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裁量労働制を考える

はじめに
最近、裁量労働制の是非が国会でも議論され、今回の国会での審議を諦め、裁量労働制の対象拡大を含む労働基準法改正案に関しては、厚生労働省労働政策審議会でも再度議論するような報道があった。そんな話題の裁量労働制関連を少し調べてみた。労働時間の短縮は必要だが、それだけでは十分ではない。やはり、やる気や達成感、仕事の満足度を高めることが重要だ。そして、その意味では、高度プロフェショナルの基準を1075万円とするのは理解できるが、裁量労働制をさらに低い賃金の業務に拡張するのは危険だ。適用対象の業務の最低賃金を高めることが条件となるのではないか。

1. モティベーションと仕事の満足度
下の図は、全国就業実態パネル調査(2016年)に基づいて、リクルートワークスの久米さんがわかりやすくまとめた図だ。これによると、45の職種区分に対して、やる気(Motivation Performance Score)と仕事の満足度での分布具合をプロットしたものだ。これによると、相関係数(R2)が0.7165であり、相関関係は高いと言える。やる気も満足度も最高に高いのは経営関連専門職、つまり社長業だ。社長業の人はやればやるほど成果に直結するので大変なことも多いが、その環境で実績をあげられる人は幸せといえるだろう。一方、MPSは高いがそれ以上に仕事への満足度が高いのはコンサルタント業やゲーム関連専門職だ。一方、MPSは高いが仕事への満足度がそれほど高くないのは会社の管理職や法務関連の専門職だ。あなたの周りの人をイメージして当たっているかどうかを検証してみてほしい。一方、やる気も満足度も低いのは、OAオペレータや製造作業者だ。今後のコンピュータの性能がさらに向上した場合には、このようなやる気も満足度も低いような業務をターゲットにすべきではないだろうか。
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(出典:リクルートワークス、参考1)

2. 年収と生活の満足度
年収と生活の満足度には、正の相関関係があるだろう。しかし、色々調べてもなかなか情報がない。やっと見つけたのが、下の図で、これは米国の2010年の統計情報だ。これによると年収が100万円(分かりやすくするため、$1=100円とする)から年収1000万円あたりまでの勾配と、年収1000万円から2000万円あたりまでの勾配は明らかに異なる。仮に前者を馬車馬ゾーン、後者をセレブゾーンと呼ぶ。馬車馬ゾーンは貧困から脱出するために、より豊かになるため必死で働く労働者ゾーンと言えるのではないか。一方のセレブゾーンは、前項でいう高度な専門職で十分な収入を持ち、高いモチベーションを維持し、結果としてライフ満足度が高い。
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(出典:80000 HOURS、参考2)
3. 残業時間と社員のやる気
残業時間とやる気には、正の相関関係があるだろう。これについては、コンサルティング会社のVOLKERS社が2016年8月に集計した結果を発表している。これによると、やはり分水嶺は100時間だ。明らかに残業時間100時間以下とそれ以上で勾配が異なる。まず、残業時間が100時間以下の社員のやる気は比較的低い。下の図ではだらだらゾーンとしている。一方、残業時間が100時間超の社員のやる気は高い。これは、これまでの調査と照らし合わせると、経営者やコンサルタントや高度な専門職の人たちで残業を厭わない人たちだ。よく、テレビの評論家が100時間が長時間になるのかと発言していたことがあるが、きっとその評論家は残業時間も長いが、その分の報酬も高く、仕事の満足度もライフの満足度も高い人たちだ。問題は、やる気も仕事の満足度も低い人たちに対して、報酬の低い仕事で長時間労働を強いり、その成果も評価されないブラックゾーンではないか。
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(出典:VOLKERS、参考3)

