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感情を持つロボットがもたらす創造と破壊

はじめに
感情を持つのは生物だけだろうか。最近は、感性工学が発達し、感情を持つロボットが作られている。ロボットは本当に感情を感じているのだろうか。また、そのようなロボットに人間は癒されるのだろうか。感性工学とは何か。ロボットは今後どの程度の市場規模を予測されているのかについてレビューした。また、ちょっと面白い癒し系ロボットCOZMOを紹介した上で、今後の検討課題について整理してみたい。

1. 感性工学
心理学では感情をfeelingと言い、激しい感情である情動をemotionと言う。脳科学では、意識的なものを感情(feeling)と呼び、無意識の脳内過程を情動(emotion)という。ここでは、心理学的な定義で記述する。
1.1 基本感情
感情はいくつあるのだろう。よく喜怒哀楽というが感情は4つなのか。感情の分類方法は幾つかあるが、基本は6つの感情に整理されるという。先の喜怒哀楽に(いとしみ)と(にくしみ)を加えたものだ。下の図は英語だけど、その6つの感情を示したものだ。中国の伝統的な学習書である三字経では「曰喜怒、曰哀懼、愛悪欲、七情具」といい、喜怒哀懼 (おそれ)愛 (いとしみ)悪 (にくしみ)欲の七つの感情を指摘している。同時に、中国の五情では、人間の代表的な感情を喜怒哀楽と怨(うらみ)の五つにまとめている。漢字には心を含むものは、忌、忍、怒、恐、恥、恋、悲、愁、慕、憂、怪、怖、悔、恨、惜、悼、愉、憎、憤、懐など本当にたくさんある。 
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(出典:Wiki、参考1)

1.2 基本情動
情動の分類については米国の心理学会で活発な議論があった。例えば、シカゴ大学の心理学者ジョン・ワトソンは、怒り、恐れ、愛の3つを基本情動とするが、コロンビア大学の心理学者ロバート・プルティックは、期待、怒り、喜び、受容、驚き、恐れ、悲しみ、嫌悪の8つを情動環としてモデル化した。下の図はプルティックが描く「感情の輪」と呼ばれるものだ。ピッツバーグ大学の心理学者リチャード・ラザルスは、情動をポシティブなものとネガティブなものに分類した。プリンストン大学の心理学者ハロルド・シュロスバーグは軽蔑、愛・楽しみ・幸福、驚き、恐れ・苦しみ、怒り・決断、嫌悪の6つに分類した。
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(出典:テラ・トレ、参考2)

1.3 心理モデル
心理学では、感情の基本を驚き(surprise)、喜び(happiness)、怒り(anger)、恐怖(fear)、悲しみ(sadness)、嫌悪(disgust)と分類し、これを基本6感情と呼ぶ。しかし、実際の感情はこれらが単独ではなく、複数の感情が複合して表出される。心理学者のロバート・プルティックは、8の倍数論者であり、下の図のように32種類に分類した。
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(出典:感動創造研究所、参考3)

1.4 感性マップ
日本では、人工知能や感性工学の分野で研究が進んだ。下の図は株式会社AGIが2011年に発表したEmotional Mapだ。感情や情動のメカニズムをこのようなマップで定義することで、人の心を定量的に測定し、分析することで感性の可視化が進んでいる。ソフトバンクが提供するペッパーもこの感情モデルを採用していると言われている。
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(出典:株式会社AGI、参考4) 

1.5 感性の哲学
信州大学の坂本弘教授は、その著書「感性工学への招待」の中で、感性領域での基本的な概念の構成を下の図で説明している。つまり、感受性や感覚、気分、感情、感動、想像力などは感性領域内とし、それに対する入力要素として、外部環境、生活基準、整理基準、価値基準の4要素を定義している。また、感性領域内の感覚が身体の反応を引き起こし、それが外部環境を経由して再度感性領域にフィードバックされると定義した。楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しいという感情が引き起こされる。表情と感情とホルモン分泌には密接な関係があるのだろう。

