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技術問題:現在の無線充電と将来の方向性

9月に発表されたiPhone 8/8 plusやiPhone Xはワイヤレス充電(以下、「無線充電」という)に対応する。その中でQi(「チー」)という方式名を初めて聞いた人もいるかもしれない。このQiとは何か、そもそも無線充電とは何か、将来にどんな可能性があるのかといったことに疑問と関心を持っている人もいるかもしれない。そこで、技術的な側面を含めて、次の点についてできるだけ分かりやすく説明したい。

1. 無線充電とは
2. 無線充電方式
3. iPhone Xが対応するQiとは
4. 無線充電方式の今後の可能性

1. 無線充電とは
無線充電は、別名、非接触充電とか、非接点充電、ワイヤレス充電と呼ばれ、金属接点やコネクターを介さずに充電する方法だ。例えば、電動歯ブラシやコードレス電話に使われているものだ。原理的に電磁誘導方式と呼ばれる。FELICAも電磁誘導方式で利用するときに電力の供給を受けている。米MITが2006年に1m離れても伝送効率90%を達成したと発表したのは衝撃的だったが、その方式が磁気共鳴方式である。今後、医療分野、電気自動車(EV)分野、携帯電子機器分野への適用が期待されている。

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 (出典:TED資料より、参考1)

2.無線充電方式
無線充電方式には、下の表にあるように、電磁誘導(MI:Magunetic Induction)方式、磁気共鳴(MR:Magnetic Resonance)方式がある。Qiは、WPCが推進する無線充電方式だ。これに加えて、村田製作所が中心となって設立したWPM-c(Wireless Power Management Consortium)が提唱する直流共鳴(DCR:Direct Current Rrsonance)方式、二組の非対称ダイポール間に発生する電界を活用する電界結合方式、さらにマイクロ波で電力を送受信する電波受信方式がある。
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  (出典:InfoComニューズレターより、参考2)

3. iPhone Xが対応するQiとは
3.1 3つの方式

Qiには、下の図のように3つの方式がある。まず、マグネット吸引方式とは、送電端末と受電端末をマグネットの磁力を使って位置合せする方式であり、Apple Watchはこの方式である。次の可動コイル方式とは、受電端末のコイルの場所に合わせて送電端末のコイルの位置を動かす方式だ。最後のコイルアレイ方式とは、送電端末には複数のコイルを配置して、受電端末が置かれた場所のコイルの付近のみ送電する方式であり、薄型化が可能だ。iPhone 8/8 PlusやiPhone Xのプレゼンで示された無線充電器はこの方式の物と想定される。
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  (出典:価格ドットコムより、参考3)

3.2 Qiのバージョンアップ
1) V1.0:WPCは2008年12月に発足し、Qi規格は2010年7月に最大5Wの程電力向けの規格が制定された。
2) V1.1:現在の規格は、5Wまでの無線充電が可能な「Volume 1 Low Power」であり、その最新版は2012年7月に制定されたV1.1だ(参考4)。伝送距離は7mm程度。使用する周波数は110kHzから205kHzだ。なお、AirFuel Allianceが提唱するPMA規格では100kHzから200kHzと規定している。
3) V1.2:WPCは2014年7月に電磁誘導方式で最大15Wの充電が可能なV1.2(Volume II Midium power)を発表した。これには、5Wに対応するBPP(Baseline Power Profile)と15Wに対応するEPP(Extended Power Profile)を含む。このEPPは、下位互換としてBPPにも対応している。

3.3 充電時間
次の図は、5Wと10Wと15Wの無線充電時の充電時間を示したもので、テキサスインスツルメント(TI)の無線充電器の実証データである。これによると15W仕様であれば、5W仕様の無線充電よりも半分程度の時間で充電可能だ。

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  (出典:TEXAS INSTRUMENTS資料より、参考5)

