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リニア問題:リニア中央新幹線はいばらの道だ。

リニア中央新幹線
東京と名古屋の間285.6kmを最高速度505km/hで約40分で走行するという壮大な計画だ。2027年までに東京〜名古屋、2037年までには大阪まで延伸する計画だ。以下「リニア中央」という。

メリット
より短時間で東京と名古屋を移動できることが大きなメリットだ。東海道新幹線に加えて中央ルートもできればダイバーシティの確保にもなる。リニア中央で接続される中津川市飯田市は必ずしも便利な場所ではないので、歓迎するだろう。大阪延伸も京都ルートではなく、奈良ルートになると奈良市では期待が高まっている。リニア中央開設による経済波及効果も大きいだろう。安倍首相はオバマ前大統領にワシントン〜ニューヨーク間のリニアを提案したという(参考1)。国策としても日本の技術力を高める意味はあるだろう。

課題
リニア中央新幹線の完成とその後の運用を考えると克服すべき課題が多い。特に、次の各点が特に厳しいと思う。
1) 事業の採算性:次の世代への負の遺産とならないか。
2) 責任体制:現在の原発のような責任回避の構図にならないか。
3) 環境問題
・トンネル工事:生体破壊、土砂の処分、河川への影響
・水問題:特に地下水への影響は不可避。流量減少にとどまらない。
・水問題の二次被害:農業、工業、住民への影響は計り知れない。
・騒音問題:時速500km走行に付随する低音騒音など未知数が多い。

4) 電力問題
・現行の新幹線に比べて3.5倍のエネルギーが必要だという(参考2)。
・電力の回生などで電力消費をもっと抑制できないものか。

5) 電磁波問題
・新幹線の旅客車輌部分のシールドでどこまで電磁波を軽減できるか。
・2010年に改正された電磁波の基準は適正か。

6) 安全走行問題
地震発生時の避難、安全確保
・集中豪雨、降雪、落雷等への安全対処 

JR東海の当初計画
多くの課題があるにもかかわらずJR東海が独力でリニア中央新幹線の実施を敢行すると意思決定した背景はなんだろう。JR東海が独力で実施すると2007年に宣言した時には下図のように長期債務圧縮期間が盛り込まれていた。その後、紆余曲折の末に国による財政投融資と、これに伴う計画の前倒しの計画に変更された。JR東海と国の思惑と国民の願いは一致しているのだろうか。
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グランドデザインが不明
このリニア中央と東海道新幹線の関係はどうなるのだろう。東海道新幹線のリプレースとしての役割を視野に入れつつ、当面は平行運用というのが現実的な見通しだろうか。JR東海は現行の東海道新幹線に対する耐震大規模工事も求められているし、他の新幹線との連絡を考えると、現行の東海道新幹線の廃止は難しいだろう。中央リニアの運行までには数多くのハードルがあるが、これらをなんとか克服したとしても、今度はドル箱である東海道新幹線の収益が減少して、JR東海の経営に打撃を与える。どちらにしても、JR東海は苦しい経営を余儀なくされる。

代替案
構想をぶち上げているので、これを取り下げることは現実問題として難しいだろう。でも、現在の整備新幹線の状況を考える(wiki=参考4)と、なぜリニアにこだわったのだろうと思う。名古屋と長野や高崎を接続するようなルートの中央新幹線を整備すれば、東海道新幹線の迂回ルートにもなったのではないか。このようなルートであればアルプス横断のような非常に難しい課題は回避できたはずだ。逆に考えると、このような構想に対する危機感がJR東海をリニア中央に駆り立てたのだろうか。

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まとめ
自然破壊や水問題、環境問題などのハードルを乗り越えて工事を完成できるかどうかが大きな課題だ。そして、運用フェーズでは電磁波の問題や電力問題、騒音問題などをどこまで解決できるのかが課題だ。高度成長期には、東海道新幹線を作ることを日本全体が一致団結して燃えるように頑張った。リニア中央の前にはだかる各種ハードルを我々日本人が一致団結して克服できるのだろうか。もしくは、英知を結集して、計画の見直しという英断を下すのだろうか。国や一部の企業だけの問題ではないが、明確なリーダシップはどうしても必要だ。

日本の鉄道輸送の安心・安全を考える上では、これからもこの「リニア中央」の問題からは目を離せない。

追記
三菱重工がリニアの車両製造を見送るという記事(2017/8/11)があった(参考5)。車両製造も大きな課題だ。

以上

参考1:http://www.newsweekjapan.jp/headlines/business/2016/07/174192.php
参考2:
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/366316
参考3:http://news.mynavi.jp/series/railwaynews/034/
参考4:https://ja.wikipedia.org/wiki/新幹線
参考5:http://www.sankei.com/economy/news/170811/ecn1708110009-n1.html