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築地市場の歴史と豊洲市場の未来

1. はじめに
築地市場から豊洲市場への移転は、前都知事のスキャンダルと新都知事のスタンドプレイに振り回された感がある。しかし、関係者の必死の尽力もあり、2018年10月11日に豊洲市場が開場する。今日は日本技術士会の中でも特に関係の深い水産部会で、この築地&豊洲をテーマとして、東京都職員の講師による講演会が開催された。非常に時機を得た講演会だと思い、これに参加したので、その内容等を簡単に報告したい。
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 出典:Wiki(築地市場

2. 東京における市場の歴史
2.1 日本橋市場と神田市場

築地市場を遡ると江戸時代になる。江戸時代には、水産物日本橋市場、青果は現在の秋葉原にあった神田市場が盛況だったという。江戸時代の日本橋市場の様子を下図に示す。江戸時代から食品流通を担ってきた日本橋と神田の両市場は、1923年(大正12年)9月1日に起きた関東大震災で壊滅した。このため、同年12月に日本橋から築地に移転して臨時の東京市設魚市場を開設したのが築地市場の起源だ。
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 出典:立命館大学(永理: (日本橋肴市場之図) - 立命館大学 - 浮世絵検索)

2.2 築地市場の開場と食料統制
1935年(昭和10年)に現在の築地に東京市中央卸売市場が開業した。この時には青果の卸売はすぐに移転したが、日本橋水産物の卸売業社は1年ぐらい理由をつけて築地市場での活動を渋ったらしい。太平洋戦争で食料統制が始まると自由な競りはなくなり、築地市場は食料の集配センターとなった。

2.3 築地市場とドライクリーニング
1945年(昭和20年)の終戦に伴い、当時の築地市場の約4分の1を連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)が接収した。出入り口に近く一番便利なエリアだ。摂取の翌年の春には現在の青果部の建物がドライクリーニングの工場として稼働している。1950年(昭和25年)に解放されるまでは、ここでGHQの軍服のドライクリーニングを行った。日本のドライクリーニングは、この築地で技術をマスターした人たちが全国に広めたらしい。下の写真で建物から出てくるトラックに積もれていたのは洗濯済みの軍服だったらしい。
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 出典:朝日新聞デジタルhttps://www.asahi.com/special/tsukiji/word/)

2.4 築地市場と大井市場
現在の青果の取扱量は大田市場の方が築地市場よりも多い。神田市場も築地市場も手狭になったため、1965年(昭和40年)当時からは移転拡張が検討された。現在の大田市場は、当時は大井市場と呼ばれる。隣接の自然公園を含めると50ヘクタールという広大な敷地だ。しかし、野鳥が生息する自然公園を破壊することに対して反対運動が起きた。このため、自然公園は残して、当時の大井市場を再整備して大田市場として、神田市場の機能を移管する。東京湾の野鳥公園が温存されたのはその成果とも言える。
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 出典:東京湾野鳥公園

2.5 築地市場の拡張
大井市場への統合計画は頓挫し、神田市場の機能は大田市場に移行し、築地市場は拡張・再整備で対応することになった。戦後は鉄道輸送がメインだったが、トラック輸送へのシフトが進み、1987年(昭和62年)には鉄道を廃止し、レールの場所もアスファルトで舗装して、トラックが搬入できるように改造された。下の写真左の鉄道のプラットフォームだ。列車の荷物を運び込んだ。写真右は最近のもの。柱の位置などはそのままだ。
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 出典:築地今昔アーカイブ(築地今昔アーカイブ)

2.6 築地市場の再構築計画の頓挫
1980年代になると築地市場は、需要の増大に対応できなくなり、全面的に再構築する計画が鈴木都知事時代に検討された。青島都知事に引き継ぎトライしたが交通渋滞が深刻化して、市場関係者が大反対して、結局380億円ほど投資したにも関わらず頓挫した。当時確保しようとした種地も駐車スペース等に活用されているらしい。
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 出典:ottyankoの日記(http://d.hatena.ne.jp/ottyanko/20100901)

2.7 豊洲市場への移転
1996年(平成8年)当時には、多様なプランを検討したが、最終的に残ったのが豊洲市場への移転計画だった。築地市場は約23ヘクタールだが、豊洲は約1.7倍の40ヘクタールだ。高速のインターからもほど近い。最終的に豊洲への移転基本計画が策定されたのが、2003年(平成15年)と今から15年前だ。平成24年度〜28年度の完成を見込んでいたが、地下水問題とかがスキャンダラスな報道に翻弄されて、最悪シナリオをさらに2年も後ろ倒しになり、現在に至る。
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 出展:東京都中央卸売市場(http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/toyosu/siryou/pdf/04.pdf)

