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日本人の起源:日本酒の現状と将来への展望

はじめに
 寒い日にはおでんに熱燗が恋しくなる。先日訪問した高山では「夏子の酒」のモデルになったという蓬莱「亀の尾」をお土産に購入した。もったいなくてまだ頂いていない。お正月にでも家族で頂こう。自分が若かった頃の日本酒は飲みすぎると翌日は頭がズキズキしてもう大変だったけど、最近のお酒は本当に美味しい。二日酔いもない。何が変わったのか。そもそも日本酒はどのようにしてできたのだろう。日本酒の将来は明るいのだろうか。そんなことを調べてみた。また、今回も長文になってしまった。ご容赦ください。
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(出典:筆者が撮影)

目次
 1. アルコール飲料の需要動向
 2. 日本酒の定義と嗜好
 3. 日本酒の起源
 4. 日本酒の進化
 5. 日本酒の将来展望

1. アルコール飲料の需要動向
1.1 ビール好きの日本人
日本人が最も好きなアルコールはやはりビールだ。宴会でもビールでの乾杯が定番だ。しかし、二番手は微妙だ。かつては日本酒だったが、最近ではサワーなどのリキュール類も増加している。

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(出典:左はNIFTYニュース/参考1、右はSPEEDA/参考2)

1.2 ワインが日本酒を追い越すか
1995年の消費を100にするとビールよりも安い発泡酒がブレイクしたが、2003年ごろをピークに減少している。逆に2005年頃より増加しているのがリキュール類とスピリッツ系だ。右の図はワインとビールの消費数量の推移を対比したものだ。1990年当時には日本酒はワインよりも10倍程度多かったが、その後日本酒が減少する一方で、ワインが増加し、2015年には1.5倍程度まで減少している。日本酒は大丈夫か!

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(出典:左はSPEED/参考2、右はノムリエパパのワイン日記/参考3)

2. 日本酒の定義と嗜好
2.1 淘汰される製造酒造
下のグラフは日本における酒造数の推移だ。戦前の昭和15年には7000あった酒造が戦後の昭和20年には半分以下の3160に減少した。しかし、その後、戦後の復興とともに増加し、昭和30年には4021まで復活したが、平成22年には1600まで半減した。。日本酒離れが進み、製造量も昭和48年には971万石(約145億トン)から現在は3分の1以下に減少している。

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(出典:多酒創論、参考4)

2.2 ターゲットは20代女性
下の図は日本酒を飲むかどうかを1000人に質問し、飲まないと回答した人に、「飲んでみたい?」と聞いて、飲んでみたいと思うと回答した人の比率だ。男女別年代別に調査したものだが、20代の女性のうち約40%は飲んでみたいと回答している。日本酒がおしゃれでおいしいものと認知され始めているのかもしれない。これからのターゲットは20代の女性かもしれない。

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(出典:クロスマーケティング、参考5)

2.3 日本酒の定義
日本酒はその精米の歩合アルコールの添加具合清酒の種類が定義されている。つまり、簡単に言えば、アルコールが10%超添加されたものは普通酒、それ以外は精米歩合が高いと特別とか、吟醸酒とか、大吟醸と名乗れる。さらにアルコール添加がないと純米を加える。したがって、お米の中心のおいしいところのみを使い50%以上を精米してしまい、かつアルコールを添加していないのが純米大吟醸酒となる。高山でお土産に買った「亀の尾」は精米50%の純米大吟醸となる。平成15年までは単純な精米歩合と使用原料で組み合わせだったが、現在の純米酒精米歩合の規定が外されているので、下の図のようになる。また、特別純米酒特別本醸造酒というのは、無農薬米を使っているtか、山廃仕込みとか、木桶絞りとか特別な製造手法を採用したものだが、明確な規定はなく、各酒造の判断に依存している。
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(出典:SPEEDA総研、参考5)

2.4 糖度と酒度
日本酒は、酸度酒度の組み合わせで辛口とか、甘口を定義している。まず、日本酒度は糖分が多いほどマイナスの値を示し、辛口になるほどプラスの値を示す。これは糖分を比重計で測定するためだ。一方の酸度は、有機酸の量を示し、酸度が高いほど切れやコクが増す。先の亀の尾は酒度が+2で酸度が1.2だ。個人的には、この亀の尾のような淡麗辛口あたりが好きだ。どれを美味しいと思うかは個々人の嗜好だが、酒度の全国平均は高い数字に上振れしている傾向にある。
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(出典:化学工学会新潟大会、参考6)

