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労働安全衛生法:溶接を考える。

はじめに
溶接という言葉を聞いたことがあるでしょうか?一般的にはあまり馴染みのない言葉からもしれない。工場などで鉄と鉄をつなぐ作業をしているのが溶接だ。

本田技研鈴鹿工場でのアルバイト
学生時代に夏休みにアルバイトをしようと考えていた頃に鈴鹿工場でのバイト募集があった。説明会に参加すると交通費が支給された。これはいいかもと応募して、3週間ほど勤務した。そのお金で北海道に旅行するつもりだったが、結局は自動車の普通免許の取得費用に消えてしまった。工場では、昼間勤務と夜間勤務を1週間交代で行う。最初にアンケートがあり、つい「頑健」を選んでしまった。一緒に応募した友達は「病弱」を選んでいた。配属先は、当時のアコードの溶接あとを削る作業だった。結構きつかった。何がきついかと言うと体勢が不安定なこともあるが、火花が飛ぶので目がやられる。制服の隙間に火花が入り込んで軽い火傷になる。そして、何よりも騒音がうるさい。後年、左耳が突発性難聴になって高音が聞こえなくなったが、この時に痛めたような気がしないでもない。まあ、しかし現在ではそんな作業は全てロボットがやってくれる。
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 出典:https://jp.123rf.com/

アーク放電
アーク放電(electric arc)とは、電極に電位差を与え、電極間の気体が絶縁破壊することで通電する現象だ。雷なども同じ原理だ。そして、アーク放電が起きるときには、高温と閃光が発生する。それは、気体分子がイオン化し、プラズマを生み出すためだ。
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 出典:電弧 - Wikipedia

オーロラ
北極とか南極に行くと天空にオーロラ(aurora)を見ることがある。なんとも神秘的だ。英語のWikiによるとオーロラは、女神の名前に由来するが、紀元前4世紀のギリシャの探検家ピテアスによる記述が残っていたり、北欧神話にもあるという。近代に入って両極にトライした探検家の伝聞から広く知られるようになった。その原理はプラズマとなった太陽数が地球の磁力線に引っ張られて大気の酸素原子や窒素原子を励起して発光するようだ。
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 出典:オーロラ - Wikipedia

鍛造とアーク溶接
鍛造(forging)とは、金属をハンマーでなんどもなんども叩いて強度を高める手法だ。日本刀を作るときの様子を思い浮かべればイメージできるだろう。この鍛造の手法は、青銅器時代鉄器時代に始まるという。しかし、アーク溶接が始まるのは1800年代になってからだ。イギリスの化学者であるサー・ハンフリー・デービー準男爵(1778年12月17日-1829年5月29日)は、1800年に短パルスの電気アークを発見したことがきっかけで研究・開発が進む。ロシアの発明家ニコライ(Nikolay Nikolayevich Benardos、1842-1905)は、1881年にカーボンアーク溶接を発明した。フランスの発明家アウグストも、カーボンアークを同じ年に発明している。1900年には被覆溶接が発明される。
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 出典:https://www.jstage.jst.go.jp/article/oubutsu1932/69/8/69_8_971/_pdf

被覆アース溶接
溶接の手法で作業が全て作業で行われるため手溶接とか、手棒溶接ともいう。金属の棒を電極として、母材との間にアークを発生させ、その時に発生する高温で母材を溶かせて、金属を溶接させるものだ。風に強いため、屋外で使う溶接として活用されている。構造が簡単なため広く使われている。
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 出典:被覆アーク溶接 - Wikipedia

溶接の接合形態
溶接は、複数の部材の接合部に熱や圧力などを加えて、一つの部材にする手法だ。その方法には、融接、圧接、ろう接の3種類がある。融接は、接合部を加熱して接合するものでアーク溶接は代表例だ。圧接は、接合部に熱を加えながら圧力を加えて接合する。ろう接は、融点の低いろう材を用いて複数の接合材を溶融するものでハンダ付けが代表例だろう。
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 出典:https://www.ipros.jp/technote/basic-welding1/

アーク溶接とは
アーク溶接とは、先にも書いたように、アーク放電の熱で金属材料を溶融する方法だ。5000~6000Kと非常に高熱である。大気中で金属を溶融すると大気中の酸素や窒素が溶融金属に溶ける。これを防ぐために、被覆材や不活性ガスを用いる。被覆アーク溶接は、金属芯線に有機物や無機物、脱酸剤などの被覆材を塗布することで溶融酸化物(スラグ)層を形成させる。他にも、サブマージアーク溶接や不活性ガスアーク溶接などの手法がある。
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 出典:アーク溶接(アークようせつ)とは - コトバンク