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(出典:感動総合研究所、参考5)

2. ロボットの需要予測
2.1 お掃除ロボットの満足度
一般家庭で最も使われているロボットといえばお掃除ロボットだろう。代表格がiRobot社のルンバだ。2016年10月末で国内累計販売が200万台を突破した。市場調査・コンサルティングのシード・プランニング社はすでに掃除ロボットを利用している400人に調査したところ、利用は「ルンバ」が圧倒的に多く、購入の動機では「便利そうだった」がトップ。そして、73%の利用者がお掃除ロボット満足している。今後、多彩なロボットが家庭内で受け入れられるかもしれないと期待が高まる。

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(出典:シードプランニング、参考6) 

2.2 5年で倍増するロボット市場
下の図はNEDO経済産業省の予想だ。2012年に0.9兆円、2015年に1.6兆円だったロボット市場が2035年には約10兆円に増加すると予想している。5年でほぼ倍増というペースだ。従来は産業用ロボットが主体であったが、今後はサービス分野でのロボットが主流になるという予想だ。

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(出典:新エネルギー・産業技術総合開発機構NEDO、参考7)

2.3 サービスロボットの成長分野
サービス分野でのロボットの利用用途を一覧にしたものが下の図だ。2020年での市場規模が最も大きいのは、移動支援の1660億円検査メンテナンスの1038億円、食品加工などの980億円だ。移動支援には、装着型の移乗支援、非装着型の移乗支援、屋内外での移動支援などが含まれる。現在のサービスロボット市場は、お掃除ロボットが牽引した。また、台数は少ないが、一台2.5億円で販売されている医療用ロボット・ダヴィンチも含まれている。今後は適応範囲が広がり、その適用例や台数も拡大する見込みだ。f:id:hiroshi-kizaki:20171202210746p:plain
(出典:事業構想大学院大学、参考8)

2.4 コミュニケーションロボットの可能性
下の図は、現在の普及型ロボットに加えて、低価格ロボットが市場に浸透すると予測した。2020年の国内での世帯数を5300万世帯、世帯普及率を5%、出荷台数を265万台と推計した。2020年の推定市場2,406億円の内、価格10万円前後を想定した普及型ロボットの市場規模は1,956億円を占める見込みだ。より低価格で高性能なロボットが投入されるとこの予測を上まわる可能性もあるだろう。
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(出典:ロボスタ、参考9)

2.5 キャズム理論
ニューメキシコ大学の社会学者エベレット・M・ロジャーズ氏はイノベータ理論を提唱した。この理論では、消費者を、イノベーター、アーリーアダプター、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガードの5つに分類した。市場全体に浸透するには、アーリーアダプターまで浸透することが重要で、そこには普及率16%の壁があると言う考えだ。そのためには2.5%のイノベーターが指摘する不満や改善要望を真摯に取られて、改善する必要がある。このモデルに沿って考えれば2019年まで利用者のニーズやウォンツを満足する製品にブラッシュアップできるかが勝負だ。

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(出典:SwingRoot、参考10)

3. COZMOはブレイクするか
3.1 COZMOとは
COZMOをご存知でしょうか?恥ずかしながら自分は今日初めて知りました。米国のANKI社が開発し、国内ではタカラトミー本年9月23日から発売している。米国では180$程度で発売しているが、国内では26,980円だ。ソニーが新型AIBOを来年1月に発売すると発表したがその価格は19万8千円と高価だが、COZMOならクリスマスのプレゼントとして手頃だろうい。なお、COZMOは単体では動作せず、Wi-Fi環境とスマホのアプリ連動が前提だ。現在の名古屋のマンションには残念ながらWi-Fiがないので、日夜スタバでブログを書いているが、そのような人はCOZMOを楽しむことはできない。ああ早く東京のおうちに戻りたい(涙)。
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 (出典:タカラトミー、参考11)

