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新米技術士の成長ブログ

メディアの栄枯衰退:新聞の存在意義

1. はじめに
 日々全国を行脚しているので、新聞は購読していない。でも、コンビニや駅の売店で日本経済新聞を購入して読むことが多い。コメダコーヒーに入ると中日新聞やスポーツ新聞が用意されている。ガストに入ると読売新聞を無料で読める。ホテルに泊まると、やはり読売新聞は自由にピックアップできるところが多い。新聞の購読数や発行部数はどうなっているのだろうか?
 毎月第一日曜日は資源ごみの回収の日だけど、新聞を出すのをつい忘れてしまい、たまってしまう。今回は、頑張って新聞のゴミを一掃した。会社では紙の資料はほぼなくなったのに、日常生活ではまだ新聞に依存している。全国規模ではどれだけの資源とコストと工数を費やしているのだろう。
 新しい情報はネットの方が早い。突っ込んだ特集なら雑誌やテレビの方が面白い。では、新聞の役割は何だろうか?自分は網羅性だと思っている。見たい記事だけではなく、その横にある小さな記事を新鮮に読むことがある。気にもしなかった視点に気づかせてくれることもある。興味のない分野でも解説読むと気づきを得ることも多い。
 技術士の試験では書く力を求められる。よく新聞の記事のように誰が読んでもわかるのが良いと言われる。結論をまず書いて、理由を書いて、事例で広げて、また結論を書くようなPREP法は新聞記事ではよく活用されていて、大変参考になる。
 一方で、利用者が費やする時間はどんどんネットに移行しているように思う。また、そもそも貴重な森林資源を使って紙に印刷して、人が配るというのは未来的ではない。どこかで破綻するだろう。
 メーカーの不祥事は、新聞や雑誌、テレビでニュースになるが、メディア業界の不祥事をメディアが叩くことは少ない。やはり身内意識があるのだろうか。新聞業界に自浄能力はあるのだろうか?10年後、20年後に新聞業界が生き延びるにはどのような戦略が必要なのだろうか?そんな未来志向の視点から現実をレビューしてみたい。

2. 新聞の凋落
2.1 2017年前期における主要全国紙の発行部数
自分が購読する比率が高いのは、やはり日経新聞だ。自宅では、朝日新聞をとっている。ホテルでは読売新聞を目にすることが多い。そんな感覚だったので、読売新聞の部数がトップというのは(業界の常識だったのかもしれない)びっくりした。下の図では883万部だが、数年前までは1000万部超を誇るのは読売新聞だけだったというのにもう一度びっくりした。
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(出典:Garbage、参考1)

2.2 主要全国紙の年次部数推移
下のグラフは1968年から2015年までの推移だ。1968年時点では朝日新聞がトップで、1977年に読売新聞がトップになった。この時に、読売新聞は国内でトップだけでなく、世界でも当時のソ連プラウダを抜いてトップになったという。1995年頃からは読売新聞は1000万部、朝日新聞は800万部、毎日新聞は500万部、日経新聞は300万部という安定経営の時代が続いたが、ネットやスマホの利用が本格化した頃から新聞の凋落が始まったように見える。

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(出典:総合ランキングニュース、参考2)

2.3 新聞各社の経営経営状況
下の比較表は2015年10月時点のものだ。この資料によれば売上高のトップは朝日新聞で、ついで読売新聞、日経新聞毎日新聞産経新聞という順番だ。営業利益では、日経新聞がトップで、ついで朝日新聞だ。読売新聞は非公開だ。一方、従業員数で見ると、朝日新聞がトップで、日経新聞に2位で、毎日新聞が3位、そして読売新聞が4位だ。読売新聞の非公開情報が多いのは何故なのだろう。各社の決算書を精査すると面白そうだ。読売新聞は経営内容よりも発行部数にこだわっているように見える。
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(出典:The Capital Tribune、参考3)

2.4 全国紙の部数の減少傾向
同じはてなのブログでマスメディア関連のウェブサイト巡回をされているedgefirstさんの図を下に引用した。2014年4月と2011年4月の部数を比べると、日経新聞が8%ほど減少していているが、読売新聞、朝日新聞毎日新聞は4%程度の減少にとどまっている。そして、産経新聞は増加している。なぜだろう。
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(出典:edgefirst、参考4)

3. メディアの状況
3.1 メディアの接触時間
下の図は、博報堂DYメディアパートナーズがメディア定点調査2016でメディアの接触時間について2006年と2016年で比較したものだ。もっとも多いテレビは171分から153分と10.5%減少している。新聞は32.2分から20.4分(構成比5.2%)へと36.6%減少している。逆に、ネット利用(パソコン+タブレット+携帯・スマートフォン)は87.2分から176.6分(構成比45%)へと約2倍に増加している。f:id:hiroshi-kizaki:20171204210921p:plain
(出典:博報堂DYメディアパートナーズ、参考5)

