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子ども食堂の現状と課題(3/3)

はじめに
子ども食堂の始まりや最近の動向などについてまとめた。3回目は海外の動向を少し調べて、日本との違いを理解し、将来に向けての課題を考えるヒントとしたい。
出典:hiroshi-kizaki.hatenablog.com

海外での動向
子ども食堂は日本で広がっている。同様の活動が海外で行われているのだろうか。調べてみると、欧米各国での事例が確認できた。少しまとめておきたい。

(1) アメリカの朝食クラブ
ボランティア活動は米国の伝統だ。米国では1年間に6,200万人以上の人がボランティア活動を行っている。米国国民は約3.2億人なので、人口の約5分の1だ。素晴らしい。活動の上位は、募金活動が27%、食料の調理・配給活動が24%、清掃等の労働・輸送が20%、学習指導が19%、青少年への助言・指導が17%だ。沖縄では在日米軍子ども食堂の活動を支援しているという。米国本土では、朝食クラブという活動が普及している。2010年時点で12.5万校のうちの70%で実践している。1985年に上映された「Breakfast Club」は土曜日の朝に学校に集められた問題高校生5人の話だ。日本語名は、そのままカタカタにしたブレックファストクラブではなく、朝食クラブにして欲しかった。
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 出典:https://www.justwatch.com/jp/映画/the-breakfast-club

(2) イギリスの朝食クラブ
朝食クラブはイギリスの方が本場かもしれない。朝食クラブは、当初貧困対策だったために所得制限を設けていたが、それだとギリギリ当てはまらない子どもが参加できないため所得制限を外した。貧しい家庭の子どもと見られるのを避けた面もある。日本の学童保育は小1から小3の低学年の利用が多いが、イギリスでは年齢区分が複数あり、かつ広い。具体的には、0~8歳、0~17歳、3~11歳、3~17歳、4~8歳などだ。また、小学生だけでなく、乳幼児や中高生も一緒に過ごす場という。これは少子化が進む日本でも取り入れる価値のある考えかもしれない。朝食クラブの利用料金は、週あたりで9-14ポンドという(日本円では1200-1800円)。低所得層への補助が十分ではないという批判もあるようだ。
 出典:https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/other/pdf/7902.pdf

(3) ドイツの子ども体験レストラン(Leipziger Kinder-Erlebnis-Restaurant)
ドイツでは単に料理を作って食べるという場ではなく、様々な子どもたちの出会いの場や交流の場として子ども体験レストランが提供されている。例えば、野菜を栽培する。様々な国の料理や様々な階級の子どもや大人の交流を図る。Tafel e.V.(みんなの食卓)は1993年にライプティヒで設立し、ドイツ全土に広がり、現在は900を超える。モットーは、「与えられる物を、それぞれが与える」。消費期限間際の食品などが寄付され、低所得層の多い地区に設置された7カ所の拠点で希望者に1箱2ユーロ(約240円)で配布している。子どもがいる家庭なら牛乳やバターもおまけされる。クリスマスやハロウィンなど季節のイベントも実施している。下の写真はFBより。
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 出典:http://www.newsdigest.de/newsde/regions/reporter/leipzig/7502-1017/

(4) フィンランド子ども食堂(レイッキプイスト)
フィンランドは、ムーミンの故郷だ。2017年8月にヘルシンキを訪問した時は、街のカフェで人々がお洒落にワインを楽しんでいた風景が印象的だ。国土は日本の9割ほど、人口は530万人と北海道の人口528万人とほど同じだ。子どもたちを大切にするという点では世界トップレベルだ。資源の限られたフィンランドの未来を開くのは子どもたち。子どもを大切にすることが未来の国力や社会全体の幸福へつながるという考え方が根付いた。このため子ども貧富の格差が小さく、日本人の子供より学力が高い。単に受験勉強でななく、物事を考える力をつけている。その鍵になるのが能力もやる気も高い教師だ。子どもたちは教師になることを夢見るし、尊敬している。教師になることは簡単ではない。少なくとも大学院を卒業しなくてはいけない。教師はどのように子どもたちに教えるかの権限を与えられているので、色々工夫して、頑張る。日本が学ぶべき点は多いのではないか。ヘルシンキの市内には市営公園がある。レイッキプイストという。レイッキは遊ぶの意味でプイストは場所の意味だ。0歳から16歳までの子供には無料で昼食が配られる。100年の歴史がある。フィンランド育児支援には切れ目がない。特に有名なのは、育児パッケージだ。赤ちゃんの育児に必要な53点がぎっしり詰まっていて、しかもその外箱がベビーベッドになるという優れものだ。これは1937年に開始された。なお、第二子に対しては現金(約2万円)を選ぶこともできるようだ。
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 出典:https://dot.asahi.com/aera/2016063000262.html?page=1

子ども食堂のさらなる発展に向けての検討事項
(1) 本当に使って欲しい子どもや親に対していかに届けるか

 貧困家庭の問題は経済的な貧困や精神的な貧困だけではなく情報面や知識面での貧困に悩まされていることだ。公的な福祉制度自体を知らないことがある。子ども食堂を開催してもその存在を知らなければ利用することはできない。頼るべき家族も地域もないという最底辺の親子をいかに救うのかは本当に難しい問題だ。そのためには、子ども食堂の活動を広げ、継続し、知名度を高めることが王道かもしれない。人伝てでも知ることができれば利用につながるかもしれない。また、住所がわかれば食事を配達する子ども宅食の試みも有効かもしれない。2018年3月にインテージリサーチが実施した子ども食堂の認知度調査では72%の認知度だったが、2019年3月の調査では82%に向上した。
 出典:子ども食堂、知っている人が8割に ~世代間交流や地域活性化、高齢者の孤立対策への広がりも~|株式会社インテージホールディングスのプレスリリース