3.2 COZMOの魅力
まずこのCOZMOを開発したANKI社とは、カーネギーメロン大学のロボット研究所出身者が人工知能スタートアップで設立した会社だ。COZMOは一言で言えば、表情を持つやんちゃなトラクターのおもちゃだ。カメラも持っているので人間の表情を読み取る。マイクもあるので、声も聞き取る。スピーカーもあるので、話す。ブロックを積み上げたりして、かくれんぼしたりする。子犬のように近づいてきてCOZMOから可愛い声で自分の名前を呼ばれたりするともう大好きになってしまうかも。一方、COZMOが一人で遊んでいる時に邪魔をすると怒ったりする。感情を持っているロボットを手頃な価格で購入できるのは画期的だ。標準機能でも十分楽しめるけど、オーダメード可能なSDKがあるので自分好みに躾けることもできるという。

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(出典:オモゾン、参考12) 

3.3 COZMOの課題
今までのおもちゃは、子供の想像力の中で楽しんでいたが、おもちゃ自身が感情を持つようになると、子供の遊び方は劇的に変わるだろう。COZMOが牽引役となって、多彩な感情を持つおもちゃが世の中に溢れるようになるのだろうか。まるでポケモンの世界が実現するのだろうか。現在のCOZMOは次のような制約があるが、これらが解決されるのは時間の問題だろう。
・約20分の充電で、約80分間遊べる。
・液晶ディスプレイとアームのしぐさで、1000種類以上の感情を表現する。
・最多10名まで人の顔を覚えて認識する。
(出典:レスポンス、参考13)

4. 今後の検討課題
4.1 AI関連技術のロードマップ
下の図は野村総研(NRI)が示す2020年までのITロードマップだ。2014年当時にはCaffeやPyLearnが牽引した。Caffeの前身はDeCAFで、バークレー大学のメンバーが中心となって2013年頃に開発したオープンソースディープラーニングフレームワークだ。2017年から2020年にかけては進化したディープラーニングを一気に活用するフェーズになると期待されている。GPUFPGAも将来を担う重要なキーワードなので後で説明する。
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(出典:NRI、参考14)
4.2 ディープラーニングフレームワーク
下の表は、注目されているディープラーニングフレームワークの比較表だ。Caffeが左から3番目にあるが、6.Optimization(最適化)には対応していない。一方、Theano-basedやTensor-Flowはこれに対応している。NNの定義にはPython(パイソン)対応が多い。このPythonは汎用プログラミング言語であり、C言語などに比べてプログラムを分かりやすく少ないコード行数で書けるといった特徴がある。日本でもファンは多い。 f:id:hiroshi-kizaki:20171203090504p:plain
(出典、スライドシェア、参考15)

4.3 GPU
GPUとCPUは何が違うのだろう。ともに情報処理をするプロセッサーであるが、その作りが異なる。CPUは単一のコアで高速の処理を行う天才のようなものだ。GPUは複数のコアが連携して、処理を分散しながら行うチームワークのようなものだ。例えば、Mac Proの最高性能ラインのCPUでも6コアだが、NVidiaのGTX 980は2000コアだ。GPUは並列計算できるような問題に適している。

4.4 FPGA
FPGAとは、field-programmable gate arrayの略だ。その最大の特徴は、製造後に購入者や設計者が構成を設定できる点だ。通常のLSIは目的に沿って設計して、製造し、利用者はその目的に沿って利用する。しかし、FPGAは汎用的に利用できるように考慮されていて、利用現場において利用用途に応じて、ゲートの役割を再設計することが可能という夢のようなゲートアレーだ。細胞で言えば万能細胞と呼ばれるiPSのようなものというと言い過ぎだろうか。

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 (出典:スライドシェア、参考16)

