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技術問題:顔認証技術の現状と将来の方向性

iPhone X(テン)ではホームボタンがなくなり、フル画面が採用された。この変革の背景となったのが顔認証技術である。顔認証技術が可能となったため、それまで使っていた指紋認証を止めたと言える。顔認証技術は、iPhone Xでの利用が初めてではない。Galaxy等の他のスマホではすでに実用化されているし、国際空港の顔認証やオフィスビルの入館チェック、自販機にまで採用されている。これらの顔認証はどのような技術を活用しているのか、また、どのような方式があるのか。さらには、現状の課題と将来の方向性について私見ながら、整理したい。

 

1. 顔認証技術とは
1.1 パターン認識
顔認証技術とは、顔の画像に基づいて人を識別する方法である。いわゆるパターン認識の一つと言える。学生時代に、海外ではサインの自動照合の研究が進んでいるので、印鑑の自動照合の研究をしたが、根本はそれと同じだ。パターン認識の基本は、前処理、特徴点抽出、識別・照合の3ステップだ。例えば、下の図では、5という文字を読み取り、背景色をなくし、数字らしくしてから、特徴点を抽出して、それをあらかじめ登録した辞書と照合して、これは5だと判断するという。

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  (出典:わりやすいよりパターン認識読書会資料より、参考1)

1.2 顔認証技術
顔認証も基本は、前述のパターン認識の3ステップで行う。与えられた顔の映像情報から余計な情報を過ぎ落とし、より普遍的な特徴点を抽出し、それをあらかじめ登録した辞書と照合して、本人かどうかを判断する。

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  (出典:CANON社HPより、参考2)

1.3 代表的な顔認証アルゴリズム
初期は、特徴点を結ぶ一次元の直線をベースに判断する手法だったが、コンピュータ処理性能の向上に伴って二次元の曲線や楕円関数として判別する手法が開発され、さらに近年では三次元の局面関数をベースに判別することが可能となっている。また、少し専門的になるが、例えば笑った顔というステータスと怒った顔というステータスが遷移する状態を単純に示すと下図の左のような単純マルコフモデルで示される。しかし、実際には口は笑っていても目は怒っているようなケースもある。それを解きほぐすのには下の図の右のように隠れマルコフモデルを用いる。

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  (出典:早稲田大学高品さん作成資料より、参考3)

1.4 特徴量の分類
顔認証の難しいのは、例えば太陽光の下での映像と、室内のロウソクの映像では、その光量も色彩も変わるし、背景も変わる。さらに言えば、服装も変わるし、髪型も変わる。特徴量としては、例えば、次のようなものがある。それらの情報を除外して、本質的な特徴点を抽出して、本人照合するという点が難しい。

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  (出典:オムロン・京大・名古屋大学共著資料より、参考4)

1.5 顔認証方式
整理すると、顔認証技術には、顔を平面として照合する2D顔認証技術、曲面として照合する3D顔認証、そして、目の虹彩(こうさい)を活用する虹彩認証がある。認証方式には顔認証以外にも、指紋認証や静脈認証、声紋認証を併用することも可能だ。今後、顔認証と声紋認証がリンクされると、別の人がHey Siriと呼びかけたらiPhoneはどうするのだろう。あなた誰ですか?と聞くのだろうか(笑)。

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  (出典:RBB、参考5)

2. Appleが採用する顔認証技術とは
2.1 Appleの顔認証技術への取り組み
Appleは2013年11月に3Dセンサー技術で先行していたイスラエルのPrimeSence社を約357億円で買収した。PrimeSence社が保有する技術群の中に顔認証技術も含まれていた。それらをベースにAppleは2015年3月に米国特許庁へ3Dの顔認証技術を特許申請している。さらに、2017年2月には「顔認証ソフト開発会社であるイスラエルのRealFace社を約2億円で買収した」という(参考6)。このようにAppleは顔認証に向けて着々と準備を進めてきた。

2.2 虹彩認証
Appleの顔認証は、3D認証に加えて、虹彩認証技術を活用している。残念ながらこれらの技術は他社のスマホですでに活用されているために先進性はないが、iPhoneに実装したことに意味があるのではないだろうか。虹彩認証とは、瞳孔の周辺の虹彩、つまり角膜と水晶体の間にある薄い膜の模様が人によって異なることを利用して個人認証する方式だ(参考7)。従って、メガネやサングラスをかけていると虹彩が変わる。まして、カラーコンタクトをするとたぶん、認証に失敗するだろう。

