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準天頂衛星の現状と今後の展望を考える。

はじめに
2018年11月13日に一般財団法人日本ITU協会が主催するITU-R研究会が開催された。たまたまタイミングもあったので、これに参加したので、自分の理解度を深めるとともに、読者の皆様の参考情報になればと思い、少しまとめてみた。

準天頂とは
一般にはあまり聞かない言葉かもしれない。準天頂とは天頂に準ずるということだ。では、天頂とは何かというと、てっぺんだ。天文学的に言えば、天球上の観測者の真上を天頂(Zenith)といい、この逆が天底(nadir)だ。香港とかシンガポールに春とか秋に訪問すると太陽が頭の直上にあり、影が小さい。頭のテッペンが暑くなる。それが天頂だ。そして、準天頂は、この天頂に準ずる角度となる。 天頂が上、天底が下だとすると横が水平で斜め上が準天頂だ。

準天頂衛星システム
通信衛星放送衛星は、静止軌道にある。これは地上3万6千kmの位置では衛星が地球を一周するのに24時間かかるので、地上から見ると一定の位置に静止しているように見える。そして、準天頂衛星の軌道は、水平ではなく45度の斜めの角度で、地球を24時間で周回する。地上から見る見かけ上の角速度は変動があるので、地上を基準にすると八の字型の軌道を示す。しかし、衛星自体は八の字で周回しているわけではない。下はそれを図示したものだ。
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 出典:http://kyuri2017.tk/archives/4306295.html

みちびき4号の打ち上げ成功
通信衛星放送衛星など静止軌道の衛星で地球をカバーするには最低でも3基の衛星が必要だ。このみちびきサービスでは4つの衛星を用いている。このうち一つは静止軌道、残る3つが準天頂軌道だ。初号機は2010年9月に打ち上げられ、2017年に2号から4号までの打ち上げに成功した。最後の第4号は、2017年10月10日に鹿児島県種子島の宇宙センターから打ち上げられたものだ。この準天頂の軌道を用いた衛星測位システムのサービスを2018年11月1日より開始した。内閣府では、2023年までには3基を追加して、7基体制を目指している。
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 出典:http://qbiz.jp/article/120259/1/

GPSGNSS
位置測位といえばGPS(Global Positioning System)が有名だ。しかし、これは一般名詞ではなく、固有名詞だ。つまり、一般名詞としては、グロバルナビゲーション衛星システム(GNSS:Global Navigation Satelite System)と呼び、GPSは米国が運用するGNSSの代表例と言える。GPSはそもそも軍事用の位置測位システムとして開発されたものだが、レーガン大統領の時代に民生利用が表明されて、現在に至っている。GPS衛星の総数は30基プラス予備だが、より精密な測位が可能なシステムに順次進化している。
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 出典:http://qzss.go.jp/technical/technology/tech03_modern.html

各国のGNSS
日本はみちびき、米国はGPSだが、実は欧州、ロシア、中国、インド等でもGNSSを整備している。それを一覧にしたものが、下の表だ。欧州では、ガリレオシステム、ロシアはGLONASS、中国は北斗系統、そしてインドはNaviCだ。例えば、中国の北斗で言えば、2000年から2007年にかけて4基の衛星が打ち上げられて限定した地域で機能した。中国は最大35基までの衛星を2020年までに打ち上げてGPSガリレオと同様に全世界をカバーする計画だ。
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 出典:衛星測位システム - Wikipedia

準天頂衛星システムの優位性
GPSガリレオ、北斗はグローバルな利用を想定しているが、みちびきは限られたエリア=日本国土および周辺での利用を想定したものだが、その特徴は都心部などでビルが立ち並ぶエリアでも安定した測位が可能なことだ。みちびきでは、次の3つの狙いがある。
1) GPS衛星を補完することで測位精度を高める。つまり、GPS衛星が遮られるような場所でも測位可能。
2) GPS衛星を補強し、cm級の測位精度を実現する。
3) 災害・危機管理通報や衛星安否確認サービスなどのメッセージサービスを提供する。
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 出典:http://www.mitsubishielectric.co.jp/news/2017/pdf/1129.pdf