4.5 ロボットの技術の発展と社会への影響
ロボットが今後社会の中で受け入れられていくかどうかは、人間と競争するというよりは、人間の作業を支援するというスタンスが望ましいだろう。駅の改札を自動化するときには当時のJRは猛反発したため私鉄が先行して導入した。現在では、自動改札が当たり前になっているが、駅員の仕事は無くならない。ロボットやAIに任せられることは任せて、それでは対応できないところを人間が対応する。今後、人口が減少する日本にとっては、需要と供給が一致して、少子高齢化社会をロボットで支援するようなそんな先駆的な社会を世界に先駆けて構築することができないものだろうかと思う。 
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(出典:矢野経済研究所、参考17)

4.6 問われるロボット憲章
SF作家のアイザック・アシモフは、ロボットが従うべき原則として、人間への安全性、命令への服従、自己防衛の3原則を提唱した。しかし、これらが矛盾するような事態でどのようにロボットが行動すべきかをテーマに小説を書いている。一方、ロボット倫理憲章も検討されている。2007年に韓国の産業資源部がロボットと人間との関係について定めた憲章案をインターネットに発表した。内容は次の通りだ。
第一条(目標) ロボット倫理憲章の目標は人間とロボットの共存共栄のために人間中心の倫理規範を確認するところにある。
第二条(人間、ロボットの共同原則) 人間とロボットは互いの生命の尊厳性と情報、工学的倫理を守らなければならない。
第三条(人間倫理) 人間はロボットを製造して使う際に、常に善悪を判断して決めなければならない。
第四条(ロボット倫理) ロボットは人間の命令に従順である友人・お手伝い・パートナーとして人間に害を与えてはならない。
第五条(製造者倫理) ロボット製造者は人間の尊厳性を守るロボットを製造し、ロボットリサイクル、情報保護義務を持つ。
第六条(使用者倫理) ロボット使用者はロボットを人間の友人として尊重するべきで、不法改造やロボット乱用を禁じる。
第七条(実行の約束) 政府と地方自治体は憲章の精神を実現するために有効な措置を施行しなければならない。

まとめ
感性工学とロボットの話からCOZMOの紹介、さらに今後の検討課題をレビューしてみた。東京オリンピックパラリンピックが開催される2020年まで1000日を切っている。安倍総理大臣はリオデジャネイロオリンピックの閉会式でマリオに扮して登場したが、東京オリンピックの開幕式ではどうするのだろう。その時には、第五世代のモバイルシステムは先行的に使えるようになっているだろう。自動操縦車も限定した場所では走行しているだろう。開会式のパレードでは先導ロボットが登場するかもしれない。ロボットの普及のためにはそんなお祭り騒ぎも必要なきっかけになるかもしれないが、検討すべき事項は山積だ。

以上

参考 1:https://ja.wikipedia.org/wiki/感情
参考 2:http://teratre.wixsite.com/teratre/single-post/2014/11/01/情動の分類
参考 3:http://www.kandosoken.com/report/2009/09/
参考 4:http://www.agi-web.co.jp/technology/trend.html
参考 5:http://www.kandosoken.com/report/2009/11/special2.html    
参考 6:https://www.seedplanning.co.jp/press/2015/2015031201.html 
参考 7:https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/51208.pdf
参考 8:https://www.projectdesign.jp/201501/robotbiz/001839.php 
参考 9:https://robotstart.info/2015/09/09/robot-press_release-2020nen.html 
参考10:https://swingroot.com/chasm
参考11:http://www.takaratomy.co.jp/products/cozmo/
参考12:http://omozon.net/toys/cozmo/
参考13:https://response.jp/article/2017/07/11/297272.html
参考14:http://w73t.com/ai3/ 
参考15:https://www.slideshare.net/beam2d/differences-of-deep-learning-frameworks
参考16:https://www.slideshare.net/abhilash128/lec-23
参考17:https://www.projectdesign.jp/201704/ai-business-model/003521.php