4. 裁量労働制の特徴
裁量労働制とは、Wikiによると、労働基準法で定めるみなし労働時間制の一つだという。専門業務型と企画業務型があり、労使双方の合意と労働基準監督署長への届け出が必要だ。業務を実践する方法や時間配分を自身で裁量できる仕事が対象だ。現在は、次のような19の業務がリストアアップされている。幸か不幸か技術士はリストアップされていないが、一般には1に含まれるのだろうか。下の表現は分かりやすくするために一部、編集している。
 1 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
 2 情報処理システムの分析又は設計の業務
 3 新聞若しくは出版の事業や放送事業の取材や編集の業務
 4 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
 5 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
 6 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務
 7 システムコンサルタントの業務
 8 インテリアコーディネーターの業務
 9 ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
10 証券アナリストの業務)
11 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
12 学校教育法に規定する大学における教授研究の業務
13 公認会計士の業務
14 弁護士の業務
15 建築士一級建築士二級建築士及び木造建築士)の業務
16 不動産鑑定士の業務
17 弁理士の業務
18 税理士の業務
19 中小企業診断士の業務[1]
(出典:Wiki、参考4)

5. 裁量労働制は英語でなんというのか
Googleで翻訳すると「Discretionary labor system」となる。しかし、この直訳英語表現で通じるのだろうか。欧米では「white collar exemption」という制度がある。exemptionとは、除外とか免除という意味だ。例えば、米国カリフォルニア州ではホワイトカラーと呼ばれる高度な業務に関して、2016年12月1日以降は最低年収は$47,476(それまでは$41,600)と規定した。つまり、最低給与を約14%増額するという法律だった。日本の裁量労働制の内容と全然違う。日本では、いわゆるホワイトカラーエグゼンプションの導入に頓挫し、現在はそれを高度プロフェッショナル制度として導入が検討されている。日本の裁量労働制を前述の英語で言って欧米の人はその意味を理解できるのだろうか。Stupid!と言われそうな気がする。
(出典:Fox Rothschild、参考5)

6. 裁量労働制の課題と対策
(1) 裁量労働制の問題

労働問題弁護士ナビによると、裁量労働制の問題として、次の5つを指摘している。これはその通りだろう。なんだか実質的に労働者の労働環境がますます悪化する方向に働くようになるのではないかと心配になる。
 問題1) そもそも裁量労働制に当てはまらない業種もある
 問題2) 実労働時間とみなし時間がかけ離れている
 問題3) 長時間労働が蔓延している
 問題4) 実際は出退勤時間が決められている
 問題5) 休日出勤も多い
(出典:労働問題弁護士ナビ、参考6)

(2) 裁量労働制の課題と対策
日本人に求められていることは単に労働時間を短縮することだけではない。生産性を高めて労働時間を短縮することだ。そして、そのためには、やる気を上げ、結果としての仕事の満足度を高めることだ。そのためには、労働者に与える裁量の範囲を広げることはプラスだろう。しかし、米国カリフォルニア州法のように業務に応じた最低年収を決めて、それを上げていくことができれば、やる気もライフの満足度も高まるのではないだろうか。少なくとも低賃金の業務に裁量労働制を適用することは不適切だろう。また、高度プロフェッショナルと定義するような業務でも、企業が定める勤務先での深夜勤務に伴う残業は想定の工数には含めるべきではない。想定していない日の労働や深夜残業等は精算する方向で検討されているが、単純な労働強化とならないように、検討状況をよくウオッチする必要があるだろう。

まとめ
裁量労働制を選択する人は、みなしの労働時間以上に働くつもりのない人と、労働時間の制限に悩まされず思いっきり仕事をしたい人に二分化していると聞く。平均とかで見るのではなく、もっと実際の労働(残業)時間の分布を見て、何が問題かをもっと精査するべきではないのだろうか。また、高給取りの国会議員は、データの信ぴょう性を単に糾弾するのではなく、信用できる調査を行って、もっと前向きの提案をするような活動をすべきではないか。日本人がもっと生き生きとやる気とやりがいを持って仕事をして、その結果のライフ満足度を高めるにはどうすれば良いのかといった議論を期待したい

以上

参考1:https://www.works-i.com/column/panelsurveys/久米功一2/
参考2:https://80000hours.org/career-guide/job-satisfaction/
参考3:https://www.shukatsu-note.com/category/company/post-44386/
参考4:https://ja.wikipedia.org/wiki/裁量労働制
参考5:https://californiaemploymentlaw.foxrothschild.com/tags/white-collar-exemptions/
参考6:https://roudou-pro.com/columns/32/