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食糧問題:チキンに関する一考察(日本と世界の歴史)

1. はじめに
名古屋の名物はいろいろあるが、個人的には手羽先が好きだ。技術士を目指す人を応援するボランティアグループの名前も手羽先の会だ。そんな手羽先は鶏肉料理の一つだ。今回はそんな鶏肉について調べてみようと思った。しかし、調べるといろいろ出てくる。とても手におえない。そこで、いろいろと調べてわかったことや初めて知ったことを、日本での歴史と世界での歴史に分けた上で、アラカルト的に書いてみることにする。

2. 日本でのチキンの歴史
2.1 縄文時代

愛知県の知多半島の先端に伊良湖岬灯台がある。その少し手前(東14km)にあるのが伊川津(いかわづ)貝塚だ。ここには、縄文時代後期から晩期の大規模な貝塚がある。出土土器の主体は三河地方土着の土器であるが、東西両日本の系統の土器も混在し、とくに畿内の宮滝式、橿原式に対比される土器型式が注目される。人骨の出土も191体に及び吉胡貝塚の人骨とともに縄文人の形質や、埋葬方法、抜歯、叉状研歯のような歯牙変形の風習、利器による人骨の損傷などに関する貴重な研究資料ともなっている。縄文時代の鶏が出土したという説と、それは後の時代に混入したという説があり、真偽は不明だ。叉状研歯(しゃじょうけんし)を伴う多数の抜歯風習を示す人骨も見つかっている他、甕棺などの土器や土偶、耳飾、石刀、石棒、石冠、勾玉や各種の骨角器も出土している。ちなみに、この叉状研歯とは、上あごの前歯四本をフォークのように加工することだ。縄紋時代の成人式では、上あごの両犬歯を抜く痛みに耐えれば一人前の大人として認められたようだ。この前この近くを通り過ぎた。歯を抜かれるのは嫌だが、もっと早く知っていれば訪問したのに残念だ。
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(出典:Wiki、参考1&2)

2.2 弥生時代
本格的な農耕文化が定着したのが弥生時代と言われているが、そのような弥生時代にも狩猟したイノシシやシカは食べられた。ウサギやサル、クマも食べていた。弥生時代にはイノシシとともに、大陸から家畜としての弥生豚が混じる。縄文時代の遺跡ではシカ・イノシシがほぼ同程度で出土するが、弥生時代の遺跡ではイノシシ&弥生豚が増加する。さらに、ニワトリの出土事例もある。やはり、ニワトリは大陸から来たのだろう
(出典:Wiki、参考3)

2.3 古代
古代では、大陸から伝来した鶏が朝の到来をつける「時告げ鳥」として利用された。役目を終えた鶏を食することはあったが、副次的なものだった。また、魏志倭人伝によると日本には牛馬がいなかったと言う。しかし、近親者の死後10日は肉を食べないとも書かれており、何らかの肉は食していた証左となっている。日本書紀にも肉に関わる職業の家系(宍人部)に関する記述がある。この宍人部(ししひとべ)とは宮中の料理を担当するシェフだ。6世紀の大和政権では、人制(ひとせい)という官僚制度があり、これが7世紀には部(とも)となり、律令制の伴部になった。人制で酒人、倉人、宍人と呼んでいたものが、伴部では、造酒司酒部、大蔵省内蔵寮蔵部、内膳司膳部となったという。ちなみにこの宍は猪や鹿、牛、馬、兎、鯨、海豚(イルカ)などの生肉を意味するという。
(出典:Wiki、参考4)

2.4 天武(てんむ)天皇の肉食禁止令
日本書紀によると西暦675年5月19日(天武5年4月17日)にはいわゆる天武天皇の肉食禁止が発令され、4月1日から9月30日まで稚魚の保護と五畜(牛、馬、犬、猿、鶏)の肉食が禁止された。殺生禁断は聖武(しょうむ)天皇の際にも出され、鶏の卵も避けられた。一方で、奈良時代には闘鶏(とうけい)が行われていたという記録もある。

