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辻秀一先生のパフォーマンスマネジメントの講演を聞いて

はじめに
スポーツトレーナーの辻秀一先生の話を聞く機会があった。辻先生の結論は、第一の脳(頭)だけを酷使するのではなく、第二の脳(心)を穏やかにして良く生きろということだったと思う。

第二の脳
辻秀一先生の代表作(デビュー作)は「スラムダンク勝利学」だ。現在KINDLEで購入して読書中だ。一方、2010年に出版された下の「第二の脳のつくり方」が会心の作品と自画自賛されている。本人が言われるので間違いはないだろう(笑)。自分はまだ読んでいないけど、心や脳、パフォーマンス、ライフスキル、フローなどについて理論的に解説されているという。
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 出典:http://www.doctor-tsuji.com/creations/special/daini/#sthash.6eiAJHOb.dpbs

パフォーマンスマネジメント
辻先生のミッションは、スポーツマンがパフォーマンスを最大限に発揮できるように体と心を整えるサポートをすることだ。辻先生は何度か「パフォーマンスマネジメント」という用語を使われていた。少し調べて見ると、パフォーマンス・マネジメントとは、2014年にISOで正式に定義された概念だ。従来の管理手法は、目標設定に基づく管理(MBO)だが、過去に設定した目標を達成しても、目の前の勝負に勝てるとは限らない。この新しい概念は、マネージャーのミッションが、メンバーに目標に沿った行動を起こさせることではなく、やる気や活力を与え、メンバーが自律的に能力を発揮できる仕組みを作ることだという概念だ。
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 出典:管理職向けパフォーマンス・マネジメント研修

病んだ人と悩んだ人
病院で治療するのは病んだ人。そして、辻先生が対象としているのは悩んだ人だと説明されていた。大学を卒業して従事した慶應大学病院はかなりブラックだったようだ(笑)。参考にネットで病んでいる人の特徴と対処法が示されていた。そのポイントのみを列挙すると次の通りだった。病んでいる人に頑張れと言ってはいけないというのは、エンリケの指摘とも一致する。
1) 病んでいる人の特徴:目の焦点があっていない。表情が乏しくなる。他人に対してネガティブな発言が増える。人に会うことが億劫になる。清潔感がなくなる。体形の劇的な変化があった。
2) 病んだ人への対象法:とにかく話を聞く。傍に寄り添う。気持ちを汲んであげる。
3) やってはいけないこと:頑張れやもう少しだなどの励ましの言葉をかける。病んでるよという。死ぬのはいけないと諭す。
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 出典:https://www.tukishiro01.com/entry/yanderu_taisyo

スポーツは文化
辻先生は、スポーツは体育ではなく文化だという。なぜ日本では体育の日と文化の日が分かれているのか。スポーツは文化だと熱弁を振るわれていた。なぜ、オリンピックの記念に設定されたのが体育の日なのだろう。文科省のホームページでは、「スポーツは、人間の体を動かすという本源的な欲求に応えるとともに、爽快感、達成感、他者との連帯感等の精神的充足や、楽しさ、喜びを与えるなど、人類の創造的な文化活動の一つ」だ。そして、スポーツで可能性を追求することはビジネスの世界で可能性を追求することにも通じると説いている。それなら文化の日にすべきだったとなる(^^)
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 出典:1 競技スポーツは人類の創造的な文化活動の一つである:文部科学省

メンタルタフネス
辻先生は心のタフネスと呼んでいた。それは内容x質だ。内容とは「何を」だ。質とは「どんな心」だ。心には上機嫌と不機嫌がある。上機嫌のことをFlowという。いわゆるゾーンに入るという状態だ。自然体だ。逆に不機嫌とは、Non Flowだ。非常にストレスのかかっている状態だ。心を自然体にするには、どうすれば良いのか。揺るがず、とらわれないことだという。下の図のように、現実社会では環境にも影響を受ける。対人関係にも影響を受ける。ストレスは悪いことではない。しかし、ストレスが過大になって暴走すると病の原因にもなりうる。心穏やかに、何事にも囚われないことが大事だ。
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 出典:http://j-net21.smrj.go.jp/well/jinzaikatsuyou/lecture/entry/2010110101.html

ゴルフとメンタル
ゴルフはメンタルなスポーツだとよく言われる。確かに、池に入るのが嫌だなあと思うと、池に入る。私も、ショートホールで、池に浮かぶ水鳥にボールが当たると痛いだろうなあと考えながらグリーンにショットしたら、グリーンに向かったはずのボールが大きくカーブして、その水鳥に激突した。水鳥はまさかボールが飛んでくるとは思ってもいなかったようだ。「ボスっ!」と鈍い音がした。まるで星飛雄馬が投げるダイリーグボール1号ではないか。本当にびっくりした。ゴルフは、理屈(=左脳)とイメージ(=右脳)の両方を機能させることが必要だ。実際にアドレスに立つまでは、距離やその日の調子や飛距離や風などを計算する。安全係数やリスク値を計算する。ベストスコアはほぼここで決まる。そして、アドレスに立ったら、あとは、どんなボールで攻めるかをイメージする。水鳥を直撃するようなボールをイメージするのは最悪だ。最近は、多少勉強したので、次のようなイメージを心がけている。最後に「嫌だなあ」とすることで、肩の力が抜けて、意外と結果オーライになることが多い。
・250ヤード先までビューンとまっすぐ飛んでいくボールになると嫌だなあ。
・グリーンの真上からどんとピンに向かって、バックスピンで戻るようなショットは嫌だなあ。
・アプローチでトーントーントントンスーとスライスラインでピンに向かうボールは嫌だなあ。
・あのラインに沿ってスーと転んでコロンとホールインするのは嫌だなあ。

