LuckyOceanのブログ

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通信の進化:ICTは人を幸せにできるだろうか。

日本ITU協会の交流会&セミナー
日本ITU協会主催のセミナが12月8日の夜、メルパルク東京で開催された。日本ITU協会とは、1971年9月に設立された一般財団法人であり、ITU等の国際機関への各種活動への協力や発展途上国への技術協力等を行う機関である。

ITUITU勧告
自分が当時の国際電信電話株式会社に入社したのが1978年4月なので、その7年ほど前に設立された歴史ある機関だ。電信サービス、テレックス(加入電信)サービス、電話サービスなどの国際標準を制定するのが国際電気通信連合(ITU)だ。国連の下部機関でもある。現在は、無線通信部門(ITU-R)、国際電気通信標準化部門(ITU-T)、電気通信開発部門(ITU-D)と事務総局から構成する。自分が入社した当時は、国際テレックスが全盛期で、国際電話が急増し、将来の通信方式としてテレテックスが議論されていた。当時はITU-Tではなく、CCITTと呼んでいた。CCITTのX.25というとパケット通信方式を規定した勧告だ。当時のパケット通信方式は最先端だった。X.25は現在のインターネットの通信方式(TCP/IP)よりも古い方式で、OSIの7層レイヤー構造に準拠したものだ。内容を理解するのに必死で勉強したものだ。現在では小学生でも意味は理解していなくても、パケットという言葉は知っている。

WRCとRR
KDDI合併時からはモバイルの世界に飛び込み、いつの間にか無線家になった。無線家にとっては、数年に一度開催されるITU-Rの世界無線通信会議(WRC)は大イベントだ。このWRCでは世界無線規則(RR)を決めたり、改定する。RRでは世界的な周波数の利用方法や衛星軌道の利用方法などを決める。2020年をターゲットに世界中のモバイル関係者が頑張っている5Gをどのような周波数で運営するかは、2015年のWRCで議論されたが、世界の合意を得ることはできなかった

 2020年の東京オリンピックに向けての綱渡り
 2015年のWRC-15で合意できなかったため、次のチャンスは2019年のWRC-19だ。一方、実質的な5Gの通信方式を検討している3GPPという機関では2017年7月にリリース14をまとめた。これは5Gの基本的な考え方を整理するものだ。そして、2018年の9月に向けてリリース15を策定中だ。これは5Gのフル使用ではなく、フェーズ1と呼ばれる規格群をまとめるものだ。それに沿ってWRC-19で5Gで使う周波数を世界的に合意して、2020年の東京オリンピックに間に合わせようという大変な綱渡りだ。

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(出典:NETMANIAS、参考3)
世界で最もスマホが繋がらない場所?
昨日は、総務省総合通信基盤局長による「5Gで生活が変わる~2020年、ワイヤレスは、スーパーインフラになる!!」という演題での講演だった。東京オリンピック会場で何千人という人が4Kや8K対応のスマホで競技の実況放送を見るような世界が期待されている。しかし、一歩間違ったら世界で最もスマホが繋がらなくなる場所になるかもしれない。笑えない悲劇だ。そんな悲劇はもちろん避ける必要があるが、技術の進歩に対応して利用トラヒックは毎年倍増している。

利用者増✖️通信速度の増
1968年にポケベルが登場した時の年度末の目標数2000件だった。2017年1月時点での携帯電話および広帯域移動無線アクセスシステム(BWA)の合計は2億契約を超えている。50年で約10万倍だ。2000年をターゲットにした3G(IMT-2000)では最大数Mbpsの最大速度だった。2020年をターゲットにする5G(IMT-2020)では最大10Gbpsを目指す。20年で千倍以上だ。利用トラヒックは、この利用者の増と利用者の平均利用トラヒックの増の掛け算で増加する。正確な統計情報はないが、Wi-Fiへの移行トラヒックを加味すると1年で倍増すると考えられる。もし、この毎年倍増が10年続くと一体何倍に増加すると思いますか?

ゾンビのように蘇るパケ死の恐怖
毎年倍増が10年続くと千倍になる。モバイルは第一世代から、第二世代、第三世代、第四世代、そして、第五世代とほぼ10年で世代交代しているが、その10年間にトラヒックは千倍に増加する。したがって、世代交代が起こる直前には「パケ死」が起きている。LTEが登場してからモバイルの世界ではパケ死」は死語になった。しかし、2020年になっても第5世代(5G)のモバイルシステムが立ち上がらなければ、パケ死ゾンビのようによみがえるかもしれない。

つながることで変わる世界
電話サービスが1億人の利用者を獲得するのに75年の時間を必要とした。Webでは7年、Facebookは4年、Instagramは2年。そして、昨年の夏にリリースされたポケモンGoではなんと1ケ月で達成した。電話の75年と比較するとポケモンGOの1ケ月は900分の1だ。全世界にスマホを普及すると、そのプラットフォーム上に展開される新しいサービスは一瞬で世界中の人々が使い始めるような世の中になったということだ。

経済的な豊かさと心の豊さ
世界の情報通信技術は進化の速度を加速している。多分、誰にもこれを止めることはできない。しかし、一方で、経済的な豊さ(一人あたりのGDP)と鬱の比率に相関関係が確認されている。つまり、経済的な豊かさと心の豊さは反比例するということだ。これからの社会的な課題は、経済的な豊と同時に心の豊さを高めるようなICTの利活用を目指すことではないだろうか。総務省の渡辺局長は、講演の中でそんな問題提起をされていた。
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(出典:社会実情データ図鑑、参考4)

まとめ
最近では免許不要で利用可能なISM帯の周波数(特に2.4GHz)の輻輳がひどいと感じることが多い。電子レンジも、Wi-FiBluetoothもこの2.4Ghzを利用しているためだ。Bluetooth対応のヘッドセットは便利だけど、コンビニで電子レンジが動き出すと雑音がひどい。繁華街の交差点ではWi-Fiの電波が錯綜していて、音楽が急に乱れる。これからIoT技術が普及すると良いことはいっぱいあるけど、課題も山積するだろう。悪意を持ったサイバー攻撃からいかに身を守るかも切実な問題だ。昨日は、日本ITU協会の総会と交流会を兼ねていて、各業界の大先輩やVIPが多数参加されていた。これからの10年後、20年後、40年後、80年後がどうなるか、どのような社会を目指すかを考えるのは我々の世代の責務だろう。

以上 

参考1:https://www.ituaj.jp
参考2:https://en.wikipedia.org/wiki/International_Telecommunication_Union
参考3:https://www.netmanias.com/en/post/oneshot/11147/5g/timeline-of-5g-standardization-in-itu-r-and-3gpp
参考4:http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/images/2156.gif