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シラス統治とウシハク統治からゴーン事件を考える

はじめに
今週はカルロス・ゴーン氏の事件で新聞やテレビの報道が盛り上がっている。日産自動車(以下「日産」という)が経営危機に瀕したときには、ルノーが出資に応じ、ゴーン氏が日産COOに着任し、鮮やかにV字回復したのが1999年の頃だ。あれから20年経過したが、ゴーン氏の統治力は陰るどころかますます強固なものとなっていた。フランス政府は持株会社を設立し、その持株会社の元でルノー三菱自動車と日産を統治しようとしていた。日産がこれにノーを突きつけるために日本政府を巻き込んでゴーン氏の逮捕劇を演出したのが今回の流れのように見える。今回の事件をシラス統治とウシハク統治の観点で考えてみたい。

ルノーと日産・三菱自動車の資本関係
日本経済新聞では、ルノーと日産・三菱自動車の資本関係をしたの図のように報道している。これは、ゴーン氏がCEOを続投することを仏ルノーが2018年2月15日に発表したことを報道した時のものだ。これで見ると、ルノーが日産に43%を出資し、日産がルノーに15%を出資していることしかわからない。
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 出典:日本経済新聞(2018年2月16日)

日産とルノー合弁会社
ルノーと日産は資本交換しているように見えるが対等ではない。ルノーは日産の43.4%の株式を所有していて議決権を有するが、日産自動車が所有する15%のルノー株式は議決権のないものだ。また、ルノーと日産は折半出資で合弁会社を設立している。具体的には購買部門と情報部門の機能を持っている。端的に言えば金と情報をアウトソースさせられてる。ちなみに、ルノーの投資額は1999年当時で66億ユーロだが、日産からの配当が年間600億円としてほぼ10年で回収済みとなる。2013年時点で日産の総資本は倍増していて、ルノーの総資産2.3兆円のうち日産の総資産は1.8兆円と日産の価値に依存している。
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 出典:kenan-flagler(参考1)

日産とルノーの経営陣の顔ぶれ
下の写真は2014年当時の日産とルノーのボードメンバーだ。驚くことにこの写真に掲載されている両ボードメンバー9名のうち日本人は日産の西川(さいかわ)さんだけだ。日産のホームページでも2018年11月22日現在で社外取締役を除く取締役6名のうち日本人は3名となっている。ちなみに、2014年の集計だが、ルノーの販売車両台数は270万台で、日産自動車の販売車両台数は530万台の半分ほどだ。Wiki(英)にもルノーは効率的に日産自動車を支配していると記載されているが、その通りだ。
 社長兼最高経営責任者 西川 廣人 (さいかわ ひろと)
 取締役 坂本 秀行(さかもと ひでゆき)
 取締役 志賀 俊之 (しが としゆき)
 社外取締役 Jean-Baptiste Duzan (ジャンバプティステ ドゥザン)
 取締役 Bernard Rey (ベルナール レイ)
 社外取締役 井原 慶子 (いはら けいこ)
 社外取締役 豊田 正和 (とよだ まさかず)
 取締役 Carlos Ghosn (カルロス ゴーン)
 取締役 Greg Kelly (グレッグ ケリー)
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 出典:kenan-flagler(参考1)

ルノーの組織図
細かくて恐縮だが、ルノー側から見たルノーの組織図で見ると、日産自動車は左上のほんの一部だ。グローバル戦略は完全にルノーが支配している。まあ、ルノーが戦略を考えて、日産が生産するのは最強のコンビかもしれないが、それはルノー日産自動車が対等でWIN-WINの場合だろう。現状は、ルノーに利益を吸い取られる構造にあるのではないだろうか。
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 出典:kenan-flagler(参考1)

シラス統治とウシハク統治
古事記をしっかりと読んだことがないが、古事記には、「汝がうしはける葦原中国は、我が御子のしらす国である」という一文があるという。これは我が国はシラス統治であり、ウシハク統治ではないという意味となる。ウシハク統治とは、権力者が権力関係に基づいて民衆を統治するものだ。一方、シラス統治とは、最高権威(=神)が存在し、民衆は神の大御宝(おおみたから)であり、その統治を神が権力者に親任するという構図だ。日本以外の国はウシハク統治であり、日本のみがシラス統治であるという。現代語古事記を著した竹田恒泰氏によれば、神や天皇から統治権を受けて、実際の政策を決定する責任者がウシハク者であり、征夷大将軍や現在なら内閣総理大臣がこれに当たるという。
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 出典:006 シラスとウシハク - YouTube