心と脳
辻先生は、心を第二の脳と呼ぶ。しかし、心は脳ではない。心は頭脳にあるものではなく、腸に支配されていのではないかと思う。いわゆる腸内細菌とかフローラと呼ばれるものがホルモンを放出し、それが心になるのではないだろうか。腸内細菌が性格に影響を与えることは、マウスの実験でも確認されている。社交的なマウスと、非社交的なマウスの腸内細菌を作り、社交的なマウスの腸内細菌を別のマウスに移植すると性格が変わる。最近では、頭部のMRIスキャンを見るとマイクロバイオームの組成が指紋のように判別できるらしい。生物の進化の歴史を言えば、脳は第二の腸というべきかもしれない。
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 出典:https://lab.mykinso.com/syohyo/20171031_1/

ストレスと付き合う
現社会は刺激が多い。多すぎる。ストレスフルだ。下の図で言えば、左上の○のゾーンで日々頑張る人が多い。今日やることや、今月の目標、PDCAを回すことや、そんなことと日々奮闘している。そして、それに疲れると、もう逃げたくなって、右下の△のゾーンに逃げてしまう。そうではなくて、日々の活動を自律的にしながらも、心を穏やかににして◎の状態を維持することが重要だ。しかし、これは簡単ではない。◯から◎に移行するのが難しかったり、辛かったら一度何もしない状態で休息(✖️)して、心を穏やかにして(△)、それからまた頑張る(◎)ような遠回りをしてもいいだろう。心を穏やかにコントロールするにはスキルと訓練が必要だ。
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フローの持ち方とライフスキル
辻秀一先生の教えに戻りましょう。辻先生は、心を穏やかにするには、練習が必要だという。具体的にはPART1からPART5まで多岐にわたるが、そのポイントのみを紹介したい。これを実践するワークショップも開催されている。あなたも参加しますか?
PART1:ごきげんな状態になる。まずベースとなる人間の心の“法則”を理解する。この法則を知ることで、相手の心の状態を察することができる。
PART2:感情を自ら切り替える自分になる。行動に大きな影響を及ぼす“感情”について学ぶ。ごきげんをつくる技術を身につけると、感情に振り回されにくくなる。イライラしている状態を客観視したり、ワクワクした感情を感じる。
PART3:
自分の能力を最大限発揮する方法を知る。脳には心をごきげんにする使い方もある。ごきげんスイッチが入る簡単なワークを行う。掃除をしながら、トイレに入りながら、電車にのりながらでも可能だという。 
PART4:もっと気分がよくなる思考習慣をつける。耳に入れる言葉で心ができる。自分の心をごきげんにする言葉と脳の使い方を知る。思考の習慣を書き換えたり、仕事で成果を出したりすることができる。
PART5:人生の質を決める脳の機能を高める。ごきげんな心をつくるための、9つの思考法があるという。この思考法を身につければ、自分がいかに視野が狭いのかに気づく。その結果、周囲との関係が良くなる。“いい心の状態”にすることは、行動の質をあげる事になる。人生を左右するごきげんの重要性を理解する。
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 出典:辻秀一&やましたひでこ「フローマインド入門プログラム」

よくある誤解
1) ポジティブシンキング
:何かの事象を肯定的に理解できる人は心が強いかもしれない。しかし、だからと言って、なんでも肯定的に理解しなければいけないという考え方を強制するべきではない。無理に肯定的に理解しようとしても、それは心が疲れて、しんどいだけだ。
2) すぐに行動する:思い立ったら吉日という。行動は早い方が良い。でも、なんでもかんでもすぐに行動できるとは限らない。できないこともある。
3) 気にしない:気にするなと言われるほど気になるのが常だ。こだわらない心で気にならない状態に身を置くのは良い。でも、意図的に気にしないようにすること自体が気にしている証拠だ。

可塑性
講演の中で辻先生は「カソセイ」という用語を使われていた。その時はよく分からなかったが、多分「可塑性」だろう。可塑性とは、コトバンクによれば、「固体に外力を加えて変形させ、力を取り去ってももとに戻らない性質。塑性。」と言う。同様なことは脳機能においても発生する。例えば、下の図のように一般道路を車で運転しているのは普通でも、高速道路で高速走行に慣れた後に一般道路に戻った時には景色がゆっくりに見える。これが認知の可塑性だ。
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 出典:脳は慣れる-可塑性と汎化作用

まとめ
心を穏やかにすることは自分自身のためだけではなく、家族や会社や社会においても大切だ。他人の感情をコントロールすることは難しいが自分自身の感情はコントロールできるはずだ。そして、多くの人が心穏やかにすれば、相手にも影響を与え、結果的に自分にも戻ってくるのかもしれない。海外の一流スポーツ選手はメンタルが強いなあと感じることがある。2020年の東京オリンピックパラリンピックでは日本の選手にもぜひ日頃の能力を発揮して活躍してほしいと思う。でも、そのためには心技体のそれぞれを育てることが必要なのだろうなと改めて感じた。また、他人の心は制御できなくても、自分の心は制御できるはずだ。実際に実行するのは簡単ではないけど、まずはその仕組みを理解して、少しでも心がけると前進するかもしれない。非常に興味のある講演だった。

以上