3.2 諸外国でのメディア別の広告費
下の図は、Warc dataに掲載されているメディアの広告費(2010年)の18ケ国の比較を筆者が少し編集したものだ。新聞広告がもっとも多かったのがアイルランドでなんと47%で日本は16%だった。テレビ広告がもっとも多いのはブラジルでなんと68%で日本は43%だった。ネット利用がもっとも多かったは英国の29%で、日本は16%だった。日本の構成比は、米国の構成比に近いが、Outdoorの比率が高いのと、広告のネットへのシフトが米国に比べると遅れているようだ。

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(出典:Warc data、参考6)

3.3 日本でのメディアの接触時間の推移
下の図は博報堂DYが調査したメディア接触時間の2006年から2017年までの推移だ。テレビやラジオ、新聞などの旧メディアの接触時間の構成比が減少する一方で、ネット関連の接触時間が確実に増加し、2017年には30%を超えている。新聞の比率は2015年以降は5%台に過ぎない。しかし、この変化はまだ変化の途中と見るべきだろう。先行する欧米の動向を考慮すると、10年後にはネット広告の比率は60%は超えているのだろう。ネット以外が70%から40%に減少すると仮定するとその時の新聞は現在の57%相当、つまり構成比で3%を切っていることになる。新聞各社の経営体制が今後10年現状通り継続するとは思えない。

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(出典:博報堂DYメディアパートナーズ、参考7)

3.4 一人当たりの発行部数
下の図は、一人1日当たりの新聞の発行部数を諸外国と比較したものだ。これもmisukiruさんのブログからの引用だ。注目すべきは日本の多さで二位の韓国の2.7倍だ。日本人が新聞大好きなのはわかるが、先に見たようにメディアの接触時間では5%台にまで減少しているのに、これほど発行部数が多いのはなぜなんだろう。注意すべきは発行部数と購読部数は異なるという点だ。f:id:hiroshi-kizaki:20171204214104p:plain(出典:misukiruさんのブログ、参考8)

3.5 新聞業界の売上高の推移
日本新聞協会のホームページには、2004年度から2016年度までの新聞社数、総売上高の数字が掲載されていた。下の図はこれをグラフ化したものだ。社数は2004年度の96社から2016年度の92社まで4社しか減少していないので、グラフからは割愛した。地方紙などが多いのだと思うが、今後淘汰を強いられるのではないか。総売上高で見ると、2016年度の17,675億円は2004年の23,797億円に比べて25.7%の減少だ。同期間の減少率を内訳で見ると、販売収入が18.8%の減少広告収入が49.7%の減少その他が0.2%の減少だ。つまり、広告メディアとしての期待値はすでに半減していて、販売収入とその他収入で凌いでいる状況だ。特に、その他の収入は新聞社の規模が大きいほど比率が高く、かつ安定している。新聞社は不動産業で稼いでいるといわれる所以だろう。

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(出典:日本新聞協会からのデータに基づいて筆者がグラフ化、参考9)

4. 新聞業界の課題
4.1 押し紙
新聞業界では、新聞を発行する新聞会社と、それを販売する販売店は別経営だ。新聞会社が販売店に販売する部数が発行部数だ。そして、販売店が利用者に販売するのが購読部数だ。日本では、発行部数は購買部数よりも多い。その差異を業界では押し紙と呼んでいる。問題はこの押し紙の比率だ。数%であれば大きな問題ではないが、仮に数割だと大問題だろう。押し紙をすると、新聞会社はハッピーだし、販売会社も販売奨励金を貰うので損はしない。被害者は広告元だ。1万人が購読するという前提で広告費を払っているのに、実際には例えば下の図(例)のように7千部しか購読されていないとしたら広告元が不利益を被っていることになる。

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(出典:Bargage、参考10)

4.2 第三種郵便制度の認可レベルは押し紙が2割未満
新聞は第三種郵便物制度に認定されているので、50gまでの刊行物は62円で郵送できる。しかし、その条件の一つに発行部数に占める発売部数の割合が8割以上であることと定められている。したがって、押し紙の比率が2割を超えていると、第三種郵便制度の認定基準を満たせないことになる。この認定基準を遵守しているかどうかは誰かがチェックしているのだろうか。

4.3 新聞の購買部数の統計情報がない
新聞社が販売店に販売する発行部数の統計情報は日本新聞協会のホームページで数字を確認できる。しかし、販売店が読者に販売した購買部数の統計資料がない。なぜなのだろうか?発行部数と購買部数の乖離が分かれば、押し紙の実態も見える化するので、自然に自己抑制力が図られる。しかし、購買部数が公開されていないと、押し紙の実態がわからない。2016年4月の記事だが、「朝日新聞社側は昨年末、押し紙1部当たり1500円という制度に変えた(参考11)」という。ネットでは押し紙の比率が相当に高くなっていると警鐘が鳴らされている。押し紙の実態を明確にして、適正化を図らないと、現状のビジネスモデルは早晩見直しを強いられるのではないだろうか。

5. 関連事項
5.1 テレビ各社と新聞各社の関係
新聞各社は名門企業だ。また、テレビ各社の親会社でもある。日本の報道を担う重要が業界だ。これからも日本の「良心」として公平・公正な報道を進めて欲しいと思う。

