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新米技術士の成長ブログ

健康経営を考える。投資効果は3倍?!

はじめに
今日の技術イノベーションの授業はゲストスピーカーによる講演だった。講演者は、授業を担当する玄場公規教授と共に、経営戦略としての「健康経営」を著した株式会社VOYAGEの新井卓二代表取締役(以下、新井社長)だ。健康経営と言われても経営を健康?とはてなの人もいるかもしれない。きっかけは電通の高橋まつりさんの自殺を契機とするブラック企業経営問題への対応だった。しかも、それが対処療法的なものではなく、社員の健康に対して投資すると、経営面では3倍の効果を得るという驚きの結果だった。そのため、大手も中小も競って健康経営を旗揚げしようとしている。なお、このブログは講義メモではない。講義の中のキーワードをもとにネットで裏を取りながら独自にまとめたので、至らぬ点は自分の責だ。
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 出典:合同フォレスト株式会社

VOYAGE新井社長
日本では珍しい産学連携型の起業家だ。つまり、大阪大学で博士課程まで進み、その研究成果を生かして起業する。そして、その実際のビジネスで得られたデータを元に学会で発表する。学会で発表した成果をエビデンスとしてビジネスを改善する。そんなポートフォリオワーカーだ。肩書も代表取締役と大学の特任教授、日本ヘルスケア協会の副部会長などだ。それらが新井卓二さんの中で産学連携されている感じだ。
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 出典:https://suke10.com/article/11962

VOYAGE起業
新井社長さんがVOYAGEを起業しようと決意されたきっかけは何だったのだろう。色々とMBAで学んだことをベースにビジネスを研究していて、ブラック企業への対応や健康経営の重要性などに関心を持ち、企業派遣型リラクゼーションにビジネスチャンスがありそうだと臭覚が働いたのだろうか。役員は新井卓二さんと後藤由利子の2名、セラピストは11名という企業だ。健康経営優良法人2019や健康優良企業、スポーツエールカンパニーなどに認定されている。女性の感性とアイデアとホスピタリティを新井卓二代表がうまくマネジメントしている感じがする。
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 出典:salon.voyage.tokyo.jp

タイムマシン経営
海外で成功しているビジネスモデルをいち早く日本で展開することで先行者利益を得る経営手法だ。ソフトバンク創業者の孫正義命名したとされる。海外でリラクゼーションビジネスが成功しているのを見て、日本でも勝負できるのではないかと着想された。そして、展示会などで展開しても10年前は笑われた。しかし、風向きが変わってきた。以前は国会試験に合格した「あん摩マッサージ指圧師」による施術が主だったが、最近ではそれ以外に各種整体やクイックマッサージ、リフレクソロジーなども加わっている。当時は法律的な問題を懸念するため大手企業は参入していなかった。
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 出典:https://j-net21.smrj.go.jp/startup/guide/service/service05.html

駅前から社内へ
ラクゼーション店といえば合法的なもの非合法的なもの。日本人が経営しているもの、外人が経営しているもの。いろいろある。駅前店ではサロンREFLEなどが店舗を広げている。そこにまともに参入してもビジネスとして勝つことは難しい。そこで新井社長は考えた。駅前は古いタッチングポイントだ。これからはオフィスとか、自宅だろう。例えば、買い物でも以前は百貨店に出かけたものがスーパーになり、コンビニになり、最近では宅配が広がっている。企業でも、オフィスグリコなど企業内に入り込むビジネスモデルが成功している。リラクゼーションもオフィスの中に設置すればいいじゃないか。
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 出典:https://salon.syumatsu.biz

ブラック企業との契約
電通の事件をきっかけに学生はブラック企業を敬遠するようになった。誰もがホワイト企業で働きたいと思う。そのためブラックとレッテル貼された企業は懸命に環境や体制を改善するようになった。ソフトウェア開発のSCSKは2009年に社員の過剰労働の実態を経営者が直視し、これではダメだと2012年には残業半減運動を進めた。2013年にはスマートワークチャレンジも進め、現在はホワイト企業の代表例になっている。そんなふうに企業風土や環境を改善しようと考えるブラックな一流企業は多い。そこに目をつけた新井社長の着眼点は素晴らしい。しかも、契約にあたっては、ヤバイ企業とは契約しない。何か問題が生じたらすぐに契約を解除するそんな条項も必須とした。だって、そこで働くセラピストが安全に安心して働けるようにすることはVOYAGEがブラックにならないための必須条件だ。