2.5 平安時代
西日本を中心に鶏肉のことをカシワという。自分も小学生の頃によく母親からカシワ屋さんに行って、カシワを買ってきてと手伝いを頼まれたものだ。しかし、なぜ鶏肉のことをカシワというのかは分からず、不思議に思ったことをよく覚えている。どうも、これは肉食が禁止された時代の隠語だったのではないかと言われている。つまり、鶏肉は柏の葉の色なので「カシワ」、猪肉は牡丹の花の色で「ボタン」、鹿肉は紅葉の色で「モミジ」、そして馬は桜の色で「サクラ」だ。なんともおしゃれだ。
(出典:気になるジョ!、出典5)

2.6 戦国時代から江戸時代
戦国時代になるとポルトガル人が来校し、鶏卵を用いた南蛮菓子を持ち込んだ。江戸時代の初期にオランダ商館一行が江戸に参府した際には鶏と鶏卵が用意された。江戸時代には、無精卵は孵化しないので、殺生にはならないとされた。1626(寛永3)年には、今でいうふわふわオムレツを当時の後水尾天皇が食されたという。江戸時代の西国の佐賀藩では鶏の水煮が食された。諫早家日記によると1687(貞享4)年に長崎に送る鶏の食べ方まで記載されている。江戸時代後期には、日本の在来種と海外からの外来種を掛け合わせて、様々な品種が誕生して現在に至ったようだ。文化年間の時代には、京都、大阪、江戸で食され、さらに1785年には、「万宝料理秘密箱」という鶏卵の料理書も出版されたという。
(出典:Wiki、参考6)
2.7 万宝料理秘密箱
235年前の江戸時代に103種類の卵料理を料理本「万宝料理秘密箱としてまとめるとはどれだけ当時の日本の文化水準が高かったのか。現在でもコミック本で「美味しんぼ」があるが、卵料理だけで103種類は凄すぎる。列挙すると次のような料理の仕方について記述している。これだけの卵料理を極める民族は世界広しと言えども日本ぐらいだろう。現代語訳も販売されている。
「金糸卵、銀糸卵、かもじ卵、白髪卵、糸組卵、五色卵、紅焼卵、青海卵、桴卵、竹の世焼卵、簀子焼卵、卜活卵、紅煎貫卵、山吹卵、黄身返し卵、花卵、茶巾卵、饅頭卵、小豆餅卵、角切卵、寄卵、定家卵、鶉卵、唐秬卵、青世卵、利休卵、胡桃卵、源氏卵、家主貞良卵、沫雪卵、鳥煮込卵、卵素麪、卵蕎麦、長崎ズズヘイ、柚干卵、蒸竹卵、長崎油餅卵、干葉卵、糟漬卵、漉粉卵、卵味噌、卵田楽、卵煎餅、卵安留平糖、冷し卵羊羹、松風卵、甘露卵、粽卵、野煎卵、卵豆腐、小倉名物卵餅、大苞卵、大煎貫卵、酢煎卵、卵鰌魚、卯花炒卵、磯菜卵、巻煎卵、卵麺、柿餅卵、時雨卵、梅仁卵並求肥、長崎卵飛龍頭、一種卵鮓、湯卵、糟漬卵、煎貫卵葛掛、卵三盃漬、金米糖卵、丸雪卵、緑卵、一種手取鶉焼卵、六角煎貫卵、芋掛卵、麦飯卵、卵海胆田楽、松茸煎込卵、筍煎入卵、牛蒡煎囲卵、海苔巻卵、卵の香物、卵蒲鉾、卵山吹蒲鉾、加味丁子焼、卵白粥、牡丹卵、杉焼卵、苞蒸卵、冬葱蒸卵、豆腐粕蒸卵、卵甘酒漬、卵潮煎、鰊卵和、卵粹、薬卵汁、卵鱸和、卵鹿暮露和、紫蘇漬卵、漉粉卵善哉、芋巻、卵ケルセル、蝕麦卵〆、卵殻共に切る仕方。
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(出典:卵百珍、参考7)

