LuckyOceanのブログ

新米技術士の成長ブログ

電子地域通貨は生き延びるのだろうか?

はじめに
カミオカンデといえば、2002年にノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊を思い出す。そんなカミオカンデ岐阜県神岡鉱山地下1000mにあるニュートリノの観測装置だ。そんな有名な施設のある神岡を訪問した。幸い天気も良く暖かかったけど、周辺は1-2mの雪が積もっている秘境だ。飲食店もあるが、ほぼお休みだった(涙)。時間調整をする場所がないので、メインストリートを散歩していたら飛騨信用金庫の店舗があり、「さるぼぼ」のポスターがあちこちに貼っている。なんだろうかと思ったら、「さるぼぼコイン」だった。帰りのバスは1時間後なので、試しに作ってみた。

さるぼぼ
飛騨では赤ん坊のことを「ぼぼ」と呼ぶ。なので、さるぼぼとは猿の赤ちゃんの意味だ。飛騨の地方ではおばあさんが子供や孫に手作りで作った人形だ。顔が描かれていないために手に取った人の心が写されるとも言う。もともとは安産祈願の赤さるぼぼのみだったが、現在では様々な色のさるぼぼが売られている。例えば、青さるぼぼは出世と合格、黄色はギャンブル運、ピンクは出会い、紫は長生き、銀は友情、黄金は金運に御利益があるという。試してみてはいかがだろう?
f:id:hiroshi-kizaki:20180228145748p:plain
(出典:飛騨物産館、参考1)

電子地域通貨
さるぼぼコインは、飛騨地区のみで使える電子地域通貨だ。電子地域通貨をざっと調べると、沖縄、長崎、飛騨の事例が見つかった。

(1) 沖縄の「琉球コイン」
沖縄銀行は、2017年6月15日に琉球コインの実験を開始すると発表した。これは、日本IBMと連携し、ブロックチェーン技術を用いた仕組みだ。3ヶ月程度の実験をする。将来は健康保険組合とも連動するという。市町村の地域通貨の電子化なども視野に入れている。しかし、ビットコインの急騰と暴落という荒波を経て、今はどうなっているのだろうか。沖縄銀行の行員食堂で使うだけで終わってしまうのだろうか。
f:id:hiroshi-kizaki:20180228152219p:plain
(出典:沖縄タイムス、参考2)

(2) 長崎の「しまとく通貨」
しまとく通貨とは、長崎県壱岐市五島市小値賀町新上五島町佐世保市宇久町などで使える電子通貨だ。2013年から3年間で約104億円を発売したしまとく通貨をスマホなどで2016年10月から電子的に使えるようにする。1セット5000円で発売され、6000円分の買い物ができるという。長濱ねるが3歳から7歳育った五島列島では使えるようだ。しまとく通貨は、そもそもは島外からの観光客をターゲットとし、島の登録店舗で支える仕組みだ。電子化により、25%程度のコスト削減を見込む。現在は、期間限定(2017年10月〜2018年3月)で発売している。プレミアム率が20%とお得だ。
f:id:hiroshi-kizaki:20180228153345p:plain
(出典:長崎県壱岐市、参考3)
(3) さるぼぼコイン
さるぼぼコインとは、岐阜県の飛騨高山エリア限定の電子通貨で2017年12月4日からサービス提供開始した。三菱東京UFJ銀行のアプリを開発しているアイリッジが開発している。利用可能な加盟店は100店舗ほどで、店舗に設置されたQRコードを読み取って支払いが可能だ。神岡の飛騨信用金庫で1000円をチャージし、飛騨高山の駅内店舗(1階)でコーヒーやサンドを購入できた。クレジットカードだと5-8%の決済手数料がかかるが、さるぼぼコインの場合には加盟店での決済手数料は1.5%、加盟店が仕入れ代金などを支払う送金の手数料は0.5%に設定しているという。バーコードを使った支払いはWeChat Payなど中国では一般的だが、中国人観光客への対応は今後のフェイズだという。
f:id:hiroshi-kizaki:20180228155714p:plain
(出典:CNET、参考4)

