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電動アシスト自転車の課題と将来への提言(1/2)

1. はじめに
電動アシスト自転車は便利だ。名古屋に単身赴任した時に1年前の新型を格安で購入した。最新型ではなかったけど、超便利だ。加齢とともに脚力が低下し、特に登り坂が続くと自転車に乗りたくなくなるが、電動アシストなら楽々だ。おかげで名古屋市内のいろんな道を愛車で走行した。今回は、そんな大好きな電動アシストにスポットを当てて、日本や諸外国の動向や現状の課題、課題解決のための提言、さらには将来への夢のような妄想イメージをまとめてみた。長くなったので、1章から4章を本編(1/2)で、5章から7章は次編(2/2)にした。
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2. 日本における自転車と電動アシスト自転車
2.1 電動アシスト自転車の普及状況
(1) 動力付き二輪車vs電動アシスト自転車

下の図は、動力付き二輪車の年間販売台数の推移だ。新車軽二輪は250cc以下の車検なしの集計で、この新車軽二輪と原付(1種+2種)の合計が1996年には110万台超だったものが、2014年には40万台弱まで激減している。これと対称的に増加しているのが電動アシスト自転車だ。1996年には10万台弱だったものが、2014年には50万台に迫る勢いだ。日本では電動アシストが確実に定着したと言える。
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(出典:日本二輪事情、参考1)

(2) 自転車vs電動アシスト自転車
一般自転車の出荷台数は、2001(平成13)年度には653万台だったが、2009(平成21)年度には426万台まで減少している。一方、電動アシスト自転車は2001年度に19万台だったが、2009年度には36万台まで増加している。規模は10分の1だが着実にシェアを高めている。いわゆるキャズムの谷はシェア16%が分水嶺と言われているので、電動アシスト自転車も今後は本格的な普及のフェーズに入るのではないだろうか。
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(出典:湘南茅ヶ崎lab、参考2)

2.2 電動アシスト自転車の高性能化
(1) 高価格タイプにシフト

電動アシスト自転車の価格のシフトだ。いずれも出典はドイツのマーケティング会社GfK Japanによる調査だ。下の図(左)によると、2013年1-6月期では8万円超が2015年には9.5万円前後まで増加している。これは、下の図(右)によると10万円以上の高価格タイプが増加しているためだ。
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(出典:GfK Japan、参考3)

(2) バッテリー容量の高性能化
下の図(左)では、2010年1Qでは3-4Ahが主流だったが、2011年4Qには8Ah以上が主流となっている。さらに、下の図(右)では、2015年には8-12Ahが主流だったのが、2017年度には12-16Ahが主流となっている。このように、7年で4倍に急増している。このバッテリーの容量増はどこまで進むのだろう。すでに20Ahもリリースされているので、少なくともこのレベルまでは進みそうだ。
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(出典:家電ウオッチ、参考4)

(3) 自転車の距離別トリップ頻度
下の図は、自転車の距離別のトリップ頻度だ。1998年(平成10年)の東京都市圏交通計画協議会からの引用だ。1日の一台あたりの走行距離で見ると1km程度が最も多く、5km以内のトリップが全体の約95%をしめている。電動アシスト自転車と一般の自転車の比較は調査中だが、電動アシストになるとこのトリップの距離が拡大すると期待される。
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(出典:自転車の安全利用促進委員会、参考5)

3. 諸外国における自転車と電動アシスト自転車
3.1 自転車の位置づけ
(1) 主要国の自転車道の整備状況

下の図も同じく、自転車の安全利用促進委員会からの資料の引用で、その元は国土交通省資料だ。日本の自転車道の距離は、自転車道、自転車専用道路、自転車歩行者道自転車通用帯等の合計だ。総道路延長に対する割合で見ると、自転車先進国のオランダの8.6%に対して、日本は0.6%と14分の1以下と非常に出遅れている。人口千人あたりの延長(m/千人)でも、オランダの900(m/千人)に対して日本は57(m/千人)と15分の1以下だ。日本は、2012年に安全で快適な自転車利用環境創出ガイドラインを作成し、2017年5月に自転車活用推進法を制定した。今後は、その着実な実行とさらなる整備が求められる。
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(出典:自転車の安全利用促進委員会、参考5)

(2) 自転車活用推進法
自転車活用推進法の基本方針では、下の図に示すように14の事項を定めている。また、5月5日を自転車の日、5月を自転車月間と定めているが、(少なくとも自分は)初めて聞いた(涙)。それよりも、当時自民党の幹事長だった谷垣禎一さんが2016年6月に愛車のロードバイクで転倒して、頸髄(けいずい)損傷の重傷を負った事故の方が記憶にある。「かわいそうだなあ」と率直に同情したけど、谷垣派にとっては、寝耳に水の大惨事だ。2017年8月の入閣人事では、谷垣派から入閣者はゼロだった。転んでもただでは起きないという姿勢を見せて欲しい。例えば、ロードバイクにはもう乗らないにしても、より身体への負担の少ない電動アシスト自転車とか、電動車椅子とかを愛車にして復帰をアピールしてはどうだろうか。
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(出典:自転車活用推進法、参考6)

