LuckyOceanのブログ

新米技術士の成長ブログ

スマート農業を考える。

はじめに
日本技術士会の技術士フォーラム2018が本日(12月1日)機械振興会館の地下2階ホールで開催された。ざっと見て250名程度だろうか。13時に開始して、17時までみっちりだった。テーマはスマート農業だ。「ICT・IoTで農業農村はこう変わる!」というテーマで官民学の4名の講師による講演だ。意外といっては失礼だけど、想像以上に面白かったし、皆元気だった。将来に対する希望が一杯ある感じだ。

1. 何が面白かったのか
農業にITを活用することは以前から取り上げられていたが、それが現実の問題として省力化に繋がったり(=楽をする)、付加価値を高めることに繋がったり(=儲ける)している事例が出ていることだ。また、少子高齢化の右下がりのトレンドや農村の過疎化の深刻化を論じることが多いが、今回の講師陣は皆元気で、世界の農業を考えると需要は右肩上がりだ!とか、日本のスマート農業の技術で世界の農業が変えられる!などが論じられ、少し元気をもらった気がする。講師の順番に書くと議事録のようになるので、興味深かった内容(=覚えている内容)に絞って報告したい。

2. OPTiMの休坂健志さんの講演
2.1 楽して儲ける

これは、株式会社オプティム(OPTiM)の休坂健志取締役ディレクターのキーフレーズだ。同社は2000年に佐賀大学の構内で産声をあげたベンチャー企業だが、AIの分野で色々な業界での応用にチャレンジし、AIの実用化で世界一を目指す元気な企業だ。「楽して」とは、効率化することだ。儲けるとは高く売ることだ。ITの活用の目標は大体前者が多い。しかし、休坂さんによると高く売ることに成功したという。どういうことか。スマート農業の分野で活躍している。
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 参考:ディレクター紹介 | OPTiM

2.2 ピンポイント農薬散布技術
細かな説明は割愛するが、対象は枝豆の農園だ。ドローンを活用して、枝豆に害虫がついていないかどうかを撮影して、その撮影結果を画像解析技術(AI)を活用して、ランク付けする。そして、害虫がついているエリアにのみピンポイントで農薬を散布する。しかも、昼間だと害虫は葉っぱの裏に隠れているので、葉っぱを食べに葉っぱの表面に現れる夜に農薬を散布する。ドローンは指定されたエリアに散布するだけなので、夜でも平気だ。そして、この結果、農薬の散布料は平均90%も節約できたという。これはコストカットだ。しかし、ポイントはこの後だ。農薬の使用料を大幅にカットできたということは、本来農薬を撒かなくても良いところには撒いていないので無農薬と同じだ。農薬を撒いたところも残留農薬はゼロだったという。これをセールスポイントとして、低農薬食品として有名百貨店で販売したところ通常の3倍の価格で売れたという。これが儲けるだ。
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 出典:http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1807/30/news033.html

2.3 レベニューシェアモデルによる市場の拡大
OPTiMは、この仕組みを無料で提供するという攻めの一手をかけた。しかし、ボランティアではない。どういうことかといえば、農家からは標準的な価格での買取をコミットする。そして、標準価格よりも高く売れたら、その利益からOPTiMの使用料金を差し引き、残りを生産者と流通者とOPTiMで分配する。これなら農家から見るとノーリスクハイリターンだ。農林水産省によると、国内の有機農業(減農薬農業を含む)の取り組み面積は全耕作面積の0.5%にとどまっている。日本の有機食品の価格はドイツや米国の10分の1とまだまだ低い。耕作量も価格もまだまだ伸び代があり、国内だけでも1兆円規模の市場があると鼻息が荒い。

3. 東京大学大学院の溝口教授
3.1 みぞらぼ

溝口教授の研究室なので略して「みぞらぼ」だ。ググるとすぐに出てくる。溝口教授曰く隠すものは何もない。見たい人は見てくれだった。確かにアクセスすると、「1に体力、2に食欲、3・4がなくて5にジョーク」という方針が示されている。溝口教授のキャラクターがそのまま現れている。面白い。講演の進め方も独特だ。忠犬ハチ公の話の後、スマート農業を進めるには田舎にこそ高速通信環境が必要だ。これが今日の結論。これで終わり(笑)、といったキーフレーズで始まった。この手法は機会があったら使わせてもらいます(笑)。
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 出典:みぞラボ公式ページ