VOYAGEのこだわり
セラピストとして働きたいという女性は多いが、多くの店舗では夜間や休日の需要が多く、とても家庭との両立ができない。そのため、VOYAGEでは、契約企業での勤務にあたっては最大週40時間、残業ゼロを徹底している。契約した企業では、残業時間の多い社員に対して、勤務中にリラクゼーションルームの活用を奨励する。基本予約制でひとり30分として、1日5時間で10名の施術が可能だ。これを200日すれば2000人だ。セラピストは1000人を施術すれば上級者と言われるようだが、VOYAGEのセラピストは経験を積んで一気に上級者に駆け上がる。

定量的な測定
新井社長はセラピストではない。誰が上手なのか。顧客が満足したのか。品質は満足しているか。そんなことをどのように把握して管理するのだろう。学会でも発表できるように一般医療機器に拘った。採用されたのは、脈波系のアルテットだ。下の図のような簡単な装置に指を挿入して脈波を測定する。これを施術前と施術後に実施し、その結果を分析する。上手なセラピストとそうではないセラピストでは効果の違いを定量的に分析できるのがミソだ。セラピスト自身もフィードバックを受けて改善しようという気持ちになる。利用者から見ても、いつも一定の品質を担保されていれば安心だ。
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 出典:血管年齢 アルテット
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 出典:http://www.kekkan-nenrei.com/image/data/seirigaku_memo.pdf

トークと施術
優秀なセラピストとそうでないセラピストの違いは何か。当然、施術の上手下手はある。上手なセラピストは全身の筋肉を使うので1日に十人しても大丈夫だという。しかし、利用者の満足度をあげたり、脈波の効果が高いセラピストはトークが上手だ。しかし、トークといっても明石家さんまのようにお笑いのトークがうまいのではない。どちらかといえば聞き上手だ。マッサージの利用者の話す内容の多くは愚痴だ。それをうまく聞いて、受け止めて、優しく解してあげる。ちなみに社員が退職するときには、転職が決まったとか、起業するとかの名目を上げるが、実際にはほぼ人間関係の問題に悩み、苦しんだ末の結論だ。特に上司との反りが合わないという愚痴は圧倒的に多いようだ。

産業カウンセラー
VOYAGEではセラピストに対して、産業カウンセラーの資格取得を奨励し、補助もしているようだ。素晴らしい。産業カウンセラーは下の図のようにメンタルヘルスの対策支援や、キャリア形成支援、職場の人間関係の改善などの業務を行う。しかし、産業カウンセラーのみでは十分な収入を得ることはできない。しかし、セラピストx産業カウンセラーならどうだろう。他のセラピストとの差別化が図れるし、何よりVOYAGEのクライアントである企業にとっても嬉しい付加価値だろう。実際、健康診断をなかなか受けない社員もリラクゼーションは利用する。そのためセラピストと産業医で連携して、リラクゼーション受けにきたタイミングで健康診断も受けるように説得するようなこともあるようだ。また、企業から見ても、過労死が懸念されるような社員を放置するのではなく、セラピストを通じてストレスの軽減を図ることができる。また、そのような履歴を残しておけば万一に事態にもエビデンスになる。
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 出典:http://www.do-counselor.jp/about01/

VOYAGEの店舗
会社派遣のリラクゼーションは基本、平日の月曜日から木曜日の昼間だ。そして、これを補完するのが新宿御苑の店舗だ。ここは基本金曜日の夕方と土曜日と日曜日の昼間時間だ。普段は企業派遣で腕を上げているので、品質は担保されている。OZMALLのリラクサロンの2018年度上期ランキングで2位になり、それを見て、店舗に訪れる人が増えたようだ。また、企業でリラクゼーションルームを確保できない場合に、社員に優待券を渡す例もあるようだ。OZMALLのサイトで検索すると確かに口コミランキングは4.91と高評価だ。
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 出典:【オズモール】心ときめく“おでかけ体験”を一緒に - OZmall

マッサージチェアとの競合
講演後に質疑応答があり、生徒から質問があった。最近のマッサージチェアの進化はすごい。これらの普及は今後の脅威になり得るか。新井社長からの回答は、機械化できるものは機械化すべきだと思うし、マッサージチェアで満足するニーズはそれでいい。しかし、VOYAGEは施術だけで勝負しているわけではなく利用者とのコミュニケーションを大切にしている。産業コンサルタントを奨励しているのもこの一環だ。したがって、マッサージチェアで淘汰されるのは、そのような差別化がなく、単なる施術の店かもしれない。また、マッサージチェアも導入して数年すると衛生上の問題もあり、使われなくなることもあるとの説明だった。ただ、AIが発達して、コミュニケーションロボットの機能がどんどん改善すると、AI搭載型のマッサージチェアは脅威になるかもしれないと思った。
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 出典:https://tokusengai.com/_ct/17296144