(2) 増大するスタッフの負担
先述のインテージリサーチの調査では、運営に関わってみたいかという質問に、はいと回答した人が2018年3月に25%いたのに対し、2019年3月では19%に低下した。興味はあるが、具体的なイメージがわかないや、あまり興味はないと回答する人が増えている。今後、利用する子どもを増やしたり、頻度を高めたり、拠点を増やすためには、適正なスタッフを揃えることが非常に重要となる。
農林水産省の調査によると、最も多いのが地域住民の64%、続いて大学が組織したボランティア等が53%、民生委員の49%、NPO団体の33%だ。個人ベース、団体ベースの参加協力を募り、適正に運営することが必要だ。また、運営規模が大きくなると調理スタッフの確保や衛生面での体制整備も課題となる。
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 出典:https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/set00zentai.pdf

(3) 経済的な支援
子ども食堂の運営を支えるのは助成金と寄付だ。助成金なしで運営しているケースもあるが、助成金を受けていても十分ではない。かと言って運営者の持ち出しでは長続きしない。フードバンクからの食材提供や福祉団体経由での寄付や直接の寄付を募って凌いでいるのが実態だ。信州こどもネットワークでは寄付金を受け取りに行くためのガソリン代の経費にも困っているようだ。CSR活動に積極的な企業や法律的に社会活動を必須とする各種財団からの寄付などを募ると同時に、個人からのダイレクトな寄付やクラウドファンディングを活用した集金など資金繰りは永遠の課題だ。また、前述のスタッフの待遇を改善するためにも資金は必要だ。

貧困問題としての課題
子ども食堂は素晴らしい取り組みだが、貧困問題の観点からみると、いかにして負の連鎖を断ち切るかが課題となる。その意味では、子ども食堂を継続的に運営するための資金的な仕組みの強化に加えて、子どもが中高を卒業した後の就職や進学の道筋を立てられるように支援することが重要だ。

(1) 進学育成支援
生活保護を受けていた子供の大学等の進学率は33%(2016年4月時点)という。これは全世帯での進学率73%の半分以下だ。知らなくてびっくりしたのだけど、現在の制度では、大学等に進学しながら生活保護を受けることができない。これは生活保護法第4条で、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」と規定されており、18歳になると自立のため働いて収入を得ることが求めらるからだという。このため、大学に進学するものは、生活保護から外れ、アルバイトや奨学金で生活費や学費を賄う必要がある。自分は、生活保護は受けていなかったが、いわゆる母子家庭で生活も苦しかったので、高校か高専までは進学させるがそれ以上は無理だと言われた。そのため、必死に勉強して高専に入学した。高専では最初の前期だけ授業料を支払ったけど、その後の4年半は授業料免除だった。しかも、給付型の奨学金ももらえた。特に1年から3年は高校生並みなので食費程度(4500円)だったけど、4-5年は大学並みということで確か1.2万円/月でかつ食費はそのままだったので、差額で余裕が出たのが本当に嬉しかったことを覚えている。進学を後押しするために、「進学準備給付金」の支給が2018年より始まった。自宅通学生に10万円、自宅外通学生に30万円の一時金が支給される。十分ではないがありがたい。給付型の奨学金を調べると国立と次第、自宅通学か自宅外通学か、また世帯の所得区分によって支給額が異なっていた。
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 出典:生活保護世帯の大学等進学の現状と進学を支援する制度とは | ファイナンシャルフィールド

(2) 就職・就業支援
大学への進学は必須ではない。手に職をつけて仕事をマスターしていくことも立派な選択肢だ。現在、自分は建設業法に基づく監理技術者として工事現場の安全管理を統括する仕事をしている。しかし、建設工事については正直素人だ。職人さんがしていることを代替することなどとてもできない。作業を見ているだけで感心することも多い。これは日本人の良き特性かもしれないが、職人さんは仕事が丁寧だし、自負を持っている。段取りなどもいろいろ考えて提案してくる。海外との国力の違いは、このボトムアップの力の差だと思う。
技能五輪をご存知でしょうか?国際大会は2年ごとに開催されワールドスキルズインターナショナル(WSI)と呼ばれる。都道府県と中央職業能力開発協会は共催で毎年技能五輪全国大会を開催している。また、20歳以下の若者を対象に中央職業能力開発協会の主催で、若年者ものづくり競技大会(技能五輪ユース大会)などが開催されている。技能課題は下のように多彩だ。それぞれに歴史があり、技術がある。AIが進歩しても、ロボットが進歩しても、しばらくは食っていけるだろう。目指すべきゴールを見つけて欲しい。
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 出典:第30回 競技課題等 : 中央職業能力開発協会(JAVADA)

まとめ
子ども食堂子供食堂こども食堂といった記載がある。このブログでは便宜上子ども食堂で統一したがどれが正解なのだろうか。子ども食堂の運営はぜひ日本国内で広がって欲しいし、定着して欲しい。しかし、人の問題、金の問題、運用の問題など課題は多い。また、子ども食堂の運営は手段であって目的ではない。目的は貧困問題や貧富の格差の問題の解決や改善であるべきだ。その意味では、子ども食堂の運営をいかに発展・継続するかと、そこで子どもたちに何を学んでもらうのか、そして、いかに自立していくのかが大事なテーマのはずだ。海外での事例ではやはりフィンランドの成功例が目を引く。子どもに投資せずに国の未来はないと国民も政府を腹を決めて強化した。その成果は確実に出ている。無い物ねだりをするつもりはないが、30年後、50年後の日本社会が笑顔に溢れているのはどうすればいいのだろうか。課題は尽きない。

以上

最後まで読んで頂きありがとうございました。