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(その5:留意事項)ベーシックインカムを政府発行の仮想通貨として国民に支給したらどうなるのだろう?

はじめに
今回のシリーズも終盤だ。ベーシックインカムを政府発行の仮想通貨として国民に支給すると、いろいろ良いことが期待できそうなことは前回記載した。しかし、世の中良いことばかりではない。良いことがあれば、必ずその反対のことがある。もしくは問題が生じないように善後策を講じる必要がある。ここでは、特に技術問題と財政問題と個人情報の保護の問題の3点から切り込んで見たい。
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1. 技術問題
1.1 実現スキーム
(1) マイナンバーとの連携

確認すると、このブログで昨年の8月に似たようなことを掲載していた。下の図はその時にイメージしたものだ。国民総番号制ということでマイナンバー(正確には個人番号制)が2015年10月から番号指定が始まり、2016年1月からは税、社会保障、災害対策の3分野で限定的に使われている。自分はまだ使っていない。どうもセキュリティに不安があり、使う気がしない。しかし、例えば、全国民を特定できるこのマイナンバーと紐付けして、自由に使える電子マネーとしてベーシックインカムが支給されると多分使うだろう。有効期限が設定されていたら勿体無いので絶対使う(笑)。このベーシックインカムの仮想通貨と日本銀行が発行する円の互換性を確保すると日本政府が宣言することが肝だろう。
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 出典:ベーシックインカムで支給されたお金の利用状況をビッグデータとして分析・活用できるのか? - LuckyOceanのブログ

(2) 仮想通貨発行額と国債発行額の関係
しかし、仮想通貨から円への変換は必須とすると、一般消費者は仮想通貨を消費せずに円に換金してタンス預金にするかもしれない。仮想通貨を円と同様に取り扱うことを政府が保証することは必要だが、その変換は最後の中央銀行と政府の間の対応に限定されるのではないか。この場合に、一定額は企業間の取引に使われるので、仮に100兆円相当の仮想通貨を日本政府が発行しても、日本政府が中央銀行に発行する国債は100兆円にはならないだろう。少なくとも消費税相当は控除されるだろうし、市場で循環する部分は控除される。しかし、それがいくらになるかを計算するのは難しい。何らかのモデルを設定してシミュレーションする必要があるかもしれない。

(3) 逆トリクルダウン
下の図は、今年の8月にこのブログに掲載したものだ。だんだん自分の過去の投稿をリファーすることが増えているのはいいことなのだろうか(笑)。トリクルダウンはアベノミクスの失敗策だ。金持ちに金をばら撒いても一般庶民にお金が回るはずがない。途中で搾取されるのに決まっている。そうではなくて、まずは全国民に金をばら撒けば、それが国民相互や企業に回って社会が活性化する。これを逆トリクルダウンと呼ぼう。ベーシックインカムの概念としてはあまり言われないけど、自分はこの効果が最も大きいのではないかと思っている。
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 出典:トリクルダウンとベーシックインカム - LuckyOceanのブログ

(4) 企業は社員への給料として仮想通貨で支払うことは可能か
国民に支給された仮想通貨は消費財の対価として企業に支払われる。企業はその原材料の購入等に仮想通貨を使えるようにする。さらには社員の給料もこの仮想通貨を使えるようにできるのだろうか。よく分からないけどあと20年もしたらキャッシュレス社会が実現しているのではないか。もしくはそのような社会を目指すべきではないか。そうだとすれば、答えは当然可能だとなる。

(5) 紙幣の回収が不要
日本銀行によると、2017年の大晦日に市場で年越した銀行券は106.7兆円(165億枚)だという。そして、千円札では1-2年、1万円札では4-5年で回収されて廃棄される。具体的には、紙幣に穴を3つ開けて、パルパーで溶かして、再生紙の原料となるらしい。でも、仮想通貨に移行して、キャッシュレス社会になればそんな作業はなくなるのだろう。
 出典:銀行券(お札)と貨幣(硬貨) : 日本銀行 Bank of Japan

(6) ATMや銀行がなくなる?!
本当にキャッシュレス社会になると、どうなるのだろう。お金を銀行でおろす必要がなければATMは激減するだろう。紙幣博物館に数台置かれているぐらいか。コンビニにもATMはなく、レジ係もいないのか。飛行機に乗ったり、電車に乗ったりするときも、キャッシュレスの精算だ。お年玉はどうするのだろう。子供の口座に振り込んだよという印の紙でも可愛い封筒に入れて、子供がそれを見て「ありがとう」と喜ぶのだろうか。ベーシックインカムの支給を受けない人は、パスポートと紐づけにした電子マネーの口座を持つことが入国の条件になるのだろうか。