3.2 うつ病になったSEを農家に預けるとなぜか1年後には元気に
昨年9月4日の日刊工業新聞に「農業IoTは本物か」という記事が掲載されている。その中で色々書いているが、一番主張したかったことは、日本の水田の地下には透水性パイプ(暗渠:あんきょ)が地下工場のように張り巡らされていて、高品質な農業が可能だ。これを建設するときに光ファイバーを一緒に建設すれば、高い通信料金を通信会社に払う必要もなく、インターネットを快適に使えるはずだという。そして、その記事には、サブテーマとしてうつ病になった若いSEを農家に預けると、なぜか1年後には元気になって戻ってくるという記事が掲載されていて、なぜか2chでこちらの方が多いに盛り上がったらしい。確かにSEでチマチマと仕事していていると心の病にもなる。そして、お日様とともに起きて、お日さまとともに活動して、夜になったら新鮮なお米で炊いた美味しいご飯を頂き、地元の美味しいお酒を飲んで、心優しい人たちと楽しく過ごせば心の病は解消するだろうと思う。
 出典:http://www.iai.ga.a.u-tokyo.ac.jp/mizo/papers/nikkan170904.pdf

3.3 田舎はインフラ整備が遅れているだろうか
これは場所にもよるので微妙だけど、以前九州の高千穂の小学校を訪問するときに、気になってスマホスループットを測定したら100Mbps超を記録した。これまでいろんなところで何度も測定しているが、100Mbpsを超えたのはこれが最初で最後だ。多分、最寄り局が比較的近くにあって、そのカバレージ内に自分以外に使う人がいなかったのかもしれない。それ以来、田舎の小学校を訪問すると、デジタルデバイドの話をすることが多い。同じ仕様のモバイルの基地局があったら、人が少ないほど快適だ。だからデジタルデバイドは田舎が遅れていることを意味するけど、モバイルでは逆だとかいうと、校長先生はそうかと結構ニコニコして聞いてくれる。まあ、とはいえ、それは基地局がある場合だ。基地局が近くになかったり、全くなかったりするとやはり厳しい。特に山間部では電波が回り込みきれない。現在のLPWAのシステムはいわゆるプラチナバンドと呼ぶ720MHzの電波を活用するので比較的遠方まで電波が広がりやすい。しかし、本当に山間部を制覇しようとするのであれば、もっと低い周波数を利用するべきだ。例えば、ポケベルが使っていた280MHzの電波を山間部で使うようにすればスループットは出なくても、結構広い地域で使えるはずだ。4Gの段階では妨害波となってしまって逆効果になるが、5Gの段階であれば、280MHzも800MHzも2.8GHzもキャリアアグリゲーションの機能を使ってまとめて利用できないものだろうか。災害時のためには、大ゾーン局が有効だが、山間部であれば超大ゾーン局の方がいいだろう。280MhzをLPWAの周波数として活用できないものだろうか。距離が遠くなると端末側にもそれなりの出力を求められることになるので、電池で動くIoTだと悩ましい。

3.4 世界中での利用を考える
溝口教授はそもそも国内だけでなく、海外でもフィールド試験を続けている。なので、フィールドモニタリングシステム(FMS)を開発する場合にも、国内だけでなく海外でも利用可能なことを条件としている。海外でのモニタリング試験を開始して、1年後にデータを取りに行ったり3日分しか保存されていなかったという失敗があり、モニタリング機能の重要性と必要性を誰よりも痛感されたようだ。1日に1回程度の送信であれば、ソーラパネルと電池とその国で使える携帯(データ通信用)を防水・防虫ボックスに入れて稼働させることでモニタリングが可能となった。データは取れるようになったので、現在はその取得した膨大なデータ(ビッグデータ)を如何に分析するかが課題だ。
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 出典:ARDEC56 / Opinion:発展途上国の農業・農村でフィールドモニタリング技術を活かす

3.5 AIの定義
溝口教授によれば、AIを「Artificial Intelligence(人工知能)」と理解するのではなく、IBMが提唱するように「Augmented intelligence(拡張知能)」として理解すべきだという。これは賛成だ。というか、そもそもコンピュータは人工知能と呼ばれていたが、やるべきことが明確になると、計算機とか、ミニコンとか、スマホとか固有名詞ができる。画像分析とか、翻訳機能とか、音声認識機能とか、実用レベルで使える機能が色々出てきただけであり、なんでも出来るというのは素人の妄想だ。過大な期待は失望につながるだけだ。今できることを見極めてそれを活用することが大切だろう。
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 出典:http://www.web-consultants.jp/column/5607/

