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エストニアに学ぶ:電子投票

はじめに
選挙と言うと国政の選挙よりもAKB48グループの選抜総選挙を連想する人もいるかもしれない(笑)。私はAKB48グループの総選挙で投票をしたことがないが、総選挙でランキングされたアイドルのスピーチの力強さや心の葛藤にはいつも心を動かされていた。でも、そんなAKBグループの総選挙も今年は10回目だ。そろそろ正直飽きてきた。それよりは、最近は乃木坂46欅坂46の方が勢いがあるように感じるのは私だけだろうか。国政の選挙に戻る。日本の国政では、残念ながら電子投票はまだ実現していないが、その前段として、2013年に公職選挙法が改正されて、インターネットを活用した選挙活動が制限付きながら認められた。下の図は、何ができるのかをうまくまとめている。しかし、選挙に勝つにはやはり握手や戸別訪問などのレガシーな活動が有効らしい。衆議院の選挙なども、小選挙区にせず、AKB48のように全国で戦って、当確者から順番に一人一人カメラを前に自分の信念や抱負などを話すとどうなるのだろう。全国で投票数を競うとその獲得数のランキングはどうなるのだろう。若手のホープ小泉進次郎と総理大臣の安倍晋三のどちらが多くの票を獲得するのだろう。まあ、現状は小選挙区制なので、そんな対決はありえない。選挙にインターネットを活用することは賛成だが、それを選挙活動だけにとどめるのではなく、インターネットによる電子投票まで踏み込めないものか。先行する事例を調べてみた。
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(出典:the page、参考1)

1. 電子投票とは
電子投票とは、インターネットなどを介して投票するものだが、Wikiによると投票所で電子機器を操作して投票する方法と、遠隔地から投票する方法がある。現在の期日前投票では、事前に期日前投票所に出向き、身分証明を行い、書面で先制し、投票用紙を受け取って、投票すると面倒だ。電子投票が可能となれば、期日前投票の手順も改善されるのだろうか。株主総会などのネットでの議決権行使は2002年の商法改正に伴い可能となったが、国政の電子投票はまだまだだ。でも、私の大好きなエストニアでは先行して電子投票を行っていたので、調べてみた。

2. 先行するエストニア電子投票
エストニアは、IT先進国だ。日本では2015年10月からマイナンバー制度が開始したが、エストニアはこれより13年も先行する2002年にDigital ID制度を開始した。日本のマイナンバーはこのエストニアのDigital ID制度を参考にしたという。日本のマイナンバーは実質的にはあまり使われていない。少なくとも自分は大切に奥の方に保存している。しかし、エストニアのDigital IDは3000以上の行政や民間サービスを使うための有効のIDカードになっている。行政サービスも離婚手続きなどの一部を除く99%が使えるという。しかも、暗証番号などは別に国民が管理するため、IDカードを紛失したりしても直接の被害は回避される。さらに、エストニアでは、このDigital IDカードを活用して、2005年の地方議会選挙で正式に電子投票が採用された。
下の図(左)は、電子投票数と全体の投票率だ。2005年の地方議会選挙でスタートし、2007年の国会議員選挙ではインターネットを介した電子投票が行われ、2009年にはEUの選挙にも使われ、さらに2009年の地方議会選挙では利用率も増えている。下の図(右)はその仕組みだ。エストニア政府は、2016年初めから米NASDAQと共同でブロックチェーンの実証実験を進め、現在はブロックチェーンの仕組みを電子投票に取り入れている。具体的には、KSIという手法を用いている。KSIとは、Keyless Signature`s Infrustractureの略で、仮想通貨のBitCoinもこれを使っている。KSIは認証のための暗号鍵を使用しないのではなく、暗号鍵の引き継ぐことで認証させる。KSIでは、署名者識別機能と証拠保全保護機能が分離され、それぞれの機能に適した暗号ツールが使われる。つまり、署名者の識別は、非対称暗号鍵を使用し、証拠保全保護機能では保存された暗号鍵を使うようだ。
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(出典:Council of Europe(左)/参考2、KSI(右)/参考3)
3. 電子投票のメリット
(1) 投票者のメリット

エストニアでは、電子投票を利用するかどうかを選択できる。このため、従来の方法でも可能だし、電子投票でも可能だ。この方法であれば日本でもソフトランディングが可能だろう。遠隔地での投票とか、投票日に都合の悪い時とかに電子投票ができれば便利だ。私も結局名古屋に2年半の単身赴任をすることになったが、その間の都政や国政の選挙には参加できた時もあれば、出来なかった時もある。電子投票が可能なら多分、すべて投票しただろう。

