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人的資源管理論I(前半)#3を受講して(解雇の功罪)

はじめに
藤村博之教授の人的資源管理論Iは面白い。感情の起伏をあまり出さないタイプだけど、深い考察力から発せられる説明にはなるほどと納得する部分が多い。そして、その話がどんどんと広がる。どこが本筋でどこが派生か分からなくなるけど、そのどれもが面白い。これは講義メモではないので、講義の内容を全部整理するつもりはない。でも、どれを切り捨てるかが悩ましい。だってどれも興味深い内容だからだ。時間も有限だし、提示された課題にも対応しないといけないので、このブログにそれほど時間をかけるわけにもいかない。まあ、さらっとネットで確認しながらレビューしてみたい。かなりの長文になってしまったので、2つに分割した。

終身雇用はそもそも日本に存在していたのか
経団連の中西宏明会長やトヨタ自動車豊田章男社長が「終身雇用を維持することは難しい」と発言したことがニュースで報道されていた。しかし、本当に日本の企業は終身雇用を維持していたのかと藤村教授は疑問を生徒に投げかける。京セラでは、オイルショックの時にも解雇ゼロを宣言して仕事のない社員には草むしりを命じたという。「一人も解雇するな、一円も給料を下げるな」は松下幸之助の有名な言葉だ。戦後の高度成長期には日本企業でも終身雇用を実践した企業は多い。また、短期的な景気変動時にも、雇用を維持することで次の経済成長に対応するという合理性があった。しかし、不景気が長期化すると解雇が始まるのは必然かもしれない。特に余剰人員が3年続くと対策せざるを得なくなる企業が多い。
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 出典:終身雇用が崩壊!スキルUPが必須の社会になります

日本企業ではどのように解雇が行われたのか
(1) 朝鮮戦争後の指名解雇

 戦後の復旧を支えた朝鮮戦争終結すると日本経済は不況に突入した。当時の企業は指名解雇を断行した。指名解雇は高杉良の小説にもなっているが、過激な方法だ。つまり、会社が解雇する人を特定する方法だ。これに対しては社員側も応じるわけにはいかないのでストライキで対抗した。その結果、企業は指名解雇は大変な痛みを伴うことを学習し、社員側もストライキ中は給料が出ないので不毛だと学習した。
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 出典:戦後復興期

(2) オイルショック後の希望退職
1973年に始まった第一次オイルショックと1979年に始まった第2次オイルショックがある。ともに日本経済を直撃した。しかし、企業は指名解雇に踏み切るわけにはいかない。そこで断行されたのが希望退職を募る方法だ。しかし、希望退職には致命的な欠点がある。それは、やめて欲しい人はやめず、やめて欲しくない人が辞めることだ。
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 出典:https://ameblo.jp/akiran1969/entry-11636846215.html

(3) プラザ合意による円高不況時には子会社に異動
日米英独仏の5カ国がドル高是正で合意した有名な「プラザ合意」が1985年9月だ。合意直前には1ドル240円だった相場が1985年末には200円になり、1986年には一時160円を下回り、さらに1995年4月には1ドル80円台を突破した。この時にドル預金をした人がいたら素晴らしい慧眼だ。多くの輸出型企業は円高によるコスト増に対応することが求められた。当然、人員整理や過密労働、下請けへのコスト削減が断行された。しかし、指名解雇や希望退職をしても効果が薄い。このため、この時期に実施されたのは、不要人員の子会社への異動だ。これにより見かけ状の会社の業績回復を図った。
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 出典:米国の“借金経済”支え続ける/プラザ合意から20年

(4) リーマンショック後には連結決済の義務化
連結決算とは、小会社や関連会社などを含めてグループ全体の決算をすることだ。ちなみに子会社とは50%以上の出資、関連会社とは20%以上の出資だ。このため、この連携決算の枠から外すためにわざと出資比率を20%未満に抑えることもありそうだ。そして、この連結決算は1978年に義務化され、1984年には任意選択の持分法の義務化、そして、2000年3月期からは単独決算よりも連結決算が重要と規定されるようになった。このため、従来のように子会社に異動するだけでは、連結決算が改善されないので、非連結の会社に異動させたり、取引先に片道切符で異動させたりするようになったようだ。
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 出典:https://jpn.nec.com/soft/explanner/explanner-ai/finance/column/29/11.html

エドワード・P・ラジアーの議論
人事と組織の経済学は名著だ。著者はスタンフォード大学ビジネススクールエドワード・ラジアー(Edward P. Lazear)教授だ。原書のタイトルは、"Personnel Economics for Managers"(1997)だ。アカデミックな内容というよりは、実践むけの内容だ。原題からも窺える通り、学術書ではなくマネジャー向けの解説書として書かれています。この1章では従業員の解雇の仕方や労働組合との交渉術、モラル低下の改善方法などの実践的な内容が書かれている。第11章では年功型インセンティブの考察や、第16章では職務、第17章では評価など、人事担当者だけではなく、経営や起業に関連する人は必読の図書だと言える
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 出典:http://hurec.bz/mt/archives/2015/01/2263_199809.html

年功序列の功罪
ラジアーはこの図書の中で年功型インセンティブ制度についても言及していて、これはラジアーの理論と呼ばれている。賃金と生産高が経験年数で逆転し、一定年齢以降は、企業は負債を負うことになるというもので「暗黙の負債と見返り」論だ。つまり、入社してしばらくは会社が負担するコストの方が大きいが、きちんと仕事をできるようになると生産性>賃金となり会社に貢献する。しかし、高齢層は生産性<賃金となる。一見、高齢者が得をして若年層が損をするような仕組みだが、これには合理性があるという。つまり、若年層では会社に対して貢献をして投資(貯金)をしていて、高齢層になるとそれを受け取るというモデルだという。そして、このモデルであれば、若年層のコストを抑えることだけではなく、不正を行って解雇されると社員が損をするので、監視コストを削減できるという。ただし、このモデルが成り立つには前提があり、それは企業が存続することだ。
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 出典:なぜ優秀な人から先に会社を辞めるのか 前編 - 未来の金融をデザインする

ロバート・バーナード・ライシュ教授
カリフォルニア大学バークレー校やハーバード大学ケネディスクールなどの教授であり、米国労働朝刊を歴任する経済学者だ。ライシュはフランス語読みだが、ドイツ語読みだとライヒだ。「暴走する資本主義」や「格差と民主主義」などの著書が秀逸だ。最近は、「みんなのための資本論」という映画を作成し、サンダンス映画祭審査員特別賞を受賞している。ライシュが指摘するのは格差社会の課題と謎を明快に紐解いた点だ。つまり、中間層の賃金が上がらないのに、中間層の購買力がなぜ落ちないのかという理由として次の3つを挙げている。一つは共稼ぎの増加。女性が望んで女性進出が進んだのではなく、夫の稼ぎが増えないので家計を支えるために女性が働くようになった。2つ目は労働時間を増やした。いわゆる長時間労働だ。そして、最後の3番目は特に住宅や消費における借金だ。そしてバブルが弾けると借金だけが残る。これは悲惨だ。米国の後を日本も追っているのではないかとさえ危惧する。
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 出典:https://www.newsweekjapan.jp/ooba/2015/11/post-7.php

長くなったので、2つに分割した。続きは(2/2)です。

hiroshi-kizaki.hatenablog.com

(続く)