LuckyOceanのブログ

新米技術士の成長ブログ

エネルギー問題:竹内純子さんのセミナーを受講して

竹内純子さん
昨日(9月21日)の日本技術士会のセミナーに参加した。講師は、NPO法人国際環境経済研究所理事・主席研究員である竹内純子(すみこ)さんだ。今年4月1日の朝まで生テレビ!にも出演された今をときめく論客だ。

エネルギー産業の2050年 Utility3.0
日本経済新聞出版社から本年9月2日に発売開始され、アマゾンの資源・エネルギー部門のベストセラーNo.1となっている話題の本だ(参考1)。アクセンチュア東京電力の専門家3名とともに竹内さんが編著している。私はKindle版を購入して拝読した。資源・エネルギーの図書というと硬いイメージがあるが、この図書の書き出しは竹内さんの優しい雰囲気がそのまま表れていて、分かりやすい書き出しで始まる。竹内さんの語り口を聞いているようで、一気に最後まで読んでしまった(笑)。

f:id:hiroshi-kizaki:20170922145655p:plain

日本技術士会のセミナー
昨日は三島に出張があり、その後名古屋に戻ったのが夕方の17時。竹内さんのセミナーは東京だったけど、名古屋支部でもWEB中継していたので、これに参加した。セミナーではパワポをベースにした説明だったが、そのパワポは前述の図書からの抜粋だった。セミナーの受講に続いて図書を読んだ上での感想が次のマインドマップだ。

f:id:hiroshi-kizaki:20170922150111p:plain

1. 2050年の社会予測
エネルギー政策が理想的に進んだ場合の2050年のユートピア的な社会イメージがまず示されている。女性らしいタッチで微笑ましい。ついで、中途半端なエネルギー政策が展開された場合に想定される悲惨な社会が対比として示される。当然、前者を目指したいと思う。

2. 5つのD
人口減少、分散化、脱炭素化、規制緩和、デジタル化の5つのキーワードがこの図書の骨子となっている。いずれも英語にするとDで始めるのがオシャレだ。この5つのキーワードについては第二章で詳しく述べている。2050年がどんな社会になるのか、なるべきなのかをイメージするときには、人口予測から入るのは王道だろう。その上で、自然エネルギーの活用やパリ条約で参加国が合意したCO2の排出抑制などについて記載されている。京都議定書はルールをがんじがらめにしたが結局米中が参加しなかった。この教訓を生かしてパリ条約では参加各国が自主目標を示し、かつ罰則がない中で参加国の合意・連携強化を重視した。そんな竹内さんの軽快なコメントが新鮮だった。ただ、パリ条約も結局は先進国から途上国へのお金の流れがあり、トランプ大統領が反対しているのはこの点だとか、そんな話があるかと思ったけど、それはなかった。

3. Utility3.0へのゲームチェンジ
製造会社からサービス提供会社への変革の必要性を説いていたように感じた。ボーイングが飛行機の販売ではなく、飛行というサービスに対して対価をもらうようなビジネスモデルに変革しようとしているのは聞いたことがあるが、同様の事象が様々な産業の中でトライされている。電力会社も例外ではなく、電力を売るのではなく、利用者が求めるサービスを提供するようなサービス提供会社に変革すべきという提案なのだと理解した。

4. 共感した点
エネルギー問題は幅広くて奥が深い。竹内さんのようなエネルギーの専門家が図書の中でどのような課題設定をするのかが特に気になったが、上述のように5つのDとUtility 3.0というキーワードでうまくまとめていると思った。電力事業者は、高品質の電気エネルギーを安定して提供する使命を持つが、2050年をイメージすると確かに現在の延長には答えはないと思う。既存の基幹エネルギーをBER、再生可能な分散型新エネルギーをDER、貯蔵系をSとし、2050年にはBERの減少分をDER+Sで補完し、さらに拡大して対応する。問題はピークの対応だが、これはIoTの技術活用とEVの蓄電機能を活用して対応する。そのような方向性には異論はない。

5. 違和感を感じた点
エネルギーの専門家でもないが、セミナーを受講して、また図書を読んで少し違和感を感じたものが何点かあるので、最後にそれを示した。自分の勘違いもあるかもしれないが、その点はご容赦願いたい。

1) CCSか原子力
セミナーではCO2貯蔵技術(CCS)については言及がなかったが、図書の中では記述があった。ただ、図書の中ではCCSに適した場所が日本にはないということで切り捨てている感があり、それよりは原子力ではないかという論調だったのが気になった。CCSはまだ開発途上の技術であるが、CO2の排出力を削減するには、文字どおりCO2の排出量を削減するのに加えて、CCSでCO2を地中深くに還元する技術に期待する。地中に埋蔵したCO2が長い時を経てまた炭素系エネルギーに変換されるのであれば、それはCO2エネルギーの再利用にもつながるのかもしれない。

2) リニア中央新幹線
運輸部門では、自動車の電化については議論されているが、すでに電化されている電車や新幹線の効率化や、2027年の開業を目指すリニア中央新幹線についての言及がなかったのが残念だ。人口減少に伴って、旧態依然とした電車や列車を運行していては収支が合わないし、ニーズにも合わないだろう。また、現行の新幹線に比べてエネルギー利用効率が格段に低いリニア中央新幹線を開業して、果たして収支があうのか。CO2を削減できるのか。環境破壊を抑制できるのか。水問題を抑制できるのか。エネルギー問題の中で議論するには重すぎる課題だが、既存の電車や列車も省エネの方向に技術開発の舵を大きく切る必要があるのではないかと思うし、それぐらいは言及して欲しかった。

3) スーパーグリッド構想
まあ、これも政策的かつ国際的な問題なので、議論するのが難しい課題だ。しかし、エネルギー問題や電力問題を国内問題として検討して解があるのだろうか。アジア圏や隣接エリア国とも連携しながら、エネルギー問題や電力問題を解決するかという視点が必要ではないかと思う。

4) EVの普及と蓄電機能
2050年までにどこまでEVが普及するかが問題だが、個人的にはEVに蓄電機能を期待するのではなく、EV用の電池としては規定の性能を発揮できなくなった電池の再利用のスキームをしっかりと作りこむべきだと思う。いわゆる3Rから4Rへのシフトチェンジだ(参考2)。EVは通常昼間走行して夜間に充電するので、深夜のオフピークの電力を昼間使うという意味ではピーク対策にはなるかもしれない。しかし、ピーク時にEVが溜め込んだ電力を昼間に放電したら昼間に走行したい時に電池切れになるかもしれない。EV利用者はそんなことをしないだろう。しかし、EV用として使えない電池を再利用すれば、電力の調整用としては十分使えるだろう。それを後押しするようなリサイクルの仕組みの整備がより重要だと思う。

以上

参考1:https://www.amazon.co.jp/dp/B0756T1CVW/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1
参考2:https://www.4r-energy.com/company/about/