2.5 増大する純米酒市場
同じ日本酒でもアルコールを添加しているお酒は減少傾向にある一方で、アルコールを展開しない純米酒は増加傾向にある。下の図によると平成16年度には約14%だった純米酒平成26年度には22%まで8ポイントも増加している。昔のべたっとしたお酒は飲みたくないけど、最近の美味しい純米酒は個人的にも本当に美味しいと思う。あと、ワインは価格と品質(=満足度)の相関関係が難しいが、日本酒の場合には高いお酒ほど満足度が高い。しかも、ワインほど投機的な高価ではなく、適正な価格なのが嬉しい。日本の品質管理の秀逸さを純米本醸造酒などでは本当に実感する。少し、脱線するが、長男が誕生した時に、渋谷のフーズショーという地下街に行って、花の舞という純米大吟醸酒を購入した。正確な値段は覚えていないが、一升瓶が4千円ほどなのに、4合瓶が1万円ほどだった。なぜかといえば、4合瓶の方はナンバリングが付与された限定品だった。義父と長男の誕生を祝って飲んだところどちらも美味しい。何が違うかというと4合瓶の方は雑味がないのだ。まったく音のない無音の状態で最上級のバイオリンの音色を聴くような感じだ。一方の一升瓶は音色は最高なのだが、何となく雑音を感じる。そんな違いだった。後で、酒屋さんに聞いたらその通りですよと教えてくれた。

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(出典:多酒創論、参考7)

2.6 好みはそれぞれ
酒には、甘・酸・辛・苦・渋の五味があるという。つまり、あまい、すっぱい、からい、にがい、しぶいの5つである。日本酒の味は微妙だが大雑把にいえば、この5つの味が混然一体となった調和こそ酒の醍醐味だろう。しかし、あえて香りの強さを縦軸、味の濃さを横軸にしたものが左の図だ。また、日本全国でお酒を醸造しているが、都道府県別酒度の平均値が右の図だ。これ以外にも酒の若さで味わいが変わる。ひやおろしや荒ばしり、生酒はフレッシュだ。無濾過や雫酒は濃厚な味わいだ。熟成タイプや生酛(きもと)系は落ち着いた風味になる。また、酒の肴との関係もある。懐石風の煮物や刺身類なら冷淡辛口がいいかもしれない。焼肉や煮魚なら芳醇辛口か芳醇甘口で対抗するのがいいかもしれない。どんな日本酒がいいか悩んだらお店の人や唎酒師などのプロに聞いてみるのも方法だろう。

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(出典:左はSAKE蔵/参考8、右は永井本屋/参考9)

3. 日本酒の起源
3.1 揚子江起源説
日本酒の起源を考えてみよう。中国の揚子江の流域では、紀元前4800年ごろから稲作が始まったという。そして、ここで造られた米酒が日本に輸出されたのが日本酒の起源とする説もあるが定かではない。

3.2 考古学的アプローチ
紀元前1000年前後の縄文式竪穴から酒坑(しゅこう)が発見されたという。この酒坑には、クワやキイチゴ、サルナシなどの果実の断片とともに、発酵したものに集まるショウジョウバエの仲間のサナギが見つかったという(参考10)。日本酒というよりは、ワインの起源と言ったほうが良いのかもしれない。

3.3 中国の思想書「論衡」での記述
日本の酒に関する最古の記述は中国の思想書論衡だという。これは西暦1世紀ごろに書かれた記録であり、成王の時代(紀元前1000頃)に「倭人は鬯草を貢す」と書かれている。鬯草とは、酒に浸して作った薬草なので、その頃には酒が日本に存在したという証左になっている。3世紀ごろの魏志倭人伝においても、倭人は「人性嗜酒」と書かれていて、喪に当たっては弔問客が歌舞飲酒する風習があったようだ。詳細は不明だが、酒と宗教が深く関わっていたようだ。

