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日本ベーシックインカム学会第3回年次大会に参加

はじめに
ベーシックインカムについてグローバルに議論する団体がBIENだ。鼻炎ではない。フランス語でいいねの意味だ。1984年から1986年にかけてヨーロッパでベーシックインカムについて議論するBasic Income European Networkが立ち上がり、参加国が拡大したので、2006年にEをEarthとした。日本ベーシックインカム学会は国内でベーシックインカムを議論するための学会組織だ。井上智洋准教授が副会長をされている縁もあり、参加させて頂いた。
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出典:https://basicincome.org

同床異夢
今回は、午前中に総会があり、午後から5名の登壇者による講演とそれに対する質疑応答だ。今回の講演で最も印象的だったことばは同床異夢(どうしょういむ)だ。これは、同じ立場であっても、考え方や目的とすることが違うことを意味する。ベーシックインカムには、反対論者と賛成論者がいる。そして、賛成論者には、BIを通じて世の中の福祉を向上させようという考えもあるし、そうでない考えもある。最後の登壇者である竹信さんは前者をホワイトBI、後者をブラックBIと呼ぶ。つまり、BIに賛成していても、その目的や狙いが同じとは限らない。気がついたら、BIの導入をトリガーとして、制度や組織の合理化を図り、気がついたら状況が悪化しているような危うさがあると警鐘を鳴らしていた。政府や官僚が反対しているうちはまだ安心だけど、賛成し始めた時が要注意だと思う。彼らが賛成する理由や推進する目的をしっかりと議論して同じ目標に向かう必要がある。同床異夢の対義語が異榻同夢(いとうどうむ)だ。これは、環境や立場が違っていても、同じ考え方や目的を持つもの。同床異夢ではなく、異榻同夢でありたい。
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出典:https://gimon-sukkiri.jp/dousyouimu/

1. 諸星たおさん

グリーンニューデールとヘルスケアニューディール
1929年の大恐慌から経済救済を実現したニューデール政策と再生可能エネルギーの活用などのグリーン政策を組み合わせたものをグリーンニューデール政策という。2007年に提唱されたこの概念を推進しているのが民主党アレクサンドリア・オカシオ=コルテスだ。1989年10月生まれなので、日本で言えば平成元年生まれの30歳だ。ALS担当の訪問ヘルパーの諸星さんは、介護への政府支出と労働移転が環境負荷を減らし、持続可能となるヘルスケアニューディールを希求されている。
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出典:https://forbesjapan.com/articles/detail/34484

ブルシットジョブ
Bullはうし、Shitは大便。日本語で言えば、牛のくそ。ブルシットジョブといえば、クソのようにどうでも良い仕事だ。家族から大学院はどう?と聞かれて超面白い!と答えたら、今度は仕事はどうだ?と聞かれクソ面白くない!と答えたら笑われた。まあ、仕事は収入とセットなので、超面白い仕事ばかりではない。1996年から1999年まで沖縄に赴任していたときに、同僚の元グリーンベレーのトムさんの口癖がそういえば、これだった。意味を聞くとあまり良い意味ではないとしか答えてくれなかった。そんなブルシットジョブについての著者がデヴィッド・ロルフ・グレーバーだ。1961年生まれだが、今年の9月2日に享年59歳で亡くなった。破天荒な人物なのだろうか。We are 99%運動の指導者だ。負債論、官僚制のユートピアなども著者としても有名だ。これは読まなくちゃ。
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出典:https://www.biz-knowledge.com/entry/bullshit-jobs

2. 小野盛司さん

BIのシミュレーション
日本経済復活の会の会長だ。1946年生まれで、東大大学院卒の理学博士の秀才だ。日本経済新聞者のNEEDS日本経済モデルMACRO79を使用してBIの効果検証をされた。コロナ禍の影響でGDPは約40兆円下落したが、年間40万円のBIを給付すれば1年半後にGDPは元の水準に戻ると説く。
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出典:http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2020/05/post-9b9dee.html