3.2 共用バスレーンと列車への乗り入れ
下の図(左)は、バスレーンと自転車レーンを共有している例だ。日本でも三軒茶屋から駒沢までの2kmほどのバスレーンを自転車レーンと共有させる取り組みが2014年から始まっている。また、パリではバスと自転車の共用を1996年に始め、2012年現在、自転車レーン600kmの7割がバスとの共用だ。バスを優先にすると普通自動車が走行できないため道路の利用率が低くなるが、それを自転車レーンと共有させることで有効活用できる。同時に、バスの優先運転が本当に確保できるのか、自転車と自動車やバスとの接触事故などが増えないかなどを検証する必要があるだろう。下の図(右)は自転車と列車とのコラボだ。Wikiの日本語には記載はないが、Wikiの英語版を見ると説明がある。例えば、欧州会議は2007年1月にすべての国際列車は自転車を運べるようにするという決定をした。昨年の7-8月に欧州を旅行した時も、ヘルシンキの駅のホームを自転車で走行し、そのまま列車に積み込んでいるのを見てショックを受けたのを思い出す。フランスでは、有名なTGV高速列車のファーストクラスの一部が自転車の格納用に転用されているという。日本の新幹線も乗車率の少ないグリーン車は一部を改造して、自転車も格納するようなことをすると外人客へのアピールにもなるのではないだろうか。
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(出典:Wiki、参考7)

3.3 自転車のシェアリング
下の図も同じく英語版のWikiからの引用だ。エストニアでも、ラトヴィアでも、リトアニアでも、フィンランドでも、自転車のシェアリングサービスは充実していた。ただ、面白いのは、それぞれ別会社が運営していることだ。つまり、特定の地域や都市や国の陣取りゲーム的な特徴がある。早い者勝ちの商売とも言える。先に初めて、先に一定のシェアを獲得すると、トップシェアの事業者にチャレンジする事業者は少ないためだろう。欧州内でシェアリングされている自転車は一般の自転車が多く、高価な電動アシストタイプは少ない。日本は逆に規模は小さいが、品揃えの中に一般の自転車と電動アシスト自転車を取り揃えるところが多いようだ。DoCoMoが提供する電動アシスト自転車のシェアリングサービスは、2016年9月時点で5区180か所で自由に乗り捨て可能なようだ。
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(出典:Wiki、参考7)

3.4 各国の規制
電動アシスト自転車を英語でなんというのだろう。日本で商品名となっているPASはPower Asisted Cycleの略だ。欧州ではElectrically Assisted Pedal Cycle(EAPC)でも通じる。しかし、ズバリ通じるのはPedalとElectricの造語の「Pedelec」だろう。日本では速度に応じてアシスト比率がきめ細かく規定されているが、諸外国ではモータの出力規制とアシストする最高速度の2つで規制している。例えば、EUやインド、オーストラリアなどの国は250W以下のモータと25km/h以下の速度でのアシストと制限している。シンガポールでは200W以下の25km/h以下としている。中国では、電動アシスト自転車に関する規定がなく、電動自転車を含め、最高時速を20km/hなら自転車扱いだ。日本では、10km/h以下では人力と電力補助の比率は最大1対2とし、10km/hから24km/hまで徐々に比率が下がり、24km/hで補助はなくなり、かつ最大出力は規定されていない。

3.5 より高速な走行の可能性
下の表は、米国の国立交通研究所(NITC)のレポートからの引用だ。米国なのでkm/hではなく、mphが単位として使われている。20mphは約32km/hだ。日本の規制に比べて米国やカナダはより高速な走行が可能だ。これは、電動アシスト自転車の走行速度が25km/hではなく、45km/hなら自動車の走行と協調できるという判断だという。つまり、25km/hなら追い越すために車線変更したり、接触を避けるリスクがあるが、45km/hなら無理な追い越しはしなくなるだろう。また、45km/hなら10km圏内の通勤可能と期待されるという。
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(出典:NITC、参考8)

3.6 カーゴバイクの有用性
下の図はサイクルロードからの引用だ。日本ではいわゆるママチャリが多数派だが、このママチャリは海外ではあまり見かけない。海外では、荷物を運ぶ時には、カーゴタイプが便利だ。前が二輪になっていて、荷物を低い位置に装着するので低重心となるのでバランスが良い。日本でも宅配便を電動アシストで牽引するのを見かけることがある。カンナでも、のこぎりでもそうだったが、日本人はなぜか引いて使うが、欧米人は押して使う。カーゴバイクもどちらかというと押すタイプなので日本人の感性には合わないのだろうか。
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(出典:サイクルロード、参考9)


