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VFMと水道ビジネスを考える。

はじめに
本年12月5日に、水道法改正案が可決された。12月には出入国管理法や漁業法を相次ぎ改正したが、重要な法案は本当に国会で審議が尽くされたのだろうか。テレビで放映される可決のシーンを見ると心配になる。VFMとか、PFI/PPPとか、コンセッション方式とか聞きなれない用語が錯綜していて素人には難解だ。自分には少し手強いかもしれないが、少し紐解いてみたい。

VFMとは
VFMとは、「Value for Money」の略だ。つまり、下の図で言えば、従来50億円かかっていた公共サービスがPFIを活用することで、40億円で実施できるようになった場合には、20%のVFMが得られたということになる。浜松市の水道事業は、今後25年で46%程度の値上げが必要と試算されるが、VFMを当てることで39%程度まで値上げが抑制できると試算された。なので、運営委託方式が市民の負担軽減に寄与するという。
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 出典:VFMとは/京都府ホームページ

本当にコストが削減されるのか?
ちょっと待ってほしい。今の費用負担が仮に年間50億円として、それを40億円の費用負担で対応できるなら、数字の前提を吟味する必要はあるが、コスト削減だろう。しかし、将来の値上げ幅を抑制したというのはコスト削減ではない。値上げを認めているだけではないか。そんなバカな話がまかり通るのは何故なのか。浜松市水道事業アセットマネジメント計画を調べてみると、H17年からH76年までの60年間の管路・施設の建設事業費が下のように書かれていた。この表を見ると、耐震化事業費はH27年からH36までに270億円ほど投資するが、それ以降はゼロだ。ちょっと配分が極端なシナリオのように感じるのは気のせいだろうか。
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 出典:https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/sd-kouji/asetto/documents/asetto_gaiyouban.pdf

コンセッション方式とは
ある特定の地理的範囲や事業範囲において、事業者が免許や契約によって独占的な営業権を与えられたうえで行われる事業の方式をコンセッション方式という。施設の運営会社と異なる会社が事業を行う方式のことだ。例えば、百貨店のテナントもこのコンセッション方式といえる。水道事業の場合には、浄水場施設などの独占的な使用権を特定の企業(=コンセッショネア)に譲渡する方法だ。日本の水道事業のコンセッション方式は、BTO方式のPFI(Private Finance Initiative)事業の実施方法だし、PPP(Public-Private Partnerships)の考え方に基づく事業運営手法だ。コンセッション方式のイメージ図を下に示す。
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 出典:コンセッション関連銘柄 | 株王獅子丸の仮想通貨塾

外資の狙いは出資による配当金か?
民間のノウハウを活用して、公共投資が効率化され、結果として料金が値下げになったり、品質が改善されるのであれば、それは有効な方法だろう。浜松市では、フランス系のベオリア社とコンセッション契約として、下水道施設の排水管理に関して長期契約を締結した。下の図はその事業スキームだ。ここで資金の流れが赤い点線だ。民間事業者(=ベオリア社)が出資し、その出資金で水道事業を改善する。そして、そこで得られた利益に基づいて配当金が出資者に払われる。日本の商法では、会社は株主のものだ。この水道事業に適用すると、水道事業は株主である出資者のものなのだろうか。それとも利用者のためのものだろうか。出資者の目的は利益を最大化することだ。利益を最大化する方法は、費用を抑えて、収入を増やすことだ。それを商法ベースの概念で進められると、どうなるのだろう。
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 出典:https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/suidow-s/suidou/documents/zentaiban.pdf

フランスにおいて民間活用で課題となった事例
ベオリア社はフランスの多国籍総合環境企業グループだ。ベオリア・ウオーターは、スエズ、テムズ・ウオーターと並ぶ世界の三大水処理企業だ。そのベオリア社がフランスの自国で展開した民間活用では、水道料金が約25年間で3.5倍に高騰したという。ベオリア社は途上国の水道事業も手がけていて、同様の手法で値上げするが、途上国では金を払えないというケースが多く苦戦しているようだ。しかし、先進国では、水道を止められてはたまらない。特に真面目な日本人はほとんどの住民がきちんと水道料金を払うだろう。想像したくないが、出資者の利益のために値上げが繰り返されるのは絶対に阻止すべきだ。しかし、出発点が値上げ幅を45%から39%に抑えるとなると、値上げが前提なので、もうこれはやりたい放題にならないのだろうか。浜松市の事業状況は引き続き注視すべきだ。
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 出典:https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/suidow-s/suidou/documents/zentaiban.pdf

世界の水道ビジネスの民営化状況
下の図は、世界の国々の水道事業の民営化度合いを見やすくマッピングしたものだ。これによると欧州では20%以上が民営化している。米国は10-20%だ。ロシアは10%未満だ。日本はこのマップではバージンマーケットだ。世界50大水道事業者は、24カ国で2億8,000万人以上の人々にサービスを提供し、年間収益は530億ドル(2014年の純資産ベース)という。日本は水資源に恵まれた稀有な国だ。しかし、世界の水道事業のグローバル企業の食い物にされる危険があることを認識すべきではないだろうか。
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 出典:Global Private Water Utilities Jockey for Market Share - Flow Control Network

まとめ
技術士には上下水道部門がある。機会があれば、専門家に今回の水道法改正をどう考えるのかを聞いてみたい。そもそも海外の企業が有益なノウハウを有しているのであれば、コンセッション方式ではなく、単に運営委託して、コスト削減すればいいのではないか。しかし、ベオリア社はそんなオファーは受けないだろう。だって、美味しくない。それは言い換えればコンセッション方式が美味しいことになる。別の話だが、リニアモーターカーの開通工事に伴ってアルプスの地下水脈の影響が受けると懸念されている。特に静岡の大井川への影響は、水量だけでなく、水質面でも心配だ。自分は通信の専門家だが、電気、ガス、水道といった公共サービスは日本社会を支える重要なインフラだ。日本の公共の福祉が大きく損なわれないように、ビジネス上のリスクにもアンテナを張っておく必要はあると思う。ネットを見ると色々な意見が飛び交っているが、そのどれが本当なのかを見極めることが難しい。引き続き研鑽したい。

以上