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少子化問題:働く一人親世帯に厳しい日本社会

はじめに
待機児童が問題になり、子育て支援も検討されている。しかし、国の政策は民意とのズレがあるという指摘もある。専門外の問題であるため、勘違いの部分があれば指摘してほしい。調べれば調べるほど知らなことが出てきた。こう言う複雑な福祉の問題をAIに解かせたらびっくりするような面白い解決策を示してくれるのだろうか。

待機児童問題とは?
出生率が低下しているのに、テレビでは待機児童問題がなくならないと報道されている。会社の同僚も家を買うときには保育所に入れるかどうかが重要な判断要素だという。香港に赴任していたときには、ベビーシッター(現地では「アマさん」と呼ぶ)が子供の送り迎えや炊事・洗濯をして、母親は働くのが当たり前の世界だった。沖縄に赴任したときには、ウチナンチュ(沖縄のひと)は20歳で子供を産むのが当たり前だけど、仕事は辞めずに母親の母親(=おばあさん)が育児を担当する。そして、子供に子供(つまり、孫)ができたら、仕事を辞めて子育てする。だから40歳で孫、60歳でひ孫という家族も多い。そんなことを思い出しながら、待機児童問題がなぜ起きるのか、代替案はないのか、海外に比べて日本社会は特殊なのか、今後どうすればいいのかといったことについて、考えてみたい。

待機児童の実態
最新ではないが、2015年に発表された厚生労働省のプレスを見ると、保育所の定員の方が利用児童よりも多くなっている。マクロ的には定員の問題はないと言えるのだろうか。しかし、定員と利用者を比較することがそもそも間違っているのではないか。待機している人以外にも利用を希望している人(隠れ待機児童)もいるだろう。定員と希望者数で比較すべきではないかと思う。希望者数とサービス品質(希望が叶う率)を決めれば必要数(定員)はトラヒック理論のアーランB式で求まる。100%希望を叶えることはできないが、それを90%とするのか、99%とするのか、99.9%とするのかを決めるのが政策ではないだろうか。f:id:hiroshi-kizaki:20171123195818p:plain
(出典:厚生労働省、参考01)

 保育所の募集枠と入れない子
これまた2014年2月と古い情報だが、世田谷区で60%、杉並区で56%、目黒区で53%、台東区で48%、港区で46%、足立区で44%、江東区で42%の子供が認可保育所に申し込んだが入れなかったという。現在は、もっと減っているのだろうか。

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(出典:東京新聞、参考02)

保育士が保育士にならない理由
希望する児童が保育所に入れない理由が保育所の不足なのか、保育士の不足なのかは不明だが、保育士に就業できる有資格者が保育士としての就業を希望しない理由がプレジデントオンラインで掲載されていった。その最大の理由は賃金が希望と合わない。要は賃金が低い割に責任が重いし、事故があると大変だし、割が合わないということなのかもしれない。
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(出典:President Online、参考03)

出生率保育所の利用児童数の推移
出生率は、1980年代の1.5から2010年代には1.0を切るまでに低下した。しかし、下の図を見ると保育所の利用児童数は1995年ごろから増加している。保育所の定員も増加しているが、利用数が定員よりも少ないのは当然だろう。このグラフには是非利用希望の児童数や希望したけど利用できない児童数をプロットしたい。希望するけど入れない児童がやはり増大しているのだと思うけど、なぜそのようなグラフが見つからないのだろう。政府や市区町村の検討資料をもう少し調べてみたい 
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(出典:朝日新聞デジタル、参考04)

ベビーシッターは代案になり得るのか
希望する保育園に児童を入れらない場合に、ベビーシッターが自宅で児童を見てくれて職場復帰できるとしたら希望しますか?という質問に対する回答が次のグラフだ。全体の約75%は希望するという回答だった。しかし、その場合にもどの程度の料金になるかが問題だろうし、ベビーシッターを自宅に招くことに抵抗を感じる家庭も多いだろう。
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(出典:KIDS LINE、参考05)

幼稚園の在園者数と保育所の利用児童の推移
出生率の低下に合わせて幼稚園の在園者数は減少している。幼稚園は入園者数の減少が経営課題となっているのかもしれない。一方、保育所の利用児童は右肩上がりで増加している。この差の原因はなんだろうか。保育園も0−2歳児と3-5歳児で分けてその傾向を理解すべきだけど、そのような統計はどこにあるのだろう。
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(出典:WinF、参考06)

正規社員とパート等での就業率の推移
内閣府の「仕事と生活の調和レポート(2011)」によると、第1子出産後の正規社員の就業率は着実に増加している。特に育児休暇制度を活用して比率が高まっている。一方、派遣社員やパート等ではそもそも育児休暇制度を受けられるケースが少ないためだろう。パート等で育児休暇制度を利用する比率は4%と正規社員の10分の1程度だ。パート等で就業している人の大多数は育休なしだ。特にパート等の派遣社員は、子供を産みたくてもそれを支援する制度が不足していると言えるのではないか。