4. 安心・安全のための課題
4.1 交通事故の推移

下のグラフは、1955(昭和30)年から2004(平成16)年までの日本の交通事故や交通事故に伴う死者数の推移を示したものだ。特に1970(昭和45)年をピークにする交通事故の多発を第一次交通戦争、1992(平成4)年をピークとする交通事故を第二次交通戦争という。これは、日清戦争での日本側の戦死者数(2年間で1万7282人)を上回る勢いなので、戦争状態ではないかという危惧からつけられた。2004年時点では、交通事故による死者数も7,358人まで減少した。しかし、車両保有台数の増加に伴って負傷者数は増加傾向で同じく2004年では118万人を超えている。
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(出典:警察庁資料、参考10)

4.2 自転車事故の増加傾向
(1) 自転車対歩行者事故件数が増大傾向
下の図は、2000年と2010年の比較だ。全交通事故件数では2割減少しているが、自転車対歩行者事故件数は1.5倍に増加している。
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(出典:自転車の安全利用促進委員会、参考5)

(2) 自転車単独死亡事故件数が増大傾向
下の図は、2006(平成18)年から2016(平成28)年までの自転車死亡事故件数と自転車単独死亡事故件数の傾向だ。全体的な自転車の死亡事故件数は825件から509件まで減少している。しかし、その中の単独死亡事故件数は51件から122件に倍以上増加し、その構成比も24%まで高まっている。単独死亡事故とは、転倒事故や工作物衝突事故などだ。つまり、自転車が放置していた車両に追突するケース、山間部で道路から外れて転落するケース、自転車が電柱にぶつかったケース、街路樹に衝突したケースなどがある。例えば、自転車に乗っていた人が電柱に接触して、道路中央方向に転倒して、後方から来た軽トラックにひかれるような事故がある。
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(出典:ランキング日記、参考11)

(3) 交通事故の国際比較
下の図(左)は、自動車1億台kmあたりの事故件数で国際比較するとなんと日本は南アフリカに次いでワースト6位だ。一方、下の図(右)は、人口10万人当たりの交通事故死亡者数だで、国際比較するとドイツに次いで34位だ。つまり、一人当たりの交通事故死亡率は他の先進国並みに少ないが、道路の距離換算では途上国並みに高いということだ。
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(出典:総務省統計局、参考12)

(4) 交通事故死者数の構成比の国際比較
下のグラフは、主な欧米諸国の状態別交通事故死者数の構成率で、2014年時点のものだ。日本は、他の欧米諸国に比べて歩行中の構成比が36%と多いのと自転車利用中が15%と高いのが特徴だ。そして、逆に乗用車乗車中の構成比が21%と少ない。
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(出典:内閣府、参考13)

(5) 出会い頭衝突が多い
下の表は、2005(平成17)年から2015(平成27)年までの警察庁の集計資料で自転車の事故類型別交通事故件数の推移だ。車両相互の事故は17.5万件から9.4万件まで54%まで減少している。そして、そのうち最も多いのが出会い頭の衝突事故で、9.7万件から5.1万件に減少しているが、車両相互の事故の約54%をしめている状況は変わらない。高齢者の交通事故においても出会い頭は53%だったので、ほぼ同様だ。その理由の一つは思い込みだという。つまり、いつも通っていて、車が通らないので、今回も大丈夫だろうとタカをくくっていると、車が飛び出してきて、出会い頭の事故になることが多いという。
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(出典:警察庁、参考14)

長くなったので、ここまで。後半は次に続けたい。
hiroshi-kizaki.hatenablog.com

(後半)
5. 安心・安全のための提言
 5.1 自転車の位置づけの見直しと規制緩和
 5.2 インフラ整備
 5.3 モビリティの技術革新
6. 将来のモビリティへの期待
 6.1 もっと自由なモビリティ
 6.2 ひとり乗り用のモビリティ
7. 終わりに

以上

参考1:http://replica2st.la.coocan.jp/etc/japanbike2015.htm
参考2:https://chigalabo.com/2016/03/31/child-4/
参考3:https://www.atpress.ne.jp/news/67011
参考4:https://kaden.watch.impress.co.jp
参考5:http://jitensha-anzen.com/problem/problem01.html
参考6:http://www.mlit.go.jp/road/bicycleuse/pdf/about.pdf
参考7:https://en.wikipedia.org/wiki/Cycling_infrastructure
参考8:http://ebike.research.pdx.edu/sites/default/files/NITC-RR-564_Regulations_of_E-Bikes_in_North_America_2.pdf
参考9:http://blog.cycleroad.com/archives/52103579.html
参考10:https://www.npa.go.jp/hakusyo/h17/hakusho/h17/html/G1010000.html
参考11:http://s.webry.info/sp/otenbanyago.at.webry.info/201705/article_2.html
参考12:https://blogs.yahoo.co.jp/kakuden2001/63183480.html
参考13:http://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/h28kou_haku/gaiyo/features/img/feature08.gif
参考14:http://ono-fumimachigai.com/daily/1067/