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日本ITU協会主催のセミナーに参加して感じたこと

日本ITU協会主催のセミナー受講
5月10日の午後に市ヶ谷で「ブロックチェーン・エコノミーの最新動向」と題したセミナーが開催され、都合がついたので参加しました。懸念事項など感じた点などを少しまとめて報告したいと思います。

日本ITU協会をご存知でしょうか?
日本ITU協会とは、ITU等の国際機関の各種活動への協力や資料の収集、途上国への技術協力などを行なっている一般財団法人です。また、ITUとは、国際連合の下部組織である国際電気通信連合(International Telecommunication Union)の略であり、現在は事務総局に加えて,ITU-R(無線通信部門),ITU-T(標準化部門),ITU-D(開発部門)の3部門体制となっています。

ITU機関の変遷
通信は、電信、電話、加入電信、データ通信と発達し、現在はインターネットが全盛期です。通信の勧告を制定するCCITTや無線の勧告を制定するCCIRがそれぞれ1925年と1927年に設立し、それらが現在はITU-TITU-Rとなっています。通信規約の実効的な制定機関の変遷
電話やテレックス、ファックス、データ通信といった伝統的な通信方式は、各国の研究機関の英知を集め、CCITT勧告として標準化した。勧告化は4年毎に制定され、それぞれをブルーブックとかレッドブックとして、いわば通信技術者のバイブルでした。しかし、1980年代に登場したインターネットは米国防総省が構築したARPAnet(Advanced Reserch Projekuts Agency net)を起源とする分散型のコンピュータネットワークであり、その通信規約のコアは有名なTCP/IPです。

ブロックチェーンの登場
今回の主題となるブロックチェーン技術は、ナカモトサトシが発案した方式です。2008年に暗号理論に関するメーリングリストに投稿し、2009年にはこれを実現するソフトをネットで公開しました。現在実用化されているブロックチェーンのソフトは、このナカモトサトシさんが公開したソフトを起源にしたものです。

講演者である岡田仁志さんの紹介
現在は国立情報学研究所学研究所の准教授です。ビットコインブロックチェーンに関する図書も数多く執筆されているので、ブロックチェーンに興味のある人であれば、岡田さんの図書を読まれた方も多いのではないかと思います。今回のセミナーの内容は、次の3点についてでした。

1) 分散仮想通貨の構成

2) ブロックチェーンによる所有権

3) ブロックチェーンエコノミー

セミナー概要のポイント
その内容を詳しくレビューすることは割愛しますが、ポイントは、ビットコインなどの仮想通貨は、支払い>記録>採掘>報酬>承認>流通という流れで処理されること、ブロックチェーンでは資産は分散化された台帳に転々譲渡され特定の誰かが所有するわけではないこと、ブロックチェーンエコノミーはブロックチェーンコードの技術という層とこれを活用する経済面の層とこれを規制する法制度の層の三層で構成されること、今後重要なことはこれら3つの層のそれぞれを健全に発展できるように日本として貢献することです。

セミナーを受講して感じた5つの懸念事項

1)分散処理の限界
ブロックチェーンは基本的に分散処理方式であり、特定の統治者を持たないことが特徴です。また、複数の台帳に同じ内容を記載し、一部のデータが欠損したり、改ざんされても、他の分散台帳の内容を照合して復元することが可能です。そしてその処理は基本的に多数決です。また、ブロックチェーンのデータマイングとは、言い換えれば暗号の解読処理です。過去の処理状況を踏まえて10分間隔で解読をします。正しくブロックを解読した人には報酬が割り当てられます。同時に解読した人が複数生じた場合には、解読したブロックが長い人が解読者となります。

2)コンピュータ処理の無駄使い
ブロックチェーンでは、基本早い者勝ちなので、少しでも性能の高いプラットフォームを構築して報酬を得ようとします。しかし、ブロックの解読は一定の時間(現在なら10分)を定めているので、データマイニングする側の処理が高速化されると、より解読が困難なように処理を複雑にします。しかし、それでも、報酬を得ようとしてさらに解読機能を高めるので、さらに複雑な処理にする。これがいたちごっこ的に加速し、結果として膨大なコンピュータ処理リソースの無駄使いに繋がる傾向にあります。

3)中国の特定地区にマイングセンターが集中する理由
マイニングのためのコンピュータを稼働するには大量の電力を消費します。アイスランドでは、マイニングのための電力消費が100メガワットを超え、アイスランドの34万人の市民が使う電気量よりも多いという。また、マイニング業者は電力料金の安い場所を求めている。中国の四川省雲南省はマイニングを行うマイナーのメッカとなっている。これは、これら地区では豊富な水資源に恵まれていて、アイドル電力などをマイナーに低廉な料金で提供することで相互にメリットがあったためだ。しかし、電力量が指数関数的に増大すると、これらのWIN-WIN関係も破綻する可能性がある。
news.yahoo.co.jp

4)分散運用ではなく実質的に統治される懸念
ブロックチェーンの最大の利点は特定の統治者がいないことだ。しかし、例えば過半数のマイナーを統治する誰かが出現した場合いは、その誰かが実質的な統治者になり得る。中国政府がブロックチェーンをどのように活用しようとしているのかは慎重に見極める必要があるだろう。

5)仮想通貨がアジア圏の実質通貨となる懸念
トランプ大統領はアメリカファーストを宣言している。これは世界の統治者としての地位を退くということだ。しかし、アメリカが世界の統治者から退く場合にどこが新たな覇権国になるのかといえばやはり中国が有力候補だろう。インドはその次だろう。通貨の世界でもポンドやユーロからドル支配に転じたが、そのドル支配もさらに中国元の支配に変遷するのかというと、それには米国資本家はノーだろう。しかし、仮想通貨を中国政府が後押しし、その仮想通貨が実質的なアジアの支配通貨や世界の支配通貨になるのだと米国資本家はノーというのだろうか。昨年の夏にビットコインが分離し、ビットコインキャッシュが誕生したときには、ビットコイン保有者には同額のビットコインキャッシュが付与された。仮定の話としても、例えば中国がビットコインチャイナ(仮称)を創設し、ビットコイン保有者には同額のビットコインチャイナを付与し、そのあとビットコインを実質的な運用停止にすれば、ビットコインのエコノミーが全てビットコインチャイナが継承してしまう。こんなシナリオを描いている人はいないと言えるのだろうか?

まとめ
ブロックチェーン技術は、1980年代にインターネット技術が登場したときと同じような爆発力を感じる。今後の数十年の技術動向を左右する重要な技術の一つになると期待されている。しかし、今回記載したような懸念も多い。処理速度を無駄に使わず、管理者を明確にして、その監査機能も付与するようなエコなブロックチェーン2.0ともいうべき仕組みを考えない限り、現在の勢いのままにブロックチェーンビットコインが世の中に浸透するとは思えない。また、個人的には、民間の私企業ではなく、民間の銀行ではなく、中央銀行でもなく、政府が政府発行の仮想通貨を発行するのが最も合理的なように感じます。まだまだ、不明なことが多いし、ブロックチェーンの可能性は無限大なので、どのようなエコノミー活動にはどのような運用や仕組みが適切なのかといった議論をしかるべき国際機関が行うべきだが、現在のITUにはそのような権限も力も(多分)ないのが残念です。

以上