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不祥事問題:なぜ起きるのか?どう対処するのか?

はじめに
技術士として活躍するには、一次試験と二次試験に合格して、登録する必要がある。現在、経営工学部門の二次試験にトライ中で、筆記試験はなんとか合格し、12月9日に口頭試験を渋谷のフォーラムエイトという会場で受験する。総合技術監理部門は年明けが多いが、一般部門は早ければ11月下旬から始まっている。だんだん口頭試験が近づいてきて、ドキドキしてきた。散髪でもして気合いを入れようかと考えている(笑)。その口頭試験で聞かれる定番の一つが倫理問題だ。そのため、最近の相次いでいる不祥事がなぜ発生するのか、どうすれば良いのかを少し考えてみたい。

1. 相次ぐ不祥事
なぜか毎年秋になると不祥事の発覚が相次ぐような気がする。次の表は、今年の9月以降に発生した不祥事だ。日産自動車SUBARUは完成車の最終検査を無資格者にさせていたものだ。そして、ハレーションが大きかったのは神戸製鋼所三菱マテリアル東レのデータ改ざんだ。素材の品質データを改ざんすることがどれだけ社会の安全安心を脅かすことになるのかを考えると猛省が求められる。f:id:hiroshi-kizaki:20171206194730p:plain
(出典:社会科学者の随想、参考1)

2. 不祥事のステータス
2.1 不祥事の発生フェーズ
不祥事が問題になるのは、発覚して、新聞やテレビで報道された時だ。しかし、問題はいつ発生したのか、なぜ発生したのか。どのような背景があったのか。当事者は悪いことをしてはいけないと分かっていたはずなのになぜ不正を働いてしまったのか。それは利己的な原因かもしれないし、組織の論理で止むを得ず応じてしまったのかもしれない。本当の真実は当事者の心の中にしかないのかもしれないが、発生フェーズの事実関係を確認することは調査の第一歩だろう。

2.2 不祥事の継続フェーズ
組織の中で不正を働くとそれを隠すため、もしくは正当化するため、第二の不正を働くケースがある。完成車の検査をすべき有資格者がいないのに、止むを得ず無資格者が検査して、資料を捏造する。しかし、社内的にはそんなことは言えないとすると、次の検査も無資格者が続いてやることになるのかもしれない。有資格者がいないと検査できないとはいえず、何度もなんども不正行為を重ねると、慢性化し、必要悪のように既成事実化して、不正行為をしているという意識もなくなってしまうのかもしれない。

2.3 不祥事の発覚フェーズ
不正を継続している当事者は麻痺していても、それに新たに巻き込まれる人はおかしいと感じる。そんな時に、これはおかしいと上司に伝えて、それが是正されるような会社は自浄機能を有している会社だ。しかし、そんな自浄機能がない会社の場合には、不正を行う当事者を増やすことになる。どう考えてもおかしいと考える当事者は内部告発を行って不祥事が発覚するのがこの発覚フェーズだ。内部告発者を救済するために、公益通報者保護法が制定されている。しかし、ニュースで見る限り、法に沿って、適切な手順で内部告発したというよりは、ネットへの書き込みを社内外の関係者が見て、公になる。そんな事例が多いようだ。

3. 不祥事の社会的問題
3.1 品質の問題(安全問題)
不祥事がなぜ社会的に問題になるのかというと、安全の問題と安心の問題だ。まず、最初の安全の問題とは、品質の問題だ。先の事例でも素材メーカーが検査データを改ざんした結果、それを活用して最終製品を製造するメーカーは予定した品質を担保できない。結果として、品質上の問題が発生するかもしれない。これは看過できない問題だ。

3.2 信頼性の問題(安心問題)
不祥事を起こした企業は、品質上の問題はないので安心して欲しいとよく発表する。しかし、それはおかしい。宣言した品質を満足しない製品を発売し、ルールで定められた行動から逸脱して品質の問題はないとどうして宣言できるのだか。問題がないという証明は出来ないはずだ。そして、社会はそんな企業を信用しない。信用を築くのは大変だが、信用を失うのは一瞬だ。しかも、度重なる不祥事を繰り返すような企業は最悪社会から抹殺されることになる。下の図は、コンプライアンス違反関連で倒産した件数と負債総額の推移だ。

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(出典:東京商工リサーチ、参考2)

4. 不祥事はなぜ発生し、継続し、発覚するのか?
4.1 環境の変化への対応が技術の継承を絶ち、現場力を崩壊させたのか。
下の図は、パナソニックが、公益通報者保護法の説明会の時に用いた資料からの抜粋だ。創業者の松下幸之助の熱い想いに溢れている。公明正大な風土の醸成が継続されたからこそ、素晴らしいグローバル企業となったのだろう。