江戸時代の通貨発行
日本で最初の流通貨幣は和銅元年8月10日(西暦708年8月29日)に発行された和同(わどう)開珎(かいほう/かいちん)という。当初は品質が悪く何度も改善したようだ。江戸時代には、幕府は金貨、銀貨、銅貨を発行し、幕府はその発行益を歳入に取り込んだ。例えば1844年には江戸城本松の再建に必要な83万両を含めて257万両の歳入が必要となるが、貨幣の発行益で85万両を捻出しているという。下のグラフによれば年貢による収入はわずか25%だ。現在の日本国の歳入とのは違いが大きい。
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出典:https://www.facebook.com/gr.ajer/posts/313240009082803/

3. 山中鹿次さん
NPO法人近畿地域活性ネットワークの代表である山中鹿次さんの講演だ。

復旧ベーシックインカム
日本は災害大国だ。異常気象が日常化している。いつ集中豪雨で水害が発生するかわからない。南海トラフ地震も心配だ。9月には台風が日本列島を直撃する。そんな災害が直撃した地域で例えば自宅を失った場合などでは国や地方自治体が連携して救済にあたる。そして、救済には5つの基本原則がある。それは、平等の原則、必要即応の原則、現物給付の原則、現在地救助の原則、職権救助の原則だ。山中さんが問題視するのは、3番目の現物給付の原則だ。これは災害時には物資が不足し、調達も困難なため金銭がほとんど用をなさないため、救助が現物を持って行うというものだ。現物が給付されるのはありがたいが、現金の支給も至急なされるべきと説く。つまり、災害救助法に現金給付条項を追加するべきという。
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出典:災害救助法の概要 - 樹形図工房・第2世紀

4. 白崎一裕さん

クリフォード・ヒュー・ダグラスの通貨改革構想
C.H.ダグラスは英国の技術者(1879年1月-1952年9月)であり、社会的信用経済改革運動のパイオニアだ。ダグラスは、飛行機の生産に要したコストの合計が、労働者に支払われた賃金等の合計よりも大きいことに気いた。

社会的信用
ダグラスは、第一次世界大戦中に生産された製品の週あたりの総コストが、賃金、給与、および配当のために労働者に支払われた合計よりも高いことに気付いた。その後、イギリスの100社以上の企業からデータを取集し、財やサービスのコストより、給与・配当が少ないことを示し、1920年に信用力と民主主義の本と経済民主主義の本を出版し、1924年に社会信用の本を出版した。

ダグラスの通貨改革の構想
国家もしくは国家に準ずる機関が通貨を発行して、生産のための資金を企業に融資するとともに、消費のための資金を国民に支給する。企業は消費者が支払った代金を下に発行元に返金する。この構想であれば、通貨の発行が暴走して、インフレを引き起こすことはないと考えた。自分も同じようなモデルを考えた。それは、下の図でいえば、国家信用局は国民に国民配当(BI)を支給するが、国民が消費者したタイミングで消費税を徴収すれば、国民に支給した通過は国家信用局に還元されることになる。
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出典:http://bijp.net/sc

分配的正義の根拠
ベーシックインカムは(対象となる)すべての人に同じ金額を定期的に支給することを基本コンセプトにしているが、なぜすべての人に平等に分配しないといけないのかをもっと深堀リすべきと白崎さんは説く。そして、その根拠は、現在のあらゆる物質は過去からの贈り物である。多くの人が苦労して獲得したものを現代人が享受しているに過ぎない。特に、白崎さんは土地に普遍性を求めた。これは、米国の政治家、政治経済学社であったヘンリー・ジョージ(1839年9月-1897年10月)の考え方に基づいている。ヘンリーは、諸税を廃止し地価税への一本化すべきと説き、進歩と貧困を1879年に発行した。

5. 伊藤みどりさん

フィギュアースケート選手ではない伊藤みどりさんは、働く女性の全国センター(ACW2)の共同代表だ。1970年代から女性労働運動に取り組み、1995年には女性ユニオン東京を結成し、2007年にはACW2を結成した。対応した相談件数は3,000件を超えるという。
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出典:https://www.servicegrant.or.jp/projectslist/acw2/