仮想通貨と電子地域通貨
仮想通貨と電子マネーの違いはわかりますか?仮想通貨とはビットコインを代表とする独自の通貨をサイバー上で取引するものだ。一方の電子マネー(電子通貨)とは国家が提供する通貨(=円)を電子的に決済する仕組みだ。さらに電子通貨には、交通系と流通系が主流だ。さらにはプリペイドタイプとポストペイドタイプがある。「さるぼぼコイン」などの電子地域通貨プリペイドタイプの地域密着型だ。しかし、電子マネーのカードを製造したりせずに、スマホのアプリでQRコードを読み取り処理する点が特徴だ。

RFIDタイプとQRコードタイプ
日本の電子マネーは従来はRFIDタイプ、つまり無線で読み取るタイプだった。古くはFELICAからだ。しかし、中国をはじめ海外ではQRコードを読み取るタイプが主流だ。既存のRFIDを活用する電子マネーがその呪縛から逃れない隙をついたのがQRコードタイプの電子地域通貨ではないか。

電子地域通貨の課題

それでは電子地域通貨が今後、普及して、市民権を得るための課題はなんだろう。

(1) 共通のプラットフォーム
現在は、個別のプラットフォームを開発して運用している。これはある意味機動性が高い。しかし、反面、他の電子通貨や仮想通貨との互換性を確保することが難しい。仮想通貨ではブロックチェーンという新しい仕組みを利用することが特徴だが、反面、その認証にはマイニングという高度な処理を行う必要があるため、多大な情報処理を行う必要がある。また、約580億円相当のネム(NEM)のように盗まれるリスクもある。さるぼぼコインでは、アイリッジが開発したMoneyEasyというプラットフォームを活用している。MoneyEasyは、2017年11月に報道によると、ハウステンボスの実証実験として導入する電子通貨「テンボスコイン(仮称)」に採用された。2018年1月の報道によると、伊予銀行はこのMonyEasyを活用し、地域創生のために「IYOGIN Coin」の実証実験を行うという。QRコードを用いた電子通貨が普及するかどうかは、これを先導するMoneyEasyが普及するかどうかにかかっているようだ。
f:id:hiroshi-kizaki:20180228160646p:plain
(出典:プレジデント、参考5)

(2) 地方銀行の連携
三菱東京UFG銀行は仮想通貨としてのMUFJコインの提供を検討している。他の都銀もこれに追随するのか、それともMUFJコインが独走するのかは不明だが、地方銀行が生き残れるかどうかを問われている。地方銀行がまず考えるべきは地域特化だが、それぞれの地域でそれぞれの地方銀行が独自の電子地域通貨を提供するのは無駄だし、利用者にとっても利便性が低い。やはり連携するべきだろう。いわゆる地銀や地方信用銀行が連携して、地域密着サービスを提供できないものか。そして、さるぼぼコインを沖縄や長崎やハウステンボスでも使えるようにする。全国・全世界で使えるようにする。そんな地方銀行の連携は不可避の課題だろう。

(3) ビッグデータの活用
電子地域通貨の目的をコスト削減に止めてはいけない。広く利用者に使ってもらうことで、誰がどこで何を買ったのかという個人情報を蓄積できる。これを連携パートナー通しで共有し、ビッグデータとして活用することで、新たなノウハウを見つけて、商売に活用することが求められる。そのためには、プラットフォームを提供するアイリッジが提携パートナーと交渉し、ビッグデータ解析までするようになると面白いだろう。しかし、反面個人情報を保護することができなければ、電子地域通貨自体が見放されることにもなりかねない。利用者も提供者もプラットフォーマーもメリットがあるようなそんなビジネスモデルを作れるかどうかが問われているのではないだろうか。

まとめ
日本銀行が発行する紙幣や、日本政府が発行する通貨に換えて、様々な電子通貨や仮想通貨が使われるようになると、その実態を政府は正確に把握することはできるのだろうか。いわゆるGNPやGDPにこう言った電子通貨や仮想通貨のアクティビティはどのように反映されるのだろうか。なんだかわけがわからないことが多すぎる(笑)。

以上

参考1:https://www.takayama-gh.com/hida/shopping/sarubobo.html
参考2:http://www.okinawatimes.co.jp/articles/gallery/93416?ph=1
参考3:http://www.city.iki.nagasaki.jp/kankou/kankou/shimatoku/2725.html
参考4:https://japan.cnet.com/article/35113151/
参考5:http://president.jp/articles/-/6492