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第369回ITU-R研究会:5Gの実証実験の状況報告

はじめに
日本ITU協会が主催するITU-R研究会に参加した。今回は、標題の通り5Gに関するものだった。2020年のサービス開始に向けて、2017年から2019年の3年間で5Gの実証実験を進めることになっており、様々な話が聞けて貴重だった。

講演1
国際電気通信基礎技術研究所(ATR)適応コミュニケーション研究所の山田雅也担当部長より、5Gの屋内環境における実証試験について話があった。下の表は昨年5月に総務省が発表した実証実験の予定だ。基本、この内容で実証実験が進められている。
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 出典:総務省報道発表(2017年5月16日)

ATRが進める実証実験(その1:沖縄スタジアムの実証実験)
これはKDDIと連携して実施している実証実験だ。YouTubeにもアップされている。自由視点映像と呼ばれる技術を活用している。これは複数の地点から撮影した映像を合成し、ユーザが操作するタブレットで自由な角度からの映像を合成して再生するものだ。講演2でも説明があったが、実映像とタブレット上の映像との時間差は約0.5秒だという。従来は、多数のカメラで撮影したものをから近いものを再生していたが、今回の自由視点映像は、4台のカメラからの映像から擬似的に任意の場所、角度の動画をリアルタイムに合成するのが新規性でワクワクするところだ。
www.youtube.com
 出典:http://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2018/03/26/3034.html

28GHzの直進性と反射波の影響
ATRの測定結果としては、「伝搬損失モデル式=alog(d) + b」で、aが18.9、bが62.6だ。距離(m)が伸びると伝播損失(dB)が増大するという図式にほぼ当てはまることが確認された。しかし、問題は反射波だ。基地局の設置場所を適切に設定しないと反射波の影響が大きいことが確認された。ポイントはこの反射波を干渉波として除去するのか、それともなんらかの加工をして信号波として活用するのか。この辺りが無線技術として最も前進しないといけない部分だ。
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ATRが進める実証実験(その2:京浜急行電鉄羽田空港国際ターミナル駅
2017年度には4カメラを活用した映像監視アプリケーションの基本評価を行った。今後は、5Gと4Kカメラを組み合わせて高精細の映像監視実験を行う。4Kは従来の2Kカメラよりも、2倍程度遠方の人物検出ができることが確認された。今後は人物だけではなく、刃物等の危険物の検出にもトライするという。下の図は講演とは関係ありません。イメージ図です。
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 出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000012.000022558.html

ATRが進める実証実験(その3:小学校環境を想定した基礎評価)
小学校4年生の2クラス(1クラス36名)を対象に動画の一斉ストリーミングとアップロードのトライアル。授業の一環として先生が用意した映像を生徒に配布したタブレット(iPad)で視聴するだけならそれほど目新しいものではない。今回トライしたのは、生徒が作成した映像をアップして、授業の中で生徒と共有するものだ。生徒には予め1分程度の動画を用意させて、それを共有する試みだ。しかし、生徒によって動画時間のばらつきが大きく、短い生徒は0.6分(36秒)、長い生徒では6.5分(約400MB)だ。今回はまず4Gでのトライアルだ。ストリーミング配信は問題ないが、生徒の動画をアップしようとすると、上りが20Mbps程度なので授業中に行うのは厳しい結果だ。先生からは動画のアップを1分以内に完了するべきという声が多かった。今後、5Gでの実証実験でこれをクリアするかどうかが期待される。
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 出典:https://news.mynavi.jp/article/20180412-615353/

講演2
KDDIのモバイル技術本部次世代ネットワーク開発部5G技術推進グループの渡里雅史グループリーダより、5Gにより実現する世界、ワクワク体験というタイトルで講演があった。下の図はモバイルシステムの進化のイメージ図だ。講演資料からではない。
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 出典:http://taiga8823.com

KDDIが進める実証実験(その1:異なる周波数を適正に組み合わせる)
制御信号(C-plane)とユーザ信号(U-plane)を分離することをC/U分離という。講師の渡里さんはさらっと説明したが、個人的には必然的に重要な技術であると考えている。つまり5Gになると6GHzや28GHzなどの高い周波数帯を使うことになる。高周波は利用帯域が広いため、伝送速度を高めることができる反面、そのエリアが狭くなる。ユーザ信号として28GHz帯を使うのは良いとしてもこれを制御信号に使うと圏外になった時に制御不能となる。制御信号では、速度を求められないが、確実で粘り強いエリア特性が重要なので、6GHz未満の周波数を活用する。常に制御可能な状態とすることで、通信を行う瞬間に最適な電波を捕捉するように指示することができる。
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 出典:A novel architecture for LTE-B :C-plane/U-plane split and Phantom Cell concept - Semantic Scholar

