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フェイクニュースと徒然草

はじめに
昨日、情報セキュリティ心理学の第五回研究会に参加した。主催されているのは情報セキュリティ大学院大学の内田名誉教授だ。情報セキュリティの分野の大御所なのでご存知の方も多いかもしれない。著書も多い。歯に絹を着せぬ直球的な発言が多いが、自分は好きだ。複雑なセキュリティの課題を究明しようとしたら、シンプルに考えることと、言論の自由を重視する空気が必要だからだ。山の上ホテルの横にある明治大学のキャンパスで開催されたので参加した。面白かったので、少し報告しておきたい。
 出典:情報セキュリティ心理学の提案(参考1)

講師はNTTセキュアプラットフォーム研究所の瀧野修主任研究員
夕方の6時半から8時半までの2時間。説明中も疑問があれば質問してくださいとのこと。参加者も個性的な方が多い。質問や突っ込みが矢継ぎ早に出てくる。情報セキュリティの関係者はほぼ共通して頭の回転が早く、数学が好きな人が多いような気がする。資料は41ページほどだが、内容が濃い。イメージ的には80枚相当のスライドを90分で説明し、30分で質疑応答する感じだ。参加者は自分の所属とか氏名を名乗らなくて良いことになっているので、どこの誰かは分からないが、講師に質問するというよりは、今説明されたこの点は、先日の学会でこのような指摘がありましたよとか、このような解釈だと思いますよと言った上から目線の発言が飛び交うが、それがまた的を得ているので、受講生も講師も「確かに!」という感じで納得する。すごくオープンな授業で面白い。

SNSにおける「フェイク」とセキュリティに関する一考察

これが本日のタイトルだ。フェイクニュースバズワードだ。バズワードバズワードだ。Wikiには、「バズワード(buzzword)とは、もっともらしいけれど実際には定義や意味があいまいな用語のことだ。英語では、特定の期間や分野の中でとても人気となった言葉のことである。権威付けされたり、専門用語や印象付けるような技術用語。コンピュータの分野でよく使われるが、政治など広い分野で使われる。」とある。
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 出典:HH News&Reports(参考2)

フェイクニュースとは
トランプ大統領の発言でフェイクニュースの存在に注目が集まった気もする。そもそもフェイクニュースとはなんだろうか。日本語では捏造報道とか、虚偽報道と読んでいるものに当たる。Wikiでは、「マスメディアやソーシャルメディア等において事実と異なる情報を報道すること、または事実と異なる報道を行うメディアそのものを指し示すことである。」という。講師の瀧野さんは、Tech Crunchをベースに「全くの作り話で、通常よりトラフィックや広告収入、または政治的思想の拡散を目的に作られているもの」と指摘している。

フェイクニュースの目的
なぜ嘘をつくのか。嘘をついてはいけませんと子供の頃に教わった(笑)。瀧野さんが指摘するように3つの目的があるようだ。
1) 注目してほしい。見てほしい。
 ブロガーが自分のサイトのアクセス数を増やすために注目を集めるような表現や拡張をすることは多いだろう。嘘ではないけど、本当でもないような情報も世の中には多い。特にネットの世界では、嘘か本当かよく分からない情報が多く、それを信じて発信する危険性がある。自分も肝に銘じる必要がある(汗)。
2) 広告収入目的
 これはよりプロフェッショナルな行為だろう。アフィリエイト収入などで稼いでいる人が、より多くの広告収入を得るための手段として虚偽の投稿をしたりする。アフィリエイトの始まりは1996年のAmazonという説もあるが、アダルトサイトではもっと前から始まっていたという説もあり、調べると確かに1994年にCDNOWがクリックスルー方式のウェブサイトを立ち上げていた(笑)。広告収入もバズワードなので、あとで少し解説する。
3) ポリティカルな目的
 政治的な判断から組織ぐるみでのフェイクニュースを出したりすることはあるかもしれない。少し極端な例かもしれないが、現在の教科書、特に社会の教科書の内容は嘘ではないけど、本当のことも隠している部分があり、フェイクニュースの典型かもしれないというのは言い過ぎだろうか。