メンバー管理は月額1万円(AWS)
ラクゼーションの店舗に通うとメンバーズカードとかをもらうことがある。でも、どんどんたまるし、整理すると肝心の時に使えなかったりする。VOYAGEは、スマホでメンバー管理をしている。アマゾンのAWSを活用していて、月額料金も1万円ほどだという。これからの店舗管理やカスタマー管理はクラウドでやるのがオススメだろう。

南雲吉則先生
新井社長が感銘を受けた人物の一人に南雲吉則医師がいる。南雲医師の専門は乳腺で、乳腺専門の南雲クリニックの院長だが、どちらかといえば、アンチエージングで有名だろう。自身も40代半ばまではメタボ体質だったが、独自の健康法を開発して、アンチエージングに成功した。2015年には、第1回プラチナエイジ授賞式でプラチナエイジストを受賞している。新井社長が市場ゼロの状態で起業したが、2年間は倒産の危機にも瀕して、職場に寝泊りするような状況も続いた。しかし、南雲先生の昆布茶やゴボウ茶からブランディングを考えて、なんとか頑張ったらしい。
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 出典:奇跡の62歳!南雲吉則先生インタビュー (テレ東プラス)

経済産業省厚生労働省
厚生労働省は2017年5月に長時間労働などで指導された企業のリスト、いわゆるブラックリストに基づいて334社を発表した。長時間労働労働安全衛生法違反などで指導、送検された334件だ。一方、経済産業省は、健康経営優良法人認定制度を立ち上げた。一時期は厚労省経産省で軋轢もあったようだが今ではうまく連携しているらしい。なぜかといえば、キーパーソンの江崎禎英さんは、経済産業省厚労省の調整官を兼ねている。江崎さんは、岐阜県出身で1989年に東京大学卒業後、当時の通商産業省に入省された。省庁の壁を越えて奔走し、2017年からは経産省調整官と内閣官房健康・医療戦略室次長を兼務されている。『社会は変えられる』とTwitterでも投稿されている。天通合氣道師範でもある。すごい。
  出典:健康経営優良法人認定制度(METI/経済産業省)

健康経営企業2019
自分は監理技術者として、建設業の監理技術者の仕事もしている。安全管理に対する費用対投資効果は2.7倍とされている。健康経営でも同じような指標がある。つまり、社員の健康のための費用対投資効果は3倍から10倍だという。有名なのはジョンソンアンドジョンソンの事例で3倍だ。つまり、安全管理や社員の健康のための投資は、最優先の投資分野ということになる。

プレゼンティーイズム
この用語は初めて聞いた。プレゼンティーイズム(Presenteeism)と、アブセンティーイズム(Absenteeism)は対語だ。つまり、何らかの体調不良のために欠勤することをアブセンティーイズムという。これはわかりやすい。しかし、最近の課題は、出勤していても、本来の性能を発揮できないプレゼンティーイズムだ。一般には20%程度の性能が低下しているという。そして、問題なのは、その要因が水面下でわかりにくい点だ。実はMBAのプロジェクトで研究したいテーマとして、脳波で従業員の勤務パフォーマンスを調べられないかと検討したことがある。これはずばり、プレゼンティーイズムの定量評価だ。ある先生に相談したら、今やっていることと、これと両方やったら(笑)と軽く言われた。まあ、そういうわけにも行かないだろう。
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 出典:http://activesleep.net/data/

健康経営へのアプローチ
自分が就職する前は、二日酔いでも風邪でもまずは這ってでも会社にこいというような風潮だった。しかし、最近では、無理して出社しても性能が発揮できない。全米では年間約1500億ドルの損失が出ているというが日本ではどうか。このような社員のプレゼンティーイズムによる損害を最小限にする方法の一つが健康経営へのアプローチだ。興味のある方は、冒頭の図書がオススメだ。自分も購入して、新井社長と玄場教授のサインまでもらった(笑)。

まとめ
健康経営は自分が勤務している会社でも標榜しているが、まだ上位ランキングには入っていない。大企業のエントリーは先週締め切ったということなので、次の発表が楽しみだ。社員の健康を守るための投資も、安全管理を守るための投資も費用対効果が3倍と高いことは、経営者がそれに対する投資を加速しようとし易いだろう。そして、本当にホワイトな企業集団が日本中に増えるようにしたい。しかし、足元を見ると現実と理想の乖離にも苦慮する日々が続く。

以上

最後まで読んでいただきありがとうございました。