(7) 外国人労働者はどうなる?
少子高齢化問題に対応するために、来年4月に出入国管理法の改正を行う。簡単な試験を受けて、合格した外国人を上限5年で受け入れる。さらに高度な試験に合格したら永住や家族帯同も認める。1993年に始まった外国人技能実習制度に基づいて、2017年には128万人が就業している。毎年20万人レベルが増えている状況だ。このペースが拡大すれば、数年後には200万人、さらに400万人と増えていくのだろうか。しかし、ここで想定している外国人技能実習生は、中国が最大で約3割だが、増加率ではベトナムが最大(40%)だ。小売や飲食サービスではネパール人も増えている。これらの人たちには、ベーシックインカムは支給されない。キャッシュレスで生活できるような対応が必要だ。
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 出典:外国人労働者に新資格、安易な拡大に危うさ | 週刊東洋経済(政治・経済) | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

(8) 派遣型の外国人労働者の増加
外国人技能実習生が従事できる業種として農業を追加する。さらに、農水省は、「外国人の周年雇用環境を整えるには、農繁期が異なる複数の農家で働くことが可能な派遣形態での受け入れが必要とみている。」という。京都府では、国家戦略特区として外国人の就農解禁を求めている。「京野菜宇治茶の生産が行われているが、農家が高齢化し、労働力が不足している。特に農繁期に人手が必要だ」という。派遣会社が中間に入ることにはメリットもあるが、デメリットもある。最大のデメリットは働く実習生の支払いから管理費が引かれることだろう。話がずれてきたので、戻すが、日本をキャッシュレス社会にしていくには、外国人労働者への支払いなども考慮する必要があるだろう。
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 出典:https://外国人労働者新聞.com/archives/4509

1.2 インフラ
(1) ブロックチェーンは使えるのか

パブリック型のブロックチェーンは、10分ごとに処理の正当性を証明(Proof of Work:PoW)する必要があるが、これが処理の無駄、電力諸費の無駄、処理のスピードダウンの元凶となっている。しかし、下の図にあるように、コンソーシアム型やプライベート型であれば、このPoWの処理が不要なので、処理も軽く、消費電力も小さく、レスポンスも早くすることができる。個人的には本命はこちらだと思っている。政府や中央銀行(=日本銀行)、主要な都市銀行などを含めたコンソーシアム型で仮想通貨の仕組みを構築することができれば、精算処理が不要であり、システム全体としての効率性が格段に高まると期待される。
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 出典:金融ソリューション ~ブロックチェーン技術への取り組み~ - Fujitsu Japan

(2) 運用主体
仮想通貨の発行主体が政府なのか、中央銀行なのか、都市銀行なのかという問題も、先述のように、これら関係機関を含めたコンソーシアム型にすれば解決するのではないか。ただし、その場合にもサイバー攻撃への対応策やセキュリティの確保などの技術的な問題はあるだろう。

2. 財政問題
2.1 支給額

財源の問題とセットだが、一体いくら支給するのかが問題だ。一般的には毎月7-8万円相当といったレベルを基本にする議論が多い。1年間で100万円弱。1億人として100兆円。若くして結婚して、もしくはその前に子供ができて3年で300万円。プラス仕事すればなんとか生きていけるだろうか。しかし、妥当なレベル感を決めるのは、財源の問題だけではなく、それが適正かどうかと、過剰なインフレ誘導にならないかという観点でも検討が必要だろう。

2.2 インフレ懸念
Wikiによるとハイパーインフレーションの定義は、3年間で累積100%(年率約26%)だ。つまり、3年で物価が倍になるような事態だ。では、過去にこんな事態があったのかを調べたら、18世紀のフランス革命直後に起きていた。また、19世紀の南北戦争直後にも米国で起きていた。20世紀初頭の第一次世界大戦直後では、ドイツ帝国で1兆倍、ロシア帝国で600億倍という異常事態が起きた。これらのハイパーインフレの原因は、戦争の賠償金を払うための財政悪化であり、政府紙幣の信頼低下だ。逆に言えば、この異常事態で銀行が倒産したり、銀行券や政府紙幣が信用できないために、イギリスでは、中央銀行に紙幣発行権が集約された。ベーシックマネーの支給額を高めるとインフレ率が高まるが、ハイパーインフレが起きる可能性は極めて低いと考えるべきだろう。

2.3 福祉予算の削減?!
ベーシックインカム低所得者向けの福祉制度と考えて、それら福祉制度を見直すことで原資にするという考え方をする人がいるが、ベーシックインカムを導入しても格差の是正にはならない。単に所得が水平移動で増額するだけだ。同時に小さな政府とするために福祉制度をシンプルにする必要はあるかもしれないが、なくすことにはならないと思う。一概にはいえないが、現在の制度は若年層よりも高齢層に手厚いのではないか。

3. 個人情報の保護
3.1 匿名加工情報
(1) 個人情報保護法で個人情報は保護されるか?!