広告収入モデル
典型的なサイバー広告はバナーだろう。このはてなでもバナーは出てくる。世界初のバナー広告は、1994年にAT&THotWiredというウェブ雑誌に出したという。そのウェブを見ている人がそのバナーをクリックするとより詳しいサイトに移動するという効率的な広告方法だ。このため、広告主は人気のサイトにバナーを設置したいと考えて、掲載者に対する報酬を与える。その報酬の方法の一つが先に示したクリックスルー方式だ。
1) 表示方式
利用者がバナーが掲載されているページをアクセスした回数に応じて報酬を支払う方法だ。広告主のバナーが表示された回数をインプレッションと言い、1000インプレッション単位で報酬が支払われることが多い。アフィリエイターにとっては嬉しいが、広告主から見ると単にバナーを見ただけなので、売上につながる可能性は高くない。
2) 成果報酬方式
利用者がバナーをクリックして、広告主のページを見て、その商品を購入した場合に、購入回数や購入金額に応じて成功報酬をアフィリエイターに支払う。広告主からみると売上を確実に計上したときだけ支払うので嬉しい。でも、アフィリエイターにとっては、収入が不確実なので敬遠する。
3) クリックスルー方式
先のCDNOWが採用したのは絶妙で、そのバナーがクリックされて、広告主の画面が表示された回数に応じて報酬が支払われる。利用者が広告主の画面を見ているので、売上に連動する可能性が高いので妥当だ。さらには、クリックしてもらうために個人情報を分析して、ダイレクトマーケティングしようとする。そこにまた個人情報の取り扱いの問題が絡んでくる。なかなかムズイ問題だ。

フェイクニュースの拡散にはボットより人間が貢献
話を本論に戻そう。フェイクニュースを拡散しているのはボットではないかという説がある。ボット(bot)とは、ロボット(robot)の略だ。特にサイバーの世界で作業を自動化するプログラムの総称だ。例えば、Googlebotでは、検索したいことを予めセットしておくと、世界中の新聞やニュースの内容を収集してくれる。韓国のNAVERはネイバーまとめが有名だが、やはりYetiBotというアプリを開発している。最近はRPAがバズワードになっている。これはロボティック・プロセス・オートメーション(Robotic Process Automation)の略で、ホワイトカラーの業務の効率化を目指すものだ。しかし、ジャーナリストの耳塚佳代さんの研究によると、偽情報の拡散はボットよりも人間が貢献しているという。
kayomimizuka.hatenablog.com

フェイクニュースへの対応
Face Bookは最近広告が多く、ちょっと嫌気がさして使う頻度が激減している。瀧野講師もFBは、フェイクニュースへの対応を求められて、改善する姿勢を示しているが、その実態は本気ではないと指摘する。不適切な発言内容や偽アカウントを指摘しても、FBが迅速に対応することは少ないという。また、偽アカウントを直接批判したり、拒否する方法もあるが、FBを通じて対応した方が逆ギレの心配がないので安心だともいう。

中国での法律
中国では偽情報を5000件参照したり、500件以上転送すると禁固刑以上の罪を問われる可能性があるという。しかし、受講者によれば、それは中国共産党を避難するような情報を検索したり、リツイートした場合だという。1年ほど前の話だが、WeChatを提供する中国のテンセントは、WeChatのAIキャラクターが中国共産党を避難する発言をしたとして、サービスが停止されたという。
 出典:the page(参考3)

フェイクニュースと人間行動
瀧野先生はAIDASの法則を用いて説明されていた。個人的には、似たようなものだがAIDMA理論が好きだ。AIDMA理論とは、下の図のように人間が購買行為を起こそうとした時には、心理的な状況があり、その各状況に適したアクションを取ることが必要だというものだ。まず最初のAとして、注目してもらう必要がある。本当かなあという情報も利用者が興味を引く内容だと有効になるかもしれない。次のIは興味を持ってもらう必要がある。なんだか面白そう!と感じてもらう。このため嘘っぽい内容も拡散される可能性が高い。次のDは欲求だ。タイトルなどに興味を持ち、それをクリックしてしまう。リツイートしてもっと多くの人に伝えたい。いろいろな要求が生じる。Mは記憶だ。ほしいと思ってすぐに行動する人もいるが、多くは少し間を置くものだ。そして、最後のAは行動だ。やっぱり面白そうだからやっちゃえ!とか、転送しちゃえ!とか、拡散する行為に走ってしまう。利用者本人は、それが本当の情報か、嘘の情報かを見分けることができない場合もあるし、そもそもあまり深く考えずに「いいね」を押してしまうこともある。
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 出典:グロービス経営大学院(参考4)

古典におけるフェイクニュース
この切り口が新鮮だった。徒然草とは、吉田兼好鎌倉時代末期(1330年ごろ)に書いたとされる随筆だ。最初の「徒然なるままに」はあまりにも有名だが、これは序段であり、この序段を含めて244段からなる力作だ。その73段にはフェイクニュースに関する記載がある。当時は全てかなで書いたようだが読みにくいので漢字を含めたものを下に示す。
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 出典:biglobe(参考5)

