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労働安全衛生マネジメントシステム:ISO45001を考える。

はじめに
ISO規格をご存知でしょうか?有名なのは品質マネジメントシステムに関するISO9000シリーズだろうか。そもそも、ISOとは、国際標準化機構(International Organization for Standardization)の略だ。スイスのジュネーヴに本部を置く非営利法人で1947年(昭和22年)2月23日に設立された。日本のJISは国内規格だが、ISOは国際規格(international standard=IS)だ。ISOは単独で規格を提示する場合もあるし、ISOとIECが合同で規格を開発する場合もある。例えば安全のためのガイドラインとしてISO/IEC guide51が標準化されている。
 出典:https://www.sis.se/api/document/preview/917199/

ISO45001(労働安全衛生マネジメントシステム)入門セミナー
ISOの規格としては、すでに本年3月にリリースされている。これに対応したJIS規格が9月28日にリリースされる計画だ。日本品質保障機構では、このJIS規格のリリースに先立ってセミナーを開催したのでこれに参加した。簡単にポイントを報告しておきたい。

最近の労働災害の動向
1974年(昭和49年)には347千人の死傷者(休業4日以上)が発生していたが、2014年(平成26年)には119千人まで減少している。しかし、直近で見ると、平成29年度の死傷者数は114千人であり、平成28年の112千人よりも逆に増加している。

労働災害の減少傾向が反転した理由
労働災害の撲滅に対する改善施策を進め、マクロ的にはその効果が出ているものの、労働災害を増やす要因が近年増えていることも注意する必要がある。例えば、従業員の高齢化、正社員の減少と派遣社員の増加、下請け・孫請け、技能や知識の伝承が困難なためだ。

労働災害の事後的対応から系統化された仕組みへ
災害や事故が発生したときには、撲滅対策が検討されて、実行されるが、これはいわば行き当たりばったりの活動だ。そうではなく、そもそも事故が発生しないような仕組みを導入し、実現することが重要という認識だ。この認識で検討が進められているのがISO45001だ。

OHSMS(オームス)の導入
安全衛生活動を持続するための労働安全衛生的管理システムをOHSMS(Occupational Health and Safety Management System)だ。

日本的考え方と欧米的な考え方
日本では、災害の主原因を人間に求める傾向があり、技術的な対策も人の教育が重視される。安全衛生法では、人や施設の安全化を目指し、災害が発生するたびに規制が強化される。また、安全に対するコストは認めにくく、最低限のコストで対応する傾向がある。一方、欧米では、災害問題は技術的な問題と感が、人の教育よりも技術的な仕組みの改善を優先する。安全対策にコストがかかるのは当然として、対策を投資と考える。

ISO45001の特徴
労働安全衛生法では、労働者の安全を守ることを主眼としているが、ISO45001ではトップマネジメントを含めて働く人を定義し、事故を未然に防止するためのPDCAを回す仕組みを作ることを主眼としている。

労働安全マネジメントシステムを導入することのメリット
関係者の役割や権限を明確にし、運用上の課題を示し、問題が顕在化する前に解決することを目指す。リスクアセスメントを行うことで取り組む優先順位を明確にして、効果的な投資を実現する。

ISO45001の開発経緯
そもそもの発端は2013年10月で、第一回PC283会議だ。その後、検討が進み、2018年3月に国際規格(IS)が発行し、2018年9月28日にJIS規格が発行する予定だ。規格の検討の途中では、2016年5月には3000件の不承認コメントが発生したが、これに対する検討を進めた。2017年9月には2000件のコメントが発生したが、これは基本先延ばしにすることで規格の成立を優先した。仕組みの実現を目指すISOと規格を守らせようとするILOは意見が食い違うことが多いようだ。

ISO45001の特徴
その1)手順ではなくプロセスを重視
 具体的な手順を作成すると形式的な文書が増大する。ISO45001では手順ではなく、手順を含むプロセスを明確にすることを重視する。

その2)働く人(Worker)
 いわゆる現場で働く人労働者だけではなく、組織の管理層やトップマネジメントまでを含めて働く人と定義している。これは労働災害を撲滅するにはトップが本気になって取り組むという姿勢が非常に重要という認識からだ。

その3)PDCAを回す
 危険源やリスク、機会を評価し、起源源の除去やリスクの低減・変更、緊急事態への備えや対応を行う。特に大事なのは、インシデントの調査や不適合のレビューを行うことでPDCAを回すことだ。

その4)安全文化の醸成
 これは非常に日本的な印象を受けるが、欧米の企業においても労働安全を重視する社風をいかに実現するかが重要だと認識しているためだ。安全文化を醸成するには、労働者だけではなく、トップマネジメントを含めて働く人が強力なして取り組むことが重要だ。

その5)トップマネジメントのリーダシップとコミットメント
 従来の労働安全は、労働災害の発生を未然に防止するための管理の規定を定め、その規定を遵守することを求めている。ISO45001ではそれに加えて、トップマネジメントが安全衛生方針を確立し、コミットすることの重要性を重視している。例えば、その中には、次のような項目がある。
  ・労働安全衛生法文化を形成し、主導し、推進する。
  ・働く人が危険源やリスクを報告する場合に、報復から擁護する。
  ・働く人の協議および参加のプロセスを確立、実施する。
  ・安全衛生委員会を設置し、機能することを支援する。

まとめ
ISO45001に関する理解度がまだ低いので、十分にポイントを整理できたかどうか不安だ。ただ、今後、ISO45001に関する対応を求めらえる人もいるかもしれない。労働災害の原因を人に求めるのではなく、仕組みに求めるというのは理解できるし、日本社会の課題かもしれない。少しでも参考になる部分があれば幸いだ。

以上