3. 築地市場の問題点
3.1 築地市場の状況

築地市場は青果などの一部を除き、中央区築地五丁目2番1号にある。約23ヘクタールという広さだ。7つのの卸売業者と約1000の仲卸業者がせりを行う。築地市場のピークの取扱金額は1990年(平成2年)で、9,200億円だったという。バブルの絶頂期だ。現在(2017年度)の取扱数量は水産物で38.5万トン、青果物で26.2万トンだ。取扱金額では水産物が4,277億円、青果物が880億円だ。2005年の取扱数量は約91.7万トン、金額で約5,657億円だった。講師は減少傾向には歯止めはかかっているというが、下の水産物取扱い量のグラフを見るとそれも疑わしい。流通の世界の変革の中で、東京都の存在感を高める努力が今後必要だろう。
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 出典:東洋経済(https://toyokeizai.net/articles/-/135382?page=4)

3.2 築地市場の問題点
1) 施設の老朽化

2018年で約83年を経過している。何度も増築や改築を繰り返しているが、やはり老朽化は限界だ。鐵道のプラットホームだったところがいまだに露天の取り扱いスペースという。ほぼ屋外での取り扱いはもう限界だ。
2) 施設構造の変化
開場時は鉄道輸送中心だったので扇型が機能的だった。ものの流れも円滑だった。しかし、現在はトラック輸送が中心だが、市場施設内のものの流れが混乱し、錯綜し、かつ渋滞している。ひどい時にはトラックが築地市場の玄関に到着しても、目的のエリアに移動するのに1時間かかったという。あり得ない。
3) 品質・衛生面
築地市場は基本的に開放型のため、夏場は高温多湿だ。風雨の影響も受けやすい。虫や鳥やネズミの駆除は常に後追いだ。都庁の旧庁舎解体時のように、築地市場の閉鎖時にそこに住み着いている大量のネズミが銀座等の近隣に移動しないように、その全てを退治・駆除できるかどうかが喫緊の課題だ。
4) 施設の過密・狭隘化
駐車スペースや荷捌きスペースが慢性的に不足している。このため作業が非効率だ。小池知事も、ここまでの事情をもっと理解していたら、もう少し違う判断をしたのだろうか。それとも政治的判断で同じことをしたのだろうか。

4. 豊洲市場への移転
4.1 豊洲市場の概要

敷地面積40ヘクタールと築地市場の約1.7倍。しかも、築地市場から2.3kmの距離。水産仲卸売場棟、水産卸売場棟、青果棟の3つの棟から構成する。全体設計は日建設計が担当する。各施設の施工は大手建設会社の共同企業体(J/V)により進められている。なお、3つの棟は平面図で見ると道路で隔離されているように見えるが、実際は1階の部分でそれぞれ繋がれているため、一体的な運用が可能なように配慮されている。
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 出典:nasubolog(https://www.nasu66.com/entry/toyosu-market

4.2 各棟の概要
1) 水産卸売場棟(7街区)
豊洲市場の中核となる卸売場棟だ。1階は卸売場、2階は「うに」卸売場、3階は塩干卸売場、4階は転配送センターだ。豊洲市場に届いた水産物はまずここに運ばれる。1階は活魚売り場を除き、閉鎖型だ。4階の転配送施設内は10.5度まで冷却できる構造だが、そんな低温にするかどうかは電気代を支払う卸売業者が協議して決めるようだ。2階の「うに」卸売場はきちんと芸術的に箱詰めされた商品の取り扱いだ。トラックの振動等を避ける意味から2階にしたらしい。この棟の施行は、大成建設竹中工務店熊谷組大日本土木名工建設・株木建設・長田組土木のJVだ。

2) 水産仲卸売場棟(6街区)
豊洲市場に到着した水産物が水産卸売場棟から仲卸売場棟に移動して、仲卸事業者によって売買される。1階の閉鎖型施設内の空調は25度Cで管理できる。取扱商品ごとに温度管理することも可能だ。1階が仲卸売場、3階が飲食店舗等、4階が物販店舗等、そして屋上は緑化広場だ。開業した後は、この屋上の緑化広場は無料で解放するようだ。天気に恵まれれば展望も良い。なお、この棟は清水建設大林組戸田建設鴻池組東急建設錢高組・東洋建設JVが対応している。

3) 青果棟(5街区)
青果棟は水産卸売場棟と繋がっていて、青果関係はこの青果棟に移動する。閉鎖型施設内の管理は22度Cで管理する。低温倉庫(0-10度C)も用意する。1階は卸売場、仲卸売場等だ。2階はなく、3階が加工パッケージ施設などだ。鹿島建設西松建設東急建設・TSUCHIYA・岩田地崎建設京急建設・新日本工業のJVが施行している。

