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将来日本でベーシックインカムが導入されたら失業率、犯罪率、離婚率、出生率、自殺率はどうなるのだろう?

景気と失業率、失業率と犯罪率、景気と離婚率、失業率と出生率、失業率と自殺率等には相関関係があると言われている。それらの現状の調査結果をレビューするとともに、全ての国民が無条件に一定の収入を得ることができるベーシックインカム(UBI)が導入された場合にこの関係がどのように変化するのかを大胆に予想してみたい。

フィリップ曲線
景気と失業率の関係は、フィリップ曲線として有名である。つまり、物価上昇率が高いときは失業率が低いが、物価上昇率が低くなると失業率が高くなるという負の相関関係を有している。下図は、総務省統計局のデータを加工したものである(参考1)。
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失業率と犯罪率の相関
失業率が高いほど犯罪率が高く、失業率が低いほど犯罪率も低いという事象である。この傾向は特に日本で顕著であり、下の図では相関係数が0.88と非常に高い結果になっている(参考2)。しかし、米国では0.31、英国では0.13と日本以外の諸外国ではここまで高くないのは、海外では失業率以外の要因が支配的ということと理解される。

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景気と離婚率の相関
景気と離婚率の相関係数は算出されていないが、時系列の調査結果があった(参考3)。ここで特筆すべきは、単に相関関係があるだけではなく、離婚率が先行指標となっていることである。特に、1980年代に離婚率が先行して上昇し、それを追うように景気が上昇している。しかし、2001-2002年を底にして、離婚率がまた増加に転じている。その後の景気の上昇機運は弱いので、もう少し精査が必要かもしれない。

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失業率と出生率
失業率が増加すると、出生率は低下するだろうか?CIAのWorld Fact Bookのデータを重回帰分析した調査結果があった(参考4)。そこには次式のように、インターネットの普及率が高まると出生率が低下するという。さらには、失業率が増大すると出生率も高まる(参考5)という内容だった。

 出生率=23.6 - 0.235 × インターネットの普及率(%)+ 0.147 × 失業率(%)

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失業率と自殺率の関係
失業率が増大すると、自殺する人は増えるのだろうか?1953年から2013年までのデータを男性と女性に分けてその相関関係を分析している調査があった(参考6)。これによると、男性は+0.891と非常に高い正の相関関係を示す一方で、女性は-0.223と低い負の相関関係を示している。男性は職をなくすことで生きる気持ちをなくす。しかし、女性は居直って生を謳歌するのだろうか。これを分析した松尾先生の講演を聴く機会があった。その場では、「女性が自殺する場合はうつ病になっていることが多く、失業してうつ病になる人もいる。この点を補正しないといけない」と補足されていた(追記:2017/8/27)。

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ここまでは、文献やウェブベースでの現状までの調査結果である。UBIが導入された場合には、これらの関係はどのように推移するのだろうか?大胆に予想してみたい。

  1. 景気と失業率の関係
    仕事をするかどうかにかかわらず、人間としての尊厳を維持するための最低限の生活費がUBIとして支給される。本人が希望する仕事がなければしなくても良い。そのような社会システムが整備された段階においては、もはや失業率は重要な指標ではない。企業に勤務する人、企業から給与が支給される人は減少するだろう。つまり、失業率としては、増大すると予想する。しかし、どの程度まで失業率が増大するかは、今後の検証が必要である。
  2. UBIと犯罪率の抑制
    UBIが支給された場合には、失業率が実質的にゼロとなったことと同義であり、犯罪率は抑制されると予想する。また、UBIの前提は無条件に全国民に支給であるが、犯罪を起こした人に対してまでUBIを支給するのかどうかは、議論を要するだろう。犯罪を起こすと貰えるべき収入(UBI)を受け取る権利が消滅するとした方が犯罪の抑止力となるかもしれない。もしくは、UBIは理念の通り支給されるが、刑務所への入所代金として服役者から適性額を徴収する方が公平かもしれない。
  3. UBIと離婚率との関係
    これは微妙だ。ただ、特に低所得層においては、家族の人数分のUBI収入は貴重であるので、できるだけ仲良く生活するようなベクトルが働くのではないかと予想する。しかし、高所得層においては、UBIの収入による抑止力は低いと予想される。
  4. UBI出生率との関係
    出生率は増加傾向に働くだろう。特に低所得層や若年層においては、結婚すれば二人分、赤ちゃんが生まれれば三人分のUBIが支給される効果は大きい。二人目、三人目を産もうと考えるカップルも増えるだろう。ただ、これも所得層によって傾向が分かれるのではないか。つまり、現在の日本社会においては、教育費が非常に高いので、高度な教育を受けさせようとする特に都心部の家庭では、UBIが支給されても、子供への教育費に満たないので、出生率を高める効果は低いだろう。
  5. UBIと自殺率との関係
    男性の失業率と自殺率の高い相関関係は悲劇だが、UBIが導入されれば、これの抑止効果は働くと予想する。ただし、女性は負の相関関係であるが、UBIが導入されたから自殺率が増加するとは思わない。UBIによる収入を含めて、さらに生を謳歌するのではないだろうか。

まとめ
現状で入手できる調査結果を整理するとともに、それらの傾向からUBIが導入された場合の効果を大胆に予想してみた。しかし、これはあくまで予想であり、仮説である。今後、裏付けデータを積み重ね、仮説を検証していく必要があるが、所得層によりUBIの効果は異なると予想される。ただし、UBIの支給方法を工夫することで、国民の生活データをビッグデータとして分析したり、これを活用することが技術的には可能だ。今後はその可能性を検討してみたい。

 

参考1:日本経済再生のために (http://www.ochiaitakayuki.com/agenda/exit_deflation)
参考2:svnseeds` ghoti! (http://d.hatena.ne.jp/svnseeds/)
参考3:社会実情データ図録 (http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2780.html)
参考4:Life is beautiful (http://satoshi.blogs.com/life/2008/06/post-1.html
参考5:CIAのWorld Fact Book (https://www.cia.gov/library/publications/the-world-factbook/)
参考6:データえっせい (http://tmaita77.blogspot.jp/2015/02/blog-post_6.html )