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3Mに学ぶ:イノベーションの歴史

はじめに
今日は、米倉教授の教え子である一橋大学の教授が講師だ。対象は米国の3Mだ。スコッチテープとか、ペタメモで有名だ。最近では素材の分野でも事業を拡大している。そんな3Mの歴史や成長の秘密を考える授業だった。授業を通じて感じたことや思ったことを振り返ってみたい。

人は何のために働くのか
最初に聞かれたのは、人が働く目的だ。あなたは何のために働くのか。まず出たのはお金だ。自分は、「暇つぶし」と言ったら「そんな面はあるけど」と笑われた。一般には、生活のためとか、出世のためのとか、自己実現とかだろうか。自分の仕事が他人の役に立ったり、社会の役に立ったりするのを実感できると幸せな気持ちになる。そんなことが働く意義なのだろうか。

3Mが革新性を生み出す理由は何か
(1) 15%ルール

3Mでは、与えられた業務だけをしていれば良いわけではない。個人的に興味があることへの研究に就業時間の15%まで割り当てることができる。10時間であれば1時半ほどか。新しいことにチャレンジしろという奨励する企業は多くても、このように具体的に15%の時間を使いなさいと明示する企業は少ないのではないだろうか。
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 出典:https://school.nikkei.co.jp/news/article.aspx?aid=MMSCe9000019122016

(2) 部下のアイデアを殺さない(十一番目の戒律)
3Mは部下のアイデアが明らかに失敗すると証明できる場合以外は、そのアイデアを却下できないというルールがある。これが十一番目の戒律と呼ばれるものだ。これは、ポストイットが数多くの失敗や挫折を乗り越えて実用化して、大成功したことのアンチテーゼかもしれない。
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 出典;技術立脚型企業

(3) 複数の階層の研究機関(ジェネシスプログラム)
3Mには、短期的(3年未満)な実用化を目指す研究所と中期的(3−5年)な実用化を目指す研究所、長期(5年以上)的な実用化を目指す研究所に階層化されている。より現場に近いところは短期的な研究に重点をおき、より全社的なところにある研究所はより基礎的な研究に注力する。それぞれの研究者は交互に情報交換し、刺激し合っている。15%ルールで商品化を目指す人は、このような研究所や所属長と交渉して資金を提供してもらうことが可能だ。

(4) 人事評価制度
3Mでは、信賞必罰というよりは、褒めて育てるタイプだ。給与水準はトップクラスではないが、トップクラスの企業の平均レベルを目指す。その代わりに優秀な社員には昇級のご褒美や昇進のご褒美を与える。ベストなシナリオは、研究開発で実績を上げて、昇進していって、最後に管理的な地位に収まるものだ。その逆は原則ない。つまり、管理的な成果を上げた人に研究職の上位職にはつかせない。これを許すとやはり研究や実用化に対する臭覚が鈍るし、インセンティブが落ちる。過去には失敗もあったのだろう。

自主性を促す方策と暴走を防ぐ方策は両立するのか
自由闊達な社風は社員の創造性を高めるだろう。しかし、自由を与えるだけだと暴走する懸念があるという。しかし、個人的には暴走するような社員が出ればめっけものだと思う。そんな人が一人でも二人でも出てきて、暴れまわったら面白い会社になる。それよりも、心配なのは、例えば15%ルールで何かアクティブが活動をするのではなく、単にサボってしまう人かもしれない。年休がわりに15%ルールを悪用されては困る。

規則は強化されるが規制緩和は難しい
何か事件や事故が起こるたびに対策が検討される。そして、その対策は多くの場合には、対策を決めて、それをルール化する。つまり、規制の強化だ。そして、規制はどんどん強化されて、規制だらけになる。女子高生の校則が厳しすぎると笑っていられない。あまりに規制が強化されると働きづらくなる。しかし、規制の緩和は難しい。リスクテイクすることはなかなか簡単ではない。ガバナンスを強化すべきという意見は出ても、ガバナンスを弱くしようという声は出にくいし、出しにくい。

