LuckyOceanのブログ

新米技術士の成長ブログ

「幸せ」の決まり方を読んで感じること

はじめに
幸福論は、多くの研究者がトライしている。特に、有名なのは三大幸福論で、1833年生まれのカール・ヒルティの『幸福論』(1891年)、1868年生まれのアランことエミール=オーギュスト・シャルティエの『幸福論』(1925年)そして、1872年生まれのバートランド・ラッセルの『幸福論』(1930年)だ。国内では、1912年生まれの福田恆存の『私の幸福論』(1979年)だろうか。幸福論の難しい点は、誰でもそれなりのロジックを語れることだ。ある人が、ゴルフ論のようだと言った。こうすればゴルフが上手くなると開眼する。しかし、間も無くそれは錯覚であったと思い知る(笑)。
f:id:hiroshi-kizaki:20200607182726p:plain
 出典:「幸せ」の決まり方

幸せの定義
なぜ幸福論が難しいかといえば、それが主観的だからだ。同じ1万円を貰っても、すごく幸せになる人もいれば、そうでない人もいる。同じ食事をしても、その感想は十人十色だ。ましては、幸福度を10段階で幾つですかと聞かれても、何を持って判断すれば良いかわからない。レベル10の人はレベル5の人よりも倍幸せともいえない。まして、国際比較しても、価値観も文化も違う。ブータンと日本を比較するような安直比較をこの著者(小塩隆士一橋大学経済研究所教授)は避けている。

主観的厚生
小塩教授は経済学者である。経済学者は、幸福論には慎重だった。経済学はそもそもどうすれば人々が豊かな生活を送り、幸せになるかを考える学問であり、経済的に豊かになれば人々は幸せになるという暗黙の想定があった。しかし、近年では、国が経済的に豊かになっても、人々が幸福にならないことが明らかになった。そのため、小塩教授は主観的厚生を指標とすることを提案して、この課題にチャレンジされるようになった。

イースターリン・パラドックス
米経済学者リチャード・イースタリンが提唱したパラドックスだ。つまり、貧困から抜け出して経済的に成長するに従って、幸福度は向上するが、一定のレベルになると、それ以上経済的に成長しても、幸福度は向上しないという指摘だ。この根拠となるのは、相対所得仮説と順応仮説だ。
f:id:hiroshi-kizaki:20200608104837p:plain
 出典:幸福の経済学 その1: タテヨコナナメ

相対所得仮説
1883年生まれのジョン・メイナード・ケインズの理論では所得が増大すると消費も増大する。つまり、現時点の所得によって消費が決まるという考えです。しかし、1918年生まれのジェームズ・デューゼンベリーは、現在の所得に加えて、過去の所得や他人の消費行動にも影響を受ける相対所得仮説を主張した。確かに、周りの人の購買行動に影響を受けるし、一度豊かな生活を満喫すると、所得が下がっても消費レベルを落とすことはなかなか難しい。これはラチェット効果とも呼ぶようだ。
f:id:hiroshi-kizaki:20200608110731j:plain
 出典:https://twitter.com/teiki_study/status/573797702833590272

順応仮説
これは一般には年収が200万円から400万円に増えるとすごく嬉しく感じるが、しばらくするとその年収になれてしまう(=順応)効果と言われる。個人的には、それに加えて、感覚というのは指数的なものと思う。つまり、年収200万円から400万円になった喜びに匹敵するのは、400万円から600万円になった時ではなく、400万円から800万円になった時だ。800万円から1000万円になっても、その喜びは小さい。所得倍増という意味では、800万円から1600万円になったら同じような喜びを感じるのではないか。しかし、所得はそう簡単には倍倍では増えないため、一定のところで、満足度の伸びが鈍化するのではないだろうか。