準天頂衛星システムの応用分野
みちびきでは、cm級の測位精度が可能だ。統制局は、電子基準点からの信号をもとに測位補強情報(CLAS)に基づいてGPS測位データを補正することで実現する仕組みだ。これにより、下の図のような分野への適用が期待されている。特に自動運転に適用すればcm級の精度で位置を測位できれば安全・安心だ。農業機器に適用すれば田んぼのあぜ道もcm級の精度で制御できれば効率的だし、品質向上が図れる。
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 出典:https://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2002/048/shiryo.html

準天頂衛星システムの課題
無限の可能性を感じる準天頂衛星システムだが、広く普及し、活用させるには次のような多くの課題がある。

1) 受信機の小型・軽量化
サブメートル用受信機やセンチメートル用受信機は車両に搭載することは可能だが、スマホや携帯電話に内蔵させることはできなかった。しかし、最近では、9mm✖️9mmの対応チップが開発されている。受信端末が小型軽量化すると、多様な機器への実装が可能となると期待されている。
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 出典:https://www.jrc.co.jp/jp/about/activities/technical_information/report69/pdf/JRCreview69_09.pdf

2) 限られた利用エリア
みちびきは日本人による日本での利用を目的としたシステムだ。しかし、日本の近隣エリアや南半球豪州でも利用も検討されている。例えばタイでは1万台のタクシーに受信機を搭載させた実証実験が進められている。豪州でも、稲作用のトラクターにみちびきの受信機を搭載させるプロジェクトを開始したり、ドローンを用いたアボカド生育状況把握システム等の実証実験が進めれらている。日本国内でも海外に負けない熱意での導入や普及が求められている。
 出典:http://qzss.go.jp/news/archive/madoca_180809.html

3) GPSジャマーへの対応
位置を把握されるのを嫌ってGPSジャマーを設置するケースがある。ある飛行場でGPSジャマーが不規則に機能して問題になったことがある。いろいろ調べると飛行場の近くを走行するトラックが装着していたらしい。映画館等で携帯電話の呼び出しを抑止するためのジャマー(通信抑止装置)を設置されるケースが増えているが、これらは合法的な手続きを行い、無線従事者を配置するなど一定の要件を満たすものだ。セキュリティ対策としてジャマーを利用しようとする場合に、電波法に基づき総務大臣の免許申請等の手続きをせずに、運用すると、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられる場合があるので注意が必要だ。
 出典:http://www.soumu.go.jp/soutsu/kanto/re/info/yokusi/index.html

今後の展望
1) ドローンへの実装

2018年3月下旬に幕張メッセで開催されたジャパンドローン2018では、準天頂衛星システムを活用したドローン等のUAV(無人航空機)の応用例や研究開発報告が続出している。この分野での開発競争は今後さらに激化しそうだ。
 出典:http://qzss.go.jp/news/archive/drone_180406.html

2) サブメータ級測位システムに対応したゴルフナビ
cm級ではないが、すでにサブメータ級のゴルフナビは発売されている。みちびきから送出されるLIS信号に基づいて処理を行い、その誤差は1-2m以下だという。パター以外では十分だろう。小型軽量化を頑張ったが、現状では重量が53gだ。厚さも11.3cm。精度を優先するためにGNSSアンテナをバンドの付け根の部分に配置させた。ケースも、アンテナ感度に影響を与えない樹脂製だ。ゴルフ好きで新しいものが好きな人はトライしてはいかがだろうか。自分は、まずはパターイップスを克服できるツールを切望する。
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 出典:http://qzss.go.jp/news/archive/golfwatch_181031.html

3) GPS依存度の低減
現在の位置測位は米国のGPSシステムに完全に依存している。現在のみちびきもGPSの測位を補完するものだ。今後、2023年目途に7基体制になれば、GPSに依存しなくても測位可能なのだろうか。そうなれば日本独自の意思で測位サービスを強化したり、改善したりすることも可能となるかもしれない。一方で、グローバル方式ではないため、中国が進める北斗系統などの存在感が強まるかもしれない。国際社会での競争を生き抜くのは簡単ではない。

まとめ
現在幹事をしているIT21の会の12月例会ではドローンをテーマにした講演を2つ予定している。準天頂システムとの関係をどう考えているのか講師に聞いてみたらどんな答えが返ってくるのだろうか。日本独自のシステムである準天頂システムという技術を成長の糧として育成し、活用して行くのは通信技術者の責務かもしれない。今後も機会を作って関わっていきたい。

以上