3.4 日本書紀古事記での記述
ヤマタノオロチに関して、日本書紀では八岐大蛇として記録されており、古事記では八俣遠呂智と記述している。内容はほぼ同様だ。高天原を追放されたスサノオノミコトが出雲の国に降り立つ。そして、ヤマタノオロチという8つの頭と8つの尾を持つ怪物を退治したら櫛名田比売(くしなだひめ)と結婚する約束をした。怪物を退治するために、非常に強い酒(八塩折之酒)を8つの酒樽に満たすように指示する。そして、怪物が8つの頭をそれぞれの酒樽に突っ込んで酒を飲んで酔っ払っているところを十拳剣で切り刻んだという。また、その時に怪物から大刀が出てきた。そして、この大刀を天照御大神に献上した。これがいわゆる三種の神器の一つである「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」だ(参考11)。

4. 日本酒の進化
4.1 縄文時代の有孔鍔付土器(ゆうこうつばつきどき)と果実酒
下(左)の写真は、南アルプス市で発掘された有孔鍔付土器で、国の重要文化財に指定されている。下(右)の写真は、縄文時代中頃(約4500年前)のもので久保上ノ平遺跡の発掘調査で発掘された。いずれもどきに小さな孔が空いているのが特徴だ。この土器はお酒を作るために使われていた説がある一方で、太鼓として使っていたという説もある。いずれにせよ縄文時代にこれほどの土器を作るとは縄文人は只者ではない
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(出典:左は山梨デザインアーカイブ/参考12、右は南箕輪村/参考13)

4.2 口噛み酒と巫女さん
映画「君の名は。」でヒロインが口かみの酒を造ったというシーンがあった。この口かみの酒は、麹菌を使う前の古代の酒の造りだったという説がある。つまり、でんぷん質の植物を噛むと唾液によりでんぷんが糖化する。それをためておくと野生の酵母が糖を発酵させてアルコールができる。古代の日本やアイヌ、沖縄に加えて、中南米やアフリカなど世界各地で見られるという。また、モンゴルや沿海州でも米を原料とした口かみ酒を作っていたという記録(魏書)があるという。面白い。日本では、縄文時代には米の口かみ酒があったと考えられるが、8世紀初頭に書かれた古事記日本書紀には口噛み酒の記述が見られない。つまり、弥生人の文化ではないということではないか。沖縄では、泡盛が普及するまでは口噛み酒が一般的で、近代まで祭事用に口噛み酒をつくっていたという。このような酒をウンサクやミキといい、宮古ではミキ、八重山ではミシャグやミシュという。いずれも「神酒」としての意味合いがある。大和や台湾では、口噛み酒は神事用に造られ、原料を口で噛む人間が巫女(処女)だったという(参考14)。
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(出典:Wiki、参考14)

4.3 八塩折の酒(やしおりのさけ)と貴醸酒(きじょうしゅ)
下(左)の写真は島根の國暉酒造が醸造する「八塩折(やしおり)之仕込というお酒だ。この命名は、ヤマタノオロチが飲んだという「八塩折の酒」に由来している。つまり、何度も繰り返し醸造した濃いお酒だ。下(右)の写真は貴醸酒(きじょうしゅ)だ。日本酒は米100に対して水130を使うが、貴醸酒は米100に対して水70と酒60を使う。この仕込み酒は、三段仕込みの最終段階にある留(とめ)にためる。初めから終わりまですべて貴醸酒の古酒で仕込んだ貴醸酒も存在する。貴醸酒の名付け親は開発者の故佐藤信博士である。開発のきっかけとなったのは昭和48年の国賓の晩餐会だ。こういう時に使えるように開発したのが「清酒を原料とする清酒」だ。ロンドンで毎年International Wine Challenge(IWC)が開催されているが、そのSAKE(清酒の部)の古酒の部でこの貴醸酒は毎年金賞を受賞するなど海外で高く評価されている。
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(出典:左はSAKETIMES/参考15、右は食器と容器/参考16)
5. 日本酒の将来展望
5.1 唎酒師は3万人超
日本酒サービス研究会は1991年に設立し、日本酒の文化の継承と発展を目的として唎酒師の認定を進めてきたが、現在は累計3万人を超えている。利き酒会や酒造訪問なども行っている。私の知人も日本酒のソムリエの資格を持っていると言っていたが、これのことかもしれない。試験を受けて合格するか、通信教育を修了すると認定される。こんな活動も面白いかもしれない。
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(出典:日本酒サービス研究会、参考17)