他人の不幸は蜜の味
米経済学者のエルゾ・ラットマー・ハーバード大学教授は、隣人の収入が上がることは自分の収入が減ることと同じ程度の不幸をもたらすと論文(2005年)で述べている。他人の不幸を喜ぶのは不謹慎だが、これは一般的なようだ。ドイツでも、自分が手を下すことなく他者が不幸、悲しみ、苦しみ、失敗に見舞われたと見聞きした時に生じる、喜び、嬉しさといった快い感情を「シャーデンフロイデ」と呼んでいる。これは不幸を意味する"Schaden" と喜びを意味する"Freude" の造語だ。自慢話は歓迎されないことにも通じる。やはり謙虚な気持ちが大事だと言える。

家族と幸せ
小塩教授は、主観的厚生を定義して、男女別や学歴別、家族構成などの多面的な分析をしている。ちょっと面白いと感じたのは、女性(妻)の精神的なタフと男性(夫)の精神的な脆さだ。生活に満足していれば1、そうでなければ0とした場合に、離婚した男性の生活満足度は0.4と落ち込む。しかし、離婚した女性の生活満足度は0.95だ。また、男性よりも女性の方が友人が多く、友人が多い人ほど生活満足度が高い傾向も示されている(p147)。面白い。

子供は家を選べない
お話ができ始めた二歳ぐらいの子供に、「君はどこからきたの?」と聞くと、「僕が木の上にいる時にママが呼んだじゃない」などと答えるという話がある。都市伝説かもしれないが、興味深い。その意味では、一般には、親が子供を選べないのと同時に、子供は親を選べない。親がどのような親になるかは親は選ぶことができるが、子供は親を指導することはできない。どれほどひどい親でも、子供に取っては大切な親だ。子供は、それを正当化しようとするのではないか。小塩教授は、幼児の虐待やネグレクトは幼児の成長後にも重大な影響が残るという。心の痛い問題だ。

初職が一生を決める残酷さ
高校や大学を卒業して初めて就職することを初職という。ここで正規の社員として採用されるか、非正規の社員として採用されるかは日本においては重大な分岐点だ。海外では、新卒入社だけではなく、中途採用が活発だ。最初はアルバイトのような待遇でも、夜間の大学を出たり、資格を取得して、正規社員として採用されるルートがある。これを踏み石シナリオと呼ぶ。一方、日本は罠シナリオだと小塩教授は説く。つまり、初職が非正規だと、転職しても非正規であり、年収も上がらず、結婚もできず、子供もできない。QOLが卒業時に決まるという。もちろん、就職してからも頑張って大学を出たり、資格を取得して、活躍する人もいる。しかし、海外に比べて少ないのだとしたら、それは改善すべき社会的課題だ。
f:id:hiroshi-kizaki:20200608113446j:plain
 出典:初職が正規or非正規雇用かで配偶者の有無が変わる | 結婚相談所 Arts venus 公式ブログ

経済衰退期に幸せを感じることはできるのか
新型コロナのショックで自粛が強いられた。飲食業や中小企業の多くは1ヶ月半ほどの運転資金しかないと言われる。2020年度は経済的にもかなり厳しい1年になるだろう。収入が激減する人も多い。ポストコロナに向けて新しいビジネスを開拓するたくましい人もいる。このような時期は人々は幸せを感じることができるのだろうか。人から助けられると嬉しいが、人を助けることができて、その人が喜んでくれると、助けた人の幸福感も上がるという。特に、日本は自然災害がおおく、日本人同士が助け合うことで生き延びてきた。人と争うことを避けて、人の迷惑になることはせず、人のために何かをしようというマインドは誇るべきマインドだと思う。

まとめ
冒頭の「幸せ」の決まり方は、少し統計データの分析などが多く、論文を少しわかりやすく解説した程度なので一般には難解だと感じる人も多いが、論文を読むよりはわかりやすい。何より、小塩教授の想いがビンビンと伝わってくる。自分のプロジェクトでは、人と人のつながりを示す居場所をテーマにしたいと考えている。プロジェクトはなかなか進まないが、一歩一歩研鑽していきたいと思います。

以上

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。