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3. iPhone Xの顔認証技術への疑問
顔認証技術を搭載したiPhone Xが発売される11月3日が楽しみだ。3D認証なので顔写真では認証はできないだろう。虹彩認証を併用しているので、3次元の顔マスクをかぶっても、たぶん、顔認証はできないだろう。虹彩認証を必須にすれば、寝顔で認証することもないだろう。ただし、寝ながら目を開ける人は注意が必要かもしれない。問題は、カラーコンタクトだ。もし、Aさんがカラーコンタクトで顔認証登録した場合に、BさんがAさんの顔マスクをして、Aさんのカラーコンタクトを付けたら認証しちゃんじゃないだろうか。まあ、ここまですることは普通ないので大丈夫でしょう。ただし、カラーコンタクトを愛用するJKやJDはカラコンをつけた状態で顔認証されないと困るし、悪用されても困ると言うジレンマに陥るかもしれない(涙)。

4. 顔認証の適用事例
4.1 国際空港のセキュリティ対策
法務省羽田空港に帰国する日本人を対象に自動顔認証ゲートを使って、審査手続きの簡素化を本年10月から開始する。7月にフィンランドに旅行した時には、パスポートの写真と本人の映像を自動照合していた。まだ、限定的ではあるが、日本にも登場する。順調に進めば、来年度から成田や関西、中部の各国際空港に拡大する。

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  (出典:朝日新聞デジタル、参考8)

4.2 オフィスビルでの入館セキュリティ対策
オフィスビルの入館は、ICカードによるゲートが一般的だが、NECでは昨年4月から本社ビルで顔認証の実験を行っている。採用したのは同社の認証エンジンだ。高いセキュリティが必要なデータセンターでは、ICカードと顔認証を併用することはあるが、一般のオフィスビルで顔認証を採用するのは珍しい。
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  (出典:MONOist、参考9)

4.3 店舗での本人チェック
店舗では、顔認証技術をマーケティングに活用したり、万引き防止に活用している。例えば、コンビニでは、レジ係がお客様の属性を打ち込んでいたが、最近では顔認証技術を活用して、年齢や性別を自動的に判別することは可能だ。また、万引き犯の顔写真がブラックリストに登録されれば、再発防止を効率的に実施することも可能かもしれない。

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  (出典:名古屋防犯カメラセンター、参考10)

4.4 自動販売機での属性チェックとレコメンド表示
顔認証技術を搭載した自動販売機の前に立つと、レコメンドが表示される。多分、この年代の男性はこれが欲しいだろうと推論するのかもしれないが、私は嫌だ。余計のお世話と顔認証をさせた上で、何も買わずに素通りしてしまう(笑)。

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  (出典:ブログ「今日はどこ行こう」より、参考11) 

5. 顔認証技術の課題と今後の方向性
FaceBookでは、登録した友達の顔写真にタグ付けを求められる。何枚かタグ付けすると、今度は自動的にAさんでは?Bさんではと確認を求めてくる。余計なお世話とまた、タグ付けしたくなくなる。以前、間違って写真に関係ない人をタグ付けしてしまう失敗を犯してしまった。その人からのクレームに対応するのが大変だった(涙)。

以上

 

参考1:https://www.slideshare.net/weda654/1-42267614
参考2:
https://eset-info.canon-its.jp/malware_info/special/detail/151104.html
参考3:https://www.slideshare.net/yuyatakashina3/ss-64303479
参考4:https://www.slideshare.net/yijiri/ss-12573106
参考5:https://www.rbbtoday.com/article/2017/09/11/154567.html
参考6:
https://japan.cnet.com/article/35096815/
参考7:http://iphone取説.com/iphone8-system-3763
参考8:http://www.asahi.com/articles/ASK745D0FK74UTIL02Y.html

参考9:http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1604/14/news137.html
参考10:https://www.trinity4e.com/images/face-image2.jpg 
参考11:http://canadianclub.blog13.fc2.com/blog-entry-297.html