5.2 美味しい日本酒のグランプリ
IWC(インターナショナルワインチャレンジ)2017が2017年4月末にロンドンで開催された。そして、そのSAKE部門で、9つのカテゴリーに対して計1245の出品が行われた。金メダルは計56個だ。例えば、純米酒の部では下の5つが選定された。さらに、南部美人は2017年のチャンピオンサケを受賞した。自虐ネタが大好きな日本ではあまり報道されないが海外では優れた日本酒の品質をきちんと評価して、素晴らしいものは賞賛している。f:id:hiroshi-kizaki:20171210195729p:plain
(出典:酒サムライ、参考18)

5.3 増大する海外市
下のグラフは、平成16年から平成26年にかけての清酒の輸出金額だ。10年でほぼ倍増だ。最大輸出国は米国だが、香港、韓国、中国と続いている。海外での日本食ブームに伴って日本酒も見直されている。先日高山を訪れた時も海外からの旅行者向けの日本酒が売られていたf:id:hiroshi-kizaki:20171210200403p:plain
(出典:財務省貿易統計、参考19)

5.4 海外製の日本酒のチャレンジ
日本からの輸出は米国やアジアが中心でヨーロッパはこれからだ。しかし、そのヨーロッパで本格的な日本酒の生産にチャンレンジしている人たちがノルウェイにいる。ノルウェイでお酒を作ろうと誘われたカナダ人とノルウェイ人は北海道の吟醸米と天然産酵母ノルウェイの雪解け水を用いて、山廃仕込みの日本酒「裸島」にトライしている。日本酒には、多種多様な味がある。「裸島」を飲んだ多くの人はポジティブな反応をするが、山廃仕込みの日本酒を口にしたことがない人からは、これは酒ではないと言われることもあるという。しかし、彼らは熱意で作りたい!と思ったものを作り続けている。転機はロンドンで開催された第一回SAKE品評会ロンドン酒チャレンジで「裸島 山廃 酛しぼり」が金賞を受賞したことだという。柔道は日本の国技だが海外勢も強豪だ。日本酒もそんな風に日本産の銘酒と海外産の銘酒が競う合う時代が来るのかもしれない。

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(出典:地球の歩き方、参考20)

まとめ
日本人は素晴らしい文化と歴史を持っているのにそれを自覚していないように思う。日本人が日本人の本質を理解し、国と祖先に誇りを持てるようになれば、日本人も元気になるのではないだろうか。今回、調べた日本酒にしても、日本全国の酒造が頑張って素晴らしい日本酒を造っている。地方を回ると高齢化でその文化を引き継ぐ若者が不足しているという。サラリーマンになるのも選択肢だが、古来からの文化を引き継いで頑張る方がこれからの情報化社会では評価されるのではないどうか。成功するのではないだろうか。生きがいを感じられるのではないだろうか。そんなことを感じた。

以上
長文を最後まで読んでいただいて本当にありがとうございます。

参考 1:https://news.nifty.com/article/item/neta/12225-120719000741/
参考 2:https://jp.ub-speeda.com/analysis/archive/66/
参考 3:https://ameblo.jp/winelaw/entry-12253787241.html
参考 4:http://tasyusouron.jugem.jp/?eid=25
参考 5:https://newspicks.com/news/2541563/body/
参考 6:http://scej.eng.niigata-u.ac.jp/sake.html
参考 7:http://tasyusouron.jugem.jp/?eid=64
参考 8:http://sakezou.com/ja/media/sake/54 
参考 9:http://www.nagaihonke.co.jp/sake/knowledge.html 
参考10:https://ja.wikipedia.org/wiki/日本酒の歴史 
参考11:https://ja.wikipedia.org/wiki/ヤマタノオロチ 
参考12:http://design-archive.pref.yamanashi.jp/shape/3475.html 
参考13:http://www.vill.minamiminowa.nagano.jp/soshiki/kyouiku/
参考14:http://www.kikunotsukasa.jp/column/archives/568 
参考15:https://jp.sake-times.com/knowledge/culture/sake_shinwa 
参考16:http://kangiken.net/backnumber/5507_eturan.pdf
参考17:http://www.ssi-w.com/?p=11606
参考18:http://www.sakesamurai.jp/iwc17_medal.html
参考19:http://sokoneichi.info/世界的に評価の高い日本酒通販お取り寄せ-2824
参考20:http://tokuhain.arukikata.co.jp/oslo/2012/09/hadakajima_norway_sake_nogneo.html