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(出典:内閣府、参考07)

増大する非正規雇用社員比率
2014年までの統計資料だが、着実に非正規雇用労働者の比率が増大している。2016年の非正規雇用労働者の割合を調べると既に40%を超えていた。企業の内部留保の増加傾向と非正規社員労働比率の相関が高いという調査結果がある。非正規雇用労働者の比率が高まることは、労働者市場全体として、収入の低下や育児休暇を取得できない人の比率が増大することになっているのではないか。
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(出典:総務省の統計情報をもとにnippon.comが作成、参考08)

企業の規模別の育児休業規定の有無
下の図は、非正規社員の有期契約労働者を対象に、企業規模別に育児休業規定があるかどうかを調査したものだ。 従業員が301人以上の場合には8割が育児休業規定があるが、100人以下だと52.5%まで低下する。全体でも7割弱だ。非正規社員に対する育児休職の制度はまだまだ不足している。

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(出典:内閣府、参考07)

育児休業制度の所得期間
下のグラフは、出産後にも育児休業制度があった場合に、どの程度の期間育児休暇を取得したかを調査したものだ。もっとも多いのは、9ケ月から12ケ月のケースと、12ケ月から15ケ月がもっとも多く、この両方の合計で約4割を占めている。しかし、9ヶ月未満のケースが同じく約4割を占めている。育児休暇を2年間も取得できるような企業はまだまだ少ないのだろう。1年6ケ月以上の比率をもっと高めることと、その時の生活保障を充実させることが課題ではないだろうか。

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(出典:育児ログ、参考09)

派遣社員の実態の男女比較
下の表は、「働く女性の全国大会」の資料からの抜粋だ。年収的には100〜299万円が多い。職業欄で見ると、女性は事務従事者、男性が製造・建設作業者が過半だ。雇用全体に占める派遣社員の比率は2.4%程度だ。パート社員や嘱託も増加していて、雇用形態別の労働者数調査によると、有期雇用労働者の比率は1986年の16.6%から2017年の37.3%に増加している。以前、派遣社員として勤務してもらった人も大学院を卒業して、博士課程前期まで行った人だった。優秀だったけど、もったいないと感じる。
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(出典:スライドシェア、参考10)

育児休業制度の国際比較
下のグラフは、イクメンの状況を国際比較したものだ。日本のデータは内閣府の「少子化社会に関する国際意識調査(2011年)」だ。これによると、スウェーデンでは男女ともに75%程度が育児休業制度を活用している。これに対して、日本の女性では17%だが日本の男性は韓国よりも低い4.8%と悲惨な状況だ。取引先の主任さんが育児休業を取得されたことを聞いて驚いたことを覚えている。普通になるのだろうか。

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(出典:President Online、参考11)

父親と母親の育児の関与度の国際比較
下のグラフはOECDの調査結果と、総務省の「社会生活基本調査(平成13年)」に基づいている。他国と比較して母親の育児時間や家事時間は他の欧米諸国と大きな差はない。しかし、日本の父親の育児への関与度は他国と比較して短い結果となっている。

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(出典:福島県、参考12)

家族関係社会支出の対GDP比の国際比較(2003年)
下の図は内閣府による国際比較だ。福祉先進国のスウェーデンではGDPの約3.5%を家族関係の社会支出に費やされている。これに対して日本は0.75%スウェーデンの5分の1強だ。米国は日本よりさらに低い0.7%というのも驚きだ。2016年時点の軍事費のGDP比は、米国で3.29%、フランスで2.27%、ドイツで1.19%、日本で0.99%だ。米国は論外だが、フランスやドイツは軍事費よりも家族関係社会費用に多くの予算を投じている。平和国家を目指すなら、日本でもGDP比1%程度の予算を家族関係社会支出に予算配分すべきではないのだろうか。少子化が社会問題と指摘されているが、国家予算の配分を見ると正直ショックだ。
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(出典:内閣府、参考13)

女子の就業率と特殊出生率との関係
下の図は、内閣府が発行する男女共同参画会議での調査資料で、OECD加盟24カ国における性労働力率と合計特殊出生率の相関関係が見て取れる。この図では、女性が働いても出生率は下がらないとコメントが記されているが、相関関係の高いゾーンと、あまり高くないゾーンがあるように思う。イタリアからアイスランドにかけては前者だが、日本からスイスは後者のように思える。出生率を上げるには、女子の就業率を上げることよりも、安心して結婚して、出産して、育児休業を取得できるような環境を作ることが重要なのではないだろうか。
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(出典:内閣府、参考14)