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(出典:報道ニュース、参考12)

5.2 政権の支持率調査
下の図は、報道系のベンチャー会社であるJX通信社が2017年6月17日-18日に東京都内の各新聞の読者に安倍政権の支持率を調査したものだ。新聞各社の調査結果ではないが、読者によってこれほどの差異が生じるのはなぜなんだろう。なお、JX通信社は2008年に設立した会社であり、自社内には記者をおかず、ビッグデータからの情報収集に特化した仮想通信社だ。

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(出典:JX通信社、参考13)

5.3 新聞用紙の年間一人当たりの使用量
下の図は、新聞用紙の需要について欧米中日を比較したものだ。特に、右の図を見ると米国の消費量が急激に減少している一方で、日本の消費量の減少傾向が緩やかだ。左の図は、年間一人当たりの使用量について2000年と2012年で比較したものだ。2000年時点では日本の使用量は米国よりも少なかったが、2012年では日本は米国やEUの倍近い量を使用している。日本においても電子版は提供されているが、環境保護の観点からもっと加速すべきではないのだろうか。

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(出典:スマートエネルギー情報局、参考14)

5.4 世界の主な原生林の破壊状況
下の図は国連資料をもとにネットワーク地球村が世界の原生林の推移について警鐘を鳴らした予測図だ。今後、世界の原生林が残るのかどうかを決めるのは我々人類だ。新聞用紙は再利用が進んでいて、古紙利用率は60%を超え、目標の65%に近づいている。しかし、それでも35%は無駄になるということだ。再利用の為のエネルギーや水も必要だ。電子新聞をネットで展開しても、エネルギーは消費するが、木材を加工して、製紙して、印刷し、配布して、回収して、再利用することに比べるとやはり合理的だし、環境に優しいのではないだろうか。

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(出典:ネットワーク地球村、参考15)

5.5 古紙リサイクルの全体図(2001年当時、単位は千トン)
下の図は古紙のリサイクルの流れや消費量を明記したものだ。多くの関係者が頑張っているのを理解できる。最近の状況と比較したいが、適当な資料を調査中だ。
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(出典:古紙ネット、参考16)

6. まとめ
資源ごみの日に新聞を出す時に新聞のことが気になって少し調べてみた。利用者の接触時間が確実にネットに移行しているのは実感と合致する。新聞の発行部数は減少しているが、予想ほどの減少ではなかった。押し紙」など不透明な部分もある。
新聞各社の損益分岐点はどこなのだろうか。新聞会社の財務情報を見る限り、不動産収入などが堅調な一方で、人件費の高止まりも散見される。銀行各社が経営の危機に瀕して大合併したように、新聞各社も淘汰される日が来るのだろうか。それとも、経営の合理化や多角化で生き延びることが可能なのだろうか。何れにしても、紙媒体への印刷とそれを配達すると言う構図は環境保護の観点からも見直すべき時期に来ていると思う。しかし、経営主体が新聞社と販売店で異なるため、今後は販売店の経営戦略が問われる時代なのかもしれない。新聞配達をして苦労して大学を卒業するような苦学生がいる一方で、あれは奨学金という名前の金貸しだという批判もある。
新聞購読者には熱烈な新聞ファンもいる。特に高齢者はライフスタイルを変えることを苦痛に感じるだろう。欧米ではネットへのシフトが加速している。スマホではなく、タブレットや大画面PCや大画面液晶デバイスの利用が日本でも高まれば、新聞を取り巻く環境も変わるかもしれない。しかし、電子デバイスを長時間視聴することは視力低下だけでなく、体内時計を狂わしたりする健康上のリスクもある。最近ではスマホ老眼も話題になっている。簡単に答えが出る問題ではない。次回は、広告代理店にスポットを当てて、最近のネット広告の動向についてまとめてみたい。

以上

参考 1:http://www.garbagenews.net/archives/2141038.html 
参考 2:http://sougoudata.net/article/新聞(全国紙)の年別の部数推移をグラフ化して/
参考 3:https://matome.naver.jp/odai/2144567626778288801/2144567818179631503 
参考 4:http://edgefirst.hateblo.jp/entry/2014/05/26/084246
参考 5:https://www.slideshare.net/apijp/nhk-linked-data-api
参考 6:http://mirai-fudousan.jp/report/internet-advertising.html
参考 7:http://mekanken.com/cms/wp-content/uploads/2017/06/HDYmpnews20170620-1.pdf
参考 8:https://matome.naver.jp/odai/2144567626778288801/2144567818179632303 
参考 9:http://www.pressnet.or.jp/data/finance/finance01.php
参考10:http://www.garbagenews.net/archives/1363518.html
参考11:http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48396?page=4
参考12:https://news.yahoo.co.jp/byline/yoneshigekatsuhiro/20170620-00072316/
参考13:http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40927?page=4 
参考14:http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40927?page=4
参考15:http://www.chikyumura.org/environmental/earth_problem/assets_c/2011/
参考16:http://koshi-net.world.coocan.jp/other/kamitokosi/kamitokosi.htm