アセチレン溶接とは
アセチレン溶接とは、酸素アセチレン溶接(oxyacetylene welding)とも言い、酸素とアセチレンの混合ガスを用いて母材の接合部を溶かして融合させるガス溶接の一種である。高圧酸素とを混合して点火し、その3000度にもなる火炎で金属溶接や切断を行う方法だ。
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 出典:アセチレン貯蔵及び消費時の注意事項

アセチレン溶接とアーク溶接に関する労働安全規則での規定
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アセチレン溶接に関する付随規定
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交流アーク溶接に関する付随規定
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アーク溶接の労働安全
労働安全に話を戻す。Wikiには良くまとまっていたので、以下に引用する。
1) 労働安全:アーク溶接は強烈な紫外線を発生する。その強さは、アークから50cm離れた皮膚に数秒間アーク光を曝しただけで炎症を起こすほどであり、日光の比ではない。長時間アーク光に曝した場合、火傷、水ぶくれ、シミなどの症状が発生する。何度も至近距離で強烈なアーク光に皮膚を曝すと最悪皮膚癌に至る場合もある。通常、溶接の光では日焼けと同じような炎症を起こし皮が剥けるものの、小麦色の肌にはならない(しかしシミはできる)。裸眼でアーク光を見た場合、電光性眼炎(電眼炎)という目の炎症を起こす。何度も電光性眼炎になると視力の低下や最悪の場合失明に至る。また金属ヒュームという酸化鉄からなる煙を発生し、大量に吸った場合、金属ヒューム熱やじん肺などの深刻な病気の原因となる。ヒュームには一酸化炭素やオゾンも混ざっており、換気には十分注意しなければならない。
2) 防護装備:強力な紫外線を避けるため、アーク溶接作業には長袖、長ズボンの作業服、溶接面、皮手袋が必須である。さらに、ヒュームを避けるために防塵マスクが必須である。また必要に応じて安全靴、スパッツ(足カバー)、厚手の耐熱エプロン、ヘルメット、ゴーグルなどを着用しなければならない。さらに場合によってはワセリンや熱焼け防止クリームなどの表皮保護剤(ゲル状クリーム状の物が望ましい)を顔面や頸胸部周囲などに事前塗布しておく事が望ましい。また、溶接作業者の更衣室、休憩室などには衣服に付いた粉塵を吸い取る装置や、空気清浄器などを設置することが望ましい。
3) 従事者資格:日本では労働安全衛生法の規定により、事業主は従業員をアーク溶接に従事させるにはアーク溶接作業者の特別教育を受けさせなければならない。

