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セキュリティゲートを考える

はじめに
ここ数ヶ月は、某省庁のフラッパーゲートシステムのリプレース案件に携わっている。今まで入退館システムについて深く考えたことがなかったが、やはりプロジェクトに参加すると感じることも多い。ここでは、セキュリティゲートの現状や歴史、課題、そして、今後の対応等について少し考えてみたい。

1. セキュリティゲートとは
1.1 導入のメリット

都内でもセキュリティに敏感な企業では本社ビルを中心にセキュリティゲートを導入していたが、最近は官公庁や複数のテナントが入居するテナントビルでもセキュリティゲートを導入することが増えている。セキュリティゲートを導入するメリットはなんだろう。ITトレンドでは次の4つと指摘している。

導入メリット1:機密情報の漏洩を防ぐ
自社が扱う様々なレベルの機密情報を保護することが、入退室管理システムを導入する一つの目的です。情報を外部へ持ち出す可能性のある全ての人間を、監視・管理することができます。残念ながら、機密情報を外部へ持ち出すのは社外の人間とは限りません。社内に出入りする全ての人間を対象にすることで、自社の機密情報をより確実に保護することができます。

導入メリット2:入退室を監視し、記録できる
多くの人が出入りする社内の全ての入退室を監視し、記録することが2つ目のメリットです。監視カメラと併用することで、入退室の様子を把握することが可能となり、人と共に出し入れされるモノを管理することも可能になります。

導入メリット3:部外者の侵入を防ぐ
入退室管理システムを導入する3つ目のメリットは、侵入者を検知するセキュリティツールとして活用できる点です。従来、セキュリティシステムを独立して設置しているケースがほとんどでした。

導入メリット4:ICカードなどの認証ツールを活用できる
入退室管理システムを導入するメリットの4つ目は、認証ツールを「入退室管理」以外に活用、共用することができる点です。
 出典:入退室管理システムを導入する4つのメリットとは?おすすめの人気製品も比較紹介|ITトレンド

1.2 売上の傾向
下のグラフは2013年から2015年にかけての売上推移で基本少しずつ拡大している。もっとも大きいのは、映像監視が800-900億円程度だ。ついで多いのは、ICカード入退室管理の500億円程度、そして、ICカード管理システムの200億円程度だ。
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 出典:フィジカルセキュリティソリューション市場の現状と将来展望 2015 | ミック経済研究所

1.3 セキュリティゲートのベンダー
セキュリティゲートには認証機能と、入管&退館者のセンサー機能、不正通行防止機能等が具備されている。主要な国内ベンダーには、クマヒラ、高見沢サイバネティックス、近計システム、日本ハルコン、スキーデータ、ナブテスコなどがある。これ以外にNECパナソニックなどの大手ベンダーも全体システムや一部システムを請け負うことが多い。具体的なシェアを確認したかったが、残念ながら時間切れだ。
 出典:セキュリティゲート - Wikipedia

1.4 市場動向
下の図は、ミック経済研究所のミックITレポートからの引用だ。これによると、物理的なセキュリティ市場では、単体販売からシステム提供に変革するという。このため、製品ベンダーが単に販売するというよりは、導入したシステムと警備会社を連動させたり、照明管理したり、空調管理したりとデータを複合的に活用するようになる。また、複数拠点を一括して管理するような動きも求められるという。
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 出典:フィジカルセキュリティソリューション市場の現状と将来展望 2015 | ミック経済研究所

2. セキュリティゲートの歴史
2.1 初めての自動改札

セキュリティゲートの起源を調べると鉄道の自動改札のようだ。例えば、NYの地下鉄では均一料金制度だったので、コインを投入するとバーがターンする改札機が導入された。NYに出張した時に、若い米国人が長い足でひょいと乗り越えていたのを目撃したのは衝撃的だった。足の短い自分にはとても無理なので、ちゃんと改札を通過した。なお、東京地下鉄でも、1927年に開業した時には10銭の均一料金制度だったので、当初よりこのバーを回すターンスタイルの改札機だったという。すごい。しかし、1931年に区間制運賃が導入されたので、切符方式に変わったのが残念だ。
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 出典:自動改札機 - Wikipedia