2017年5月に施行された改正個人情報保護法では、匿名加工情報の導入が盛り込まれた。匿名加工情報とは、特定の個人を識別できないように加工した個人情報のことだ。そして、その目的は、一定のルールの下で本人の同意を得ることなく第三者提供を可能とすることだ。つまり、特定加工情報として、個人情報に該当する内容は削除したので、マーケット分析などで自由にデータを使えるという仕組みだ。しかし、これははっきり言ってざる法だろう。なぜなら、データ量は指数関数的に増大し、その分析技術も進歩すると、直接的な氏名とか住所がなくても、個人を特定できるようになる。それが認知されれば、規制が強化されるのかもしれないが、リアルタイムではない。法整備される頃にはさらに技術は進歩していて、個人を特定できるようになる。そんなことを心配しているのは自分だけだろうか。
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 出典:匿名加工情報とは?作成時の基準・義務・事例をまとめて解説

(2) 情報格差の拡大懸念
現在は情報時代だ。情報を制するものが経済を制する。最近の日本経済が振るわないのも、他国に情報を制されているのではと危惧する。LINEは日本で始まったサービスだけど、その提供企業の親会社は韓国のIT企業だ。韓国にも個人情報保護法はあるが、日本よりもザルという。そもそも日本の哨戒機にレーザを放射して、ロックオンするような国を信用すべきではない。ロックオンをするということは、例えばロシアンルーレットではないが、拳銃の安全装置を外して、こみかみに当てるようなものだ。刑法で言えば殺人未遂ものではないか。また脇道に逸れたが、経済格差以上に懸念すべきは情報格差だ。しかし、全国民に仮想通貨を支給して、その利用状況をビッグデータとして蓄積して、それを自由に見れるとしたら、マーケット分析の制度は格段に上がるだろう。同時に悪用されないための仕組みの整備も喫緊の課題だ。

3.2 ビッグデータは誰のもの
(1) GAFAの脅威

GAFAとは、GoogleAmazonFacebookAppleの4社のことだ。この4社が情報を独占し、他社が市場参入できない状況を「GAFAの脅威」という。これに対応するために、官民データ活用推進基本法案が2016年に施行された。日本企業がGAFAの後塵を拝している状況を打破して、日本の自治体や企業がビッグデータを活用できるようにすることが目的だ。しかし、日本人の危機感のなさは喜劇的だ。日本独自のSNSをもっと育成しない限り、GAFAの独走を止めることは難しいのではないか。
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 出典:公取委:不透明GAFAに不信 「日本企業、巨大ITの下請け」 年明け調査 - 毎日新聞

(2) 133億円のボーナス
日産自動車の元会長の年収が10億円ではなくて20億円だった等々で問題となっている。しかし、米国のグーグルは、自動運転車のソフトを開発したソフトウェアエンジニアAnthony Lewandowskiに対して、1億2,000万ドル(133億円)のボーナスを与えたと言う。Googleは自動運転車が実用化すれば1兆ドルの稼ぎを得られると見越したという。ただ、よく調べると美談ではなく、Uberとの知財裁判のドロドロ劇が裏にあったようだ。いずれにせよ、日本ではあり得ないレベルの金額だ。
 出典:Google Paid $120 Million Bonus to Car Software Engineer | Cars News Online

(3) サイロ・エフェクト
脱線ついでに、バズワードをもう一つ紹介したい。最近、サイロという言葉を聞くことが多い。サイロとは、トウモロコシ畑などで穀物を格納する塔のことだ。日本語で言えば、大企業病として有名なセクショナリズムとか、細分化されて全体最適化ができない状態だ。ファイナンシャルタイムズ誌アメリカ版編集長のジリアン・テットの力作だ。年末年始に読むにはちょうど良いかも(笑)。
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まとめ
留意事項をまとめようとしたが、どうも脱線してしまう。ポイントは、コンソーシアム型のブロックチェーンを政府と日本銀行都市銀行が連携して構築・運用することが可能かどうか。現状は都市銀行であるMUFGの検討が先行しているが、中央銀行や政府も手を拱いているわけではないだろう。しかし、このようなコンソーシアム型が実現した時に、結果として集まるビッグデータを誰がどのように運用するのか。悪用されるリスクはないのか。サイバー攻撃を防げるのか。有効活用できるのか。課題は山積だ。しかし、ブログを書いている感じたのは、要は日本がキャッシュレス社会を本気で構築する気持ちがあるのかどうかがポイントのような気がした。中国や途上国は必死で進めている。高齢化の弊害が実はこんなところに出ているのか。サイロエフェクトではないが、個別最適化ではなく、全体最適化を目指すべきなのに、こういう青写真を描くことは日本人は苦手なのかもしれない。もしくは、総論賛成だけど、各論で反対するという構図で前に進まないのだろうか。大切なことは一歩前に踏み出すことだと思う。

以上