LuckyOceanのブログ

新米技術士の成長ブログ

ベーイックインカムを考える:袋小路に入りそう(涙)

はじめに
大学院の研究テーマとして、ベーシックインカムに関するテーマを選ぼうと考えて、指導教授に相談すると、テーマが大きすぎると否定的な意見が多い。でも、デジタルマネーとか、地域を限定するとか、幸福論に絞るとかすれば、なんとかなるかもしれないという意見もある。正直ベーシックインカムMBAの研究テーマではないと思う。それは入学前の面接の時に自分から聞いたぐらいだけど、その時には教授陣からは反対の意見はなかった。今から、思えば、一人ぐらい、MBAではなく、政策創造科を受験してはどうかと勧める人がいてもよかったのではないかと思う。まあ、それは置いておいて、現時点での考え方のポイントを整理しておきたい。

1. 賛成の論点
 仕事の自動化が進み、必要となる労働が高度な業務と低度な業務に二分化する。高度な業務は残るがこれに対応できる人は少数であり、かつ優秀である。他の業務の多くは、自動化がペイしないしないような複雑だけど単純な労働であり、賃金の増加は見込めない。例えば、清掃とか、介護とか、警備とか。賃金がこのまま低下すると、経済の低下、治安の低下、モラルの低下が懸念される。しかし、一方で富の再配分やマネーの循環がなされれば経済は活性化する。そのためには、どのような手段が有効なのだろうか。候補の一つとして、ベーシックインカムがあるが、現在は財源の問題が大きい。そのため、ベーシックインカムを導入するにしても、段階的な展開が現実的だろう。

2. 段階的な展開
 ベーシックインカムの目的はなんだろうか。一つは深刻な貧困対策、次は、生活レベルの向上。そして、景気対策だろうか。財源問題を考慮すると、一般に言われているような月額7万円は厳しいだろう。

(第一段階:貧困対策)
 まずは、深刻な貧困に対する対応策を目的として、月1万円程度の支給を考えてはどうか。月1万円なら要らないという人もいるかもしれないが、月1万円でも貴重という人もいる。このレベルを限られたエリアで実施した時に、得られる効果を検証したい。これは受給者である国民のための対策だ。

(第二段階:景気の活性化)
 次は、月3ー5万円程度の支給により、消費が活性化されるかどうか。解消すべき課題は消費の活性化だ。支給した金額が市場を本当に活性化するのか、単に貯蓄に回るのか。消費が活性化すると企業の業績も良くなる。あえて言えば企業のための対策だ。

(第三段階:インフレ目標の達成)
 最後は、インフレ目標の達成のための支給だ。ベーシックインカムの支給額を増加した時に心配なのはインフレ懸念だ。逆に言えば、インフレの実現策として有効だということにある。インフレで喜ぶ政府のための対策だ。
 
3. 期待される効果
 ベーシックインカムをどのようなスキームで提供するかによって、副次的な効果が異なる。例えば、指定の銀行口座などに振り込む方法では副次的な効果は得られないだろう。しかし、円と互換性のあるデジタル通貨をコンソーシアムが提供することを考える。そして、政府なり市区町村がそのコンソーシアムに補助を出し、そのコンソーシアムが対象者にベーシックインカムとして毎月一定金額を支給する。このようなスキームとした場合に、例えば1万人に1万円を毎月出すなら1億円が必要だ。しかし、そのデジタル通貨が循環するとどうだろうか?仮にN回巡回するとすると、その実質的な流通通貨はN億円になるのではないか。そのコンソーシアムはN億円のデジタルマネーの利用のデータを管理する。このN億円の利用データのうち、エンドユーザの許可を得られる範囲でそのデータを分析することで、効果的なデジタル広告を打つことが可能だ。利用データの許可を与えたエンドユーザには広告代を原資として、ボーナスを支給できる。

4. 課題
 ベーシックインカムを実現する上での課題は山積している。

(課題1:労働分配率課税の導入)
 最大の課題は財源だ。個人的には、これの1番の財源はAIによる効率化を原資とすべきと考える。具体的には、労働分配率課税の強化だ。労働分配率とは、企業が得た利益から従業員の給与やボーナス、福利厚生に充てられた金額の割合だ。近年これが低下している。その理由はさらなる考察が必要だが、AIやロボットなどの導入が進むとさらにこれが低下すると想定される。これに対して課税する考えだが、議論百出だろうか。
f:id:hiroshi-kizaki:20200102192858p:plain
  出典:https://innovatenation.net/blog/2018/09/18/post-1436/

(課題2:既存権益者との利害調整)
 既存の利得権益事業者との調整や合意が可能かどうか。このようなデジタル通貨を提供することは、ある意味中央銀行市中銀行が独占的に提供していた機能を実現することになるためだ。

(課題3:過度なインフレの防止策)
 これは、全国レベルで第三段階に進んだ場合の課題だ。ベーシックインカムはスモールスタートとする必要がある。期待した効果を確認できなければ中止すれば良い。逆に、その効果が確認されると、徐々に増額される可能性がある。そして、支給する金額が増額されるほどインフレを誘起する懸念と可能性が高まる。政府にとっては、インフレは債務の実質返済額が目減りするため有効だが、既存の財産が目減りする影響もある。したがって、本格的にベーシックインカムを開始する時には、どのような事態になったりベーシックインカムの支給は中止するか、減額するか、増額するかを決めておくことが望ましい。しかし、これは難しい。

5. 結論
 当面は財源の問題も大きいため、地域を絞って、貧困対策としてベーシックインカムをトライアルとして導入するのが望ましいかもしれない。そして、その効果を確認した上で、金額をあげることや、地域を広げることを検討するのが現実的だろう。しかし、そのためには、候補となる地域で実際にデジタル通貨でトライアルをできるかどうかという問題になる。地域通貨のトライアルをしているところはそれほど多くはない。しかし、地域通貨が成功しているとも思えない。袋小路に入ることになるかもしれない。
                                  以上