KDDIが進める実証実験(その2:ユースケースに応じた周波数の使い分け)
5Gを利用する場合にも、1Gbps程度とかそれ未満で十分なケースと5Gbpsとか10Gbpsといった高速通信が必要なケース、遅延が多少にあっても良いケースとできるだけ低遅延が必要なケース、それほど大量の端末が繋がらないケースと大量の端末が例えば特定のスタジアムなどに集中するケースなどがある。そして、それぞれのユースケースで通信サービスに求める要求条件が異なる。これらの全てを全てのユースケースで実現することは5Gでも厳しい。そのため、5Gではスライシングというコンセプトが有効だ。つまり、速度を求める人のためのネットワーク、低遅延を求める人のためのネットワークというように、ネットワークを分離し、それぞれで適切に運用する考え方だ。
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 出典:What is 5G Network Slicing? A Definition — SDxCentral.com

KDDIが進める実証実験(その3:ビームフォーミングとトラッキング
JR東日本と共同で5Gを用いた走行列車での8K/4K映像伝送実験に、KDDIは2017年10月に世界で初めて成功した。ほぼ1年前の実験だが走行中に最大1.7Gbpsのスループットを達成たい。これを実現するために約1.5kmの鉄道区間に5Gのエリアを整備して時速約100kmで走行する列車との連続ハンドオーバにも成功している。しかし、問題は車両の位置によって受信波の品質が異なる点だ。28GHzの電波の電波伝搬損失は先にも述べたようにほぼ距離に依存するが、問題は車両のドアとか、窓とか、座席などとのロケーションに依存する点だ。
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 出典:https://www.jreast.co.jp/press/2017/20170915.pdf

KDDIが進める実証実験(その4:世界初192km/hで28GHz帯のハンドオーバーに成功)
サムスンとの共同実験だが、昨年8月に時速192kmで走行する車両との5G通信およびハンドオーバに成功している。ただ、今年の5月に走行試験場において、時速300km超でのハンドオーバーにDoCoMoが成功している。つまり、今後5Gのエリアが整備されていけば、車両に積んだドライブレコーダの映像をリアルタイムに遠隔地で見るようなことが可能だ。F1レースの鑑賞中にF1レーサーのドライバーの目に映る映像を体感することも可能かもしれない(笑)。
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 出典:https://www.youtube.com/watch?time_continue=5&v=yS08jKYKdq8

KDDIが進める実証実験(その5:5Gドローンを用いた4K映像のリアルタイム伝送に成功)
東大柏キャンパスに28GHzの5G実験エリアを整備し、2018年6月8日に上空約150mのドローンからの4映像の伝送を行い、タブレットにリアルタイム伝送した。これは5G端末設備が軽くなってきたのでできたことだ。ドローンの飛行に対する制約をクリアすれば、4K/8Kからの映像を遠隔で見ることが可能ということだ。
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 出典:http://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2018/06/14/3202.html

KDDIが進める実証実験(その6:国内初!4K3Dモニターを活用した建機の遠隔施工に成功)
建機の操作を遠隔で行うことは目新しくないが、それを4K動画で行い、かつ奥行きも判別できる3D映像を活用した点が国内初のポイントだ。従来のWi-Fi利用だと276秒かかったものが、5Gだと177秒と35%も生産性が向上した。今後は、例えば作業の指揮者の目線からのカメラも追加すれば、指揮者の配置も不要となるのだろうか。法律問題の対応は時間がかかるかもしれない。
 出典:www.youtube.com

KDDIが進める実証実験(その7:遠隔操作ロボットによるテレイグジスタンス)
「テレイグジスタンス」(Telexistence)とは、遠隔臨場感とか、遠隔存在感を意味する。このテレイグジスタンスを「瞬間移動」と読んでいる。いわばドラえもんの「どこでもドア」だ。つまり、まず手袋のような触感センサーを指にはめてVRグーグルのようなヘッドセットをつけて、自分とロボットを同期させる。自分が動くとそのままの動作でロボットも動く。ロボットがコップを持つと、その感触を自分が感じられる。コップに入ったビー玉を別のコップに移そうとすると、その音や感触を感じられる。このロボットを行きたい観光地にセットすれば、その観光地に旅行したような不思議な感覚をえる。通信が可能なら宇宙旅行だって可能だ。危険な工事なども安全・安心だ。
 出典:www.youtube.com

まとめ
最後の「瞬間移動」が可能なテレイグジスタンスは衝撃的だ。ネーミングがいまいちだが、視覚や聴覚、触覚だけでなく、嗅覚や味覚などの分野でも研究が進んでいるという。VRやARの技術は今がターニングポイントなのかもしれない。あと数十年すると、ARやMRで旅行することが普通になるのだろうか。

以上

最後まで読んで頂きありがとうございました。