4. クボタの末吉康則さん
4.1 クボタのコアビジネスは水処理

クボタは農機具のメーカだと思っていたら違っていた。クボタは、1890年に19歳の創業者久保田権四郎氏が鋳物業を開業した会社だった。「やればできる」「失敗を恐れるな」の信念で日本で初めて水道管の国産化に成功した会社だ。今回の講演の講師である末吉さんも水処理や通信処理で多数の特許を持つアイデアマンだ。特に力を入れていたのが、農業を支援するインフラソリューションであるKSISだ。
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 出典:https://www.kbt-press.com/technology/ksis_sewage-treatment01

4.2 農耕機の自動運転の課題
現在の技術では農耕機を自動運転で制御することは可能だ。法的にも田んぼの中は問題ない。問題なのは、公道での走行や公道から田んぼへの出入りだ。現在の道路交通法では、自動運転の農耕機を無人で公道を走行させることはできない。これは末吉さんの意見ではなく、自分の意見だが、隊列走行の技術を活用するのが現実的かもしれない。つまり、クボタの農耕機は自動運転が可能だが人も乗れるようになっている。したがって、二台とか三台の農耕機を使って一気に作業をして、隊列走行で公道を走る。運転してなくて運転者がいる。何れにせよ、自動運転技術を日本社会で活用していくには、法的な整備は必須だ。
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 出典:https://smartagri-jp.com/smartagri/123/

5. 農林水産省大臣官房政策課室長松本賢英氏
5.1 WAGRI

松本室長の事前配布資料が大量でかつ、話の内容も広範囲なので、正直少しうとうとしてしまった(笑)。印象に残ったのはWAGRIだ。農業データ連携基盤の通称名だが、なんの略だか分からない。多分、最初に説明があったはずだが、聞き逃した(汗)。Wが分からない。あとから調べると、和+農業=Wa+Agriの造語だった。平成29年8月にWAGRI協議会が設立された。WAGRIは、SIP(内閣府・戦略的イノベーション創造プログラム)の「次世代農林水産業創造技術」で開発を進めているという。ここは覚えている(笑)。
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 出典:農業データプラットホーム -WAGRI-

5.2 スマートフードチェーン

スマートフードチェーンに関する研究開発を2018年秋に開始し、2019年4月には農業データ連携基盤の本格稼働を開始し、2023年4月にはスマートフードチェーンを構築するとある。スマートフードチェーンとは、「データ連携を生産から流通・加工・輸出・消費まで拡張し、多様かつ変化する市場ニーズに的確に対応した農林水産物の生産・流通、同時にフードロスの削減を実現するシステム」だという。なんとなく分かったような分からないような。
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 出典:http://blogs.itmedia.co.jp/business20/2018/03/post_1907.html

5.3 コンビニの全商品にRFIDタグ
2025年までに全国のコンビニはすべての取扱商品に電子タグ(RFID)を取り付けて活用するという。これは経済産業省の主管だ。先のスマートフードチェーンはこれをもっと一般化したものなのか。よく分からない。RFIDを工場で取り付けて、共通的に使われればコンビニでの業務の効率化が図られるだろう。さらに、利用者の視点から言えば、冷蔵庫にもRFIDの検出機能があれば、冷蔵庫の中に入っているものをスマホでチェックできるようになる。これは便利だ。ただ、課題はRFIDの単価とリサイクルだ。現在の単価は数円だが、これが1円以下、できれば0.1円ぐらいにならないと細かな商品まで付けることができないだろう。
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 出典:https://sgforum.impress.co.jp/news/3851

6. まとめ
今日のフォーラムは面白かった。農業では、土壌の整備やタネ上の工数が気になるが、それと同様に日常の田んぼの巡回が結構大変だ。これがドローンなどで定期的に撮影してくれて、害虫の駆除が必要とか、土壌の改善が必要とか、電気柵が壊れているとか、アラームの情報にしてくれれば、必要な時だけ対応すれば良い。また、自分の叔父も90歳後半で農家の現役を誇っていたが流石に息子(いとこ)にバトンタッチしたようだ。いとこも70歳を超えているが、まだまだ元気だ。定年再雇用も終了したので、農家を継ぐには良いタイミングだ。しかし、残念ながらノウハウが不足している。そんな部分をICTやIoTが補完してくれれば、いとこでもなんとか農家を継げるかもしれない。農業従事者の高齢化が進んでいることが問題視されるが、後進に継承しやすいような仕組みを作ることはとても大切なことだと思った。

以上