(2) 政府のメリット
直接的には集計コストの圧縮や迅速化だろう。そして、副次的かもしれないが、エストニアの事例を見ると投票率の改善にも効果はあるようだ。集計作業に前時代的な集計を軽減できるのも助かるだろう。すでに解禁されているが選挙活動の電子化をもっと推進すれば、政治家のポリシーや活動をネットを通じて観れるようになるかもしれない。ちなみに森友学園の文書偽造疑惑はエストニアではおきらないそうだ。なぜなら、すべての資料は電子化されているので、決済文書が途中で改ざんされることはありえない。会社でも、自分が入社した時は手書きの稟議書だったので、上司や関係部門に協議するたびにコメントが付記されたり、修正を入れられたりしたが、最近はりん議システムで決済するので、コメントの追加は可能だが、文書の変更は不可能だ。

4. 電子投票実現への課題と対応
投票者にも政府にもメリットのある電子投票だが、日本でこれが実現するのは簡単ではないだろう。どんな問題があるのだろう。
(1) コストの問題
2002年に岡山県新見市タッチパネル式の電子投票を導入し、京都市などが追随し、ピークでは全国で10市町村が導入したが、京都市は2015年に電子投票から撤退し、岡山県新見市も2017年に自書式に戻し、最後の青森県六戸町も2018年2月28日に電子投票からの撤退を発表した。その理由は導入した電子機器のリース代が高価なこと、電子投票が普及しないため製造メーカーが保守できないこと、集計作業の時間にも大差ないこと等が挙げられていた。
(出典:参考4、参考5、参考6)

(2) 規模の問題
市区町村単位で電子投票システムを構築して、維持するのは大変だろう。当時はクラウドの利用も普及していなかったため、岡山県新見市によると、選挙経費は電子投票が約5600万円に対し、自書式は約2000万円だという。どこが製造したのか知らないが(だいたい想像つく)、今ならクラウドを活用して、汎用のスマホやPCからの電子投票を前提とすればコストの問題は払拭するだろう。その場合も、市区町村だけではなく、国政の選挙でも使うような前提に立った開発と利用が必要だろう。

(3) セキュリティの問題
エストニアでも活用されているようにブロックチェーン方式を活用すればセキュリティの問題はかなり解消するだろう。しかし、仮想通貨の事例でも観れるように、すべての処理がエンドエンドでブロックチェーンで暗号化されているわけでないとそこで問題が生じる可能性もある。スマホやPCを含めたエンドエンドのセキュリティ対策が必要だ。

(4) 政府側の思惑
電子選挙を導入することが与党に有利なのか、野党に有利なのか、政治家一人ひとりにとって有利なのか不利なのかを考えるのが政治家だろう。そして、そもそもITに疎い高齢の政治家がITのメリットを正しく理解し、その活用の成果を正しく予見できるとは思えない。政治家だけではなく、選挙する側も高齢者が多く、昔ながらの自書式を好む人もいるだろう。したがって、すべてを電子選挙にするのではなく、まずは遠隔地や期日前投票で活用できるようなしくみ作りが求められるのだろう。

まとめ
電子投票は実現してほしい気持ちはあるが、現在のマイナンバーの状況を考えると悲観的にならざるをえない。関係省庁の思惑が交差する中で妥協の産物のような電子投票システムを構築しても、使い勝手が悪く、運用コストが高価で、信頼性もないとしたら最悪だ。また、要求仕様も凍結できず、政治的な判断でどんどん変わっていくとしたらSE泣かせだ。しかし、5年後は無理でも、10年後には電子投票のトライアルぐらいはできるような国になっていたいものだ。そのためには、ブロックチェーンを活用した色々なトランザクションシステムが世の中に普及し、活用され、効果を上げていることが必要だろう。そして、その点においては希望は持てるのだと信じている。
以上

参考1:https://thepage.jp/detail/20130425-00010000-wordleaf
参考2:https://www.coe.int/t/dgap/goodgovernance/Activities/E-voting/CoE_Studies/GGIS(2010)15_Internet_voting _in _Estonia 2005-2009 E.asp
参考3:https://guardtime.com/technology
参考4:http://1000nichi.blog73.fc2.com/blog-entry-6429.html
参考5:https://mainichi.jp/articles/20170123/ddl/k33/010/334000c
参考6:http://www.toonippo.co.jp/news_too/nto2018/20180226033593.asp