3.4 制御ステップ
Qiは次のように6つの制御ステップで構成されている。TXは送電端末、RXは受電端末だ。TXがRXを検出するとデバイス検出の信号をTXからRXに送信し、RXはその信号に対する応答信号を返送する。Low Powerではその後に電力伝送が開始するが、Midium Powerではネゴシエーションキャリブレーションのステップが追加されている。この認証&構成のステップでは、例えば特定の受電端末にしか充電しないという設定も可能だ。ネゴシエーションは5W以上の充電のための異物検出のためのステップだ。キャリブレーションは送信電力量を5Vにするか、15Vにするかを決定するステップだ。
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4. 無線充電方式の今後の可能性
4.1 無線充電の応用イメージ
WITRICITYとは、MIT(マサチューセッツ工科大学)の無線充電の研究メンバーがスピンアウトしたベンチャー企業だ。このWITRICITYのホームページに示されているのが電力線がないリビングイメージだ。携帯やパソコンだけではなく、照明器具やテレビまで全ての電源を無線で供給するものだ。Amazonから発売されたBluetoothスピーカーの販売が好調で、これに各社が追随している。バッテリーを内蔵しているが、残念ながら長時間利用するには電源コードが必要だ。しかし、無線充電に対応すれば文字どおりワイヤレススピーカーになるはずだ。

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(出典:TED資料より、参考1)

4.2 電気自動車への応用
無線充電は、電気自動車(EV)への適用が期待されている。例えば、トヨタは2011年4月にWITRICITYと提携し、磁気共鳴方式による大容量充電方式を目指している(資料6)。 電磁誘導方式は、正確な位置合わせが必要だが、磁気共鳴方式は厳密な位置合わせが不要なためEVに向いていると考えられている。
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  (出典:MONOist資料より、参考6)

4.3 電気バスへの応用
下の図は、日産自動車が2009年に公開した無線充電機能搭載の電気自動車だ。磁気共振方式であれば、厳密な位置合わせが不要なため、例えば電気バスの停留所に無線充電の装置を設置しておいて充電することで、電気バスに実装する電池の性能を抑えることが可能だ。移動中のEVに充電することも可能だという。今後の実用化に期待が高まる。 
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  (出典:EE Times Japanより、参考7)

4.4 補助人工心臓への応用
重症の心不全患者の心臓位の働きを補助する補助人工心臓(VAD:Ventricular Assist Device)の小型化が進んでいる。しかし、このVADを動かすためには電力を供給するための電線が必要なことが課題だ。しかし、無線充電の技術を活用すれば、人体への影響を最小限に抑えることができると期待されている。
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  (出典:Stuff資料より、参考8)

5. まとめ
MITが2006年に伝送距離が1mでも90%の伝送効率が可能な磁気共鳴方式の実証実験結果を発表してから、全世界的に無線充電が一気に盛り上がった。現在は、WPCが提供すQiとAirFuelが提供する方式が競い合っている。私が愛用するスターバックスは後者のAirFuelに対応した充電装置をシアトルの店舗等では整備しているようだ。しかし、QiもAirFuelもほぼ同じ周波数帯を利用しているので、ソフトの更改で両方式に対応させることは可能だという。ぜひ、両方式の無線充電に対応する店舗が日本でも広がってほしいものだ。また、磁気共鳴方式は厳密な位置合わせが不要なためEVへの適用や人工臓器への給電方式としても期待されている。Qiには受電側の機器認証機能も考慮されているため、例えば事前に登録したEVのみ充電するといったビジネスモデルも可能だ。また、村田製作所を中心に日の丸方式も存在感が高まりつつある。特に直流共鳴方式(DCR)が今後、国内だけでなく、グローバルなデファクトを目指すと日本企業も日本も元気になるのではないだろうか。

以上

参考1:https://www.youtube.com/watch?v=duFL3STguKw 
参考2:http://www.icr.co.jp/newsletter/report_tands/2013/s2013TS289_3.html 
参考3:http://kakaku.com/article/pr/12/03_WP-QIST10/index.html
参考4:http://www.businesswire.com/news/home/20150105006732/ja/
参考5:https://e2e.ti.com/group/jp/b/power-ic/archive/2016/07/25/668870 
参考6:http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1104/28/news015.html
参考7:http://eetimes.jp/ee/articles/0910/05/news102_4.html 
参考8:http://www.stuff.co.nz/manawatu-standard/business/2858757/Meet-the-Kiwi-bionic-man