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多摩市の火災事故を考える

2018年7月26日(木) 午後1時45分ごろ
東京都多摩市唐木田一丁目22-1の建設中のビルで火災事故が発生した。小田急多摩線唐木田駅の西約1kmにある住宅地や商業施設が並ぶ地区の一角だ。すぐ南方には大和証券グループの多摩研修センターや三菱UFJ銀行多摩ビジネスセンターなどが隣接する。最終的に鎮火したのは同26日22時35分だ。27日の8時現在で被災者は43名。うち死亡者が5名だという。犠牲者となった方々のご冥福を心よりお祈りしたい。
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 出典:Google Map

多摩テクノロジービルディング(仮称)
火災が発生したのは、三井不動産が100%出資する南多摩特定目的会社(SPC)が発注し、施工会社は安藤間(はざま)だ。2016年10月に着工し、2年余りをかけて、2018年10月に完成する予定だった。建築計画のお知らせをみると、詳細に書かれている。地下3階地上4階で延べ面積は18,112.23平米と広大だ。
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 出典:tamapon(参考1)

火災の原因
 火災の原因は、毎日新聞では次のように報道している。でも、地下4階とは?地下は3階までではないのか。
警視庁捜査1課などによると、作業員2人が地下3階でガスバーナーを使い鉄骨を切断していたところ、近くにあったウレタンの断熱材に火花が飛んで、出火したとみられる。作業員は消火器を使うなどして消火を試みたが火の回りが早く、瞬く間に燃え広がったという。死亡した5人は地上3階と地下4階で1人ずつ、他の3人は地下から発見された。
 出典:毎日新聞(参考2)

SPCとは
発注主は南多摩特定目的会社というSPCだ。SPCとは、Special Purpose Companyの略であり、日本語では特定目的会社と呼ぶ。ローマ字読みの略でTMKともいう。平成10年6月に制定された「資産の流動化に関する法律」に基づいて設立される社団法人だ。そして、その仕組みは下の図の通りだ。
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 出典:タナカファーム(参考3)

誰が損をするのか
入居予定者と言うA社はコールセンターやデータセンターとしての利用を予定していたようだ。しかし、A社はあくまで賃貸利用者だ。建物が完成せずに引き渡せない場合にA社は入居できないと同時に賃料を払う必要はないだろう。そうすると、損をするのは賃料を見越してビルを建設した会社であり、その不動産を証券化したものを購入した証券購入者だ。賃料がはいらない以上SPCが優先出資社員に配当を渡すことはできない。最悪このSPCは収支が回らないために破産宣告をするのかもしれない。SPCが火災保険等に加入していれば保険金で救済されるかもしれない。でも、その場合は結局保険会社が損をすることになるのだろうか。この辺りの仕組みや影響についても報道されることを期待する。

火災の原因の原因
先に、「ガスバーナーを使い鉄骨を切断していたところ、近くにあったウレタンの断熱材に火花が飛んで、出火した」と書いた。ウレタン断熱材は、不燃剤ではない。ガスバーナーの熱で発火することは建設担当者なら常識的に知っている。従って、ウレタン断熱材工程と、鉄骨の切断工程を同時に行うことは普通ならあり得ない。考えらることは納期に間に合わせるために止むを得ず断行したのかもしれない。10月の完成に向けて最後の仕上げのために複数の作業を同時に進めていたのだろう。元請けである安藤間は管理責任を問われることになる。

元請けの管理責任
今勉強している労働安全衛生法に基づくと元請会社は、元方安全衛生管理者を示し、この元方安全衛生管理者をwikiで調べると次のような硬い説明が続いた。勉強のためあえて引用する。なかなか難解だ(涙)。。
統括安全衛生責任者を選任した事業者のうち、建設業に属する事業を行うものは、元方安全衛生管理者を選任しなければならない(第15条の2第1項)。選任するのは特定元方事業者なので実質的には統括安全衛生責任者に選任されることとなる。特定元方事業者は、元方安全衛生管理者を選任した場合は、当該作業の開始後遅滞なく、選任した旨及び元方安全衛生管理者の氏名を作業場を管轄する労働基準監督署長に報告しなければならない(規則第664条)。労働基準監督署長は、労働災害を防止するため必要があると認めるときは、当該元方安全衛生管理者を選任した事業者に対し、元方安全衛生管理者の増員又は解任を命ずることができる(第15条の2第2項)。元方安全衛生管理者の選任は、その事業場に専属の者を選任して行わなければならない(規則第18条の3)。また事業者は、元方安全衛生管理者に対し、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一場所において行われることによって生ずる労働災害を防止するため必要な措置をなし得る権限を与えなければならない(規則第18条の5)。
 出典:Wiki

