LuckyOceanのブログ

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オイルタンカー事故から将来の自動運航船の可能性まで

イランのオイルタンカー事故
先のブログでも書いたように事故のレベルではなく、海外が報じているように災害(デザスター)のレベルだと思う。朝日新聞テレビ朝日でも取り上げつつある。事実確認と問題指摘をしてくれている。具体的には、次のような内容だ。
1) 奄美大島に油状のものが漂着した。
2) 第10管区海上保安本部は油状の固まりと沈没したタンカーとの関連を調べる。
3) 地元漁協職員は漁への影響を心配している。
4) 中国交通運輸省は2月1日に北京で記者会見を開いて現状を説明した。積荷のコンデンセート約13.6万トンと燃料の重油約1,900トンを積んでいた。重油を除去しなければ海洋汚染の可能性が残る。船体の引き揚げも検討する。油の除去作業には中国当局の船5隻のほか、日韓の応援も得ている。海面に800メートル近い吸油ロープを張るなどして流出を抑えようとしている。1月下旬の水中調査では沈んだタンカーの船体に最大35メートルの穴が見つかった。甲板の通風口なども大部分が損壊しており、さらなる油の流出の懸念があるという。油の流出を防ぐには引き揚げが最も効果的とする。国際条約に照らしタンカー所有者や船籍国と検討して引き揚げるかどうか決めたい。

中国での記者発表
2月1日に行われたという中国での記者発表の内容を調べてみた。そうすると詳細の説明と共に、記者団との質疑応答の内容が詳細に記載されていた。15:35に始まり、16:59に終了していた。約1時間半にわたっての記者発表だ。内容も非常に充実している。そして、その質疑の内容も詳細に公開していた。この真摯な対応は評価されるべきだろう。
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(出典:中華人民共和国交通運輸部、参考1)

交通運輸部からの説明
すべて中国語なので、Googleの自動翻訳で日本語にしてみた。要点のみを次に示す。意訳で要約したのはご容赦願いたい。中国農業省は、1月12日より、調査や監視内容を掲載している(どこに?)東シナ海水産研究所中国科学院の協力を得ている。6隻の船舶で7000海里以上を航海し、約500のサンプルをモニターした。この調査結果によると、関連海域の漁業資源に一定の影響を与えている。調査と監視は継続する必要がある。漁業資源、海洋の汚染調査、漁業資源の追跡調査を継続する。水産資源の品質と安全性を確保するため、領域の漁業管理と制御の強化を行う。沈没地点から30海里のエリアの洋上航海を制限する。石油系炭化水素の含有量とし第一標準(15mg/kg)と第二標準(50mg/kg)を定める。海の監視範囲を拡大し、さらに水産資源の品質と安全性監視を強化する。
(出典:中華人民共和国交通運輸部、参考1)

ARGOプロジェクト
前述の通り調査は中国が主導で行っているようだ。Twitterを見ていたら「cmk2wl」さんがARGOについて言及していたので、少し調べてみた。Wikiによると、ARGO計画とは、全地球的な海洋表層の水温や塩分プロファイルをリアルタイムで取得するグローバルなプロジェクトだ。世界気象機関やユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)とうの国際機関の協力のもと24の国と地域が参加(2006年現在)している。日本も参加している。ARGO計画では全世界の海洋に3000本のアルゴフロートを配置して、データを集める仕組みだ。下の図で見ると図の中央上に日本列島がある。今回の事故発生現場の周辺には日本のアルゴフロートが配置されているように見える。
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(出典:Wiki、参考2)
ARGO活用の可能性
アルゴフロートの基本仕様は共通だが、その製品は国によって異なっている。日本製は、下の図(左)の中央のものだ。1機で200-300万円だという。飛行機から投下して海洋に落とし、電池の寿命はほぼ5年だという。2006年11月時点で世界2637台のフロートが稼働している。しかし、現状の稼働状況の情報は見当たらない。今回のタンカー沈没事故の調査には使えないものだろうか。要求仕様からやり直しが必要だとしたらやはり厳しいのだろうか。
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(出典:左が参考3、右が参考4)

世界の重大海難事故
運輸省の資料によると、世界の重大海難事故件数は2008年をピークに減少傾向だったが、2013年から2014年にかけて増加しているという。その後の動向が気になる。AIS(自動船舶識別装置:Automatic Identification System)の活用による情報機器の発達というプラスの要素がある反面、例えば日本船舶で言えば、日本人船員の高年齢化とコスト低減のための外人船員の活用という要素がある。船舶の事故については、最新の状況を含めて、もう少し精査する必要がある。
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(出典:国土交通省海事局、参考5)

国内物流のシェアを二分する船舶
話がタンカー事故から離れて国内物流に目を向けたい。国内貨物輸送の輸送モード別の輸送分担率(2015年度)を見ると、一位は貨物自動車の50.2%だが、二位は内航運送の44.3%だ。日本でも、古くから河川は物流の手段であった。貨物の輸送を陸海空の三方式のベストミックスで今後は考える必要があるのではないだろうか。ドローンの飛行ルートとして河川上が検討されているが、そもそも船舶で貨物を輸送する仕組みをもっと活用出来ないものか。
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(出典:ビジネスIT、参考6)

