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井上智洋准教授による講演と座談会

はじめに
FBを見ていたら、「ベーシックインカム」と「井上智洋」というキーワードが目に入った。調べると、6月23日の15時から文京シビックホールで開催されるというので、FBで参加表明したら、すぐにOKが返ってきた。参加すると、ほぼ満員と盛況だった。参加費用は1000円。井上智洋准教授の著書は何冊も拝読しているが、実際に聞いてみると、解説が非常にわかりやすかった。

日本経済復活の会
2003年1月に発足したらしい。小野会長が論者だ。ちょっとクセがあるように感じた。ナウル共和国ではリン鉱石の輸出で巨額の外貨を稼いだので、その収益を国民に配られた。年間2万ドル相当だったらしい。ナウルの生活水準を考えるとToo Muchだったのかもしれない。国民は働かず、肥満になり、失敗事例とされている。ナウルで年間2万ドルは多すぎだろう。反面教師としては有効だけど、日本がベーシックインカム(BI)を検討する上での参考になる点は少ない気がする。
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 出典:日本経済復活の会

井上智洋准教授のプロフィール
BIの論者だ。普段は駒澤大学経済学部の准教授で、専門はマクロ経済学だ。著書には、ヘリコプターマネー、人工知能は資本主義を終焉させるか、AI時代の新・ベーシックインカム論などが有名だ。
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 出典:https://aigakko2019spring.peatix.com

演題:ベーシックインカムの財源をどうするか?
財源の問題
ベーシックインカムの議論の入り口は常に財源論だ。例えば、一人に月7万円を支給するには100兆円の財源が必要となる。これは無理だろうという論者がいる。しかし、児童手当とか、雇用保険等で36兆円の支出を抑制できれば64兆円となり、このレベルなら最高税率を45%から70%に引き上げて消費税を25%にすれば補償できるという。
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 出典:https://okiku001.com/bi-resources/

諸外国の動向
1) フィンランド

 実験ベースで進めていたが残念ながら2018年度で終了している。
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 出典:What is There to Learn From Finland’s Basic Income Experiment? Did It Succeed or Fail?
2) インド
 検討が進んでいる。2020年度内にはいくつかの州で始まるだろう。
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 出典:Explained: How Rahul Gandhi's minimum income guarantee is different from universal basic income - FYI News
3) イタリア
 2019年4月から貧困層限定で始まっている。年収が110万円相当に届かない場合に、月9万4千円ほどを支給しているという。ユニークなのは、ユーロベースのミニBOTという方式を採用している。これは無利子の永久国債だという。再建ではあるが、ユーロの通貨と同様の機能を持つのでユーロから非難されている。
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 出典:Meet 'Mini-BOT': Italy's New Parallel Currency Plan | Zero Hedge


マイナス所得税
井上准教授は、財源の問題は富の再配分の問題だという。つまり、先の前提に立てば年収336万円の人がイーブンで、それ以上の人はBI以上の税金を支払い、それ以下の人は税金以上のBIを受け取る。例えて言えば、300円の牛丼を食べるときに、1000円払って、700円のお釣りを貰うのと、300円を払うだけの違いだという。つまりマイナス所得税が可能ならBIも可能だと言う。
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 出典:https://kotobank.jp/word/負の所得税-620067

税金と貨幣発行益
財源になるのは、税金だけではない。一万円札を発行する原価は20円ほどだ。この差分を貨幣発行益(シニョリッジ)という。しかし、貨幣発行益に依存するのも危険だ。懸念されるのはハイバーインフラだ。なので、井上准教授も、ハイパーインフレにならない限りと前提条件をつけている。
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 出典:http://f.hatena.ne.jp/shavetail1/20150831204327

固定BIと変動BI
毎月同じ金額を国民に支給するのが固定BIだ。BIの基本はこちらだ。今日の話では、これ以外に変動BIというのもあるようだ。つまり、景気の変動とか、財政の変動に応じて、国民に追加のBIを支払う考え方のようだ。そんなことも議論されているとは知らなかった。そして、固定BIは固定なので税金を財源とするべきだけど、変動BIは貨幣発行益を活用すべきという。
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 出典:https://blogs.yahoo.co.jp/metamorphoseofcapitalism/36567057.html

MMT
最近話題になっているのが、現代貨幣理論(Modern Monetary Theory:MMT)だ。MMTではマネーサプライが増加すると先述のハイパーインフレの懸念があり、そこに注意すべきだが、財政赤字拡大が景気悪化を招くものではないという。このような理論は、つまるところ、マネーは使われるかどうか=信用されるかどうか。お金は作れるが、大切なことは信用の維持だ。ハイパーインフレとは、ある意味その通貨の信用度が落ちたということと考えられる。仮想通貨(最近は暗号資産という)の世界の側からの財政論がMMTなのかもしれない。
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 出典:https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20190625/se1/00m/020/047000c

第二部の討論会
参加者は、「井上智洋」駒澤大学経済学部准教授と「田中潤」Shannon lab株式会社代表取締役社長と「小野盛司」日本経済復活の会会長だ。ベーシックインカムに関するテーマについてそれぞれの参加者から意見が出された。気になったのは次の点の議論だろうか。

仮想通貨(暗号資産)との関係
今後のベーシックインカムの支給方法については、既存のマネーを前提とするだけではなく、仮想通貨で支給もあり得るだろうという意見が田中社長から出されて。井上准教授からもスウェーデンではそのようなトライアルをしていると説明があった。休憩時間に私が質問した内容だ。

スウェーデンのトライアル
フィンランドベーシックインカムのトライアルは、政権の変更とともに残念ながら終了した。しかし、同じ北欧のスウェーデンでは、国会が仮想通貨としての「e-クローナ」を導入する計画が進められている。この通貨は2019年にパイロットテストを実施し、大きな問題がなければ、2021年にも本格利用に移行する計画だ。
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 出典:スウェーデンの国家仮想通貨「e-クローナ」:2019年中の運用テストを計画

まとめ
ベーシックインカムの世界の最前線の会議体に参加できたのはラッキーだった。最後にGAFAの是非が議論された。国有化は現実的ではなく、やはり独占禁止法を適用すべきだろう。しかし、現在の独占禁止法は収益に対して適用されるが、現在Googleが独占しているのはネット検索だ。収益は独占ではない。GAFAだけではないが、税金は利益に対して課税されるが、利益を上げようとしない企業がいる。要は富の集中と格差拡大が根本的な問題かもしれない。それを井上准教授は労働市場の逆流にもフォーカスされていた。

以上

最後まで読んでいただきありがとうございました。