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新米技術士の成長ブログ

ヘルスケアとIoMT

はじめに
 平成29年度の技術士二次試験(情報工学部門)の課題IIIの問題にトライしようと思ったら、ヘルスケア機器をIoT化する場合の利用者の価値と提供会社のビジネス的な利点を述べよとあった。さらにクラウド活用の場合のシステム構成とか、セキュリティのリスク等も複数の視点から分析して対策とともに述べよとある。流石に技術資格の最高峰と言われるだけある。これらについて600字の原稿用紙3枚にまとめる。キーワードを盛り込んで、ロジックも明確にして、分かりやすく論ずるのはなかなか大変だ。ただ、このヘルスケアとかIoTというキーワードを調べていると色々と面白い気づきがあり、とても600字×3では収まりそうにない(笑)。そのため、技術士を目指す人との情報共有の意味を込めて、このブログで少し論点を整理して見たいと思った。

ヘルスケアとは
ヘルスケアは、特に和製英語ではなかった。英語でも、そのままでhealth careという。つまり、健康の維持・増進の行為や健康管理のことだ。東洋医学では養生や未病と言って普段からの健康を管理する概念があるのに対して、西洋医学は病人を治す治療を主眼にしたものだった。しかし、近年では西洋でも普段からの健康の維持や病気の予防に注意が払われるようになっている。

ヘルスケア機器
ヘルスケア機器にはどのようなものがあるのか。Small Start.bizではこれを、予防、診断・治療、予後・介護、健康増進の4つに分類している。狭義のヘルスケアは健康増進と予防を目的とする下半分だろう。
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出典:Small Start.biz(参考1)

IoMTとは
IoMTとは、さまざまな医療機器やデバイスをインターネットでヘルスケアのシステムとつなぎ、リアルタイムでの医療データ収集や解析を可能にする技術や概念のこと。つまり、医療・ヘルスケア領域のIoTのことをIoMT(Internet of Medical Things)と呼ぶ。先進諸国のGDPにおける医療費支出の比率は、日本は約12%、米国では約18%に達しているという。医療サービスの品質を下げずに、医療費を下げるには、IoMTのテクノロジーを活用し、予防医療にシフトすることが求められている。

ヘルスケアの市場予測
平成28年度の情報通信白書によれば、ヘルスケア市場は2015年の209億ドルから2020年には626億ドルまで3倍以上に増加するという。その中でも情報機器は2015年の68億ドルから2020年の323億ドルへと5倍近くに増大するという。本当だろうか。
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出典:情報通信白書(参考2)

ヘルスケア市場
サクサホールディングスの資料では、下の図のように、ヘルスケアの機器がネットに繋がり、そこから各種データを分析することで様々なサービスがヘルスケアの分野で創造され、社会インフラ、オフィス、介護、医療の各分野で市場が拡大すると論説している。ここで重要なことはヘルスケア機器から生じるビッグデータの価値や知見を活用できる企業が他社との競争に勝ち抜くことができるという厳しい世界に突入しているということだ。
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出典:サクサホールディングス資料(参考3)

ビッグデータは誰のものか
日立コンサルティングは、予防と診断・治療と予後・介護という3つのフェーズにおいて発生する各種データが連携して活用されるべきと解いている。しかし、予防レベルのデータは医療データではないためヘルスケア機器メーカーが提供するクラウドサービス等に保存される。医療費データは病院の医療システムとして管理される。介護のデータは自治体が管理するのだろうか。これらデータは連携されず、それぞれのシステム内でクローズドな状態で使われるのが実態ではないだろうか。
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出典:日立コンサルティング(参考4)

医療と非医療の連携
宮崎には、医療の力と運動の力を総合的に活用するメディカルフィットネスフィオーレが運用されている。素晴らしい。ここでは、医療従事者とトレーナーが連携する。医師、理学療法士保健師、看護師、管理栄養士、トレーナー、健康運動指導士、健康運動実践指導者が連携して治療や指導に当たる。宮崎駅からは徒歩3分と言う至近距離にあり、有名なフェニックスカントリークラブまでも車で20分ほどだ。こんな恵まれた施設で人生最後を過ごす人は幸せかもしれない。
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出典:メディカルフィットネスフィオーレ(参考5)

AIヘルスケアサービス
まだコンセプトレベルだが、ヘルスケアの情報も医療の情報も個人の健康データとして統合的に管理して、日々の健康管理情報として本人や家族、病院で共有し、精度の高い治療に役立てることが検討されている。これは理想の姿だが、これを実現するにはハードルも多いだろう。
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出典:ウイズアス(参考6)

セキュリティリスク
ヘルスケアデータを利活用する遠隔医療モニタリングを想定する場合には、下の図のようにIotとクラウドとBig Dataの掛け合わせという構造になる。そして、それぞれがセキュリティリスクに直面する。リスクの範囲には、盗難や改竄に留まらず、ヘルスケア機器が乗っ取られたり、不適切な動作をすると生命を脅かす事態まで想定される。しかし、セキュリティリスクを複数の視点から分析せよという問題には、このようなIoTの側面、クラウドの側面、ビッグデータの側面からのリスクと対応策を述べれると分かり易い(=合格)かもしれない。
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出典:Cloud Security Alliance(参考7)

クラウド利用が進む医療系ネットワーク
日医総研の調査によると医療系ネットワークは全国309か所で構築され、うち270か所が調査に応じた。うち42%では公開WEBサイトがあるが、58%はクローズドな運営だ。まだまだ、情報公開は遅れているが、下の図のようにクラウドを活用した事例は急速に拡大している。医療系データも非医療系のデータも統合的に取り扱うようなクラウドサービスが登場して浸透すると統合的な利用が可能となるのかもしれない。
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出典:メディウォち(参考8)

最後に
医療と非医療の連携は簡単ではないだろう。少なくともデータをシームレスに連携するような仕組みは必要だ。また、データはあくまで本人に帰属するという整理をしない限り、各種データの統合的な利用は難しいのではないだろうか。クラウドサービスの利用によってシームレスな運用や統合的な活用が可能となるとしたらそれは歓迎すべきことだろう。しかし、そのようなサービスを提供する事業者がアップルだったり、アマゾンだったりした場合には、日本人の大切な情報が全て国外で処理されるという非常に危うい状況になることも危惧される。日本人の安全と安心を高めるのは難問だ。   
 以上


参考1:http://smallstart.biz/it・iot/iotでビジネス価値を生み出す-企業における10の活用
参考2:総務省|平成28年版 情報通信白書|ウェアラブル
参考3:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000016.000029473.html
参考4:http://www.hitachiconsulting.co.jp/business/healthcare/index.html?p=top_b
参考5:http://www.mf-fiore.com/about.php
参考6:http://www.withus-group.com/service/
参考7:https://www.slideshare.net/esasahara/ss-69325550
参考8:http://www.medwatch.jp/?p=15503