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(出典:公益通報者保護法説明会資料、参考3)
公明正大な遺伝子を持つパナソニックでは不祥事は発生していない。しかし、幹部が驚くほど現場の技術伝承が困難となっている。製造現場での正社員の比率が3割から、2割、1割と減少するような現場はパナソニックだけではない。日本全体の問題だ。自分自身もかつて一緒に働いた派遣社員から次のように言われたことがある。それは、「自分に対して教育してくれるのはありがたい。でも、自分はあるタイミングで別の会社に転職する。それが派遣社員だ。あなたのノウハウをしっかりと引き継げる人に引き継いで欲しい。」という内容だった。そんなことは言われなくてもわかっている。上司には正社員をアサインするように何度も要請していた。しかし、正社員がアサインされたのは自分が異動するときだった(涙)。f:id:hiroshi-kizaki:20171206201923p:plain
(出典:朝日新聞、2017年10月29日、参考4)

4.2 集団浅慮:みんなで渡れば怖くない心理
集団浅慮(せんりょ)とは、集団心理とも言われる。誤解を恐れずに言えば、赤信号でもみんなで渡れば怖くないという心理だ。米イェール大学の実験心理学者は、集団で合議を行う場合に、不条理な意思決定が容認される現象を研究した。有名な8つの症状は次の通りだ。個人の意見よりも集団の和や、組織の「空気」を尊重し、リーダの意思を「忖度」する日本の組織では、この集団浅慮への深い理解と対策が欠かせない。

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(出典:実戦的用語解説、参考5)

4.3 ネットの普及と活用:増える不正な内部告発
社内の不適切な行為を通報したもの(公益通報者)が適切に保護されるように公益通報者保護法が2006年4月に施行された。そして、公益通報するには、まず社内に通報し、その上で、やむをえない場合に外部や行政機関に公益通報するように定めている。しかし、近年発覚する不祥事の多くはこのような正規の手順を踏むのではなく、派遣社員がネットに書き込んで、それを社内外の関係者が見つけて不祥事が発覚するというケースが多いようだ。
*1 不正の目的の通報でないこと。
*2 *1に加え、通報内容に真実相当性があること。
*3 *2に9和え、一定の要件を満たすこと

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(出典:消費者庁、参考6) 

5. 不祥事をいかにしてなくするのか
5.1 ハインリッヒの法則
重大な問題の背後には29件の軽微な問題が発生していて、さらに300件のヒヤリハットが発生しているというのは有名なハイリッヒの法則だ。重大な不祥事が発生する企業では、軽微な問題やヒヤリハットはやはり日常的に発生しているはずだ。それらの問題を見逃さず、適切な対策を検討して、解決していく。そんな風にPDCAを回すような企業風土度を醸成することが、地道ではあるが王道なのだと思う。そして、その時に、軽微な事故やヒヤリハットをできるだけオープンにすることだ。社外に開示できるものと社内に限定するものを区別することは必要かもしれない。しかし、実態はネットでどんどん暴露されていることを考えると、できるだけオープンに情報を共有して、関係者の改善を後押ししたい。

5.2 内部通報者保護法の見直し
これは法的な問題なので、専門外だが、改善の余地はあるだろう。企業の不祥事ではないが、いじめを撲滅するために、いじめの兆候をSNSで通報できる仕組みが海外で開発され、国内でも一部試験的に導入されている。過去1年間の通報件数以上が1週間ほどで集まったという。企業の不祥事をなくすことが目的だが、そのためにはその実態を気軽に通報できる仕組みと、それを精査して、事実関係を確認して、対処する。そんな機動的な対応が求められるのではないだろうか。

5.3 技術の継承
労働者派遣法は1986年に施行された。その後も社会環境の変化に合わせて改正している。人件費を抑制するために、派遣社員の活用や業務委託の活用を続けた結果、いわゆる正規社員の比率はどんどん低下し、結果的に製造現場の技術力の低下や技術の継承に支障が出ていることはないのだろうか。人件費の抑制は企業経営の重要な問題かもしれないが、同時に人材の活用や人材の育成は企業経営の基本だ。不祥事を起こすのは、組織ではなく、組織の構成員である役員・社員だ。立場は別にして、先の松下幸之助のような高い志を抱き、公明正大な風土を醸成することが求められているのではないだろうか。
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(出典:教育文化協会、参考7)

6. まとめ
テレビを見ていると評論家が不祥事についてコメントしている。指摘されている通りだと思う。しかし、表面的な事象を取られて批判しても問題は解決しないだろう。それよりも、なぜ発生したのか、なぜ継続したのか、どうして是正出来ずに発覚に至ったのか。そんな複合的な問題として、事実関係を深堀りすると同時に、そのような不祥事以前の不正をしないという企業風土の醸成が求められる。企業業績が悪化すると役員の倫理観が低下するという調査結果もある。社員の倫理観の醸成と同時に、経営者の毅然としたぶれない高い倫理観が求められている。

以上

参考1:http://blog.livedoor.jp/bbgmgt/
参考2:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171014-00000054-san-bus_all
参考3:http://www.caa.go.jp/planning/koueki/shuchi-koho/pdf/130313_3.pdf 
参考4:http://www.page.sannet.ne.jp/mhvmhv/innova.htm 
参考5:http://www.educate.co.jp/glossary/3-education/100-group-think-.html
参考6:http://www.caa.go.jp/adjustments/houkoku/honbun_2_1_3.html
参考7:https://www.rengo-ilec.or.jp/seminar/hitotsubashi/2008/2_youroku04.html