4.3 豊洲市場の特徴点
1) 閉鎖型施設:閉鎖型とすることで温度管理、保冷の効率化、粉じんや鳥・虫・鼠の侵入防止。
2) 高床式バースト車長に対応した庇:商品の汚損や埃の流入防止、商品の搬入時の風雨の影響軽減。
3) ドックシェルター:1階と4階の商品出入口は施設の開口部と車両の隙間を密閉。
4) 入場管理室:市場利用者専用の手洗い・手指消毒・靴底消毒を行い、衛生管理の徹底。

4.4 豊洲市場の開場に向けた追加対策工事
豊洲市場では、専門家の提言に基づいて追加対策工事を実施した。具体的には、地下ピット追加対策では、床面にコンクリートを敷設するとともに、ピット内に換気設備を設置した。また、地下水管理はシステム機能強化対策では、建物下に揚水ポンプの設置を行うとともに、旧観測井戸での揚水等により、揚水機能を強化して安全宣言をした。
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 出典:東京都中央卸売市場(追加対策工事について|東京都中央卸売市場)

4.5 豊洲市場の移転に必要な経費と財源
東京都のホームページに掲載されているQ&Aでは費用についての質問と下のような回答があった。2011年(平成23年)2月時点の回答だ。当日の東京都職員の回答では追加費用は32億円ほどだという。妥当なレベルだろうか。
豊洲新市場の移転整備には、合計で約3,926億円の経費がかかると見込まれています。その内訳は、建設費が約990億円、豊洲新市場予定地の土壌汚染対策費が約586億円、護岸の整備や東京都市計画道路補助第315号線の高架化などの基盤整備費が約370億円、豊洲新市場予定地の土地を取得するための用地費が約1,980億円となっています。これらの経費は、市場業者が東京都に納めている使用料を主な収入とする独立採算の中央卸売市場会計で賄われ、不足分も築地市場跡地の売却収入で補てんされます。一般会計からの補てんや補助は受けませんので、皆さんが納めている税金が使われることはありません。
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 出典:東京都中央卸売市場

5. 今後の課題
5.1 電力消費量

豊洲市場には2000kW相当の太陽光発電設備が設置される。ネットの記事で見ると青果棟の屋上に設置するようだ。トータルの消費電力量は開示されていないが、現在の築地市場では、下の図にあるように年間で5000万kWhに達するようだ。
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 出典:東京都議会議員「おときた俊」(https://otokitashun.com/blog/daily/11266/)

5.2 テナントの負担
築地市場豊洲市場もテナントが負担する家賃の単価は同じだ。しかし、豊洲に移転すると利用するスペースも広がるので実際に負担する家賃は増大するケースが多いだろう。また、温度設定が卸売業者の判断に任されているのは、その電力料金を負担するためだ。まあ都の職員曰く水産関係者で豊洲市場への移転に反対している人には会ったことがない。だって便利になるんだもの。まあ、都の職員としてはそれぐらい水産関係者のことを考えているという自負と理解する。

5.3 異常気象への対応力の強化
豊洲の地下水の推移は健全な水位にあるようだ。しかし、雨が降れば当然水位は上昇する。近年のような予想を超えるゲリラ豪雨等が発生した場合いどの程度まで水位が上昇するのだろうか。ポンプで排出するにしてもその能力は十分なのだろうか。水との戦いは簡単ではない。
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 出典:ameba(豊洲市場の地下水位変動の状況(2016/11/24時点) | マスメディア報道のメソドロジー)

まとめ
来月6日(土)に築地市場は83年の運営にピリオドを打つ。そして、豊洲市場は同11日(木)から開場する。7日から10日までの期間で、二重化できないものを引っ越すらしい。大変だ。度重なるスキャンダルや迷走からなんとか収斂できたのは関係者のご尽力によるものだろう。しかし、課題も多い。今回、都の担当者の話を聞くことができたので、理解した範疇で報告した。個人的には、関西空港のように水害で水没した場合の停電対策が気になるところだ。講演者に自家発のことを質問すると設置はされるが、設置場所は1階もしくは地下だ。想定される水害には対策をしているという言葉を信じるしかないのが少し不安なところだ。自家発設備が稼働したとしても、1階が水没するような状態になり、商用電源がストップするのが最悪のシナリオだ。想定されるリスクに対して、豊洲市場の機能を強化すべきなのか、それとも他の市場との分散化で対応するのか。総合的な検討が必要だろう。釈然としないのは、大きな流れとして築地から豊洲に移転するのは、それほどおかしな計画とは思えないのに、なぜあれほどヒステリックな報道が続いたのだろう。文春砲にも正義と罪がある。新聞やテレビなどのマスメディアは警察ではない。まして検察官でも裁判官でもない。しかし、その場の空気で容疑者とされたものは社会的に処罰される。子供達のいじめの構図との類似性が気になる。子供に大人が模範を示さないといけないのに、反面教師ばかりを見せて、子供を指導しているとしたら悲しい構図だ。
 出典:iRONNA(誰がなんと言おうと、私は「文春砲」が許せない)
以上