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教育問題:工学系教育のあり方

産官学セミナーへの参加
名古屋工業大学にて、「新たな時代の工学系教育のあり方について」と題したシンポジウムに参加した。会場は、昨年9月に竣工したNITeckホールだ。426名定員だが、300人近くが参加された。
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(出典:名古屋工業大学のホームページ、参考1)

基調講演
基調講演は文部科学省高等教育局の福島崇企画官による「大学に於ける工学系教育の在り方について」だ。現状のままでは、ハード志向、下請け志向になって日本がジリ貧になる。society4.0に向けて工学系の人材育成をいかに進めるかについて熱く語られた。キーワードはダブルメジャー俯瞰力と感じた。つまり、複数の専門分野をマスターし、世の中の動向を俯瞰し、ビジネスモデルを構築できるような工学系人材が必要という主張だと理解した。その中で「大学における工学系教育の在り方に関する検討委員会」の座長KDDI株式会社の小野寺会長が担当されていることを知った。

パネルディスカッション
パネリストは、山口大学室蘭工業大学東京工業大学名古屋工業大学の副学長等であった。コメンテーターは、文科省の福島さん、高校校長の川村さん、メーカから栗山さんが参加された。全体のコーディネートは名工大の内匠さんだ。

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(出典:当日の撮影写真、筆者)

工学教育の課題
各パネラリストの意見や議論を聞いて、工学教育の課題は次の3点だと理解した。
1)通常学生への高等教育とリカレント教育の充実
少子化に伴い18歳人口は、2017年の119万人から2040年には88万人まで減少する。このため今後の大学は企業に勤務してから大学に戻って学ぶとか、働きながら学ぶ、定年後に学ぶ、そのようなリカレントの仕組みを導入する必要がある。下の図はリカレントの概念を説明していてわかりやすいと感じたので引用する。
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(出典:大学をまちづくりの中心に、参考2)

2)情報革命を牽引できる俯瞰力の育成と複数の専門分野
単一の専門性を磨くような専門バカではなく、複数の専門分野、もしくは主となる専門分野と副となる専門分野をカバーできる人。メンタルに強い人という要求もあった。工学に加えて、バイオ、医学、社会学、心理学、経営学を学ぶダブルメジャー制やメジャー・マイナー制が提案されていた。全く分野のことなる専門分野を持つような人材は今後さらに求められるのだろう。医者とか弁護士とかの資格を持っていれば生きていける時代ではないようだ。一つでも大変なのに複数の1級資格を取得するような人を養成するということだろうか。下の図は京都大学での説明図だ。

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(出典:京都大学のホームページ、参考3)

3)社会を牽引する産業界を支える人材
サイバーな世界でのプラットフォームを構築するようなシナリオを作れる人材、クリエイティブな人材が求められる。世界と互角に戦える人材の育成が必要。要はビジネスモデルを構築して、それに沿った技術開発や研究開発をするような人の養成が必要という主張だ。これに対してノーと言う人はいないだろう。しかし、養成が必要なのか、活用が必要なのか、資金支援が必要なのか。学生が考えたビジネスモデルをやってみて、失敗を教訓として、また次の事業にチャレンジする。そんなチャレンジングな風土を日本人が持てるのだろうか。パネルディスカッションの中で東京工業大学のパネリストがある海外からの留学生から「我々は勉強して祖国に役立ちたいと考えている。自分の国を良くしたいと考えている。日本の学生は良い会社に入るために勉強するという。そんなことでいいのか。」と言われた。その留学生は強く憤慨していたという。

今回のシンポジウムで議論されなかったこと
1)グローバルなポジションと課題
大学の世界ランキングで日本の大学がなかなか上位に食い込めない。これの原因と対策については言及がなかった。
2)学費の高騰とこれへの対処
文科省の基調講演の資料には記載が一部あるが、講演の中では割愛された。勉強したくても、卒業する頃には学費の借金が膨大になるような事態を改善することはできないものか。大学教育の提供者目線にあるように感じた。
3)産官学での起業支援
米国では、大学の教授が起業したり、在学中に学生が起業することが多いと聞く。日本の大学でも起業を通じて学ぶことも多いのではないかと感じた。

まとめ
簡単に結論が出る問題ではない。現在のエリート受験戦争を生き抜いた人材だが、一方で勉学以外の実体験が乏しい生徒、メンタル的に弱い生徒もいる。将来の日本を支える人材像としては、かつての江戸時代や明治時代に戻っていわゆる文武両道というか、人間力を高める教育にシフトすべき時期に来ているのではないと思うが、残念ながらそのような議論はなかった。しかし、情報教育の進化はこれからも加速度的に進むことは確実であり、そのような環境に置いて日本が担うべき役割、その役割を全うする人材をどのように育成・活用するかは永遠の課題だ。機会があればリカレント教育の一環の中で学びなおしたり、または教員として学生に指導する機会を作っていければと思った。

以上

参考1:http://www.nitech.ac.jp/news/news/2016/4981.html
参考2:https://www.manabi.pref.aichi.jp/contents/10003058/0/kouza/section10.htm
参考3:http://www.hsd.cpier.kyoto-u.ac.jp/ja/program/3nendboule.html