3. 世界でのチキンの歴史
3.1 チキンの起源

チャールズ・ダーウィンは、インドからフィリピンの東南アジアで発見された赤いジャングル家禽をチキンの祖先と考えた。古代中国の書類によると、紀元前1400年に中国に導入されたという。紀元前600年のバビロニアの彫刻にも描かれている。ローマ人はチキンを戦争の神、火星からの使いと考えたという。そういえば、人類が火を使い始めたのも1万年前以上前で、その頃から火を使って料理をし始めたという。そして、栄養価の高い食事を取れるので、頭脳や身体にエネルギーを短期間で補充できたので、さらに進化したと言われている。
(出典:Wiki、参考8)

3.2 チキンの起源の諸説
Wikiを見ると、紀元前8000年もしくは起源前4000年ごろに東南アジアから中国南部に家畜化された。初期は食用ではなく、祭祀用や闘鶏用だったと言う。インダス文明モヘンジョ・ダロの遺跡からはニワトリの粘土像や骨が出土されている。これが最古の証拠だが、3方向に分かれて伝搬した。西方は紀元前15世紀から紀元前14世紀にかけてエジプトに伝播した海上ルートだ。北方は中国から日本への伝播したルートだ。最後の南方はマレー半島からインドネシアへと伝わるルートだ。例えば、イースター島では食用として使われたと言う。
(出典:Poultrymad、参考9)

3.3 宗教とチキン
(1) ユダヤ教

豚肉を食べることを厳しく禁止しているユダヤ教徒もチキンは禁止されていない。肉食の鳥はダメだが、チキンは草食系なので良いらしい。ユダヤ教聖典である旧約聖書の「レビ記」「申命記(しんめいき)」では、全知全能の神エホバは次のように食肉のタブーを定めている。つまり、数ある動物のなかでも、「ひづめが分かれたもの、ひづめが二つにきれたもの、反芻(はんすう)するもの」という条件を示している。古代イスラエルで飼育していた動物は牛、羊、ヤギの3種類だ。いずれも藁や干草など人間が食べないものを反芻する。したがって、人間の食料とバッティングしない。しかし、豚は雑食で、なんでも食べるし、反芻もしない。しかも、豚の皮は使いにくいし、衛生管理も必要だ。したがって、エホバが命じたから食べないのではなく、自然に豚を食べることがタブー視されたものをエホバが明文化したという説がある。
(出典:VKsturm、参考10)

(2) イスラム
イスラム教はユダヤ教の教えに準じているので、やはり豚肉は食べない。食肉としては、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、ウシの順番だという。そういえば、沖縄に赴任した時に、ヤギ料理をいただいた。癖はあるけど私は美味しいと思った。沖縄では豚の耳なども食べるので、ユダヤ教では生きていけないだろう。ちなみに、イスラム世界で禁じられた肉は「ハラム」と呼ばれ、逆に食用にしていい肉は「ハラール」と言う。ハラールとは、やっても良いしやらなくても良いという許可の意味だ。一方のハラムとは、口にすることを禁止されているものだ。イスラムでは、豚肉以外の食品でもその加工や調理に関して一定の作法が要求される。この作法を遵守した食品がハラールとされる。
(出典:世界の食文化史、参考11)

(3) ヒンドゥー教
インドのヒンドゥー教は、古代インドのバラモン教民間信仰が融合しながら形づくられたものでインドの宗教・社会制度・文化・風習などが総合されている。ブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァの三神を重要視し、輪廻と解脱の思想を根本とする。インド社会においてはカースト性が今も残っていて、2000 以上のカーストが存在するという。カースト内の団結は強く、カーストごとに共通の習慣があるので注意が必要だ。ベジタリアンとノンベジタリアンも厳密に分かれている。後者では、肉食も許されているが、ニワトリ、ヒツジ、ヤギの肉に限定される。
(出典:外務省、参考12)