断熱材の種類と耐火性
 断熱材は熱を逃がさないのが目的であって、耐火材と同義ではない。特に、今回使われたウレタンの断熱材はすぐに溶けてしまう。溶接ガスバーナーの炎の温度は、鉄骨を切るために1200度Cにも上る。一方で、耐火性のあるグラスウールでも300度Cで耐火性能はなくなる。火災になると5〜10分で500度Cに達するため、ウレタン材は一気に溶けてしまったのだろう。
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 出典:東京断熱(参考4)

ウレタンが燃焼した時の有毒ガス
日本ウレタン工業協会では、次のように説明している。あれほど真っ黒な煙が巻き上がるのは驚きだが、煙の速度は驚くほど早いのだろう。本当に注意が必要だ。
天然材料・合成材料を問わず、すべての可燃物は燃えるとある種の有害性ガスを発生します。その主なものは、二酸化炭素(CO2),一酸化炭素(CO)、窒素化合物であるシアン化水素(HCN)、窒素酸化物(NOx)、などが確認されています。さらにポリウレタンの燃焼時に他の化合物が微量に発生します。ポリウレタン樹脂製品が関与する火災時、シアン化水素ガスが煙中に含まれているため、有害性ガスを含んだ煙などは他の合成樹脂材料あるいは天然材料よりも暗示的に健康へのリスクが高いといった誤解があります。シアン化水素は窒素化合物を含んだすべての材料(例えばウール、アクリル、ナイロン、ABS など)から発生します。
 出典:日本ウレタン工業協会(参考5)

出火時の有毒ガス
火災時に発生する有毒ガスは火災の経過ステージによって大きく異なる。初期のくすぶり燃焼では500度C以下なので、CO2とCOが大量に発生するが、その中でも一酸化炭素(CO)が非常に危険だ。初期から成長期には400度Cから700度Cに達する。高温と酸化炎で問題だ。COの問題は相対的に減少するが火災の被害に合わないように避難することが重要だ。火盛期から終期には800度Cと高温になる。しかも、酸素が少ないためCOやHCNなどの危険なガス濃度が高まる。火災は本当に厄介だ。
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 出典:日本ウレタン工業協会(参考6)

まとめ
事故の原因の元原因を究明して再発防止のための根本策を検討して実施するのが安全管理の基本だ。しかし、今回のような火災事故の場合は、一体何が根本原因だったのだろう。一義的には安藤・間だ。一時期は85円まで売りに出されたが業績に対する影響はまだ不明と少し戻ったようだ。しかし、問題は安藤間による火災事故は今回が初めてではない点だ。2017年6月にも東京都江東区にある解体工事中の食品会社の物流センターで出火した。しかも、ガスバーナーを使って鉄骨を焼き切る作業中に火花がウレタンに燃え移ったという。今回と全く同じだ。1年前の教訓がなぜ生かせなかったのか。安全管理に対する姿勢が厳しく問われるだろう。 同じ事故を2年連続起こすのは弁解の余地がない。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

追記
毎日新聞のそのあとの報道を念のためチェックしたら、同社が昨年度の江東区の火災事故を起こしていたことに言及していた。そして、事故現場の様子や安藤間の社長の言葉が掲載されていた。これを読むと過去の教訓を生かすと指摘するのは簡単だが、それを実行して、徹底することの難しさを痛感する。
今回の多摩市の火災では、作業員3人は地下3階で、鉄骨の柱をガスバーナーで切断していた。その際に飛んだ火花が、床下に敷き詰められていたウレタンの断熱材に着火したとみられる。火花がウレタンに着火しないように、シートやベニヤ板を敷いていたが、床の隙間(すきま)から火花が入り込んだ可能性がある。作業員3人のうち、バーナーで切断していたのは1人で、他の1人は飛び散った火花を水で消す担当、もう1人は1・5メートル下の地下4階から火花が火災にならないように作業を見張っていた。火が付いた直後、水や消火器で消火活動に当たったが、火の回りが早かったという。火災が起きた東京都多摩市のビルの施工者、安藤ハザマは27日、東京都港区の本社で記者会見。福富正人社長は「被災された方々を最優先に、近隣の方々や発注者にもおわびし、誠心誠意対応したい」と陳謝した。同社によると、昨年6月の倉庫解体現場で起きた火災後、「火気を使う作業時は、付近の可燃物を撤去する」など6項目の安全規定を設けていた。しかし、火災は繰り返され、飯村俊章・同社首都圏建築支店長は「深く反省している。規定を徹底してきたが、何かが足りなかった」と話した。
 出典:毎日新聞(参考7)


参考1:https://tamapon.com/2017/01/10/tema-technology-bulding/
参考2:多摩火災:作業員5人死亡、25人重症 - 毎日新聞
参考3:特定目的会社(TMK)設立|タナカ司法書士事務所
参考4:充填断熱と外張り断熱について
参考5:http://www.urethane-jp.org/qa/kasai_nanshitsu/tokusei/q_25.html
参考6:http://www.urethane-jp.org/qa/kasai_koushitsu/gas/q_16.html
参考7:多摩5人死亡火災:断熱材引火、昨年にも 都内の別工事で - 毎日新聞