3Mの実戦から学ぶ具体的な方策の提案
創造的な仕事をした成功例があるかと先生に聞かれた。思い出すのは、携帯電話のクレームを能動的に発見するツールを開発した時のことだ。つまり、クレームはお客様からくる。これを受動的ではなく、能動的にクレーム対応しようと思った。仕組みはこうだ。携帯電話の内部にアプリを常駐させて、通話が切れたり、データ通信が止まったりする事象が起きたら、その前後10秒の電波状況をサーバにストアする。そうすると法人利用してくれている会社に対して、今月はあなたの社員の端末でこれだけのインシデントが発生した。これを改善するために、こういう対策をしたいと思うが、協力して欲しい。そんな風にプロアクティブに対応する仕組みだ。そして、これが実現した背景には、グループメンバーと緊急性と重要性について話し合ったことが契機となっている。

緊急性と重要性のマトリックス
メンバーはいつも忙しそうにしている。実際忙しいのだろう。特に、クレーム対応の業務は緊急性の高いものが多くて、スピードを求められる。緊急度が高くて、重要度も高いものは最優先で対応するべきだ。また、緊急度も重要度も低い案件の優先度は下げるべきだ。問題は、重要度は低いけど緊急度が高い案件と、その逆で重要度は高いけど緊急性が低い案件のどちらを優先するか。現状は前者が優先されていた。メンバーと話し合って、そうではなくて後者を優先しようとなった。下の図で言えば第3領域の強化だ。つまり、緊急度は低くても、それを実現することで仕事全体の質が上がるとか、抜本的な対策になるとか、そういう重要な仕事にもっと注力しようと宣言した
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 出典:https://www.rosei.jp/jinjour/article.php?entry_no=55549

小さな成果を積み上げる
理念を掲げてもすぐに成果が上がるわけではない。しかし、そんな理念に合致する仕事は、能動的だし、やりがいがある。重要度が高いので当然だ。その結果、単なるクレームの受付チームだったのに、そのクレームを迅速に処理するための測定ツールを開発したり、根本対策を講じるまでの暫定対策スキームを開発したりして、事業部の表彰を受けたりした。そのうちに、それをメインとするメンバーまで育てることができた。そして、先述のような能動的な監視ツールを開発することもできた。ただ、振り返ると仕事をしたことよりも、飲み会でワイガヤすることが楽しかったように思う。

展示会のブースでのクアルコムとの出会い
携帯電話の性能は向上していたが、電波状況を24時間監視して、インシデントをサーバーにあげることができないかと移動機メーカーに打診しても良い返事はなかった。でも、ワイヤレスショーだと思うけど、展示会でたまたまクアルコムのブースに立ち寄って、係りの人にその話をしたら、そのコンセプトで開発を進めているインド人を紹介されて意気投合した。予算も取っていなかったので1年間は無償トライアルにしてもらった。インド人の優秀さには目を向いた。こちらから要望を出すと、それを上回る製品を出してくる。もうびっくりした。ただ、どうもこれは自分だけではなく、アメリカの携帯電話事業者もカスタマーにしていて、そこからの要望に対応した結果のようだった。

リサーチとイノベーションの定義
これは3Mの哲学だが、研究とは資金とマンパワーといったリソースを投入して、有用な知見を得ることだと定義している。そして、面白いのは、イノベーションの定義だ。つまり、研究で獲得した貴重な知識や知見を活用してお金を儲けることがイノベーションだという。3Mは金を儲けることだけを目的として事業をしているわけではないが、イノベーションの定義をそんな風に定義するとは面白い。やはり成果を出さないと、事業を継続することはできない。

まとめ
今回は、3Mのイノベーションについてのレポートがあらかじめ配られて、それを読んで課題についての意見を各自が考えておいて、グループディスカッションして、発表する。そして、生徒同士で質疑応答して、さらに理解を深める。そんな授業だった。住友3Mは環八沿いにあり、担当営業だった時はよく訪問した。自由闊達な雰囲気は感じられたし、外資系企業のような雰囲気もあった。こんな会社で働きたいなあとも思った。そんな会社が対象の授業だったので、興味深く参加することができた。

以上

最後まで読んでいただきありがとうございました。