(4) キリスト教
キリスト教では、家畜は神が作り上げたものと解釈するようだ。キリスト教も、ユダヤ教より発したものだが、パウロ規制撤廃を主張し、エルサレム会議にてわずかな規定を残して食物規制を廃止した。セブンスデー・アドベンチスト教会などの菜食主義者を除き、残った規制も、特に西方においてはその後に有名無実となった。例えば、カトリックでは1969年以降その食物規制を守る義務がなくなり、年に2日だけ断食と肉断ちが義務付けられている。マクドナルドのフィレオフィッシュは金曜日に肉を食べないカトリックアイルランド系移民のために考案されたメニューだという。
(出典:Wiki、参考13)

3.4 イギルスのヘン・フィーバー
日本語だと、生きているうちはニワトリ(鶏)、料理するのは鶏肉、チキン、カシワという。雄鶏と雌鶏も区別する。英語では、雌鶏はhen、雄鶏はcockもしくはrooster、雛はchickと使い分ける。ヨーロッパにおいてニワトリはさほど重視された動物ではなかったが、18世紀から19世紀初頭にはニワトリへの興味が高まり、ニワトリの育種が始まった。コーチン種などの東洋種がヨーロッパに持ち込まれ1850年から1900年の間には観賞用や愛玩用のニワトリの品種改良がブームとなり、「ヘン・フィーバー(雌鳥ブーム)」というバブルが発生した。オムレツやカスタードなどの調理法、マヨネーズなどの新しい利用法も開発された。
(出典:Wiki、参考14)

3.5 アメリカのフライドチキン
フライドチキンとスイカは奴隷時代の黒人人種差別を思い出させる禁句だ。オバマ大統領が当選した時にも、オバマ大統領の似顔絵とチキンとスイカを描いたイラストが出回った。タイガーが全盛期の頃には、白人のゴルフプレーヤーが「タイガーウッズを家に招待して、フライドチキンを御馳走してあげるよ」などというと、本人はジョークのつもりでも、黒人差別発言として問題になる。日本で言えば従軍慰安婦と不倫のような触れてほしくないキーワードだ。そんなアメリカでも、1880年から1890年ごろにかけてアメリカで最初のブロイラー生産が始まっている。
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(出典:Wiki、参考15)

4. おわりに
本当は、チキンの消費傾向や生産傾向、増加するブロイラーの問題などに言及したかったが、今回はここまでにする。チキンを深堀りするだけで、日本の歴史だけでなく、世界の歴史や宗教観まで広がるとは思わなかった。世界の動向を理解する上でも、こうした食文化に関する常識を知っているかどうかで大きな差が出ることもありうる。今日は、ちょっと食文化や食の安全に向けてのテーマにチャレンジした。
以上

最後まで読んでいただきありがとうございました。

参考1:https://ja.wikipedia.org/wiki/伊川津貝塚
参考2:https://www.pref.aichi.jp/kyoiku/bunka/bunkazainavi/kinenbutu/siseki/kensitei/0908.html
参考3:https://ja.wikipedia.org/wiki/日本の獣肉食の歴史
参考4:https://ja.wikipedia.org/wiki/人制
参考5:http://kininaluzyo.com/archives/3558.html
参考6:https://ja.wikipedia.org/wiki/ニワトリ
参考7:http://takakis.la.coocan.jp/hyakutin.htm
参考8:https://zh.wikipedia.org/wiki/雞肉
参考9:http://www.poultrymad.co.uk/chicken-facts/index.html
参考10:http://peoplesstorm.hatenablog.com/entry/2017/06/14/210539
参考11:https://028a1206181421.wordpress.com/2012/07/06/食の歴史その24~イスラム教はなぜ豚肉を禁じ/
参考12:https://www.mlit.go.jp/common/000116950.pdf
参考13:https://ms.wikipedia.org/wiki/Ayam#Dalam_sejarah
参考14:https://ja.wikipedia.org/wiki/ニワトリ
参考15:https://ja.wikipedia.org/wiki/黒人とスイカのステレオタイプ