2.2 近鉄での導入
学生時代には奈良県大和郡山市に住んでいた。JRも通っているが、やはり近鉄の方が便利だったので、京都との往復はもっぱら近鉄を使っていた。そんな近鉄は、1969年に日本信号と共同で学園前駅に自動改札機を試験導入した。1978年に奈良高専を卒業する前には近鉄大和郡山駅でも自動改札が導入されていた。当時は全面導入ではなく、人手による改札との併用だったが、新しもの好きの自分はもっぱら自動改札を好んで使ったけど、特に違和感はなかった。学校を卒業して上京したら、JRも西武線も自動改札はまだ導入されていなくて、東京の方が遅れているんだと妙に嬉しかったのを覚えている。
 出典:自動改札機 - Wikipedia

2.3 国際空港でのトライ
2017年にエストニアなどのバルト3国を旅行する時には、成田からヘルシンキに向かった。成田では指紋認証の出国システムが導入されていたが、あまり活用している人はいなかった。次から便利になりますよという係員の説明に従って登録したけど、次の出国の予定はない。しかし、ヘルシンキでは、パスポートに登録されている写真と本人の映像を機械が照合する仕組みが既にできていてスムーズに入国できた。なお、羽田空港には、2017年10月からパナソニックが開発した顔認証ゲートが三台導入されている。
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 出典:空港に革新をもたらす「顔認証ゲート」とは | 未来コトハジメ

3. セキュリティゲートの課題
3.1 不正侵入防止

セキュリティゲートを導入しても不正侵入は発生する。代表的な手法が共連れ侵入とすれ違い侵入だ。オフィスビルでもマンションでもICカード認証のみで制御していると、これを完全に防止するのは難しい。
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 出典:https://www.ssaj.or.jp/bouhan_kiki/shisetsu_factory_detail.html

3.2 犯行防止:侵入防止の4原則
都市防犯研究センターの調査によると、悪意を持って犯行を行う人が犯行にかける時間は5分以内が29%、侵入を諦める時間が2分以内が17%、そして非常ベルが非常に気になり避けるのが87%という。つまり不法侵入を防止するには4つの原則がある。それは、まず見ているよという人目、警報音で注意をするという音、明るく照らすという光、そして侵入に要する時間の4つだ。
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 出典:自主機械警備システム NEXT

4. セキュリティゲートの課題の解決方法
4.1 セキュリティゲートの改善
(1) サークルゲート

共連れ侵入やすれ違い侵入をハードウェア的に防止する手法だ。下の図はクマヒラが提供するサークルゲートでサーバールームなど高いセキュリティレベルを要する通路に導入すると有効だ。2000年ごろに外資系金融のサーバールームに立ち入ったことがあるが、すでにこのようなゲートがあり、一人ずつしか入室できない仕組みになっていて、驚いたことをよく覚えている。
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 出典:サークルゲート | 製品情報 | トータルセキュリティ企業【クマヒラ】

(2)2名での同時入室
1980年前後の頃の話だが、本部をベルギーに置く国際機関SWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)のオペレーションルームへの入室方法を聞いたことがある。オペレーションルームには、一人では入室できない。IDカードを持つ二人が同時に認証して、照合結果がOKなら2名のみ入れる。単独行動を禁じ、必ず二人で行動することでセキュリティを高めている。この方法であれば、共連れ侵入もすれ違い侵入も無理だ。SWIFTとは、国際銀行間通信協会の略だが、最近ではブロックチェーンの共同開発にもチャレンジしているようだ。メーリングリストに登録したので、どんな情報が展開されるのか興味津々だ。
 出典:国際銀行間通信協会 - Wikipedia

