自由に仕事をしたいといった動機重視だ。
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(出典:シニア活用、参考9)

4. 海外事情との比較
就業規則は日本特有の文化なのだろうか。海外では雇用契約に必要な事項を明記する。一律で副業禁止は考えにくい。そもそも終身雇用ではないし、オンとオフを区別するので、勤務時間以外まで会社に拘束されるのは考えられないといったところだろうか。日本の終身雇用とセットで成り立つものだ。正規社員を就業規則で縛るのはまだしも、有期雇用が前提の非正規社員に副業禁止を唄う権利も権限も、もはや日本の企業にはないだろう。下の図は、日本生命が調べた主要国の総合企業活性化指数(TEA)と開業率だ。TEAとは、成人(18-64歳)人口100人に対して、実際に起業準備中の人と起業後3年半未満の人の合計が何人であるかという指標で、Total Entrepreneurial Activitiesの略だ。また、開業率も同様だが、先進諸国に比べて日本は低い数値で留まっていることが課題だ。
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(出典:日本生命、参考10)

5. 副業の課題
(1) 自己実現の為に起業して兼業するケース

自己責任で起業する前提であれば、労働時間や健康管理も自己責任だろう。また、会社への勤務を兼業する以上、企業への勤務を疎かにするのはあってはならない。

(2) 複数の会社に勤務する副業ケース
問題は、過重労働の防止や、健康管理の責任主体だろう。複数の企業で勤務するケースでの労務問題を未然に防ぐには、禁止するよりも届け出制にして実態に合わせた管理手法を会社と雇用者でしっかりと協議し、合意すべきだろう。

(3) 確定申告と税務処理
総務省の就業構造基本調査によると、副業を希望している人は1997年の約300万人から2012年には380万人ほどまで増加している。しかし、実際に副業しているのは、1997年の約300万人から2012年には230万人ほどに減少している。希望者は増えているが、それを社会や起業が対応しきれていないということだろうか。
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(出典:シニア活用、参考11)

6. おわりに
副業・兼業の問題は難しい。以前、育児問題を調べた時もワーキングポアの課題があった。つまり、20代の働く女性は、20代の働かない女性よりも貧困率が高いという逆転現象だ。もし、この構図の是正がなされない中で、副業・兼業を解禁すると、ワーキングポアがより深刻化する懸念があるだろう。また、中堅層とシニア層でも問題は大きく異なる。中堅層には、ぜひ起業にチャレンジしてほしいが、一方で事業に失敗した時のセーフティネットをしっかりと整備するべきだろう。それらに比べるとシニア層の副業・兼業は大きなリスクがなく、社会の活性化にも貢献できるので、もっと背中を押すべきではないだろうか。また、別の問題だが、ベーシックインカムが導入されれば、副業・兼業の動機に収入以外の比率がもっと高まるのだろうか。自己実現の比率を高めることを目指すべきだと思う。     以上


参考 1:http://president.jp/articles/-/22489
参考 2:http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000192844.pdf
参考 3:https://doda.jp/careercompass/compassnews/20160208-15127.html
参考 4:http://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/hukugyo/2016/161114hukugyo04.pdf
参考 5:http://www.huffingtonpost.jp/makoto-kato/side-hustle_b_16779366.html
参考 6:https://twitter.com/nimaimenomeishi/status/877378235172040704
参考 7:https://corp.en-japan.com/newsrelease/2017/3537.html
参考 8:https://www.businessinsider.jp/post-106855
参考 9:http://web.kansya.jp.net/blog/2015/12/4649.html
参考10:https://www.nam.co.jp/market/column/trend/2017/1245855_4571.html
参考11:https://www.seniorkatsuyou.com/column/ueno_0324/