労働者の権利を主張できない非正規層
低賃金でも一生懸命に働いてきた女性からの悲鳴だ。これまで低賃金で働いてきた人は、失業しても、定年になっても、その低い所得をベースにした分しか払われない。介護の仕事は辛い。それでも頑張れは言葉の暴力だ。肉体だけではなく、精神的にも疲弊する労働者が多いと訴える。

働くより安定な生活保護生活
労働条件の不条理はいろいろあるが、そのうちの一つは、生活保護かもしれない。生活保護の生活から心機一転頑張って、仕事を見つけて、労働しても、非正規では家賃も払えない。仕事が辛くてやめてもすぐには生活保護は受けられない。収入もなく、保護もない生活に戻るくらいなら、仕事など見つけずずっと生活保護を受けている方が安定した生活ができる。それはおかしいと訴える。生活保護も2015年4月からは大家族に不利な内容に改悪している。
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出典:https://diamond.jp/articles/-/94848?page=2

ケアワークセックスワーカーへの差別
技術革新に伴う業務の効率化の波は止まらない。スーパーではレジの合理化が進んでいる。銀行の経理部門も多くの人はいらない。学校の先生もどんどん非正規社員となっている。労働者の権利を主張できるのは、正規社員など経済特権のある人に限られる。非正規社員にはそのような権利はないだけではなく、非正規社員間での足の引っ張り合いもある。職を見つけられずにセックスワーカーにシフトする人たちへの差別もある。働くということはどうことなのか。人が生きるための営みが働くということではないのだろうかと訴える。

6. 竹信三恵子さん

最後の登壇者は竹信三恵子さんだ。1953年生まれのジャーナリストで朝日新聞者の記者をしていた。現在は、和光大学名誉教授だ。NPO法人官製ワーキングプア研究会の理事でもある。
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出典:https://maga9.jp/200819-0/

労働市場の序列とセーフティネットの序列
今回のコロナ禍では航空業界や観光業会など多くの業種業態を直撃した。緊急宣言が出されたとき、子どもの休校にともなう休業補償に風俗業は除外されていた。それはおかしいという声が出て、撤回されたが、それほど単純なストーリーではないという。つまり、風俗業界は政府に除外の撤回を申し入れたが、有名タレントが「ホステスの給料補填に税金を払いたくない」といった発言があり、SNSもこれに便乗して嫌がらせの発言が続いたという。

同床異夢の危うさ
冒頭に書いたようにBIに賛成する人は善、反対する人は悪のような図式で判断する人がいる。しかし、BIを賛成する人にも注意が必要だという。つまり、BIを導入すれば、解雇がしやすくなる。公務員だって持って削減できる。企業も苦しければ給料をカットすれば良い。BIを賛成する人には、賛成するだけの狙いや目的がある。BIの導入を目的として議論するのではなく、どのような社会にしたいのかと言ったコンセンサスを形成し、その上で、どのようなベーシックサービスを提供するのか、それに足らない部分をベーシックインカムでどのように保証するのか。最悪はBIへの丸投げ。後はBIでよろしく。そんな構図は最低だ。

特別定額給付金で明らかになった限界
コロナ禍に対応して、特別定額給付金が支給されたのは大きな前進だ。しかし、課題もある。例えば、今回の給付金は基本的に世帯が対象だ。住民票を登録していない人や外出が難しく申請できない人なども切り捨てになりがちだ。夫からDVで苦しめられているシングルマザーも請求権はなかったが、シングルマザーの関連団体の頑張りによって救済措置が講じられた。しかし、まだ住民票を登録していない外人労働者や路上生活者は切り捨てだ。

まとめ
以前、江戸時代の年貢を納めている農家は有事の際にその年貢に応じた救済を受けられたという話を聞いたことがある。このため、農家の人々は喜んで年貢を納めた。武士たちは、集めた米を米蔵に保管し、食するのは古くなった米だ。新米を食べられるのは百姓。武士は古米。そんな文化だったという。厳しくもあり、優しくもある。飢饉への対応を万全に期すことは難しいが、少しでも緩和することは出来る。そんな古来からの知恵を現代の我々は忘れずに、強化・改善していくことが必要だと思った。

以上

最後まで読んで頂きありがとうございました。