4.2 顔認証とICカード認証の組み合わせ
セキュリティレベルを高めるには、複数の認証方式を組み合わせることが有効だ。例えば顔認証とICカード認証を組み合わせば、不正侵入を防止できる。また、バイタル認証とICカード認証を組み合わせれば、ICカードの不正利用も防止できるだろう。
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 出典:テレハウス

4.3 フラッパーレスゲートの活用
フラッパーゲートでは、ICカードのリーダと人体のセンサーとスピーカーなどに加えてフラッパーを開閉する必要がある。このため、その重量は100kgを超える。しかし、最近はもっと手軽なフラッパーレスゲートが登場している。これだと重量は半分の50kg程度だ。ビルの入退室であれば、ICカードを読み取って、不正があればアラーム音を流すだけでも抑止力になるだろう。カメラによる顔認証システムとセットで運用すれば十分なセキュリティレベルかもしれない。
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 出典:https://robotstart.info/2018/08/13/unibot-pepper.html

5, 今後のセキュリティゲートの方向性
5.1 セキュリティレベルに応じた制御
(1) IoT化によるコスト削減とスマート化

フラッパーレスゲートをさらに簡素化すれば、最後はセンサーだけになる。流石に電源は必要だが、ICカードリーダや人体センサーの信号ぐらいであれば無線通信で運用することは可能だろう。つまり、ゲートのIoT化だ。センサー自体を盗まれると困るが、壁に取り付けて終わりであれば、施工は格段に楽になるだろう。

(2) 入室可能なエリアの管理
すでに高級マンション等では利用されているが、入室可能なエリアを限定する管理手法だ。高級ホテルなどでもスイートに入室できるのは特定のICカードに限定している。複数の企業が入居するオフィスビルでもこの仕組みを使えば入室可能なエリアを限定できるので、セキュリティレベルを高めることは可能だ。
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 出典:ICカード入退システム 大規模ビル物件向け | 東急セキュリティ

5.2 複合的な認証とトレース機能
(1) QRコード対応

接触ICカードが使われることが多いが、最近ではQRコードでの認証に対応している装置も登場している。オフィスビルに加えて、エンタテインメント会場等であれば便利だろう。また、通常通過モードは一人ずつ開閉するが、連続認証なら1分間で50人まで処理できる。
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 出典:https://www.tacy.co.jp/products/tokki/security/tag9.html

(2) システム連携とトレース機能
セキュリティゲートは単に入退室管理だけでなく、勤務管理や空調管理や照明管理と連動することが可能だ。また、不正入館を検出した場合には、監視カメラによる人物認証機能を持ちいてトレースすることも可能かもしれない。社内の様々なシステムと連携することで高度なセキュリティを維持・向上する方向に進むのではないだろうか。
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 出典:セキュリティマネジメントソフト | 製品情報 | トータルセキュリティ企業【クマヒラ】

5.3 ロボット技術活用で商品ロス率66%低下
残念ながら行けなかったが、東京ビッグサイトで3月5-8日に開催されていた「SECURITY SHOW 2019」では、ペッパーベースの警備ロボットが展示されていた。2017年1月から2月にかけて福島市にある約300坪の書店にUnibotを導入したところ、集客と万引き防止に効果があることが確認された。集客については、約20%の集客率の向上と約7%の売り上げ増だ。万引き防止については、商品のロス率が66%も低下した。やはり、見られているという抑止力は効果的だということなのだろう。
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 出典:新時代の警備&接客システム UNIBOT ユニボット

まとめ
今回はセキュリティゲートについて少し調べてみた。起源がコインによる地下鉄のターンスライドバーとは思わなかった。その後、磁気タイプの切符による自動改札と進化し、現在は非接触ICカードでのゲートが一般的だ。今後は、タッチすら不要な非接触タイプのRFIDとか、顔認証方式と併用することでセキュリティレベルを高めることだろう。同時にIoT化によってコスト削減や施工の単純化が可能となる。しかし、大切なことはセキュリティレベルを決めて、そのレベルに応じた最適な管理体制とすることと、その認証データを複合的に活用していくことだと思う。

以上

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。