徒然草73段の現代訳
世に語り伝えられていることは、本当のことは面白くないのだろうか、その多くはみんな嘘である。 実際にあったこと以上に人は大袈裟に言うが、ましてや、年月が過ぎて、国境も隔たってしまえば、言いたい放題(書きたい放題)に語り伝えて、書物にも記録されることになると、やがてその誇張された嘘が真実として定まってしまう。その道の専門家が書いた本になると、その方面に明るくない人は神のごとくにその内容を信じるが、その道をよく知る者であれば簡単には信じない。聞くのと見るのとでは、何事も大違いなのである。 すぐに嘘がばれることも気にせず、口に任せて虚言を言い散らせば、そのうち、根も葉もない嘘だと分かってしまう。また、(その虚言を聞いた者が)内心ではありえないことだと思いながらも、人から聞いたままに、鼻を動かして興奮しながら語るのは、その人本人のつく嘘ではない。いかにも本当らしくところどころを曖昧にしながら、肝心の部分は良く知らないふりをして、さりげなくつじつまを合わせて語る虚言は、(世の中を乱すという意味で)恐ろしいものである。 自分の面目を立てて名誉にもなる虚言には、人々は全く否定しようとしない。みんなが面白がっている嘘に対しては、自分ひとりだけが『そうではない』と言っても仕方が無くて、そのまま聞いているうちに、自分が虚言の証人にすらされてしまい、そのまま虚言が事実になってしまう。とにもかくにも、虚言の多い世の中である。人の言うことなど、当たり前で珍しい事などあるはずもないと思っていれば、虚言に流される事もない。世間で噂される虚言は、驚くようなものばかりだが、まともな人間は真偽の怪しいことを語らない。 とは言うものの、仏陀の伝記や、神仏の奇跡については、信心もあって信じないわけにはいかないだろう。世間の虚言をまともに信じることはバカらしいが、仏教の説話については『こんなことがない』といっても仕方がないことである。大体、本当のことだろうと思いながらも、むやみに信じないことが大切だが、だからといって、疑ったり嘲ったりすべきものでもないのだ。
 出典:biglobe(参考5)

徒然草で指摘されているフェイクニュースの特徴
瀧野講師は、フェイクニュースへの対応策は、この徒然草の73段で言い切っているのかもしれないという。要約すると次のようなことなのだろうか。
1) 特徴:虚言は流布されるものだ。すぐに嘘とばれることもあれば、本当らしい話として伝わることもある。虚言は必ずしも否定されるものではない。
2) リスク:虚言を否定せずに放置しておくと、証人の一人にすらされてしまう。嘘が事実になっていく。書物等の体裁が整えば定説にすらなる。
3)対策:達人や知識人は嘘を識別できる。まともな人は怪しいことを語らない。世俗の虚言を心の底から信じるのもバカらしい。ありえないなどといっても仕方がない。大人の対応をすべき。疑ったり、嘲ったりするのも良くない。

まとめ
最近はネットでいろいろな情報を確認することができる。それは嘘かもしれないし、本当かもしれない。新聞やテレビでも「嘘」をいうことは少ないが、必ずしも「本当のこと」を言っているとは言えないと感じることが多い。教科書もそうだ。小学生や中学生の時に社会が好きではなかった。当時好きだった女の子が転校して、たまたま再会した時に社会(歴史)って面白くないよねと言ったら、新しい学校の社会の先生は、因果関係を教えてくれるので面白いよ!と言った。へえ!そうなんだと素直に感心した。それからは年号を覚えるよりは、因果関係を調べるくせがついた。確かに、何かの事象があるときはその原因がある。そしてその原因がある時には必ず元原因がある。品質管理の手法と同じだ。そんな風に日本や日本人の起源を追っていくと縄文人やもっと前の先住民になる。でも、教科書では、皇紀のことも書いていない。縄文人のこともさらっと終わる。諏訪の小学校に訪問して、縄文の遺跡で盛り上がっている校長先生に、縄文文化は世界の4大文明より古いことを指摘すると、確かに!と妙に感激されていた。社会を教える先生がそんなことでどうするのと思う。もしかしたら、小学校や中学校の先生も、指導要領にそって教えなければと考える真面目な先生だったのかもしれない。でも、社会の先生になるような人なら、歴史の面白さをもっと子供たちに熱意を持って教えてほしい。想いを伝えてほしい。話がずれてしまったが、フェイクニュースとの付き合い方は難しい。深く考えずに「いいね」を押したりすることはあるだろう。でも、大事なことは古い時代から人類はフェイクニュースと付き合ってきたということを認識すべきということなのかもしれない。

以上

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

引用資料
 参考1:http://www.uchidak.com/research/InfosecPsychology.pdf
 参考2:https://www.hummingheads.co.jp/reports/keyword/131219.html
 参考3:https://thepage.jp/detail/20170807-00000023-wordleaf
 参考4:AIDMA(アイドマ)とは・意味|MBAのグロービス経営大学院
 参考5:『徒然草』の72段~75段の現代語訳