日本的経営とグローバル経営
日本的な経営とは家族経営だ。日産自動車は2万人の従業員をカットしてV字回復したが、これと対極なのがトヨタだ。トヨタは1950年代の首切りを除いて、今までリストラをしていない。1950年代に経営危機に品したときには、1600人の解雇を条件に銀行から融資を受け、その責任をとって当時の豊田喜一郎が社長を退陣している。日本企業では、社員は家族だという考え方があった。これは先の表現を借りれば、トヨタをはじめ日本の企業はシラク統治だったと言えるのではないだろうか。しかし、それゆえに当時の日産の経営陣には社員を解雇することができずゴーン氏に頼った。そして、ゴーン氏をはじめ欧米のグローバル企業はウシハク統治が当然だ。社員のコストは低くして、生産性を高め、その結果としての利益を株主が支配する。ウシハク統治を当然と考える欧米人にはルノーが日産を支配して利益率を高めることに違和感を感じないだろう。
 出典:人を切らないトヨタの家訓「金を使わず知恵を出せ」 背景にたった一度の痛恨事件 (1/5ページ) - SankeiBiz(サンケイビズ)

企業は誰のものか
現在の商法に基づけば企業は株主のものだ。そして、株主の利益を最大化することが良い経営者だとなる。しかし、この図式だと社員はどのような位置付けになるのだろう。社員のコストパフォーマンスを高めることが経営者の責務となるのではないだろうか。貧富の格差が社会的な問題となっているが、その根本は現代の社会がウシハク統治になっているためだと小名木さん(通称ねずさん)は指摘する。国民こそが天皇の大御宝(おおみたから)というシラク統治の考え方が企業統治にも適用されるのであれば、企業の経営者は天皇から社員の統治を信任されている権力者であり、社員の幸せを第一に考えるべきとなるのだろうか。

日産自動車は自立できるのだろうか
話を日産自動車に戻す。今回の事件は有価証券報告書への虚偽記載の罪となる。罰せられるのは虚偽の有価証券報告書を作成して提出した代表取締役である西川社長であり、ゴーン前会長だろう。これはもう肉を切らせて骨を断つという切羽詰まった戦略のように感じる。代表自身が罰せられるリスクも、会社が上場廃止になるリスクも覚悟でゴーン会長を退任に追い込むことを選択した。西川代表が罰せられないのは特捜が司法取引に応じたためだという。しかし、この後どのように日産自動車を経営するのかのビジョンが見えない。

今後の選択肢
西川代表は今後どのように日産自動車の経営の舵取りをするつもりなのだろう。門外漢だが、選択肢としてはまず次の3つが思い浮かぶ。
 選択肢1:ルノーとの株式交換は継続し、ルノー・日産グループとしてグローバル経営を進める。
 選択肢2:ルノーとの株式交換を解消し、日産自動車として独自経営に舵を切る。
 選択肢3:ルノーとの株式交換は継続するが、日産自動車としての独自色を強める。
選択肢1はほぼ現状通りだ。この戦略で行くなら今回のような騒動に持ち込む必要はあったのであろうか。それともドラスティックに選択肢2に進むのだろうか。ルノーとの合弁解消をルノーやフランス政府がすんなりと合意するとは思えない。交渉が長期化した場合には、社内・社外への影響は大きい。お家騒動で経営が行き詰まった大塚家具のようになる危険がある。最後の選択肢3は中途半端だ。ゴーン氏がどれだけの収入をもらっていたとか、虚偽記載をしたとかに焦点を当てた報道が多いが、今後日産自動車が日本企業として生き残ることができるのかどうかが大きく問われているのではないだろうか。

まとめ
ゴーン氏の収入の多さも驚きかもしれないが、それよりも日産自動車ルノーの経営戦略がどうなるのかに関心を持つ。日本人の感情としては、無意識のうちにシラス統治を望んでいるのに、現状がウシハク統治になっていることに対する不満が渦巻いているようにも感じる。武田邦彦氏によれば憲法国民主義だが、商法は資本主義であり、憲法と商法で齟齬があるという。憲法はシラス統治で、商法はウシハク統治ということか。しかし、現実の社会はウシハク統治に向かっている。シラス統治に切り戻すことは簡単ではない。資本社会においては綺麗事だと一刀両断されるだけだろう。共産主義は論外だけど、本当に資本主義が望ましいのか、それとも憲法で謳うように国民主義に戻すべきなのかを問われているのかもしれない。これは深く難しい問題だ。

以上

参考1:http://public.kenan-flagler.unc.edu/faculty/bushmanr/Renault-Nissan%20Alliance%20Case%20latest.pdf