特別教育
労働安全衛生法の39条には、特別教育として受講すべき業務が列挙されている。これを全部覚えるのは正直厳しい。今回のテーマの溶接は3番目に記載されている。
1 研削といしの取替え等の業務に係る特別教育(機械研削用といし)、自由研削用といしの取替え等の業務に係る特別教育(自由研削用といし)
2 動力プレスの金型等の取付け、取外し又は調整の業務に係る特別教育
3 アーク溶接等の業務に係る特別教育
4 電気取扱の業務に係る特別教育(高圧又は特別高圧)、低圧の充電電路の敷設等の業務に係る特別教育(低圧)
フォークリフトの運転の業務に係る特別教育(最大荷重1トン未満)
5-2 ショベルローダー等の運転の業務に係る特別教育(最大荷重1トン未満)
5-3 不整地運搬車の運転の業務に係る特別教育(最大積載量1トン未満)
6 揚貨装置の運転の業務に係る特別教育(制限荷重5トン未満)
7 機械集材装置の運転の業務に係る特別教育
8 伐木等の業務に係る特別教育(胸高直径70cm以上の立ち木の伐木、胸高直径20cm以上で、かつ重心が著しく偏している立ち木の伐木、つりきりその他特殊な方法による伐木又はかかり木でかかっている木の胸高直径が20cm以上であるもの)
8-2 伐木等の業務に係る特別教育(チェーンソーを用いて胸高直径70cm未満の立ち木の伐木、かかり木でかかっている木の胸高直径が20cm未満であるもの)
9 小型車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削用)の運転の業務に係る特別教育(機体質量3トン未満)、小型車両系建設機械(基礎工事用)の運転の業務に係る特別教育(機体重量3トン未満)、小型車両系建設機械(解体用)の運転の業務に係る特別教育(機体重量3トン未満)
9-2 基礎工事用建設機械の運転の業務に係る特別教育(非自走式のみ)
9-3 車両系建設機械(基礎工事用)の作業装置の操作の業務に係る特別教育
10 ローラーの運転の業務に係る特別教育
10-2 車両系建設機械(コンクリート打設用)の作業装置の操作の業務に係る特別教育
10-3 ボーリングマシンの運転の業務に係る特別教育
10-4 ジャッキ式つり上げ機械の調整又は運転の業務に係る特別教育
10-5 高所作業車の運転の業務に係る特別教育(作業床の高さが10メートル未満のもの)
11 巻上げ機の運転の業務に係る特別教育
12(削除)
13 軌道装置の動力車の運転の業務に係る特別教育
14 小型ボイラー取扱業務特別教育
15 クレーンの運転の業務に係る特別教育(つり上げ荷重5トン未満。ただし、跨線テルハはつり上げ荷重5トン以上)
16 移動式クレーンの運転の業務に係る特別教育(つり上げ荷重1トン未満)
17 デリックの運転の業務に係る特別教育(つり上げ荷重5トン未満)
18 建設用リフトの運転の業務に係る特別教育
19 玉掛けの業務に係る特別教育(つり上げ荷重1トン未満のクレーン等にかかわる作業)
20 ゴンドラの操作の業務に係る特別教育
20-2 作業室及び気閘室へ送気するための空気圧縮機を運転の業務に係る特別教育
21 高圧室内作業に係る作業室への送気の調節を行うためのバルブ又はコツクの操作の業務に係る特別教育
22 気閘室への送気又は気閘室からの排気の調整を行うためのバルブ又はコツクを操作の業務に係る特別教育
23 潜水作業者への送気の調節を行うためのバルブ又はコツクの操作の業務に係る特別教育
24 再圧室の操作の業務に係る特別教育
24-2 高圧室内作業の業務に係る特別教育
25 四アルキル鉛等の業務に係る特別教育
26 酸素欠乏危険作業の業務に係る特別教育
27 特殊化学設備の取扱い、整備及び修理の業務に係る特別教育
28 エツクス線装置又はガンマ線照射装置を用いて行う透過写真の撮影の業務に係る特別教育
28-2 加工施設、再処理施設又は使用施設等の管理区域内において核燃料物質若しくは使用済燃料又はこれらによつて汚染された物の取扱いの業務に係る特別教育(加工施設、再処理施設、使用施設等の管理区域内)
28-3 原子炉施設の管理区域内において、核燃料物質若しくは使用済燃料又はこれらによつて汚染された物の取扱いの業務に係る特別教育(原子力施設の管理内)
29 粉じん作業に係る特別教育
30 ずい道等の掘削、覆工等の業務に係る特別教育
31 産業用ロボツトの教示等の業務に係る特別教育
32 産業用ロボツトの検査等の業務に係る特別教育
33 自動車用タイヤの組立てに係る業務のうち、空気圧縮機を用いて当該タイヤの空気の充てんの業務に係る特別教育
34 廃棄物の焼却施設に関する業務に係る特別教育(廃棄物焼却炉を有する廃棄物の焼却施設においてばいじん及び焼却灰その他の燃え殻を取り扱う)
35 廃棄物の焼却施設に関する業務に係る特別教育(廃棄物の焼却施設に設置された廃棄物焼却炉、集じん機等の設備の保守点検等)
36 廃棄物の焼却施設に関する業務に係る特別教育(廃棄物の焼却施設に設置された廃棄物焼却炉、集じん機等の設備の解体等、これに伴うばいじん及び焼却灰その他の燃え殻を取り扱う)
37 石綿等が使用されている建築物又は工作物の解体等の作業に係る特別教育
38 東日本大震災により生じた放射性物質により汚染された土壌等を除染するための業務等に係る特別教育
39 足場の組立て、解体又は変更の作業(地上又は堅固な床上における補助作業の業務を除く)に係る特別教育
40 ロープ高所作業に係る業務に係る特別教育

まとめ
溶接についての知識を少し深掘りしてみた。労働安全コンサルタント試験では交流アーク溶接についての出題が目立つが、もしかしたら今年ぐらいはアセチレン溶接に関する出題があるかもしれない。それにしても出題範囲が広いし、覚えたつもりでも一晩寝るとすっかり忘れている。先が長い(涙)。

以上

最後まで読んで頂きありがとうございました。今回は引用が多くてすいません。