自動運航船の可能性
平成29年12月に国土交通省がまとめた「自動運航船に関する現状等」の資料によると、下の図のように、まずはIoTを活用し、その上で、自動運航船を目指すという考えを示している。自動運航船の実用化に向けて、「海上運送法及び船員法の一部を改正する法律」(平成29年法律第21号) を改正し、平成37年を目途として自動運航船の実用化を図るとしている。これから7年後なので、2025年だ。なお、自動運航船をここでは「Auto-Shipping」と記載しているが、これで検索する自動車の運搬船が出てくる。Autonomous Shippingなら普通に検索できる。
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(出典:国土交通省海事局、参考5)

自動運航船(Autonomous Shipping)の展望
下の図は、SupplyChain247のサイトに掲載されているものだ。内容的には国土交通省の図と同じような概念だ。問題はこれらの技術を誰がどのように国際標準化するかではないか。
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(出典:SupplyChain247、参考7)

フィンランドによるAAWAプロジェクト
フィンランド政府は、自動運航船の開発プロジェクトを宣言している。それがAAWA(Advanced Autonomous Waterborne Applications)プロジェクトだ。ロールスロイスと共同して2025年までに自律運航の技術を確立することを目指している。このプロジェクトに対しては、Cargotec、Ericsson、Meyer Turku、Rolls-Royce、Tieto、Wärtsilä等80の事業者が資金提供を表明している。
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(出典:Maritime Exective、参考8)

水路の活用
国内ではヨットハーバーは非日常だが、例えばオーストラリアでは水路が住宅地に整備されていて、自宅の表玄関は車で移動するための陸上路だが、自宅の裏玄関は水路に直結していて小型船舶で移動が可能だ。江戸もかつては水の都だった。豊かな自然を育んできた臨海エリアは工場が立ち並ぶのが現状だ。しかし、今後、人口が減少し、脱工業を図り、豊かな生活を目指すのであれば、豊かな自然の溢れる水の都を復活できないものか。表玄関には自動車、裏限界には小型船舶を普通の世帯が持てるような世の中にできないものか。せめて綺麗なせせらぎを感じる空間が増えないものか。
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(出典:GoogleMap)

せせらぎ水路
全国を行脚していると、無機質にコンクリートで固めて生物が生きれないような川を見て、残念に感じることが多い。でも、たまに綺麗な小川を目にすることがある。ネットで調べると下の写真のようなせせらぎを感じられる公園が整備されていたりする。こんな綺麗なせせらぎが日常の生活空間にあれば、小さな子供たちも喜んで遊んで、それを公園のベンチから見守る。そんなライフスタイルをイメージしやすいのではないか。少子高齢化の解決策は簡単ではないが、日本人が昔から持っていた自然を愛する気持ちを取り戻すことも重要な施策だと思う。
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(出典:参考8、参考9、参考10)

まとめ
イランのタンカー事故は、やはり事故というよりは、重油とコンデンセートの大量流出災害という認識を持つ必要があると思う。1900トンの重油が今も沈没した船舶から流出していて先が読めないのが辛い。また、コンデンセートも揮発性が高いが、有毒なのと13.6万トンと桁違いに大量のため生態系への影響がやはり気になる。中国政府ではホームページでその調査・監視データを開示すると言っているが、中国語では読めない。日本政府も中国政府と連携して正しい情報のオンライン開示に努めてほしい。また、海上船舶の重大事故を撲滅するにはどうすれば良いのか。日本の船舶会社は高度な安全運航に努めているが、船主はコストの安い方に流れる。日本の船舶でも船長以外はほぼ外人船員だとも言われる。IMOなどの国際標準化機関とも連携しながら安全な運航に向けての標準化が望まれる。自動操縦では、自動車に注目が集まるが、フィンランドノルウェイなどの海洋大国では自動運航船のデファクトを狙っている。日本でも研究開発は進められているが北欧諸国との競争と協調が求められる。オーストラリアのゴールドコーストのように小型船舶を自宅の裏に止めるような生活は、日本の環境では夢のまた夢かもしれないが、今後人口が減少する日本ならそんな夢を実現するという夢を持ってもいいのではないだろうか。
以上


参考1:http://www.mot.gov.cn/2018wangshangzhibo/sangjilun_sec/
参考2:https://en.wikipedia.org/wiki/Argo_(oceanography)
参考3:https://www.tamaki3.jp/blog/?m=20160331
参考4:http://ds.data.jma.go.jp/gmd/argo/data/japanese/bunken/yoshida2002/main.html
参考5:http://www.mlit.go.jp/common/001215815.pdf
参考6:https://www.sbbit.jp/article/cont1/33910
参考7:http://www.supplychain247.com/article/rolls_royce_publishes_vision_of_future_of_remote_and_autonomous_shipping
参考8:http://www.gunma-navi.net/10444002_01.html
参考9:http://daily-konan.com/archives/817
参考10:http://1000enpark.com/park/saitama/hidaka/sougou.html