日本の一人親家庭貧困率
下の図は、OECDによる調査結果だ。ともに一人親家庭だが、その親が働いているケース(左)の日本の貧困率が57.9%で2位だ。トルコの次に高い貧困率だ。一方、その親が働いていないケース(右)の日本の貧困率は52.1%で7位だ。OECD平均よりも少し低い。働いていないケースより働いているケースの方が貧困率が高いということはどういうことなのだろう。家庭が裕福で働く必要のないようなケースが右には含まれているのだろうか。働くほど貧困というのは社会保障が生んだ矛盾と言えるだろう。なお、アメリカは働かないケースでは94%の貧困率だ。アメリカは働いても40%が貧困だ。現在のアメリカの影の部分を表している。

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(出典:OECD、参考15)

祖母による子育ての手助け
沖縄では、祖母が子育てするが、そこまでいかなくても、祖母による手助けの状況を探すと、下の調査結果があった。ともに青線は妻方の母親で年を追って増加している。一方、夫側の母親はほとんど増減がない(左)。さらに、妻が就業するケース(右)では逆に減少している。妻が仕事をしだすと、夫側の母親は手助けがしにくくなるのだろうか。微妙な家族問題が透けて見えそうだ。
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(出典:ガベージニュース、参考16)
婚外子率と出生率の相関
長くなったので、これで最後にする。下の左の図は文字が小さくて恐縮だが、婚外子率と出生率には高い相関関係があることが指摘されている。左下に日本があり、右上にはスウェーデンやフランスがある。婚外子の是非論は別にして、少子化対策としては効果があるという調査結果だ。しかも、驚くべきはスウェーデン婚外子比率が56%と高いことだ。一方の日本はわずか2%だ。北欧では社会福祉制度が充実しているため、婚外子でも子供を産んで育てることができるのだろう。北欧ではベーシックインカムの議論も進んでいるが、日本ではトライアルすら5年以内に実現するのは難しいだろう。

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(出典:少子化と社会環境、参考17)

まとめ
待機児童問題は、保育士が不足しているといった問題ではなく、国の保障制度や国家予算の配分の問題と理解すべきではないのだろうか。日本において出生率が低下するのは、多くの女性が母親になることを希望していないのではなく、経済的な問題や就業上の問題でとても子供産んで育てる経済的余裕がないという悲しい社会構造にあるようだ。また、日本では父親が育児休暇を取ることには抵抗があったり、派遣社員にはそもそも育児休暇制度が不十分であったり、婚外子を倫理的に許容しないなどの条件が揃っているように思われる。軍事費よりも家族関係に国家予算を回してほしい。日本では、希望の党がマニュフェストにベーシックインカムの検討を打ち上げたが、見事に頓挫している。ベーシックインカムの議論は常に財源の問題でストップするが、前向きな議論が日本でも進むことに期待したい。日本は弱者に厳しい国ではなく、弱者に優しい国になってほしいと思う。

以上

追伸)年齢別の待機児童数
世田谷区は東京都内で最も待機児童の多い区だが、世田谷区のホームページには年齢別の待機児童数の推移が掲載されていた。平成28年度には1198人まで増加したが、平成29年には861人と337人減少していた。素晴らしい!特に3-5歳の待機児童はゼロとなっている。問題は0-2歳の児童だ。これはもう単に保育所の問題ではなく、、ベビーシッターを増やしたり、育児休暇制度を充実したり、家族や地域で共に赤ちゃんを育てるといった社会の仕組みそのものの充実が必要な問題ではないのだろうか。

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(出典:世田谷区のホームページ、参考18)

 

参考01:http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11907000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Hoikuka/0000098603.pdf
参考02:http://yamatea.at.webry.info/201403/article_1.html
参考03:http://president.jp/articles/-/19252 
参考04:http://www.asahi.com/special/taikijido/
参考05:https://kidsline.me/magazine/article/29
参考06:https://winfriede.com/child-neglect/
参考07:http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000
参考08:http://www.nippon.com/ja/features/h00133/
参考09:http://ikuji-log.net/entry/childcare-leave-period
参考10:http://slidesplayer.net/slide/11193588/60/images/12/
参考11:http://president.jp/articles/-/5040
参考12:https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/16005c/danjo-beyourself20.html 
参考13:http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/priority/kihon/k_2/19html/s1.html
参考14:http://www.nga.gr.jp/data/report/report26/141118.html
参考15:http://www.geocities.jp/yamamrhr/ProIKE0911-116.html
参考16:http://www.garbagenews.net/archives/2340533.html
参考17:http://slidesplayer.net/slide/11169510/
参考18:http://www.city.setagaya.lg.jp/kurashi/103/129/1812/d00031371.html